ルートミユキ1のファイナル:Shortcake without Strawberry
「ち、ちょっと待っておかしいじゃない!!」
警察に拘束されながらもクリスティは黒スーツの男達や利恵の方に身を乗り出して
「私よりもそこでのうのうとライフルを構えてるマフィア達を捕まえなさいよ!! それにそこの検察の女だって暴力団と癒着してた可能性が」
と必死に抗議の眼差しを送っていた。その悪あがきに通報した本人である神条会の総帥、碓井貞光とその義姉の利恵は目を見合わせてから肩をすくめた。
「そんな誤魔化そうとしてもダメよ!! 物的証拠があがってるんだからこの際道連れにしてやるんだから!」
息を荒げているクリスティに貞光は口端を吊り上げて
「モデルガンにそんなこと言われても困るな~?」
人差し指を立てて左右に揺らす。
「モデルガン?」
そうオウム返しに言う彼女に、彼は黒スーツの男からライフル一丁を取って銃口を突きつける。
そしてそれに言葉を失うことすら出来ず
「そんな……」
クリスティが悔し涙の向こうに見たのはピタリと塞がった銃口だった。
貞光は頷いて
「こんなオモチャじゃぁ虫の子一匹殺せないさ」
同情半分、呆れ半分という具合に溜息を吐く。しかしそれに対して隣の警察官が
「”オモチャ”とは言え”重量のある1m以上の棒状のモノ”を持ってるわけです。見方によっては”用法上の凶器”に当たりますので凶器準備集合罪の疑いはありますよ」
言いながら黒スーツの男たちを見回したので、貞光は銃口をあげて再び黒スーツに持たせ
「これはこれは手厳しい。恐竜が辺りを徘徊するような危険かつ未知な場所に護身用具も持たずに入れと仰るわけですか?」
首を傾げれば
「建前上、我々は正当防衛として大目に見ているわけですがさっきも言った通り、今はその程度のことに構ってられないだけなんですよ? 何なら後日改めてお話聞かせてもらいましょうか?」
そんな脅しにもあくまでニヤニヤとしている貞光に警察官は”やれやれ”と呟いた。利恵もそれを見かねたのか
「それもそうだけど貞光君。オモチャの銃でも銃口は人に向けるものじゃないわ」
やや強めの口調で告げた。
「失礼しました義姉さん。お許しを」
しかしその口調はあくまで上辺だけを繕った様に軽い。だから利恵もまた溜息を返した。そんなやりとりにいよいよクリスティは悔しくなる。
こんなふざけた二人に一杯も二杯も食わされるなんてとワナワナ肩を震わせる。生まれてきてここまでコケにされたのも初めてだ。許せない。
このまま終わるなんて、このまま終わるなんて絶対に許せない。何かあるはずだ。何か……そうだ!
「そ、その銃ってオモチャって言ったって金属製じゃない!! そうよ! た、確か日本はモデルガンでも金属性のものは銃刀法に触れるはずよ!」
なりふり構わないクリスティへ利恵達ではなく警察官が首を横に振り
「その銃刀法。こういったライフルやショットガンといった長物の模造銃には適用されないんですよ」
悔しさに奥歯がギリっとなる。
「ちなみにですが例えハンドガンであっても、銃口を塞いで色を黄色に着色すれば金属製でも所持できます。ただし鉄製はダメですがね」
そんな補足を入れる警察官。しかしその隣のシンシア、彼女だけは間違いなく本物を持っている。
クリスティはそのことを知っていたがどうしてもそれは言う気になれない。あんなことを言われたからどうしても。
しかしこの検察の女と神条会の男は別だ。絶対にこのままじゃ済まさない! まだ何かあるはずだ! まだ何か!
後ろ手に手錠をかけられながらも眼を泳がせて必死に模索する。
利恵はそんなクリスティの往生際の悪さに苦笑いしつつも手にした銀の銃をクルクルと回し
「それじゃぁ後は警察に任せて、一般人は退散しますか」
ダメだ! このままこの女に逃げられるなんて許せない! 検察庁のヤツがどれぐらいえらいか知らないけどこんな……
え?
利恵の言ったその何気ない一言にクリスティは放心状態になった。
「待って今何ていったのあなた……」
そのまま口を滑るように出た言葉。利恵は自分に向けられた焦点のあってない視線を確認するように
「ん? 私?」
自分の方を指差せばクリスティは壊れた人形のように頷いた。
すると利恵はしばらく考え込むように銀の銃でコンコンと自分の額を叩いてから
「ああ。もしかしてさっきの”一般人”っていう件? ええ。私はただの教師よ。それ以外の何者でもないわ」
「それじゃぁ検察庁って……特捜って……」
放心した心と同じように漏れていく言葉に利恵は無邪気に舌を出して
「全部ウソよ」
それにいよいよ持って怒り心頭に発したクリスティが
「そ、それじゃ逮捕って!! この」
「動くな!!」
掴みかかろうとして押さえつけられる。その様子に利恵は何度目か分らない溜息を吐いて
「日本のお勉強ちゃんとしてから来ましょうね? 現行犯逮捕は”民間人”でも出来るのよ」
待て!! ここに何かあるはずだ!! ここにまだ逆転のチャンスが!! そうだ!! あの銃だ!!
