第3話:袖の下は淑女のたしなみ?
放課後、高等学校舎2階の生徒会役員会議室。席についているのは俺とミヤコシスターズ、各部活の代表と副会長のアヤ先輩で、教壇の後ろに立っているのは生徒会長のミユキ先輩だ。
会議が忙しくなるのは体育祭や”桜祭り”と呼ばれる文化祭の直前か、あるいは新年度に行われる部活への予算振り分けの時くらいで、今日、6月末のように中途半端な時期に行われる役員会議は会議として機能することはなく、ただ役員のメンメンと顔を合わせて適当なオシャベリをするのが慣例となっているのだ。
いつもはここで無駄にテンションをあげて
”な〜な〜花札でもせえへん?”
とロングポニーの日焼け娘は制定カバンを漁り出すのだが、彼女は今現在まるで水揚げされたカレイのように瀕死の様子で机に突っ伏している。お姉様お手製のクッキーを三枚も食したのが原因だ。この桃ちゃんとヒロシがあの現場から早々に姿を消したことについて俺は当初、野生の勘が命の危機を察したのだと生き物の神秘を垣間見た気になっていたのだが、よくよく考えればKYKMと学習能力のないヒグマがそんな機転の利いた事が出来る訳もなく、5限目の途中に保健室で目覚めた俺は、保健委員として看病してくれていた可愛いヨードーちゃんに事の顛末を尋ねたのだ。すると彼は弓なりの眉の下、その切れ長のセクシーな目を気まずそうに流しながら
”あの二人は食堂へまたお昼ご飯を食べに行っててじゃな、それで教室に帰って来たら園田先輩のクッキーを見るや否や奪い合うように食べたんじゃ。それで……”
その流し目の先、俺が寝ていた隣のベッド2台には、”帰らぬ人”一歩手前となっている桃介とヒロシがグッタリと倒れており、その目を渦のようにクルクル回すというベタな顔芸を披露していたのだった。あえて言っておこう、おバカさんにも程があるよ君達。
部活後。夕暮れの桜花ホール玄関入り口。
「「お疲れ様でした」」
俺とミィちゃんがペコリと頭を下げているのは
「二人とも最近は気合が入ってていいぞ」
ニコリと微笑んでいるミユキ先輩。ミィちゃんの方に優しげな栗色の瞳を向けて
「ミヤコ、明日お前に昇段試験を行おうと思うが、どうだろうか?」
言われてミィちゃん、お祈りするみたいに手を胸の前で組んで
「本当ですかお姉様!? アンビリーバブルです!」
目をキラキラさせている。まぁ実力から言えばとうにクリアしてるよね。お兄ちゃんがフルボッコだもん。ミユキ先輩は天真爛漫なミィちゃんの笑顔にキュンキュン来て思わずギューっと抱き寄せて
「も〜お前はどうしてそんなに可愛いんだミヤコ! いっそ私の嫁にならないか!」
日に日にセリフの危険度が増しております。そうそう、俺とミィちゃんってよく似てるって言われるんだけど、それってネタだよね? いやもちろん俺はそんなのツチノコレベルの都市伝説だと思ってるんだけどさ、マリサが最初にミィちゃん見たときは俺が女装したんだと思って石化したし、ヨードーちゃんもこれまで何度も
”ミヤコ嬢とキョウは本当に血は繋がってないのかのう?”
