第7話:責任感
あの脅迫状が届いてから数日たった今日の放課後、シンシアちゃんから事件に進展があったという連絡をもらった俺とミユキ先輩は、二人並んで待ち合わせの役員会議室に向かっていた。
脅迫状のリストの順番で行けばミユキ先輩、ミィちゃんの次はマリサがターゲットということだったので、
「恐らくはそれに関することだろうがシンシアのことだ。既に捕まえたのかもしれないな」
とミユキ先輩が会議室の扉をガラリと開けた。するとそこには何と! 桜花学園の制服をお召しになったシンシアちゃんが席に着いておられました! そして
「こんにちは京太郎さん、ミユキさん。お待ちしておりました」
ニッコリ。いやはやセーラー服を着たブロンドの美少女というのも中々乙ですな。頭にセットされた白のヘアバンドもとってもよくお似合い。さらに今までエプロドレスのスカートでよく見えなかったけど脚が長い。これミィちゃんに匹敵するんじゃないのか? スタイルも抜群ではないか、っていやいやこれ以上妙な視線を投げかけるのは宜しくないぞ。流石にシンシアちゃんのホッペがピンクになってるじゃないか。萌え萌え萌え。いやいやだから待て、まずは聞くべきことがあるじゃないか京太郎君。ゴホンとひとまず咳払いをしてから
(学園の制服みたいですけど、どうしたんですかシンシアちゃん?)
「メイドの次は制服ですか。レイヤーですね分ります。110点」
「「え?」」
「何でもありませんお姉様方」
実にナチュラルにピンチを乗り切ったぞ京太郎君。ここにマリリンいなくて良かったよ。
さて三人で席について早速シンシアちゃんから話を伺った。すると彼女はおもむろに制定カバンから長さ30cmくらいの黒の金属パイプを取り出し、それをゴトンと机の上に置いた。ミユキ先輩が手にとって眺める。何の変哲もない棒切れのようだが、よく見ると……
「周りにたくさんの穴が空いてるな。それからパイプの内側には」
中に指を入れて確認するお姉様。
「柔らかいな。内面にクッションのようなものが付けられているが、これは……」
ミユキ先輩の問いに、向かいに座っているシンシアちゃんは頷いて
「お嬢様を襲おうとしていた犯人が持っていた凶器の一部です」
と答えた。やはりそのことだった。そう切り出してから話し始めた内容は以下の通りだ。
マリサを狙っていたヒットマンは白人の中年男で、捕まえたのは昨日の昼間らしい。
シンシアちゃんは仕事上、八雲邸付近で暮らす住民の出入りを注意深く観察しているのだが、ここ最近学園近くのホームセンターで”妙に偏った”買い物を続ける男がいたそうだ。”もしや”と思った彼女はその日から男に的を絞り、買っていくものをリストにしてメモを取っていった。そしてある程度物が揃い始めるとメモを眺めながら脳内でそれを加工し、組み立て、その結果良からぬものが完成したのだ。シンシアちゃんはミユキ先輩からその奇妙な鉄パイプを受け取って
「一見すれば日曜大工で家具でも作るのかな? という材料だったのですか、私の仕事柄、どうしてもそれ以外のものが見えてしまったんです。気のせいだと思いたかったのですが」
”もし、あれを作っているなら次に買うのはきっと……”と予測してその翌日、つまりは昨日。ホームセンターへ向かう男を尾行したそうだ。するとその結果は残念ながら的中、備え付けの加工室から出てきた男が手にしていたのは例のパイプだったそうだ。俺はシンシアちゃんに貸してもらって
「いったいこれどんな凶器なんですかね? 殴れないこともないですが、それにしたら緩衝材みたいなものを詰めてたり、穴空けてたり妙にギミックっぽいんですが」
と尋ねると、彼女はコバルトブルーの瞳を向けて
「減音器です」
そう答えてくれた。話を戻そう。ともかくヒットマンはそれを手にしてアパートに戻り、鍵を開けて扉を空けたところ、そこには待ち構えていたシンシアちゃんが天使のような微笑を浮かべて
”お帰りなさいませご主人様。そしていってらっしゃいませ”
