ルートミユキ1の8:意識喪失
異次元喫茶”るーちぇ”にて
キャロット「今日も大人数だねここ」
ジュン「そうだね。不思議な吸引力あるんだろうね」
アヤ「ガンガン人吸われてるもんね」
京太郎「むしろ吸って欲しい俺もいますけどねフフフ」
マリサ「すいません夫の頭が重症なようなのでちょっと病院へ連れて行きますわ」
京太郎「気をつけてなマリサいつのまに結婚したのか知らないがその気の毒な夫に一言よろしくと」
マリサ「よろしくね京太郎さん」
-しばらくお待ち下さい-
キャロット「直るといいねあの子」
ジュン「手遅れだと思うよいろいろ」
ヒロシ「あれ? キョウに呼ばれて来たら知らないお嬢さんが二人倒れてる。ちわっす加納先輩」
キャロット&ジュン「……(死んだフリ)」
アヤ「こんにちわ紅枝君。あ、クマは雑食だから死体とかでも貪るわよギャー」
本物のクマに引き摺られていくアヤを見送る三人
ジュン「雑食でも生餌があればそっち狙うでしょバカだねー」
キャロット「ていうか本当にクマ出ると思わなかったわここ一応喫茶店でしょ?」
クマ「みたいっすね。ところでキョウタロウっていう自称イケメンなヤツ知らないっすか?」
ジュン「もしかしてその子ドエロ?」
ヒロシ「ええ」
キャロット「ツインテールの知り合いがいる?」
ヒロシ「ええ。八雲さんっすね。どっかにいました?」
ジュン「さっきのアヤさんが連れて行かれたとこより危なさそうなとこに連れて行かれたよ」
ヒロシ「じゃいいや。諦めます」
ヨードー「お邪魔します」
アヤ「ヨードーちゃんがいると聞いて来ました」
キャロット「あれ? さっき断末魔ってませんでした?」
アヤ「ふふふ。こんなこともあろうかと思って防刃ベスト着てたのよ」
ジュン「安全対策の方向が斜め上だね。ていうかさっき頭食まれてたけど」
ヨードー(い、いったい何があったんじゃ)
美月「クッキーの差し入れに来ました」
「「「「それではお疲れ様でしたー(退室)」」」」
美月「そして誰もいなくなりました」
美月「……」
美月「これあなたにあげます。良かったら本編と一緒に召し上がって下さいね(ニッコリ)」
-電話の着信音-
「こちらロストワールド研究所長クリスティよ。今忙しいから定時連絡は……」
「大変なことになりました博士! あのイギリスから雇った女やっぱりスパイでした!」
「抽象的な内容は結構よアレン。具体的な内容を伝えなさい。シンシアがどうしたの?」
「午後のツアーに向けてメンテナンス中のバスへ何か細工したみたいです!」
「2度も同じセリフを言わせないで。具体的に何をしたの」
「分かりませんが燃料タンクにその……」
「これ以上貴重な時間を無駄にされたくないから結論言うけど、彼女は白よ。少なくとも金を払ってる間はね」
「ですが!」
「科学者は証拠もなしに意見を述べたりしないわ。2週間前の夕方。園田家の盗聴記録をそっちに回すわ」
ピーッ(電子音)。
”もしもし。どうしたの美雪?”
”もしもし母さん!? 無事なの!?”
”え? ええ。無事も何もいつも通りだけど……”
-妹を心配する美雪-
”……それに美花がおっちょこちょいなのはいつもの事じゃない”
”うん、でも……”
”でしょ。ああ、シンシアちゃんもうそのくらいで良いわ”
”……待って母さん”
”え?”
”どうして……そこに、シンシアがいるの?”
-美雪がシンシアと電話を替わるよう告げる-
”もしもし代わりました。お邪魔してますミユキさん”
”シンシア。アメリカに渡ったと聞いていたんだが?”
”でしょうね。私もそうお嬢様にお伝え致しましたから”
”説明してもらえないだろうか。つまらない理由だと思いたいんだ”
”説明しなくてもミユキさんのお考えの通りです”
-その気になれば脅迫状の通り、利恵や美花を殺害出来たとシンシアが告げる-
”どうしてだシンシア? どうしてこんなことするんだ?”
”……いつだって恨みというのはそういうものです”
”え?”
-若干のノイズ音-
”あなたのように与えた側は時が経つに連れて忘れてしまいますが、一方で与えられた側はどんどんその想いを募らせてゆくものです。今の受け答えがその温度差になってるんじゃないでしょうか?”