「じゃぁあなたの持ってるその銃は!! み、民間人が拳銃を持って良いはずな」
利恵は言い終わる前に銀色の銃を暴れているクリスティに向け
「バン!」
言いながら引き金を引くと銃口から”ポン”というマヌケな音を立てて国旗が出て来た。目の前で揺れている星条旗にまたも呆然とするクリスティ。
「あなたこそ。私の長い長~い”三文芝居”に付き合ってくれてありがとうね。そしてさようなら」
彼女に向けてウィンクした。
「義姉さんそれ美月ちゃんからのお土産ですね」
「ええ。フィラデルフィアデリンジャーのレプリカよ。いつか本物触ってみたいわね」
「ていうか人に向けたらダメなんじゃないんですか」
「あら。人のこと言えなかったかしらねフフフ」
またフザけた会話をする二人。しかし今度こそクリスティは何も言えなかった。何も。一言も。そしてそのまま警察官とともに研究室の自動扉を出た。
「……まぁまぁ、僕はシンシアちゃんの銃がバレなかっただけ儲けモノだと思いますよ」
警察が出払って数分後。真っ黒なハンドガンをスカートの中にしまう彼女を見ながら貞光が言えば、シンシアはそれを否定するでもなく肯定するでもなく微かにだけ頷いて
「バレなかったんじゃなくて、バラさなかったんだと思います」
そう呟いた。それに何かを感じ取った利恵が貞光の方を向き
「それよりも。シンシアちゃんが用意してくれた装備がバレなかった方が奇跡よ」
言いながら黒スーツの男からライフル一丁を取る。
「XMは外装の多くがプラスティックで出来ている上に米軍の次期主力装備だからね。流石に本物はありえないと思ってくれたんでしょうね」
銃身をトンと叩くと銃口を塞いでいた金属棒が出てきた。それに貞光は一歩後ずさる。
「ほ、本物だったの!?」
彼女はニコリと笑って
「ええ。だからあの時貞光君が博士に向けていた銃の引き鉄を引いてたら……」
「は、博士アウトだったの?」
それに首を横に振ったのはシンシアで
「バレル内に鉄芯があったので貞光さんがアウトでした」
サラリと言われた貞光は絶句するしかなった。利恵はその様子にクスリと笑って
「だから、銃は人に向けちゃダメって言ったでしょ?」
彼は額の汗を拭った。
「しかし現場検証に改めて来るまでたっぷり1時間。機動隊による安全確保も込みの時間だそうだが、さてどうしたもんだろうか」
貞光が腕を組むのと同じタイミングで、利恵はクリスティが使っていたPCに差していたUSBメモリを抜いた。
そしてコンコンとその液晶画面を叩いて
「あの博士、最後まで悪役を続けるつもりかしらね?」
促がされてシンシアと貞光がモニターを見れば、そこにはあの横転した2台のバスを黒スーツの男達が取り囲んでいた。
「いや、その件と博士は無関係だよ」
と貞光。
「どこの組でも造反はいるわけさ。まぁ総帥が余所者かつ新入りなら仕方ないかな? ハハ」
彼が余裕の笑みを浮かべている理由はシンプルだ。
彼らの手には銃がない。なら例え足手まといになる乗客たちがいようと”彼女達”に不安材料はなかった。
「恐竜の次はマフィアね。最後の最後に敵になるのはやっぱり人間というわけか。お約束の展開とは言えなんだかな」
高みの見物とばかりにモニターを眺めていると
「ところで」
利恵が割って入り、シンシアと貞光二人の耳元に
「貞光君の部下の皆さんはそんなことしないわよね?」
呟いた。大概にして妙な予感というのはあたるものだ。こういう非常時は特に。
利恵のセリフを聞いておそるおそるという具合に3人が振り返れば、予想通りその銃口が全て自分達に向けられていた。
貞光は”あ~あ”と頭を掻きながら
「もう幻術の効果が切れたか」
舌打ち。
「もう少しモデルガンで通した方が良かったかしらね?」
利恵は”ん~”と唸った。
「総帥。よりによって氾濫分子だけを選別して連れて来た理由、死ぬ前に教えてくれませんかね」
一人の問いかけに貞光は口端を吊り上げ
「おお。その言い方だとまるで僕に味方でもいるみたいじゃないか。嬉しいね~」
皮肉を返した。しかしシンシアもまた、”応援”として呼ぶはずのメンバーにわざわざ敵対勢力を選別したその理由は気になっていた。
真意が見えず貞光の空洞のような瞳に目を向けていると、彼はそのコバルトブルーの視線に
「裏切り者は鎮めるより炙り出して処断する。これは僕の大切な人の言葉なんだ」
そしてその瞳の先が研究室の天井へと向く。そこには監視カメラ。シンシアが小声で
「つまり証拠を押さえて正当防衛として始末するつもりですか」
貞光は首を横に振る。
「では見せしめとしての始末を記録し、恐怖で結束を固めるつもりですか」
貞光は首を横に振る。では何だ? なぜわざわざこんな危険に身を晒すようなマネをしたんだ。
「今は言えないけど。少なくとも今僕達を取り囲んでいる彼らは間違いなく敵だ。その点は心配いらない」
つまり戦闘は避けられないということだ。銃を持っている黒スーツの男たちを見回す。人数はおおよそ30。
全員の手にライフル。一見、不利という言葉では表現出来ないほど状況は劣悪だ。