鉄拳一発。かなりパワーセーブしていたとは言え死神のナックルを喰らったのだ。もちろん今回のお仕事については再起不能。自分の勘違いならハウスキーパーのフリでもしてお部屋を綺麗にしてあげようと思っていた彼女なのだが、部屋で見つけた物が予想通り過ぎたので代わりに彼をお掃除したようです。
「ゴミ処理ですね」
ヒドイ言い様だ。で、結局何を部屋から押収したかと言うと……
「即席の狙撃銃です」
だそうです。マジかよ。俺が石化しているのをよそにシンシアちゃんはそのまま
「弾は玩具などの重りやバランス調整に利用されている鉛玉を使うつもりだったみたいです。銃の方は、強度が必要な薬室やバレルなどはホームセンターで揃えた素材を加工して作ってあり、それがモデルガンに組み込んでありました」
と解説してくれた。彼女によると日本製のモデルガンは再現度が高く、外装は樹脂とは言え型を作る金型などは本物を利用しているものもあるらしい。またその中で銃刀法の規制が及んでいない引き金、撃鉄といったいくつかの小さな稼動部分はスチール等の金属で出来ており、数発程度なら実弾の発射にも耐えられる強度とのことだ。
「とは言え、ベースがトイガンなのであまり銃には負荷をかけられません。詳しくは申しあげられませんが、彼が作成しようとしていた弾はサブソニック弾と呼ばれる速度が比較的遅い弱装弾です。殺傷能力や飛距離は通常弾に比べて劣るのですが、それを補うメリットとして命中精度の向上、それから」
再び机の上に置かれた鉄パイプを手にとって
「これです」
俺の前に差し出してきた。改めてそれを受け取って眺める。
「かなりの消音効果が期待できます」
彼女が話してくれた内容をまとめると、銃声というの弾速が音速未満、つまり時速1200km未満になると極端に小さくなり、さらに発射ガスを段階的に噴出させるような小穴がたくさんついた筒のようなものを銃口の先端につけると、もうほとんどの音を消せるのだそうだ。そういえばスパイ映画とかで良く見かけるな。色々と角度を変えながら眺める。
「ちょうど、開いた辞書を勢いよく閉じたときの音ぐらいですね」
彼女は最後にそう言った。つまり、暗殺向きというわけだ。なるほどねと。さてここで聞きそびれた事を聞いておこうか。
「それはそうとしてシンシアちゃん」
と話の腰を折ってみると
「はい。何でしょうか?」
と顔をこちらに向けたシンシアちゃん。その目を見て
「なんでうちの学園の制服着てるんですか?」
直球で聞けばシンシアちゃん、頬に手を当てながらハニかみながら
「わ、私には似合いませんか……?」
あ〜可愛いなシーちゃんその上目遣い……って
「いやそうじゃなくて。潜入のための変装なのかマジで編入したのかコスプレなのか」
「お嬢様のルートまで秘密です。今は」
ニコリ、だ。異次元ですね。それから
「あと、これお嬢様のスペアをお借りしてるんですけど、少しバストの部分がキツ……」
「シーちゃんグランドから黒紫の呪いが立ち上ってきたから止めた方が良いよ」
そのときシンシアちゃんの携帯にメールが入ったようで、彼女は黒と白のゴシックなカラーリングの携帯を取り出してパチンとオープン。そしてドヨンと額に青線を降ろして返信メールをカタカタ打っている。それからその内容をブツブツと
「お嬢様、失言お許し下さい。でも私はむしろこれから世の中を背負って立つのは無乳か貧乳ではないかと考えている次第で……中略……ですのでどうかムチと蝋燭はもうご勘弁下さいませ。シンシア・フリーベリ……っと」
火に油な内容だと思ったが気にしないでおいた。
いったん談笑カッコハテナが入ったがその後、彼女は今回の事件に関して少し気味の悪い話を聞かせてくれた。今度はミユキ先輩が襲われたときの内容だった。
シンシアちゃんから説明を受けて聞いていくうちに、その結論を先読みした俺は
「……つまり、園田先輩をトラックで襲った理由は命を狙ったわけじゃなくて……」
とそこで止め、核心部分が外れていないか確かめようとシンシアちゃんの目を見た。彼女はそれに頷いて