”分らない教えてくれ。どういうことだ?”
”それでは一言だけ申し上げます”
”……”
”クローディアを返してもらいます”
ピーッ(電子音)。
「どうかしらアレン? 彼女はシナリオ通り動いてくれてると思うけど」
「え、ええ。ですが燃料タンクへは担当者意外決して」
「あなたも科学者ならシンシアが裏切り者だったっていう証拠を見せなさい。そうね、車庫の映像回してくれる?」
「いえ、それがもう今はいなくて……」
「何かの見間違いじゃないかしら? そこのモニター解像度低いから」
「いえ絶対にそんなはず!」
「もういいわ。今レイチェルの飼育担当から連絡が入ったから。その件については詳しく調査後、報告書にまとめて送って。それじゃこれで」
クリスティ博士と呼ばれた白衣の女はそのまま受話器を置いた。
「クローディアを消したのが彼女だと思っている限り、シンシアが裏切ることはないわ」
”そうよね姉さん?”と女が目で語りかけたのは机の上に置かれた写真立て。
そこには木造の孤児院を背に、子供たちと共に微笑む美しい女の姿があった。
「そろそろこの手紙も大詰めね」
引き出しから取り出した手紙。視線を落としている一行に書かれているのは
”断るなら京太郎を斬殺する ”
「桜花さん、準備はいい?」
流し目の先には真っ白な着物に袖を通した色白の女が腕を組み、壁へと寄りかかっていた。
「ウチはいつでもええよ。せやけど斬ろうにも得物は落としてきたしどうしたもんやろなぁ」
気だるそうな返事に反し、紅を差したように赤い唇は艶っぽい笑みを浮かべている。
「率直に言えば桜花さん。私はあなたの事が分らないわ」
「分らへんて何が?」
白衣の女が椅子から立ち上がる。
「自分が創設に関わった桜花学園を実の娘に襲わせたり、娘二人が命の危機にあるというのにそれを静観するどころかむしろ脅迫者としての役を買って出たり」
青い瞳が赤い瞳を見据える。
「あるいは実の娘のように可愛がっていた愛弟子である彼女を殺そうとしたり、挙げればキリがないけど。そうね、なによりそれらの対価を一切求めていないことが気になるわね」
桜花と呼ばれた女が目を細める。
「科学者言うのは1から10まで理解できんと納得せえへんのか?」
「いいえ貴女については1すらも理解できてないの。本当の目的は何か教えて下さらない? ここまで協力してくれたあなただもの。大抵のことなら力になるつもりよ?」
そんな問いにも赤い唇はただ薄っすらと笑みを浮かべているだけだ。
女は首を左右に振ってから溜息を吐き、先ほどから赤いランプを明滅させる内線電話の受話器を取った。
「待たせてすまないわね。レイチェルに何か変化があったの? ……。そう。ついに立ち上がったのね。ええ有難う。分ったわ」
声は冷静だったが、受話器を置く女はその興奮を顔に出さずにはいられなかった。
「シンシアから摂ったヤツでも効果あったみたいやな。これでもうミユ……”園田の命”なんて価値ないんちゃうか?」
その問いに対して、今度は彼女がただ薄っすらと笑みを浮かべているばかりだった。
「定時連絡。こちら運行バス2号車。異常無しです」
午後2時、ツアーを再開したバス内。無線に向けてそうしゃべった車掌さんが首を傾げながら再び無線を元に戻した。
「おかしいな。前はこんなノイズ入らなかったのに」
些細なことかも知れないけど不安要素はできる限り避けて欲しいな。
なんといっても今はロストワールドのマスコットキャラクターレイチェルちゃんの檻に向かってるんだから。
そういうのは隣に座って腕組みしつつソッポ向いて
「京太郎のオタンコナス」
とかプンプンしてる武神ユキたんで充分です。
「お前がそんなシロップのないカキ氷みたいなヤツだと思わなかったぞ」
「すみませんミユキ先輩」
俺もまさか自分がそんな水っぽい奴だとは思ってませんでした。
ええ。この展開的にこれをお読みになってる方は
”あ~結局しなかったのかチキンハート”
とか思ってるんでしょフフフ残念でした。漢京太郎決めるとこはバシっと決めてミユキ先輩の待つストローの片側をお迎えに行きましたとも。ええ。
今更ながらに振り返ればあの瞬間まさに時が静止したかのようでございました。
-2時間前のレストラン-