しかしシンシアはこの状況下に一つの”勝算”を見出だしていた。
ついさっき、同じように利恵と共に取り囲まれたあの時にはなかった情報が今はあるのだ。シンシアは黒の皮手袋をつけた拳を固め
「当身でいいですか?」
貞光に尋ねた。しかしそれに
「悪いんだけど、シンシアちゃんは話がややこしくなる前にここを離れて欲しいの」
利恵から予想外の答えが帰って来た。こういった反応が返ってくるということは彼女もその”勝算”に気付いているのだろう。
しかしそれは僅かの間しかない。おそらく数秒程度の。活かすには自分の存在が不可欠だ。
「さすがに彼らもプロですから、こちらの狙いに気付くまで時間の問題だと思います」
真意を伺おうと利恵の目を見つめている彼女に、利恵は
「そんなことより」
と向き直って
”お母さんのこと追いかけていきなさいよ”
アイコンタクトで告げた。シンシアは思わず”え”という言葉を漏らす。
「……どういうことですか?」
彼女は聞き返した。しかしそのセリフがあまりにもワザとらしかったので利恵は首を横に振り
「あなたのお母さん。今のままだとイギリスに引き渡されるわよ?」
じっとシンシアの目を見た。そうなったらもう二度と会えなくなることは死線をいくつも潜って来た彼女には良く分かっていた。
それでもシンシアは笑みを返して
「構いません。あの人は私にとってもう、なんでもありませんから」
冗談でも言う様な口調で返した。
「子供は親を選べないですね、ほんと」
平静を装うようにサラっと続ける。利恵は何も答えずにじっと彼女を見つめる。
「そんなことより利恵さん、今は現状に集中しましょう。悩みは戦いの後で好きなだけ悩めば良いと思います」
利恵はこのわずかの時間に、自分の伝えたいことを表現できる言葉を考えていた。
「確かに子供は親を選べないのかも知れないわ」
そしてこれを選んだ。
「でもそれさえいない子には、そんな言葉さえもかけられないでしょ?」
孤児院で暮らしていたシンシアにとって、この言葉の意味は痛いほど理解できた。
だからこそ笑顔がもう作れない。人に見せられない顔はやはり見せるべきじゃない。それなら俯くしかない。
奪われたのならまだ幸せな子だと知っているから。親が何なのか知らないまま、そしてそれに憧れを持ったまま命を落とした子を知っているから。
だからそれでもまだ笑っていられるほど、彼女は機械になることが出来なかった。
「……ニータ」
彼女の口から漏れたその名前は知らない。でも利恵はそうして細かく震えているシンシアの頭にそっと手を置き
「もうそれ以上ガマンしちゃだめ」
その言葉にコバルトブルーの瞳が揺れた。今まで自分が”ガマン”していたなんて知らなかった。
「あの時、あなたは私と博士に
”これ以上、あの娘を不幸にする権利は私にありません”
そう言ったけど、それと同じで」
まだ立ち尽くしている彼女の髪をそっと撫でて
「あなたには”自分を不幸にする権利”だってないのよ」
何かが堪え切れなくなる。優しくされるということが何かを通り越して痛かった。
「また会いましょうね?」
もう一度シンシアの髪を撫でる。
「……分りました」
”ありがとうございます”あるいは”さようなら”のどちらかを言うつもりだった。でも言えなかった。
”また会おう”と言われたから。そのために自分は、二度も穢れるわけにはいかなくなったから。
顔をあげた彼女の表情に決意の色を読み取った利恵が、その背中を押すために”僅かな勝算”を告げようと黒スーツの男達へと目を向ける。
「知ってると思うけど、中の安全棒も抜かずに撃つとエラい目に遭うわよ?」
その言葉と同時にシンシアは飛び出して進路上に立っていた男数名を瞬く間に叩き伏せた。
「お世話になりました」
自動扉の向こうのシンシアは今度こそ笑顔だった。そしてその扉が閉じられる中
「クローディ……いえ、マリサお嬢様に宜しくお伝え下さい」
そう残してから姿を消した。貞光はその言葉に首を傾げ、利恵は頷いていた。
”あの娘”にとって本当の幸せは何なのか。悩みに悩んだ末に出した答え。
例え真実であろうともそれがただ残酷な何かを押し付けるだけなら、今まで築いてきた幸せを再び砕いてしまうなら
”それは私の自己満足で、ただのエゴに過ぎないと思ったんです。だから”
あのとき、あと少しでクリスティに手をあげそうになっていた利恵に向けてシンシアは笑顔で言ったのだ。
”私はこれからも、”マリサお嬢様”として見守ろうと思います”
シンシアの出した答え。”真実”を手に入れるため、愛して止まなかった家族を取り戻すため、自分が命をかけてきた全て。
でもそれらを彼女は”自己満足”と言って投げ捨てた。本当に相手を思いやるという気持ちが”真実”に勝った瞬間。
そして言葉のトゲに隠されていた本音を感じ取って、彼女が母であるクリスティにかけた言葉。
”お母さん。それ以上自分を責めないで”
それらは怒りに我を忘れていた利恵や、フテ腐れていたクリスティにとって久しぶりのお説教だった。
そんな健気な彼女から、どうして最後の家族を奪うことが出来るだろう?
