ショートノート: エンターテイナー
異次元喫茶”るーちぇ”にて
アヤ「あ~何だろうねこのチョー展開。もうノッケからおかしいじゃない。何ですか? この”るーちぇ”っていう頭悪そうな平仮名表記」
ミユキ「桜花学園には良くある話じゃないか。ていうか作者的には日常茶飯事というか、そういうのだな。うん」
アヤ「全然納得できないけど話を進めよっか。で、ここどこ?」
ミユキ「気にするな。通学途中にうっかり時空の狭間にでも迷い込んで出れなくなったと思えばいいさ」
アヤ「うっかり迷い込めるものなのね。そんなとこ」
ミユキ「そして出れない。大事なことだから2回言った」
ミヅキ「お邪魔します~」
ミユキ「中にはこうして自分から入ってくる者もいるくらいだ。良く来たな妹」
ミヤコ「お邪魔しましたシーユー」
アヤ「中にはこうして入りもしないのに出て行けるキャラもいるのね」
ミユキ「ミヤコには良くある事だ。して妹ミヅキよ。今日はどうしたんだ?」
ミヅキ「えっと、姉さんが料理してるときに包丁でまな板ごと大根切った話でもしようかと思って来ました」
アヤ「出オチねほとんど」
ミユキ「いや、一応ここ私のルートだからそういうネガキャンされても困るんだが」
ミヅキ「そんなまさか。私はまな板切断怪力フェチの読者様にお姉様を売り込んどこうかなと思って」
アヤ「失うものの方が大きい気もするわね」
ミユキ「私もそう思う」
ミヅキ「奇遇ですね。私もそう……」
ミユキ「お前は思っちゃだめだろ。ていうかやっぱりネガキャンじゃないか」
アヤ「どうやったらアヤルート出来るかについて話しない?」
ミユキ&ミヅキ&大山「「「しない」」」
ミヅキ「一人多くなった? リアルに」
ミユキ「細かいことを気にしてたらここではやっていけないぞ妹」
アヤ「えーっとそろそろ今回の企画について申し上げます。宜しいでしょうか?」
ミキ「ええ、どうぞ」
ミユキ&ミヅキ&アヤ(気付かなかった。しかもしゃべった)
アヤ「実は一昨日、作者が中国から帰国しました。まぁここはどうでもいいんですが」
ミユキ「どうでもいいな確かに」 ミヅキ「ですねどうでも」 ミキ「そうですね」
アヤ「結構シビアですね皆さん。まぁ、今回の企画は中国滞在中に出来た小話でも読んで頂こうかと」
ミキ「あのニンジン娘のお話ですか?」
アヤ「ネタバレ自重。でも正解」
ミユキ&ミヅキ(またしゃべった)
アヤ「まぁそんな感じです。製作中の”死神とピアノ線”が停滞気味って事情もあって息抜きで書いたそうです」
ミヅキ「桜花ネタだとサクサク進むのにね。やっぱり得手不得手があるのかな」
ミユキ「例えばこの異次元トークとかはタイプ時間入れてもここまで10分程度だ。製作時間」
アヤ「短いわねホント。まぁそういうことで、よろしければ御覧下さいませ!」
繁華街の通りの一角、ショーケースの中で静かにポーズを決める彼女は、人間でも人形でもない曖昧な存在だった。
スラっとした細身の体型、腰まで伸ばした長いピンク色の髪、髪色と良くあったルビーのように赤い瞳、それらは本当に人間離れしているほど美しくて、でも人形というにはあまりに精巧だった。
……。
西暦2222年。日本、政府指定大学にもなってる名門大学に、僕は今一回生として通っている。
専攻は情報処理。もっと細かな言い方をすればイメージプロセッシング。
高校の時にたまたま趣味でやってた、風景写真からの人工物特定アルゴリズムが、なんでも国が開発中の偵察用衛星に使えるらしくて、それで僕はこんな不相応な大学へ通わせてもらうことになった。
最初はビックリした。僕も両親もね。だってある日の夕暮れ、両親と妹でご飯を食べてたらいきなりマンションの扉が開いて、軍服の兵隊二人を引き連れたスーツのお偉いさんが入ってきたんだから。
それからその人はニコニコしながら
「おめでとうジュン君。君は高校卒業後、大日本帝国大学への入学が正式に決まったよ」
それで、僕の一人暮らしが決まった。
大日本帝国って、まるで時代が逆行したみたいでしょ。実際そうだと思う。日本はまた軍事国家になったんだ。それも150年も前に。
自衛隊は大日本帝国軍になったし、非核三原則は消えて核武装し、兵役も復活した。