とか首を傾げるんだよな。目の前でミィちゃんを猫かわいがりしてるユキたんを眺める。もしかして俺も女の子だったらミィちゃんみたいにミユキ先輩に可愛がってもらえるかなぁハァハァ。いやいや発想がキモいから止めておこうか。
「これじゃぁまるで美雪が京ちゃんに甘えてるみたいね」
ミィちゃんに頬ずりしているお姉様にクスクスと笑いながらそう声をかけたのは園田先生、つまりミユキ先輩のママだ。桜花ホールの2階へ続く螺旋階段からコツコツとハイヒールの音を立てて降りてきて
「練習お疲れ様、後宮君、京ちゃん、美雪」
ニッコリ。
「どうもです」
会釈を返す俺。それにもう一度大人の魅力満載の笑みで応えて、それからミユキ先輩の方を向いて
「美雪、ちょっとお客さんが来てるんだけど、今時間いい?」
メガネをクイとあげた。
桜花ホール2階にある来賓応接室。学園建設に関わったスポンサーや国会議員、市長といったここや社会に影響力のある人だけが通される、所謂VIPルームと呼ばれるとこだ。ミユキ先輩と先生が入って行ったのはそのお部屋。そしてその扉に耳を当ててるのはミィちゃんで、鍵穴を覗き込んでるのは俺こと京太郎君。好奇心旺盛なお年頃なのです。
「お待たせしました。娘の美雪です。ご挨拶なさい」
言われて
「初めまして。桜花学園生徒会長の園田美雪です」
お姉様がペコリと頭を下げている相手は、柔らかそうな黒のソファーに踏ん反り返ってる”どこから見てもお金持ちのボンボンです”という感じの
「なかなかのイケメンじゃないか」
青のカッターを着て赤のネクタイ締め、紫のスーツを着たオールバックのお兄さん。重そうな金のネックレスをジャラっと首にかけて指にはゴッツイ石の入ったリングを着けている。年齢は20代前半だろうか。組んだ足の黒光りしてる革靴も高そうだ。で、同じ男として分かったけどこのボンボンさん。今確実にお姉様に一目惚れしました。ズキューンというヤツです。顔に書いてます。まぁ仕方ないか、ミユキ先輩だもんな。彼はやや上気した様子で立ち上がって
「これは噂に違わない、いや噂上にお美しいお嬢さんだ。初めましてミユキさん、僕は神条令治と申します。以後お見知りおきを」
礼、だ。何となくキザなセリフとか態度が気に食わないし、下の名前でミユキ先輩を呼ぶのもすごく気に入らない。”むー”と呻っていると
「兄さん交代です、マイターン」
ムニュっと頬で俺の頬を押しのけて鍵穴を覗き込むミィちゃん。むむむ、お年頃とは言えお兄ちゃんますます面白くないよ。と、ミィちゃんの可愛い横顔を見ているとすぐに
「兄さんの方がずっとカッコイイですよ、マストビー」
目を離してまた扉にピタっと耳を当てる義妹。ミィちゃん後でハーゲンダッツ買ってあげようね。
「月とゴミムシですフォーイグザンプル」
”それはあんまりだよ”と心の中で突っ込みつつまた覗きモード。
「周りに怪しい人がたくさんいますよ、ワッチイット」
人差し指を立ててウィンクしてるミィちゃん。イケメンに気を取られて気付かなかったな。どれどれと覗く角度を変えてみると……まぁ恐ろしい。ボンボンの後ろにはガタイの良い黒スーツにサングラスかけたボディーガードみたいな……っていうかボディーガードなんだろうな。そんな格好したスキンヘッドやら角刈りのおじさん達が10人くらい整列して立っている。ボンボンさんが何かの合図のように流し目すると、そのうち一人のスキンヘッドが持っていた黒いアタッシュケースをテーブルの上に置き、ママに見せるようにガバっと開いた。そこに現れたのはギッシリと詰まった札束……っておいおい何だこの展開!? ボンボンさんは先生にニコリとして
「それではこれがお約束の寄付金1億です。結納ならあと10倍は用意できます。それから学園の拡張工事も神条財閥が全面的にサポートさせて頂きますので、どうか美雪さんとの縁談このまま進めてもらえませんか」
”お姉様と縁談とな!?!?”
