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盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない  作者: 当麻月菜
そういうことをされたら、思わず触れてしまいたくなるのは仕方がない
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7

「──── と、いうわけで殿下、今日から私の護衛はフレシアさんにお願いしたいと思います」

「ん。ノアがそうしたいなら、それで良いよ」



 ここは離宮の食堂。そして現在は夕方をだいぶ過ぎた頃、夕食のお時間である。


 本日もシェフが腕をふるってくれたキノコ料理がテーブルに並べられているが、それを食す前にノアは挙手をしてきっぱりと自己主張させてもらった。


 ただ、自分の主張が通ったことには喜ぶべきなのだけれど、拍子抜けするほどあっさり通ってしまった為、有り余る意気込みをどう処分していいのかわからず、ちょっとだけ途方に暮れてしまうノアであった。




***




 時をさかのぼること数時間前、グレイアス先生のオモシロ発言に腹筋が崩壊するほど笑ったノアは、その勢いで思いついてしまったのだ。


 もし仮に浮気云々という話が本当なら、それを逆手に取ってイーサンをアシェル専属の側近に戻すことができるのではないか、と。


 ただグレイアス先生の見解では、アシェルはノアに護衛を付けることは絶対であり、誰が何と言ったって、どんな主張をしたって、護衛の件に関しては必ず耳が遠くなるらしい。


 んな馬鹿なとノアは思った。


 そして五体満足の自分に護衛を付ける余裕があるなら、もっとアシェルの護衛を増やすべきだとグレイアスに強く主張した。


 秒で鼻で笑われ挙句、却下された。


 それでも食い下がるノアにグレイアスは、まるでお菓子を買ってとギャン泣きする子供を抱えるお母さんのように「無理なものは無理!」と一喝した。


 もちろん、そんな程度で諦めるノアではない。


 一旦、納得したと見せかけて、別方向からグレイアスの知恵を頂戴することにした。


 女性で腕がそこそこ立ち、アシェルからそこそこ信頼を得ている人はいないかとグレイアスに尋ねたのだ。


 まぁ内心、そんな都合の良い人はいないと思っていた。しかし結構身近にいた。


 それがメイドのフレシアだったのだ。


 実は彼女はグレイアス先生の妹で、見ての通り女性で、しかも宮廷魔術師だったりもする。


 もちろんフレシアには、ちゃーんと許可を得ている。ノアの護衛になったのは命令ではなく、彼女の意思である。


 余談であるがグレイアス先生のポロリ発言未遂事件の時に、彼女は部屋の隅に居た。完璧に気配を消していて、気付かなかったけれど始終そのやり取りを見ていた。


 そしてアシェルの護衛問題についてノアが強引に話を戻して、グレイアスが『なら、自分の妹が適任だ』と言った時も、同じ場所にいて壁と同化していた。


 その際、グレイアスがフレシアを指差したのを機に、ノアはようやっと彼女の存在に気付いた。


 あまりに驚きすぎてノアが「ひやぁ~」っという聞いているほうが脱力する間抜けな悲鳴を上げても、フレシアは無表情かつノーリアクションだった。肝が据わった、とても頼りがいのある女性である。


 ただその3秒後、ちょっとだけ床に散らばってしまっていたレポート用紙を拾いながら、こちらを見ずに、しかも淡々とした声で『喜んで引き受けます』と言った。


 本当に良いの?と思わず聞きたくなるくらいそっけない態度だけれど、グレイアスお兄さま曰く、これがフレシアのデフォルトらしい。


 あと、何か動作をしながら口を動かす時は、本気で喜んでいる時だそうだ。


 ノアの目から見たら喜んでいらっしゃる様子が皆無だけれど、同じ血を引く人間がそう言っているのだから、きっとそうなのだろう。


 ちなみにフレシアはグレイアスと瓜二つの容姿で大層美人であるが、ちょっとだけグレイアスより背が高い。


 だから宮廷魔術師として活躍していた時は、それはそれは男性にモテたそうだ。でも、この無愛想というか無表情というか、リアクションの薄さのせいで男女交際にまで発展することがなかったそうだ。

 

 そんなフレシアは、女性宮廷魔術師からのやっかみで心を病んでしまい、現在メイドとして兄の傍にいる。


 ノアは女性であるが、別段お喋りを好む人種ではない。そして、フレシアとは仲良くなりたいが交際に発展することは望んでいない。


 無愛想も無表情もリアクションが薄いのも個性の一つだと思っているので、きっとつかず離れずの良い関係を築けると思っていたりする。


「─── じゃあフレシア、今日からノアの護衛よろしく頼むね。……ということでノア、そろそろ食べようか」

「あ、はい。そうですね」


 食堂のテーブルに着席して早々、ノアが護衛の件を主張してしまったせいで、未だにアシェルは食事に手を付けることができていない。


 ついさっきまで、料理の数々は食欲をそそる湯気がふんわりしていたのに、今はもう消えてしまっている。


 きちんと聞く姿勢を持ってくれたアシェルに対して嬉しく思いつつも、料理が冷めてしまったことがとても申し訳ない。


 だからノアは、慌ててアシェルに待ったをかける。


 それから首をくきっと横に捻って、護衛となったフレシアに料理を絶妙な温度に戻してもらうようお願いする。


「すんません、フレシアさん。さっそく何ですが、魔法をお願いしても?」


「……」


 対してフレシアは無言で指パッチンをする。


 彼女はグレイアスほどではないが宮廷魔術師。


 そこそこに魔力が高く、無愛想で無表情であるがノアが何を望んでいるかは言われなくても察することができる。


 そんなわけでフレシアが指を鳴らせば、その音が消える前に、目の前の料理に湯気が復活した。もちろんアシェルの分の料理も同じく。


 しかし、変化があったのは料理だけではなかった。なにやら食堂全体が肌寒いのだ。


(んん?夜といえど、雨が降っているわけではないのに、急に冷えるとはこれ如何に?)


 ノアは食事に手を付けず、キョロキョロと辺りを見渡す。


 そうすれば、ここでようやっとフレシアが口を開いた。


「…………殿下が暑さに弱いと伺いましたので、お部屋の温度を下げさせていただきました」

「おおっ、フレシアさんスゴイ!ありがとうございます!!」


 ぱっと笑顔になったノアは、そのままの表情でアシェルに向かって口を開く。


「殿下、良かったですね!」


 自分のペースで、かつ自分の手で料理を口に運ばないと美味しくいただけないと思い込んでいるノアは、無邪気さ全開でアシェルに同意を求めた。


 しかしアシェルはぎこちなく「……あ、ああ」と頷くだけ。


 


 ノアからの”あーん”が大層気に入ったアシェルとしたら、夕食時も仮初の婚約者をなんだかんだと上手く懐柔して己の膝に乗せる気でいた……か、どうかはわからない。


 ただアシェルが蟻が歩く音より小さな声で「ちっ」と小さく舌打ちしたのを、イーサンは聞き逃さなかった。


「……殿下、がっつく男は嫌われますよ」

「黙れ」


 小声で側近を一喝したアシェルの声は、今回もまたノアの元には届かなかった。

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