高い技術力を持っていても領土や資源の少ない日本が、世界中の国々を相手に発言力を持ち、本当の意味で独立するには止むをえなかった、らしい。
まぁこれは小学校の時、”思想教育”の授業で習った定型文なんだけどね。
お国の話はこの辺りにして。今度は”キャロット”の話をしようと思う。
ほら、さっきから僕の部屋の片隅に体育すわりして、ニンジンをモグモグと食べてる女の子がいるだろ。彼女がキャロット。
OSAKAで高級な婦人服ばかりを扱ってるお店で、彼女はディスプレイモデルをやってたんだ。
日本は200年前、世界で始めて自立歩行したり、走ったりするロボットを作ったロボット先進国らしいけど、実は今でもそうなんだ。
キャロットもそんな日本の技術を集めて作られた一つで、通称はダンサー。
使われる先はF1+のレースクイーンとか、車や携帯のキャンペンガールが主だ。
つまりCMが目的だから、ダンサーは見栄えがすごく良い。
好みの問題を外せば女の子としては完璧だろうね。
キャロットはそんなダンサーの一つで、見た目の年齢は18~20くらいだと思う。
だから店で着ていた服もお嬢様向けの可愛らしい感じのドレスだったし、実際良く似合ってた。
皮肉な話、それに魅せられて買って行く女の子達は絶対キャロットには勝てないだろうね。
だって、人に出来ないことをさせるために作られたものなんだから。
「よし。それじゃぁ、そろそろキャンパスに行きますか」
後期授業初日にあたり、今日までの経緯をカタカタと打ち込んでいた僕はPCの電源を落として立ち上がった。
それから振り返って
「準備はいいかなキャロ」
枕がバフっと顔面に直撃した。いつもこうだ。
「ていうかなんで私はいつもニンジンなわけ? もう少しマシなもの食べる設定とか思いつかなかったの?」
顔から枕をはがしてベッドにトス。部屋の隅ではキャロットが手を腰に当てていた。ご立腹のようだ。
「仕方ないだろ? キミの動力源として必要かつ十分なエネルギーは一日ニンジン一本っていうデータが出てるんだ。それ以外のものを摂取したら不具合や故障の原因になるよ」
優しく言って見たけど、彼女は長いピンクの髪を揺らしながら首を横に振り、
「そんな石頭で乙女の気持ちが理解できると思ってるの? あ~これだから理系の人間はやーね。思考に柔軟性無くてさ」
元ロボットに言われたくないな。彼女はワザとらしい溜息をついてから
「たまには美味しいニンジンパフェをごちそうしてあげようとか配慮無いわけ?」
ニンジンが嫌いなわけではないみたい。
「キミに配慮してるからこそニンジン一本なんだよ。我慢して」
「枕もう一発欲しかったり?」
僕は溜息を吐いてから
「また電子工学研究室の世話になるつもりなの? 僕に黙ってプリン食べてからシャックリ止まらなくなって、怖くて泣いたの誰だっけ?」
するとキャロットは赤面して頬をかきつつ
「まぁ、あれは若き日の過ちってやつね。だからもうプリンは食べないけど、ニンジンゼリーならいいかなって」
やっぱりニンジンは好きなようで。
「まぁ、善処するよ。とにかく後期初日から遅れたくないから、僕はもう出るよ」
「もちろん私もついていってあげるわ。一人だと不安でしょ?」
ニッコリと笑うキャロットに
「二人だと不安でしょうがないね」
今日は枕を二発貰った。
「……つまり局所的なフラクタル次元を評価した場合、自然風景などは画素に繰り返し要素が高いためグラフは不安定かつ高くなり」
僕は今、大きなスクリーンに投影された衛星写真の説明をしている。
後期の最初の授業は、前期にやった研究の成果報告なわけだ。
「一方で建造物などの人工的な領域は主にベタ領域のため、フラクタル次元は安定しています。つまりこのギャップを利用すれば切り分けが可能となるわけです」
そうして説明を終えると、ホールの中で拍手が沸き起こった。その中にはあのスーツのお偉いさんもいた。
「それでは質疑応答に入ります。どなたか?」
と司会の女性が進行を始めるとまず、女子学生が手を挙げてそこにマイクが回された。
「有意義な発表有難うございました。今されている研究ですが、どういった分野に応用が可能でしょうか?」
典型的な文句だ。これに答えられないなら研究者失格かもしれない。