思わずミィちゃんと顔を見合わせた。また覗きモードに切り替え。ママはボンボンがミユキ先輩に語る”アツイ想い”を深く深く頷きながら聞き、一通り聞き終わるとニコリとして
「お気持ちは十分に伝わりました。ですが……」
ミユキ先輩に一度流し目してから
「こればかりは娘の意思ですので」
とママに振られたお姉様。ミユキ先輩はそれにコクンと頷いてからサラサラサラとツヤツヤの髪を流して、で、それに目を奪われて頬を火照らせているボンボンに微笑んで
「お断り致します」
竹を割ったような即答ぶりにお兄ちゃん大喜び! あまりにショックだったのか石化した上に亀裂まで入ってるボンボンスキー。ごめんなさい、でも言わせて頂きます。ざまーみろー。無駄にミィちゃんとタッチ。ママは木枯らしが吹いてそうな寒い空気なんかお構い無しにテキパキとアタッシュケースのフタを閉じて金庫に閉まってガッチリと施錠し
「ということですので、今回は御縁がなかったということで。それではこの度は多額の御寄付を頂きまして誠に有難うございました。桜花学園を代表して心よりお礼を申し上げます」
シャーシャーと仰っておじぎ。そして
「ありがとう美雪。用件は済んだから帰って良いわよ」
笑顔でメガネをクイとあげるママ。それに頷いてから退室しようとしたミユキ先輩の肩に
「お嬢さんちょっと待ってもらえませんか?」
グラサンスキンヘッドが手を伸ばして来た。でもそれを”パシ”っと払ったのはママだ。その力が少し強かったせいか部屋の空気にやや緊張が走った。それにママが愛想よく微笑んで
「あら、失礼致しました」
クスクスと口元に手をあてる。それでも
「ただ断りもなく娘に触れるのは連慮なさってくださいね?」
自分の行動は否定しなかった。叩かれた自分の手を擦っていたスキンヘッド、その一言が気に食わなかったのか、ズイとママに歩み寄って見下ろして
「先生。お坊ちゃまにこんな辺鄙なところまで御足労頂いた理由を吐き違えていませんか?」
威圧的な口調に空気が変わった。ボンボンは何が誇らしいのが知らないが腕組みしてるし。スキヘッドはそのまま続けて
「我々としては事を荒立てる前に、円満に話を収めて欲しいところなのですがね?」
分かり易いくらいの脅し文句を吐いた。そしてそういうことのプロなんだろうな。俺がやられたらたぶん唇が真っ青になると思う。そんな迫力だ。それでもママはニコリとしたまま
「事を荒立てたくないのは私もです。だからそうなる前にお引き取り願えませんか」
動じた様子もなくサラリ。それに
「分ってないようだな先生さん」
サングラスを外し、その眉間に刻まれたような深い皺を寄せて睨みつける。
「あんたは黙って”うんうん”と頷いて金を握ってたら良い。娘さんだって悪いようにされる訳じゃない。神条財閥の次期社長になられるお坊ちゃまが是非にも仰っているんだ。玉の輿も良いところだろう?」
下腹に響くような声で言って
「出ないとつまらないことになりますよ」
そのゴツイ手をブレザーの懐に忍ばせて”硬そうな何か”を握った。いや、これは流石に洒落になってないだろ。俺はそのままドアノブに手をかけて回そうとして
「黙れよデクノボウ?」
寒気がするような声に文字通り部屋の空気が凍りついた。ママはスっとメガネを外し
「やることがいちいち回りくどいわね。ボディーガードさん」
スキンヘッドのブレザーの襟に一度目を向け、それから今度は見たこともないような射抜くような目つきで
「さっさと内ポケットの中で握ってる銃を抜いたらどうかしら? 共産ルートで手に入れた安物だろうけど、弾も何発かは入ってるんでしょ? 」
メガネの耳カケの部分を口端に咥えて薄く笑う。俺には経験があるから分かる。この図体のでかいスキンヘッドは一瞬にしてママのあまりの豹変に”飲まれた”。けどそれを悟らせないように、額に滲んでいる汗を拭こうともせず
「下手に出てたら付け上がりやがって」
ブレザーの中で握っていたそれを引き抜こうとして”カチリ”、と先にスキンヘッドの額には小さな上下2連の銃口が当てられた。ママの手にいつの間にか握られている銀色のそれは既に親指で撃鉄が起こされている。その事実に、硬直したまま滝のような脂汗が流れ始めたスキンヘッド。その目、それを下から覗き込むように見据えて
「殺るときは黙って殺ることね? 安全装置も外さないままでいちいち口上が多いのよ、素人」
目を細めてから躊躇いなく人差し指をギリっと絞った。直後に響いた”パン”という乾いた音。静寂。ゆっくりと後ろに尻餅をつくようにドサっと倒れたスキンヘッド。あっけなく、そして突然に終わった命に絶句している俺、ミィちゃん、そして部屋の中。時が止まったその中で一人だけ動けるママは咥えていたメガネをゆっくりと取って掛けなおし、糸の切れた人形のように動かなくなったスキンヘッドを見下ろしながらフっと銃口を吹いて……
「何ちゃって?」
可愛くニコリ。そしてまだ青ざめているボンボンに向き直ってクルクルと器用に銃を回しながら