「はい。相手もプロですから下調べは十分にしているはずです。つまり、その程度でミユキさんを始末できるとは考えていません」
と答えてくれた。彼女は教室の外にいつの間にか溜まっている生徒の視線(主に男)やヒソヒソ話を気にすることなく、さらに
「あれはやはり脅迫と考える方が自然です。”次は貴方達の番ですよ”というメッセージでしょうね。そしてそれをミユキ先輩相手に実行して見せた、というところでしょう」
そう続けた。始末が目的でお姉様をトラックで刎ねたのなら、少なくともあの件は”マヌケなヒットマンだな”っていう笑い話で良かったんだけど、脅迫ということなら話はちょっと変わってくる。隣のミユキ先輩は
「私は何ともないと言うのに。あれが美月には随分とショックだったようでな。妹の不安を無くすためにも早く解決したいところだ」
と腕組みした。仕方ないだろうな。美月ちゃんでなくても俺だってあの時さ
”あれが俺や美月ちゃんみたいな一般人だったらとんでもないことになってたな”
ってゾっとしたもん。続けてお姉様は
「矛先が私だけなら問題ないのだが、可愛い妹達や後宮が標的になってしまうのは心外だな」
フっと苦笑いした。俺に気遣って”心外”って言葉で濁してるけどさ、守るっていうのは本当に負担のかかることだよね。確かに狙われてるのがお姉様一人だけなら余裕も良い所なんだろうけどさ。
武神に溜息を吐かせるなんてやるじゃんボンボンさん。脅迫大成功だよ、今度会ったら俺が直にしばいてあげるね。
シンシアちゃんはゆっくりと立ち上がって窓の外を見下ろし、グランドで砂煙をあげて走っているマリサに目を向けながら
「それからお嬢様を狙っていた犯人と、ミユキさん、ミヤコさんを狙っていた計3人の犯人はお互いに全く面識がないようです」
つまり、彼らはチームではなく独立で雇われているらしい。一人に対して一人という具合に。俺はそれに頷きながら
「バラバラに雇うメリットって、何でしょうね?」
お姉様に尋ねると、それに流し目しながら
「一番は芋蔓式にやられる心配が少ないことだろうな。例えばシンシアは今回、2人も捕まえてくれたが、残りの殺し屋に関してあいつらから引き出せた情報はほとんどない。知らない情報は聞き出せない。だから打つ手がない」
答えてくれた。確かに知らないことは自白しようがないよな。
「それから私達に関して言えば、そうだな。互いに面識も情報も持ち合わせていないなら当然彼らの間に利害関係はないはずだ。だから」
今度はシンシアちゃんの方を見て
「少なくとも私、ミヤコ、それから八雲はもう危険がないと見て良いと思うのが?」
と確認すると、シンシアちゃんは頷いて
「はい。私が2人に直接問い正してみましたが、二人とも自分の目標以外を狙うつもりはなかったようです。実際、依頼外の人間を始末するメリットは殺し屋に全くありません。ただリスクを高めるだけですから」
俺とミユキ先輩を交互に見ながら答えた。俺はそれに
「すると、園田先輩やミィちゃん、マリサについては素直に安心しても良いのかな?」
再度確認。すると
「はい。私が引き出せた少ない情報の一つですが、残りの犯人についても同様です」
と答えてくれた。少し安心した。
「それなら事件が解決するまで、ミヤコは八雲の家て世話になった方が良いかもしれないな」
お姉様のその言葉に思わず”え?”と言いそうになったが
「私もその方が良いと思います。もう狙われる心配がなくても、まだ標的になってるミキさんや京太郎さんのそばにいると、トラブルに巻き込まれてしまう可能性がありますからね」
なるほどだった。まだまだ甘いな俺。しかし今までみたいにモヒカンが暴れているだけならさ、例え命の危険があっても何となくまだ笑えたんだけど、”殺し屋”。嫌な響きだよな。言葉の問題だけかも知れないけど。一人目はトラックで襲ってきて、二人目はハンドガン、三人目はスナイパーライフルか。まだ怪我人や死人は出てないけど、これもやっぱり始末じゃなくて脅迫が目的だからだろうか?
