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ルートミユキ1の8.5:意識喪失その2

 1年前、休日の桜花学園。ミユキはグランドに引いた一本の横線を腕組みしながら見下ろしている。

「”もう一線”は越えられそう? 新生徒会長」

 並んで立つアヤが”もう一線”と言ったのはミユキがいくつもいくつも目標を立て、それをクリアしては

”まだまだもう一線だ”

 と首を横に振って自分を戒めているからだ。

「今度のは少し難敵だな。線というよりむしろ壁だ」

「ほほー。壁で来ましたか」

 ミユキと同じようにアヤはその線を見おろす。

「私はあまり人前に立つのは苦手だし、役員には先輩方がもいるから自分の立ち位置が」

「はーいストップ」

 ズイと手を差し出されたミユキが目をパチクリとさせる。

「周りが後輩ばかりならこう、同学年ばかりならこう、先輩ばかりならこうって型を決めてたらキリがないよ」

 メガネの奥の目をニコリとさせる。

「立場を考えるのは大切だけど、考え過ぎてもダメ。ユキたんは生徒会長以前にユキたんなんだからさ」

「私が私なのは分ってるさ。しかし公私混同するのはあまり感心しないな」

 腕組みしている彼女に

「だから分ってないの。逆に考えて? ユキたんの周りを囲む先輩、後輩、同学年の役員達皆は誰を見るわけ?」

「普通は生徒会長の私だろう」

「そうよ。高校一年生の園田美雪でしょ?」

「そうだな」

「それじゃぁそれに応えるにはさ、高校一年生の園田美雪として話をするのがベストじゃないかな?」

 つまり下手に考えず普段どおりに振舞えと親友は言ってるらしい。

「心構えとしてはそうやって堂々とするのが一番良いんだろう。でも私はそんなに強くないんだ」

「”人は強く生まれてはこない。しかしそれゆえ人は強くあろうとしなくてはならない”。昔の人は良いこと言ったね」

 考え込んでいるミユキの後ろ髪にアヤが櫛を通す。

「”強さなき志は無力なり。されど志なき強さは暴力である”この言葉はどうだろう?」

「難しいわね。強さの定義って人それぞれ違うからアタシはしっくりこないな。でもさ」

 アヤは櫛をカバンに直してから

「もし自分が強いと思ってるなら、せっかくだから使ってみたら良いんじゃないかな? 宝の持ち腐れだよ」

「それじゃぁ自分が弱いと思ってる場合は?」

「強くなるように頑張る」

 ギュっと握りこぶしを作って見せるアヤ。彼女の方にミユキは向き直り

「それじゃぁアヤは自分のことをどう思っ」

「世界最強よ無敵絶対負けないし本気出したら世界征服とかも出来るわ」

 とんでもない即答に思わず目を丸くする。

「その自信はどこから来るんだ?」

「前から」

 これも即答。

「ま、まえ?」

「そ。アタシの前。つまり」

 とアヤが指差す先にはポカンとしてるミユキが立っているだけ、ではなく

「ごめん。これ決めゼリフにしたかったんだけど非常事態よ。誰か絡まれてるみたいユキたん」

 言われてミユキが振り返れば確かに女子生徒が一人、男子生徒数名に囲まれているようだ。

「ん~……アタシの目じゃ分らないけどうちの子にしては制服が」

「美月だ。どうしたんだろう」

「え? ミヅキって妹の美月ちゃん?」

「ああ。ちょっと待っててくれ」

 と世界新記録をアッサリ更新するような速度で瞬く間に小さくなったミユキを

「もちアタシも行くわ!」

 アヤが追いかけた。



「何だよ道順教えてやったら帰りも一緒っていうのがここのルールだってしんねーのか姉ちゃん!?」

「知りませんそんなの! これ以上構わないで下さい!」

「そうは行かねーんだってさー付き合ってもらおうかこれから」

 グランドの隅に追いやられた美月を囲んでいるのはたびたび問題校として取り沙汰される武装高校の不良学生4人だ。

「大声出しますよ? 近寄らないで下さい」

 美月が(ニラ)めば4人は顔を見合わせて笑って

「出してもいいぜ。祝日に高校来るようなバカがいるとか思っ」

「バカで悪かったなお前」

「ハァ?」

 振り返りざまに真横数メートル直角に吹き飛ばされた不良が一名。

 三人の視線はグランドに突っ伏してピクリともしなくなった彼からその原因へと移される。

 端正な顔立ちに意志の強そうな目。スラっとした身体とその膝下にまで伸びた流れるような黒髪。

 美少女という言葉をそっくりそのまま体現した女子生徒が凛と腕組みしていた。

 3人は冷淡な笑みを浮かべている彼女に向かって