「本当にユーモアのある護衛さんですね神条さん。久しぶりに楽しかったです」
拍子抜けする程明るい声に思わず
「「「へ?」」」
だ。俺もボンボンもミィちゃんも。見ればスキンヘッドは腰を抜かしてはいるものの、別に額から血を流しているということはなかった。ゼーゼー言ってる。生きてます。でもさっきの発砲音は……と室内を見ればお姉様が手を合わせて
「すみません大きな音を立てて。室内に蚊がいたものですから」
意地悪な笑みを浮かべている。これはひどい。ママはヨロヨロと起き上がるスキンヘッドには目もくれず、ボンボンに”空気を読んでね?”というような意味深な目線を向けつつ
「名高い神条財閥のボディーガートともなるとただ強いだけではなく、紳士としての嗜みや”引き際”はもちろん、ユーモアのセンスまで洗練されていますね。感服致します」
回していた銃をパシっと止め、上向きに立ててパチンと引き金を引くと上側の銃口から”ポン”と小さなアメリカ国旗が出た。そのあまりに間抜けな音に並び地蔵になってるボディガード達とボンボンスキー。
「フィラデルフィア・デリンジャーのレプリカです。モデルはリンカーン大統領”暗殺”にも使われて有名になった銃なんですけど、次女の美月が留学してるときに送ってくれたんですよ。フフフ」
口元に手を当ててお上品に微笑んでいるママ。ミユキ先輩を除いて動かない、動けないその他全員。それらをサラっと一瞥してから銃をスルリとまるで熟練した手品師のようにスーツの袖にしまって
「さて、”遊び”が過ぎる前にこの辺りで」
上品だけど心なしか威圧感を感じさせるような目つきと笑顔で
「それではまたお越しをお待ちしております。お気をつけてお帰りください」
おじぎ。俺には
”これ以上は遊びじゃすまなくなるわよ?”
そう警告しているように聞こえた。で、このとき俺はマジで思ったね。
ヒロシ、ママの授業だけは寝るのやめよっか。
今回はママが主役ですかね? しかしうちのヒロインって
守ってあげたくなるようなか弱い女の子いないですね^^(爆)
追記:
携帯からアクセスされてる読者様にもご覧頂けるように
ブログに掲載してる”メッセージの回答”をこちらでも掲載させて頂きます。
イラストもどこかでまた……
*:以下、原文のままです
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投稿サイトで頂いたメッセージにはここで回答させて頂きます^^
あと文は全部”ですます調”に矯正させて頂きました。御了承ください。
Q:ヨードーちゃんルートだとBLですか?
A:いいえ。性転換ネタまた使います。
でもキョウタロウ君を転換させたらGLっぽくなりそうですね。
ヨードーちゃんを女の子にしたら何となく美味しい気もします。
Q:マリサが幼馴染でヒロシは腐れ縁ですよね? 二人に接点はないんですか?
A:第1部に答えが暗示してたりします^^
Q:お気に入りは誰ですか?
A:皆愛してます。モヒカンも大山君も。でも一番はマリサ。
Q:綺麗なお姉さんは好きですか?
A:大好きです。でも妹だともっと嬉しいです。
Q:大山君ルートはないですか?
A:わ、私にどうしろとおっしゃるのですか。
Q:カップリングルートでヨードー&アヤっていう組み合わせはないですか?
A:外伝で書いても楽しそうですね。ヨードーちゃんを主人公にして。
リクが多くなってきたら執筆するかもしれません。
Q:今晩カレーなんです。
A:良かったですね。チーズのせると良いと思います。
Q:ミキさんの別バージョンのミキちゃんはいつ登場するのですか?
A:まずは回答遅くなってごめんなさい。そしてお待たせしました。今回からです。
Q:”3日に1回”ですか?
A:……意味深ですね。
Q:ヨードーは秀吉ですね。分ります。グッジョブ。
A:有難うございます。これからも応援宜しくお願いします。
Q:第1部で登場した先生方はもう登場しないのですか?
A:申し訳ありませんが今のところ構想にないです。
”親っさん”はもしかすると出るかもしれません。
Q:結婚して下さい。
A:私で宜しければどうぞ。
Q:誤字脱字が多いです。
A:ごめんなさい。推敲頑張ります。
Q:もっと美月ちゃんを出して下さい。
A:ごめんなさい。努力します。
Q:どこに生息してますか?
A:そんなん言われへんわ
Q:何で執筆されてますか?
A:機器をお尋ねになってると理解して宜しいでしょうか? PCでカタカタ打ってます。
Q:エロいですね。
A:ごめんなさい。仕様です。
Q:ドラクエ9のセーブが一つってどう思います?
A:PSP派なので今は対岸の火事ですが、DS買ったら一緒に泣きましょう。
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小説と関係あることないことお気軽にどうぞ。匿名でお答え致しますので^^
ではまた。