男たちが銃をガチャガチャと捨てて懐からドスを抜いていく。扱いなれていないせいか、それともナメられているのか。
いやどちらもだろう。とにかく地獄で仏とはこのことだ。
その様子に微かに安堵しつつも貞光は腕組みして
「向こうの戦力も落ちましたがこっちも戦力は激減ですね。どうします? 僕あんまり肉体派じゃないですけど?」
横目に利恵を見れば彼女は目を細めて
「それなら肉体派の人連れて来ようかしらね」
自分が以前に羽織っていた白い着物を床から掴みあげ、その袖から白鞘に収まった小太刀を手に取った。
「ああ。そういうことですか」
貞光はその意味を充分に理解できた。だからこそ笑わずにはいられない。
「だからですか」
そうして懐に手を入れ
「ミユキちゃんがあの森の中、僕にこんなものを持たせたのは」
貞光が懐から抜いたのは朱色の鞘に収まった小太刀だった。
あーもうどうしてこうなった。
レイチェルちゃんを撃退して歓喜に沸いていたバスの皆さんは黒スーツおおよそ30名という新たな敵を迎えて再び沈黙しています。
とりあえず怖いオジさんに外に出るよう命令されたので、集団心理のせいか日本人の気質なのか知らないけど一人がバスを降りると全員が降りました。
どうやらこの事態はミユキ先輩も不測だったようで
「おかしいな。叔父さんは何をやってるんだろうな」
首を傾げながらもバスからトンと降りた足でまっすぐ彼らのほうに歩いていきました。それに黒スーツの一人が
「動くなお嬢さん。そこに固まっておけ」
手を伸ばして静止。でも素無視。肩で風を切って歩いていかれます。
乗客の皆さんはさっきお姉様の武者ぶりならぬ武神ぶりを拝見してるせいでそんな不遜な態度にも怯えた様子がございません。
ていうかレックス撃退した後に今更人間来られてもという感じだろうか。
しかしながらもちろんこんなことをされて黙ってるマフィアさん達では無く、あっと言う間にミユキ先輩の周りを数名が取り囲みました。
さりげにお隣にいた京太郎君も囲まれてます。いや、軽く言ってるけど間近だと普通に怖いからね。普通に。
「こ、殺されるぞ」
なんて言う人がいるけど俺を含めた全員がそれが誰に向けられたものか知ってます。
そしてもちろん盛大に誤解してるのはマフィアさんの方でしてどこから持ってきたのかこれみよがしに手にした日本刀を肩にトントンと当て
「この切れ味だとスッパリだから痛いぞお嬢ちゃん」
ニヤニヤしつつ脅してます。無論、こんなものに臆するわけもないミユキ先輩は冷淡な笑みを浮かべながらこう仰いました。
「そんな”鈍器”で何をするつもりだお前は?」
鈍器ですよ鈍器。
「試してみるかお嬢ちゃん? ん?」
売り言葉に買い言葉。そうして近付いてきた黒スーツをやっぱり素無視でって、ああ流石にこの距離だとマズくないかな? と冷や汗してるお隣の俺に流し目して
「一つ聞かせてやろう」
昔話を始めました。
「……そうしてさらに砥ぎに砥ぎ、砥ぎに研ぐ。最初は砥石に始まり、最後は指先で肌を洗うように泥で研ぐんだ。より細く、より鋭く、細く、鋭く」
園田神社、本殿内。水と泥を指につけながら丹念に愛刀の手入れをしている巫女衣装のミユキは同じく巫女衣装の美月に話しかけていた。
「華美な飾りや細工など無くても構わない。日本刀の美しさはそんな邪なものであってはならない」
時折刀の反りを確認する。
「刃物は斬るのが本性だ。だから他の一切を捨てきり、斬るということのみをただひたすらに追求した刀は純粋な美を宿す」
美月がそれに頷く。
「極限にまで”美”が追求された刀は”接触”という概念を即ち”切断”という現象へと変えるんだ」
ミユキは再び指に砥泥をつけ、労わるような手つきで刀を研ぎながら妹の美月に続ける。
「接触すなわち切断。触れることの敵わないという意味でそれは聖域であり、聖域を宿す物は即ち祭具と呼ばれる。この刀が奉納されているのはそういう理由だ」
美月はまた頷いた。しかしそれにミユキは首を左右に振って
「それでもまだ足りない」
着物の裾から二枚貝を取り出して見せる。開いてみるとキラキラと光っている液体が。
「摂れたての蜂蜜よりもまろやかな特製の油だ。それを鞘へと満たして納刀し、充分に刀身へと染みこませるんだ」
そして言葉の通り簡素な桐の鞘へ流し込み、ゆっくりと刀をそこへ納める。
「本来は空気と刃が接触しないよう錆び止めの手入れとして油は使うものだが、この油はそうじゃない。より切れ味を増すためにある」
鞘から抜くとそこには虹色の輝きを湛える刃が現れた。油の放つ光沢だ。
「次にそこへ向けて、柄杓一杯程度の人肌の湯をゆっくりと流すんだ」
再び言葉の通りそろりとぬるま湯がかけられていく。
「すると刃に油と水による極薄の層が出来る。厳密に言うと水より軽い油が浮いた状態になっているのだが」
光沢の乗った刃は実に良く滑りそうだった。ミユキは刀に自身の姿を写しながら
「こうして刀の宿す”聖域”からさらに”摩擦”という物理現象が取り払われ、よりいっそう切れ味を増す」
頷いて今度は美月のほうを向き、
「そして祭具は神器へと昇格を果たすんだ」
言いながら愛刀、童子切安綱の刃に傍らのハンカチを乗せると、それは音もなく自重だけでヌルリと二つに分かれた。
その様を見ていた美月は思わず一言だけこう漏らした。
「姉さんそれ私のハンカチ」
「な~んてことがあってなアハハハ。どうだ京太郎?」
「アハハじゃなかでしょこの非常時になに言うちょるがですかミユキ先輩!!」
訛りありで突っ込む俺にそれはもう可愛らしい笑顔で
「体育会系だろ?」
「体育会系じゃなくてただの刀バカですよ! バカ! つーか普通にバカです!」
その瞬間プーっと頬を膨らませてプイと腕組んで
「もーいいもんお前なんかに話聞かせてやらないからな! もう頼んでも聞かせてやらないからな! それからバカっていうヤツがバカだからな!!」
あ~また膨れた!! ものっそい膨れた!!
「すいませんミユキ先輩非常時なんでマッハで機嫌直して下さい!」
頭ペコペコしてる俺にミユキ先輩はホッペ膨らませたままこっち向いて
「ばーか!」
3歳児顔負けのレヴェルだよこの対応!
「ばーか!! 京太郎ぶわーか!!」
ダメだがっつり可愛く膨れてるよ!! どうしようこの子こういうときどうやって機嫌取ったら良いんだアメでもやるのか無い知恵絞って必死に考えろ京太郎!!