「「「惚れましたぜ姉貴!!!」」」

「ちょっと私の立場は!?」


-数分後-


「なんだやれば出来るじゃないか美月」

 足元で痙攣している3人組を見下ろしながらミユキが呟けば

「ただのまぐれよ。ほんと助けてくれてありがとう姉さん、加納先輩」

 ペコリと頭を下げた。

 ”サマーソルトキックもまぐれだろうか?”と同じく不良を見下ろしているアヤが

「にしても美月ちゃん。今日はどうしたの?」

「はい。実は受験前に学園の見学に来たんですけど、途中で変な人について来られちゃって」

 苦笑い。

「よくここまで無事だったな。道中変なことされなかったか?」

「あ、そうそう! それなんだけどね!」

 急に何かを思い出したように美月が駆け出したので2人は後を追った。


 正門へと続く坂道。そこで言い争いをしている少年が二人。

 彼らの足元にはさっきと同じような不良学生が10人ほど倒れている。

「ふざけんなキョウ! お前なんかリボンの子の前でさんざんカッコつけてる間に後頭部に一発貰ってのたうち回ってただけじゃねーか!」

「黙れヒロシ熊の分際で人様に意見しやがってお前何クマのつもりだ。ヒーローが助けに現れたらまずクールな決めゼリフをヒロインにのたまうのがお約束だろ半世紀前からやり直して来いや」

「その決めゼリフが”お嬢さん俺が来たからにはもう大丈夫。安心してその身を委ねて欲しいフフフ”ってテメェそれ新手の痴漢じゃねーか! 今足元で散らかってるヤツと大差ないわ!」

「黙れアナグマ最近のヒーローは正義感だけじゃなく包容力と色気と危険な香りも求められてんだよニーズってヤツだもっと勉強して出直して来い」

「危険な香りしかしねーよっていうか単に危ないやつだろ! 近寄っちゃダメな人だろ!」

「お前俺を大山君と一緒にするつもりだな!?」

「いや誰そいつ!?」

「いや俺も知らんただ何となく嫌な予感しただけだ未来的な意味で」

 三人は不毛な会話を続ける二人をただ黙って見守っている。

「良いだろう。シロクロつけよーぜキョウ」

 パキパキと拳をならす体格の大きな少年。

「良いだろう。シロクマかクロクマかハッキリさせてやろうヒロシ」

 やや赤毛の少年が首をコキコキと鳴らす。

 二人が距離を取った。

「いくぞ!」

「おう!」

”まずい!”

 ミユキは止めに入るべく坂道を駆け下りた。

「そこの二人! 学園内で喧嘩はや」

「「最初はグー!」」

「!?」

 思いっきりつんのめって

「ジャンケン! ホぶは!」

 少年を一人押し倒した。

「わー姉さんの大外狩(オオソトガリ)がものすごい角度で入ったねビッターン!って」

「んんんあれは不可抗力というか腰が砕けたっていうか」

 坂道。押し倒された少年Kは後頭部強打による意識喪失。

 坂道。押し倒した少女はかつてないシチュエーションによる顔面発火。

 ミユキが顔をあげる。目の前にはショック状態で某立ちしている少年H。

 言い争いを男らしくジャンケンで決しようとしている最中に突如現れた美少女が親友を押し倒しながらも確かに一瞬口と口が

「お前何か見たか?」

「いえ何も見てないです」

「ならそのまま回れ右して帰れ。三枚におろされたくなかったら」

 どこから持ってきたのか刀のツバが”キン”と起こされて

「はい帰ります。鮭取りに帰ります」

 回れ右。そして

「キョウの裏切り者ー!! 春は一緒に迎えるって約束したじゃねーか!」

 彼は涙を振りまいて坂道を駆け下りていった。

「すごいねーさっきのクマさん2足歩行だもん」

「美月ちゃん本気でそう思ってるなら人語話してるときにビックリしよう。というかクマに助けられた自分にもビックリしよう。というかユキたんいつまでその子の上に……」

 テキパキと起き上がり、ミユキはその流麗な髪を腕でサラサラサラと流してから

「やれやれまさかこんなとこで押し倒されるとは思わなかったな」

「姉さんそれ事実が歪曲し過ぎて曲がるどころか折れちゃうよ」


 特に外傷はなかった少年Kは保健室に寝かされ、その後戻ってきたヒロシに介抱されます。

 二人が後宮京太郎、園田美雪として出会うのはもう少し先のお話。

どもー無一文です^^


後半はちょっと「桜咲くここは桜花学園」のノリで書いてみました。

特に深い意味はないお話ですね(え)

クスっと笑ってもらえれば幸せです。


それではまた!


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