しかしターゲットがほとんど女の子っていうのが気に入らないな。まぁ、彼女達のあの破壊神的な力を見越して狙っているんだろうけどさ。そうでなきゃプロの殺し屋を、それも人数分雇うなんて金も手間もかかることしないよな。ただの女の子ならあのスキンヘッドのボディーガード一人使って、ブサイクな顔で睨めば十分だろ。腕組み。しかし何だろうか。今の情報に何か重要なことが隠されているような、見落としているような……。
俺が妙な表情していたせいか、隣のミユキ先輩は顔を向けて
「どうした後宮。私が傍にいるのに不安なのか」
安心させるような穏やかな声で気遣ってくれた。いや、今のはそうじゃないんですけど……。けど相変わらず包容力の塊みたいな人だな。俺が女の子だったら今すぐ”お姉様〜”とか言って抱きつくレベルです。今は素直にミィちゃんが羨ましいな。いやいや発想がキモイからやめようね。返答せずにまじまじとお顔を見ていると、お姉様はニコリとして
「怖がらなくていいさ。お前は私が守ってやる。心配するな」
ミユキ先輩が手を伸ばしてそっと頭を撫でてくれた。あ〜、それ死ぬほど恥ずかしいんですけど……ちょっと嬉しいのは秘密だ。ていうかかなりね。しかし何ていうか、俺とお姉様だと戦闘力にミジンコとTレックスくらいの差があるんだけどさ、やっぱり男の俺がそう言われるのって格好つかないよね。いや、そうかと言って俺なんかがユキたんを守れるべくもないんだけどさ。シンシアちゃんが火照ってる俺の顔を見ながら
「良かったですね京太郎さん。世界最強のボディーガードですよ」
クスリと笑った。けれどもやっぱり。
「ん〜」
と俺は鼻をかきつつ
「確かに園田先輩がもう色んな意味ですっげー強いのは認めます……」
言って俯く。
「ああ、普段から鍛えてるからな。コインくらいは指で削れるぞ」
一般人は鍛えててもそうはならないですよお姉様。ミユキ先輩はまだ俺の頭を優しく撫でている。ああやばいな、気持ちいいな。そのまま俺は
「だけどやっぱり……」
顔をあげようとして、でもチキンな俺には無理で俯いたまま。それに
「やっぱり、なんだ?」
目線は逸らしてるけど、そのツヤツヤの髪の揺れでミユキ先輩が小首を傾げたのが分った。回りくどいこと言わずに結論を言え、ということだろう。言うべきか言わざるべきか。いや言っておこう。俺は顔上げようとして……でもやっぱり無理でそのまま
「園田先輩ってやっぱり」
と切り出して一息吸ってから
「女の子ですから」
ピタっとお姉様の手が止まった。言いましたよ。やっぱり失言ですよねこれ? いやもう最後まで言ってしまえ! 俯いたまま続けて
「ていうかそういうの別にして、守るばっかりじゃなくて少しは俺も頼りにしてくれると嬉しいっていうか。逆にたまには先輩を守ったり出来たらなと思ったりもしてます。親父にもそう教えられてきたっていうか……信条って言うか。なんか先輩一人で責任感じてるような気がして」
あ〜もう訳分らないよグダグダだ京太郎君。ただの痛い子になってるではないか。あと親父とか信条とか全く関係ないだろ。今頃フロリダでクシャミしてるんじゃなかろうか。とにかく言うだけ言い切ったので恐る恐る目線をあげると、ミユキ先輩は口に手を当てて目を丸くしておられます。言っておきます。死ぬほど可愛い顔してますよ皆さん。クッキリ二重の下の栗色の瞳はユラユラしてるし、端正な色白の顔で頬だけがほんのりピンクなわけです。最高。だけどこの萌え表情の後に俺はろくな目にあった験しがない。それなりの覚悟を決めていると、
「ありがとう後宮。私は良い後輩を持てたな」
お姉様はクスリと笑った。ちょっと拍子抜けだ。
「だけど私のことは心配しないでくれ。お前達はいつも通りにしてくれてたら良い。つまらないことは私がすぐに解決してやるから」
また安心させるように微笑んでくれた。ごめんなさい。俺には分かるんだ。やっぱり先輩、無理してるよね。俺はミユキ先輩のほんの少しだけ力ない笑みを見てそう思った。やっぱり頼りにされるわけないかな俺が? とにかくこの夜、シンシアちゃんはある目的のために米国に向け日本を発つ。それから次の標的は桃ちゃんだった。
一週間強ぶりの更新ですね。お待たせ致しました。
遅くなってすみません;実は私、公私の両方で執筆しているんですが、
公の方の執筆が最近忙しくてなかなかこっちが進みません(爆)
加えてその影響が出て京太郎君アプリも立ち上がりにくくなって四苦八苦ですね。
この7月、8月が公の方で締め切りが二つあるので
もうしばらく速度が遅い状態になると思います。お許し下さいませ^^
あ、実は出版されてるんですよフフフ
どうでも良いですね。すみません。忘れてください。
小説じゃない上に日本語じゃなくて英語なので(死)
あと昨日実は私の誕生日だったんです(`・ω・´)b
これこそどうでも良いですね(爆)
すみません。でも読者の皆様に言いたくて。。。
そうそう。期間限定掲載の死神とピアノ線ですが。
そのままチップスという形で置いておこうと思います。
まだ御覧になってない読者様にも是非、目を通して頂きたいので。
えっと、今回はこの辺で。それではまた^^