マッハで機嫌を直しかつこのやや切れ気味になってる黒スーツ軍団を即行で殲滅してくれる奇跡のセリフを今ココに用意するんだよーし選択肢だ!!
1:もーユキたんオチャメなんだから
2:もーユキたん可愛いんだから
3:もーユキたんのエッチ!
1は俺が殲滅されるし2は俺が殲滅されるし3は意味が分らない上に俺が殲滅されるしどうしような。お前いい加減にしろ。
いやこれは土壇場では”天”の意思ではなく自らの意思で答えを出せという宇宙意思からの啓示かならば出して見せようホトドギス!
例えそれが命取りになろうともそれが身のうちから出た言葉なら一片の悔いもなし!! いやあるっちゃあるけど。かなり。
俺はいまだブリブリ膨れてるミユキ先輩の双肩を掴み
「な、なんだどうした京太郎?」
唐突の行動に目をパチクリとさせてるお姉様の目をシッカリと見ながら鼻息も荒く
「愛してますミユキ先輩」
あーおうち帰りたい。
わーユキたんすっごいホッペがピンクピンクしてるねしかも目がウルウルもうお兄ちゃんその萌え表情だけでゴハン100杯はいけますよハァハァ。
おうち帰りたいの。
乗客絶句マフィア絶句ユキたん硬直。俺一人だけがクールな笑みを浮かべて前髪をサラリと払って
「ちょっと転生するために首つってきますね」
現世と別れを告げようとその場を立ち去る京太郎君の腕をガッシと掴んで
「お、落ち着け京太郎! お前の気持ちは分ったというか分っていたというかその、もう少しTPOを考えるべきというかその」
「止めないで下さい先輩俺はゼーレの意思に従ってサードインパクト起こさないといけないんです!」
「そんな”人類もまた使徒である”的な宗教のお仕事するくらいならヤキソバにパンを挟む仕事でもってあそれはアヤの仕事か」
どっちもパニくってるな俺達!!
認知的不協和。人が自身の中で矛盾する知識を同時に抱えたときに覚える不快感。そしてその極限が恐怖であるなら、今研究室の中にいる神条会のマフィア達はまさに恐怖のどん底だった。
目の前にいたただの女が、かつて自分達が畏敬と畏怖を持って”先生”として迎えた”あの方”に姿を変えたのだ。
生気の無い真っ白な肌、鮮血色の瞳、握った紅白二つの小太刀、そして足元に落ちているのは”あの方”が纏っていた死装束。髪の色こそ違えど間違いない。
あのときと同じように二つの小太刀を両袖にしまってから目を細め
「気付けば両の手に赤椿と白椿。そしてこの状況。なんやエライおもろそうな場面で呼ばれたもんやな」
艶っぽい笑みを浮かべてから男たちを見渡した。
「椿は枯れてその花を落とす様がまるで首が落ちるようやからて嫌われた不遇な花やけど」
口元に手を当てて
「うちもそういう太刀使いやから困ったもんや。フフ」
笑った。それに貞光は同じように口端を吊り上げて笑い
「その声は美咲に間違いなさそうだな」
振り返ってみればそこには貞光。
「ん? なんやウチを呼んだのは貞っちかいな?」
「いいや。”よりしろ”になってる義姉さん。利恵さんだよ」
言われて女は自分の身体を見回してから
「また利恵ちゃんか。えらいしっくり来るおもたわ」
頷いた。そして
「気をつけなよ桃太郎さん。義姉さんの身体借りてるんだから」
流し目。女はただそれだけ、ただそれだけで現状全てを理解し
「心配せんでも借りたもんは綺麗なまま返す言うねん」
気だるそうに返事をした。今のやり取りで男達は理解した。”あの方”が敵に回ったということを。
なら神条会が敵に対して取る作法は一つしかない。例えそれが先代の令嬢であろうとも。
一人がドスを両手に持って構える。女は目を細めた。
「鬼でもないもんに腕力振るうてもしゃーないけど」
そして勢い良く突っ込んできた男の手首を造作もなく掴み上げ、そのままヒネリあげる。
苦痛に顔を歪ませる男の目に恐怖を植えつけるかのように真紅の目を見せつけ
「うちは加減を知らんぞ?」
ニイと口角をあげてから躊躇うことなく砕いた。歪な音、そして足元に崩れ落ちて苦悶の声をあげる男に貞光は一歩引き
「あ~そういうとこがミキは似ちゃったのね。僕も容赦なく目をやられましたから」
苦笑いすれば女は呆れたように首を横に振り
「あんたなぁ」
貞光の方に向き直って
「どこの世間に15にもなった娘の入っとる風呂に忍び込む親父がおるんや?」
腕を組む。
「う、うるさいな親子のスキンシップだスキンシップ!」
わめく貞光にまた
「それな。桃花にも似たようなことやって隣県までぶっ飛ばされたやろ? な?」
「そ、その話はここでしたら」
「いや聞きたがっとるギャラリーおるかもせんで? よりによって朝の……」
「か、勘違いするなよ? お前がして欲しいって言うからそれに付き合ってやるだけだぞ」
赤面しながらそっぽ向いてる可愛いお姉様。
抜刀娘と自称イケメンの珍劇は今なお続きしかもあらぬ方向に迷走していた。あーとうとう自分で自称イケメンとか言っちゃったよ京太郎君。
「その通りです! 俺が先輩のこと大好きで仕方ないからお願いしてます。だから付き合って下さい!」
ほらもうすごいことになってるでしょ? ね? 死にたいよ今すぐ。 え、嬉しくて? まぁそれもなくはない。
ミユキ先輩はチラっと俺の方を横目で見て
「も、もう一度確認するぞ? いいな?」
胸に手を当てて深呼吸してからそれはもう愛くるしいハニかんだお顔で
「お前は私のものだな?」
死にたい。
「はい」
死ねる。
乗客もマフィアさんたちもこのどうしようもない二人にどんなリアクション返せば良いのか分らなくなってます。俺だって分らないんだもん。
「それじゃぁお前、特別に……」
ミユキ先輩は手を後で組んで一歩近付いて、その赤面した端正な顔を近づけて
「あの時のチャンス、もう一回だけやる」
なんと目を閉じられました。え~っとつまりこれはですね。これはですね。これはですね。
マジですか?