エベレストにも勝る高嶺に咲いた常人には届くべくもない一輪の花美雪。
よもやそれが京太郎君の手に舞い降りるなどということをいったい誰が予想したでしょうか。
みるみるうちに下がっていく琥珀色の水かさ。
躊躇うことも考えることも許されないその僅かな時間は頭ではなくただ心でのみ応えろと仰ってるようでした。
京太郎君の心はあの日屋上で気持ちを打ち明けたときから既に決まっております。何も迷うことなどありませんでした。
本能に任せて顔を寄せてストローの片側へそっと口をつける。紅茶の清涼感の奥から漂ってくるのはケシよりも甘い香り。
鼻と鼻の先が微かに触れ合っただけで背筋に走る甘い電流。いつにも増して間近に迫った端正な顔立ち。烏の濡れ羽色の黒髪。
孔雀の尾よりも美しく凛々しいマツゲの下には栗色の瞳が妖しく濡れている。
もう底をついている紅茶のグラス。それでもその桜色の唇はいまだストローの先で留まっています。
何を待っているかなどと問うべくもなくただそれに答える様に優しくストローを咥え込み、紅茶よりも甘く香り豊かなその口唇に向けてそっと……
「よーエロノミヤとミユキ姉そこにおったんかー」
桃花やって来ました。
「姉さん何飲んでるの? アイスティー?」
美月も来ました。
「京太郎さん何だか良いムードね私達も混ぜて下さらない?」
破壊神も来ましたよ。
そしてこのステキ光景に皆さん一律に石化なさいました。ゴルゴンもびっくり。
とどめに義妹がこれですよ。
「兄さんもしかしてお姉様とチューの最中ですかマストビー?」
チューで来ました。ていうか何でそんな冷静にコメントしてるんだ君は。
皆教えて欲しい。このセリフは雰囲気読めてるのか読めてないのか。
”パラ”っとスケッチブックの開く音に視線を向ければミキちゃんがニッコリ
”ふいんきブレイク←なぜか変換できない”
あー納得そういえばミィちゃんにはそういう役割あったね。お勤めご苦労様です。あと”ふいんき”じゃなくて”ふんいき”ねミキちゃん。
絶対狙ってただろこのタイミング。
次にこういうシチュだと
”お前どういうつもりだ”
とか居直り強盗的な脅迫しかねないミユキ先輩に向けておそるおそる視線を戻せば何とお姉様!
自信満々にウィンクしてから
”ここは私に任せろ京太郎”
と奇跡のアイコンタクト!
おお何と頼もしいさすが幾たびも京太郎君やミヤコシスターズの危機を救ってきた史上最強の生徒会長園田美雪17歳! 好きなものはイチゴアイス!
了解ですこの命先輩に預けました!
俺も親指を立てて
”この場はがっつりオマカセ致しました!”
とアイコンタクトすればお姉様はストローから口を離して何食わぬ顔をあげ、髪をサラサラと腕で流してからミヤコシスターズの方にクールな笑みを向けて
「私が紅茶を一人楽しんでいたら京太郎がいきなりキスを迫ってきてだな」
デマカセもいいとこですねユッキー今時政治家でもそんな答弁しませんよ。
預けた命がティーバッティングのごとく打ち返されました。しんでもたれ。
さーてどうしたもんだよ……。
この国連サミットみたいにハタメいてる死亡旗の数々。
美月ちゃん落ち着いて目すわってるから。それから今右手のクッキー朱色の包みから出したでしょ。誰作なのかな?
ていうかデザートを攻撃手段に用いるのはどうかと思うんだ。
マリリン落ち着いて背中から発してる負のオーラが視覚化されてる勢いだから。
それ以上は火災警報装置誤作動すると思うよ。でも先に京太郎君の自爆装置が作動しそう。
おいモモスケ涙目になりやがって何がそんな可笑しいんだテメー。
人が命の瀬戸際どころかデッドラインぶっちして何かもう奈落に向けて順調に落下してる最中だっての手助けの一つもなしか。
覚えてろこのティラミス来週ルーチェ行ってさんざんいじってやっからな。
ミィちゃん御願い助けてお兄ちゃん今世紀最大のピンチだよ。
隣のテーブルで幼女とお絵描きしてる場合じゃないと思うんだ。
しかも何でドクロのイラストなのかなそれもしかしてお兄ちゃんの預言書?
さぁ落ち着け京太郎君クールダウン&テイクイットイージーだ。
この宗教裁判みたいな事態を打破する奇跡の一言をヒネリ出すんだ。
”ひんにゅう”
何ヒネリ出してんだ俺即死刑判決だろ! ここで命張ってボケる意味が分らないよ!