再び研究室内。マフィアの残骸に埋もれる中で貞光と美咲in利恵はモニターに噛り付いていた。
「あー!! よりによって京太郎少年とミユキちゃんがくっつくなんて貞ジジは認めないぞ! ものすごく認めないぞ!」
「ま~~ウチの知らんまにエラいませた子になって美雪はホンニも~! うふふふふこれ利恵ちゃんに見せられへんわ~!」
美咲は染まった頬に両手を当ててハシャいでいる。その両肩を貞光が掴んで
「笑ってる場合か美咲~!!」
ガクガクと揺らす。目をパチクリとさせる美咲。
「君の姪かつ愛弟子が~!!」
ガクガクと揺らす。目をパチクリとさせる美咲。
「どこのウマの骨か分らん男に奪われようとしてるのだぞ~!!」
ひたすら揺らす貞光。それに美咲は白々しい目を向けて
「あんたかて似たようなもんやったやん。このナンパ男」
鼻にデコぴん。揺らす手が止まる。そしてその側で倒れていたマフィアがヨロヨロと起き上がる。
貞光はそんなことなぞお構い無しに机をバンバンと叩いて
「それとこれとは話が別だ!! とにかく貞ジジは絶対にこんな展開認めないからな!! いくらミユキちゃんのルートか知らないけどこんな展開」
マフィアはドスを掴んで
「な、舐めやがってこ」
「今取り込み中だこのバカモンがー!!!!」
貞光による稲妻のような回し蹴りで男は研究室から吹き飛ばされた。
「さて、裏切り者はこれで全部ですね?」
ミキが黒手袋を締めなおすとバス内で乗客たちが歓声をあげた。
「それにしても懲りないわね。一度ならず二度までも」
マリサはテールの片方を払ってから足元で折り重なっているマフィア達に生暖かい視線を落とした。
「エプロン姿のおじさんが~お部屋の中で踊ってる~美味しく美味しくすりおろせ~美味しく美味しくすりおろせ~」
ミヤコにそんな歌を耳元で囁かれている倒れたマフィアは額に青筋を落としながら
「うう、やめて助けて。おじさんその包丁で何するの」
なにやら不穏な寝言を呟いていた。
「ん~、どうしたもんやろな」
と弓とは到底言い難い、即席の攻城兵器のような鉄塊を片手に頭を掻いてるのは桃花だ。それに横転したバスの窓からモグラのように美月が顔を出して
「どうしたの桃花ちゃん?」
呼びかけると彼女は振り向いて
「いや~、よう考えたらあのオッサンらを飛ばした方向、ディノ何とかを飛ばした方向と同じやったな~って」
しみじみと頷いていた。
「アハハハハもう桃花ちゃんたら~」
「えへへへへへ」
「「……」」
その言葉の意味を理解した瞬間全員が固まった。
乗客とミヤコシスターズの視線を集めるだけ集めている桃花。
関西魂の血が騒いだ彼女は一人何かの期待を感じて腕を組んで思案。
しかし特にボケるネタを持ち合わせていなかったので、小麦色の美少女は”弓”を置いてから両手を頭の後ろで組みつつ天真爛漫健康的な笑顔で
「やっちゃった」
テヘっと舌を出して男子諸君のハートを射抜いた。ちなみに美月はコケた。
しかしながらこの状況下で唯一平静を保っていた一人が同じく天真爛漫天然の笑顔で人差し指を立て
「今日の夕食は新鮮ですかメイビー?」
今度こそ全員が凍った。
「さ、最後の最後に運が無かったな」
研究室。モニターの前で起きてしまった姪のアンビリーバブルな展開に気を取られていた貞光と美咲が振り返れば、マフィアの一人がヨロめきながらライフルを手にしていた。そしてその銃口は空いている。つまり
「義姉さんが安全棒を外したヤツが一つだけあったな」
舌打ちしながら貞光はすぐに美咲の前に立った。
「貞っち何やってるんや。のきや」
美咲が銃口を前にしている夫にそんな声をかけたが、夫は自分の袖を掴んでいる妻に振り向かないまま
「心配するなよ。いくら細くったって一度きりなら盾になれるさ」
穏やかに告げた。マフィアはフラつきながらも貞光の胸にライフルを向けて狙いを定める。
「ほ、本当なら黙ってハチの巣にしてやっても良かったんだがな。こんなナメたマネされたら文句の一つも言いたくなるだろ」
”ペ”っと血痰を横に吐き捨てて笑みを浮かべる。貞光も強がりなのか口端を吊り上げて笑い
「文句ならいくらでもどうぞ。時間はあるんだたっぷりと聞いてあげよう」
言いながら一歩足を踏み出すと
「動くなテメェ!!」
恫喝。貞光の動きがピタリと止まる。
「風穴あくぞ? そこから動くな」
数ヶ月とは言え行動を共にしてきたから分ることがある。この男は本気で引き鉄を引くつもりだ。
そういう意味で今のは脅しではなく警告と言うべきだろう。しかし貞光はもう一歩踏み出す。
「死ぬかお前?」
「やめや貞っち! やめや!」
もちろんそのことは美咲にも分っていた。だから彼女は自分らしからぬ声をあげたのかもしれない。
「美咲。僕が撃たれた瞬間、あいつの首をハネてやれ」
予想外のセリフに美咲は”え”と声を漏らす。
「あいつは僕を撃った瞬間、美咲も撃つつもりだ」
それはそうに違いない。しかし貞光は例え敵であっても人の命を軽々しく奪えというような男ではないはずだ。
不安そうに彼の袖を掴んでいる美咲に向けて彼は少し振り返り
「そんなヤツ、美咲に手を出すようなヤツを僕は許せない」
答えを告げた。その口調にはさっきまでの軽さは微塵も感じられない。
「本当は僕自らがブチのめしてやりたいんだけどね。でも」
彼はまた前を向き
「格好悪いけど、今の僕は剣じゃなくて薄っぺらい盾になるのが精一杯みたいだ。ごめん」
俯いた。その背中に美咲はすがるようにして
「なにアホなこと言うて……」
「男は誰だってこういう最期に憧れるんだよ。それにその身体は義姉さんのなんだ」
そこで貞光は言葉を止めてもう一度振り返って
「僕一人の命で二人の美人を救えるなら釣りが来るってもんだろ? ハハ」
美咲に微笑んだ。不覚にもこのとき、込み上げてきた感情が美咲の瞳から一筋流れた。
「うち、その言葉に惚れたんやろな」
呟きながら袖でそれを拭う中、貞光はもう一歩踏み出した。それに男はついに引き鉄に指をかける。
「弾はタップリあるんだ。二人とも消えてもらうぜ。死ね」
”カチン”
”カチン”
「あれ?」
”カチンカチン”
”カチン”
「うそん?」
「ほんと」
貞光はゼロ距離になったマフィアの前で笑顔と握り拳を作り
「正義は勝つんだよタワケ」
顔面に渾身の右ストレートを叩き込んだ。鼻血を撒き散らして倒れる彼に
「カウントは必要ないな。自分で死亡フラグ立てまくってちゃしょうがねーよったく」
手をパンパンと払って足元で痙攣してるマフィアを見下ろした。美咲はその展開にキョトンとして
「何で弾が……」
貞光は彼女に振り返って人差し指を立てて
「専門的に言うと弾倉に弾が入ってても薬室に入ってなかったってこと」
「もっと分りやすく」
「えっとね。こ~カチャキンってするのを忘れてた」
美咲はそれにポンと手を叩いて
「なんとのう分った」
「良かった」
「知ってたん?」
「うん」
「じゃぁあのクサイセリフは?」
「惚れ直したかい美咲?」
得意げに腕を組んでいる貞光に美咲はガックリと肩を落として
「またうち騙されたわ……」
ションボリとうなだれた。貞光は小さくなっている彼女の方に歩み寄って優しく肩を抱き
「だけど僕は一言もウソは言わなかったよ。美咲」
ささやく。
”そんなヤツ、美咲に手を出すようなヤツを僕は許せない”
”格好悪いけど、今の僕は剣じゃなくて薄っぺらい盾になるのが精一杯みたいだ。ごめん”
”僕一人の命で二人の美人を救えるなら釣りが来るってもんだろ?”
「例え本気で弾が飛んでこようとも傷一つつけさせないさ」
久しぶりに感じる夫の温もりに
「何言うてんねんアホたん」
美咲は少しだけ頬を染めて
「そんなんウチが一番よう知っとるわ」
ボソリと呟いた。しばらくそのままになっていた二人だが、やがてどちらともなく身体を離して
「やれやれ良いムードなんだけど、今は義姉さんの身体だからここまでが限度かな」
貞光は照れ隠しとばかりに背を向けて頭を掻く。その様子に美咲は微笑んで
「せやな。ま、今の火照りが冷めんうちに戻ったるから」
その背中を
「続きはそのときやな!」
”バン”と強めに叩いた。むせる夫、そして笑う妻。しかしすぐにピタリと二人の動きが止まる。
そのまま二人は同時に顔を見合わせ、そしてまたPCモニターに同時に噛り付いて
「そうやこんなクサイ芝居しとる場合ちゃうやん続きや続き!! どうなったんやろうふふふ」
「だから笑い事じゃな……」
貞光は石化し、美咲は沸騰した。
「い、急いで様子を確認しないと! 運転手さんちょっと席変わって下さいね!!」
ミキが慌てながらもしかし正確に、運転席に付けられた連絡システムを操作する。
「もう利恵先生が妨害システムは切ってるはずです!」
備え付けのキーボードをタイプするその速度に運転手は空いた口が塞がらない。
ここの関係者である自分でさえ知らないコマンドが目の前でドカドカと打ち込まれていく。
いったい誰なんだこの子は。いやこの子達と言うべきだろうか。同じようにモニターを食い入るように見ている美少女達を見てそう思った。
「これで施設内の監視カメラおよび隠しカメラが全てがオンラインになりました! 後はシラミ潰しに見ていきましょう!」
ミキはエンターキーを押しながらカメラを切り替えていく。いくらマフィアとは言え、裏切り者とは言え流石に命までとっては気の毒だ。
早く位置と安否の確認をしなければ。皆が固唾を飲んで見つめる中、途中でモニターが映し出したもの。
それにミヤコシスターズは全員が赤面、絶句、硬直。そしてしばしの間を置いてから同時に叫んだ。
「キョウのバカー!!!!」
「姉さんのバカー!!!!」
「兄さんコングラチュレーション!!!!」
「エロノミヤー!!!!」
「ぱくぱく(絶句)」
-桜咲くここは桜花学園:
第二部:幼馴染は破壊神
ルートミユキ1「史上最強の生徒会長」 完
エピローグへ続く-
-あとがきにご挨拶と”なにか”があります-
常日頃無一文です^^
どうもお疲れ様でした!