目を閉じて深呼吸。脳内に新鮮な酸素を満たしてともすれば永眠しかねない目を開ける。
ストローから口を離しておおよぞ罪人とはかけ離れた爽やかな笑みを浮かべて
”やだな皆。単に紅茶を少し頂こうとしただけじゃないか”
「逆に聞こう。事故キス狙って何が悪い?」
-しばらくお待ち下さい-
「ガケっぷちで開き直ったな京太郎。あと一歩間違ってたら死んでたぞ」
「ええ。でもガケっぷちで足払いしたの確実にミユキ先輩でしたけどね」
にわか雨のように現れて嵐のように去ったミヤコシスターズのフルコース頂いた京太郎君はテーブルに突っ伏して虫の息。
オナカに圧力かかったイナゴみたいに口からショウユ出てるかも知れません。
「で、結局」
というお姉様の一言に顔をあげれば
「この後どうするんだお前は?」
小首を傾げてるミユキ先輩。少し落ち着いたのかその表情はやや頬がピンクなもののいつものクールビューティー。
俺はその栗色の瞳から目を離さず……
「そこで ”恐竜見に行きましょうか” はないだろ全く!」
「すみませんどうかしてました。たぶんあのツインにフリッカージャブ喰らったときに記憶飛んだんだと思います」
こうしてユキたんはバス中でご立腹なわけですハイ。
あそこはミユキ先輩返事待ってたんだろうね確実に。やれやれKYは桃ちゃんじゃなくて京太郎君の方なのかも知れない。
でも聞かなくても俺の答えなんか”YES”か”はい”の2択しかないことくらいミユキ先輩分ってると思うけどなぁ。
ていうか何で俺なんかを選んでくれたのかその辺りすごい気になるな。
さっきからひたすら窓の外のジャングル見てるお姉様にボソっと
「好きです」
「私は嫌いだ」
とか言いながらちょっと頬が赤いミユキ先輩。人はそれをツンデレと呼ぶ。
「ユキデレですね」
「何だそれ?」
「何でもないです」
前触れのない自殺行為はやめようね。最近京太郎君の命がバーゲンセール。
そんなやりとりしてるとガイドのお姉さんがマイクを手にとって
「それではいよいよ当バスは大型肉食……」
言いかけて急にバスがガタガタと揺れ始めた。悪路になったのかなとか思った瞬間に
破裂音ならぬ爆音。宙に投げ出されたような浮遊感、無重力。
ショックと興奮で脳内で大量に分泌されたアドレナリンが世界をスローモーションに変える。
反射的に振り返る自分の動きがすごく緩慢になる。
バスの最後部がまるで開花したように”破れ”ていた。
恐らくはその衝撃のせいだろうか。乗客たちが水中を漂うように浮いている。
バスに空いた巨大な穴から見えるのは鬱蒼と茂る森ではなく青空。その意味を理解したと同時に平衡感覚も喪失してることに気付いた。
それからたぶんというか確実にいらないことだと思うんだけど。
俺はミユキ先輩を抱き締めていた。
腕の中の温もりに反して背中に感じる冷たい感触はきっと窓ガラス。そいつに押し付けられて”ミリミリ”と嫌な感触が背に伝わる。やれやれ後でこれお姉様に殺されるかもしんないな。
腕の中で目を大きく開け、その瞳をユラユラと揺らしながら俺を見てるミユキ先輩へ”すみません”と苦笑い。そして
”パリン”というガラスの砕ける音と共に俺の意識も弾けた。
おいおいここの窓って防弾仕様とか言ってなかったか? たかが男女の重みとバス横転のショックぐらいで砕けるとか手抜きにも程があるっての。
視界が闇に包まれる。まさに意識喪失だな。
どもー無一文です^^
今回のナレーションとギャグの味付けは一応、
頂いた御意見やアクセス数を参考にして私なりに割り出したスタイルなんですが
いかがでしょうか??
さて今回のお話であの脅迫状の目的が少し明らかになりましたが
一番キーになるのはあの電話の内容です。以下少し後半の展開含みます。
盗聴されてたということが一応明らかになってますが
シンシアちゃん達はそれに気付いていたのかいなかったのか。
重要な点です^^。
そのあたりはシンシアちゃんのスペックや、
ユキたんママが先生以外にどんな仕事しているかを考えて頂ければ
何となく予想はして頂けると思います。
あと電話内容の”二人称”とかも大事です。
えっとまぁ今回はこの辺りで。それではまた!