え~、というわけで史上最強の生徒会長完結です。いかがだったでしょうか?
キョウ「おい」
未回収のフラグもまだまだありますが、それはまた次ルートにて明かされたりされなかったりするかもしれません(え)
キョウ「おい」
桜花学園シリーズが始まって気付けば半年、長かったような短かったような気もしますが、終わってみると作者的には寂しいですね。
といっても公約ルートにマリサ、ミヤコが残ってるんですけど(爆)
キョウ「おい文無し」
今度はバリバリコテコテの主人公自滅かつ自虐型ラブコメやりますのでご期待下さい(ひどい)
キョウ「こら無○文」
無○文「あ、キョウさんどうもナレーションお疲れさまでした」
キョウ「ナレーションじゃなくて主人公だと思うんだ俺は。てか何ですかこの終わり方」
無○文「何がですか?」
キョウ「いやもちろんこの持たせるだけ持たせといて何事も無く完結したお話のことね。普通ここから京太郎君とお姉様のムフフが描写されてしかるべきシーンだろふざけるのはペンネームだけにして欲しい」
無○文「いや別にフザけてるとかじゃなくてどうしてもそういうのが書けなかったというか」
キョウ「ウソか本当かお前の小説フォルダの中にある”お蔵入り”を少し見つくろってみるとしようかゴソゴソ」
無○文「ちょ! ま、まってく!」
キョウ「ふーむ。例えばこれをコピペしよう」
--ペタン------------------------
首筋をくすぐる織物のような髪から漂ってくるのは蜂蜜よりも濃厚で甘ったるい匂い。
時々聞こえる湿り気のある音。意識を木っ端微塵にするほどの艶かしい音。
「ん、京太郎……」
右耳を襲う麻薬のように心地よい痺れとトロけそうな感触は恐らくミユキ先輩の口唇。
「匂い付けはすんだぞ……」
耳元で囁かれる熱を帯びた掠れ声。押し殺したような吐息に込められた官能的な毒に身も心も麻痺する。
「それじゃぁ、今度は……」
耳に残る柔らかな感触がそのまま頬をゆっくりとスライドする。得も言わぬ感覚に膝に力が入らなくなる。
「そんなに怯えるな。ふふ」
聞いたことの無い妖しい声に鳥肌が立つ。背筋を何かの衝動が駆け上がる。
キメ細やかな両手が頭の後ろに回されて交差し、細い腕がキュっと首に絡みつく。ダイレクトに伝わる体温と甘い香り。そして感触。
「これでお前は本当に私のものだからな」
鼻と鼻の先が触れあうかつてない距離で見るお姉様の長いマツゲ。その下から覗く妖しい栗色の瞳に魅入られる。
染まった頬、かすかに上下している息のあがった肩。初めて見るミユキ先輩の恍惚とした表情に頭の芯まで痺れる。
「……お前はどうしたい? ん?」
そうして小さく首を傾げるお姉様。外に聞こえてしまいそうなほど胸が高鳴る。目眩がする。
「言ってみろ。このまま私と続きがしたいのか?」
挑発するように細められた目。喉の奥に溜まった緊張・不安・衝動。それらを飲み下してから
「あの、ミユん!?」
唐突に口を塞ry
--ビリビリビリ--------------------------------------
無○文「ストーップ! ストーップ!」
キョウ「何でこういうのをもっと盛り込まないんだ! もっと盛り込まないんだ!」
無○文「いやさすがに良い子の小説でなくなる気が」
キョウ「そんなこと構うでないわ! つーかこの続きだけで0.5話分くらい書いてるじゃねーかこの野郎!」
無○文「いやだからその」
キョウ「あれか! おまえあれか! 俺へのなんか、あれか!!」
無○文「なんかグダグダになってますよ」
キョウ「ウルサイあれだろ! お前当てつけだろ! 原稿締め切り迫って3連休返上したウップンとか晴らしてただろ!」
無○文「いやそれは邪推ですって」
キョウ「そもそもタイトルの”ショートケーキイチゴなし”で微妙にヤな予感してたけどここまでヒドイと詐欺だろ! 気持ち霊感商法だろ!」
無○文「一応それっぽいのは書いてましたけど読み返して”あーこれはナイかな”ってなったのでバッサリいきました」
キョウ「いくなよ! あとこの話確実にあのペテン神主が主人公じゃねーか!」
無○文「そういう見方もありますねなるほど」
キョウ「とにかくこのまま終わるのは認めない」
無○文「でも完結宣言しまし」
キョウ「認めん」
無○文「それに前々から最終話完成したましたっていう告知を読者様に」
キョウ「え~なになに他にもM○気のあるモ○介が○から○○だったりヤ○デレな義○が」
無○文「ストーップ! ストーップ!」
キョウ「あ~これとか”あとがき”欄にのせたら確実に削除されるだろね~君。よりによってマ○サと美」
無○文「ストーップ! 分りました! エピローグで挽回します!」
キョウ「もちろんこういうエッセンスありだよな?」
無○文「え」
キョウ「え~っとなになにそうかミィちゃんルートに関してはヤ」
無○文「もちろんです! もちろんです!」
キョウ「話が分るじゃないか」
え~、そういうことで残すところエピローグ(改)となりましたので
もうしばらくお付き合い頂ければ幸いです^^
また、今後の参考ならびに完結のご褒美として評価とご感想を頂ければ幸せです^^
作者にとって何よりの執筆モチベーションになりますので、どうか改めて宜しくお願いします。
それでは長い間お付き合い頂きまして有難うございました<(_ _)>
次回、エピローグでまたおあいしましょう。
-Tsunehigoromuichimon-