でも、僕には”研究背景”がない。だって趣味で始めたんだから。
そうして口ごもっているとあのスーツの人が手を挙げて
「君は視力検査も聴力検査も受けた方がいいな。準君のやってる衛星写真解析、人工物の自動特定がいかに国防にとって重要か分らないわけじゃないだろう?」
僕はギュっと握りこぶしを作った。
「敵国の軍事施設をいかに早く見つけ、いかに早く叩けるかがわが国の生命線だ。探索以外にもミサイル技術にも転用出来るだろう」
そのまま一方的に説明を続け
「例えば事前に高解像度の目標写真をミサイルに記憶させ、ミサイルの前部にカメラを搭載してリアルタイムにマッチングを行えば命中精度はハネあがる。チャフやフレアなどの目くらましで目標を失う熱誘導や電磁誘導の比ではない」
僕の趣味を軍事目的だとし
「以上、準君の代わりに答えさせてもらった。素晴らしいよ」
パチパチと手を叩き始めた。それに合わせてまたホールに拍手が鳴り響く。僕はただ固く拳を握っていた。
夕暮れの帰り道。繁華街の中を僕はキャロットと並んで歩いていた。
「あの人って政府高官なんでしょ?」
僕は何も言わない。
「ジュンのやってること、私には難しくて良く分らないけど、なんだかすごいみたいだね。あの人テレビで何度も見たことあるわ」
国営放送のことか。ゴールデンタイムにいつもいつもやってる。
「今日のジュンみたいに、あんなに他人を褒めること一度もなかったもん。いつもケナしてばっかだよ高官の人」
今日もそうだったよ。あの女の子をけなして、僕の趣味を汚して。
「質問した学生さんよっぽど的外れだったのかな? かなり落ち込んでたけど」
的外れなもんか。当然の質問だよ。
「でもま、さすがに私を修理しただけあるわね。この調子で頑張れば将来はお金持ちになれ」
「そんなこと言わないでよ」
足を止めて呟いた。少し先を行ってたキャロットが”え”と振り返る。
「僕がそんなことのために、研究しても良いの?」
もしかしたら僕はこのとき、怒ってたのかもしれない。キャロットはオズオズとしながら
「えっと、ごめん。お金のためにしてるっていうのがイヤだったの?」
「違うよ! このままだと僕の趣味が人を殺してしまうことだってあるんだ!」
大きな声は喧騒に飲み込まれた。でも、それでも何人かが少しだけ立ち止まって目を留めた。
きっと女子学生同士が、つまらないケンカでもしてるように見えたんだろう。
ジワっとキャロットの姿がゆがんで来る。目の奥が熱くなる。
分ってた。僕がどうしてこんな大学に呼ばれたか。
分ってた。学生じゃなくて研究員として呼ばれたことも。
分ってた。僕は普通の学校生活なんて送れない事も。
そっとキャロットが僕を抱き締める。
「ごめんなさい。私って本当に無神経だから」
その匂いがあまりにも心地よくて、つい顔を埋めてしまう。
「何となくジュンが悩んでるの知ってたけど、また失敗しちゃったみたいね私」
それも分ってた。キャロットは僕を元気付けようとしてたことも。
だから
「違うんだ。僕がこうして泣いてるのは……その」
少し身体を離して目を拭う。グスっと鼻の奥に溜まった涙を飲み込む。
「”修理”なんて言わないで。君はもうロボットじゃないんだから」
無理して笑顔を作ってみた。それにキャロットはキョトンとして
「ニンジン食べる?」
「え」
たぶん僕は間抜けな顔をしてたんだと思う。彼女はクスリと笑って
「だって、今のジュン。ウサギみたいに目が赤いだもん」
ツンと鼻先をつつかれた。
「それじゃぁ。私バイトに行って来るね」
午後6時、PCモニターに向かってる僕にそう声をかけるキャロット。
「はーい気をつけて。でも、無理に行くことないよ? 授業は全額免除だし、生活費も出てるんだから」
椅子に座ったまま振り向いて、玄関でブーツの紐を結んでる彼女に返事した。
キャロットはいつものように腰に手を当てて
「好きでやってるの。それにお小遣いだって欲しいじゃない」
ニンジン以外いらないだろ、って言えばまた枕飛んで来るだろうな。
「それよりジュンもやってみない? ディスプレイモデル」
人差し指を立ててるキャロットに
「僕はそんな柄じゃないし、出来っこないさ」
苦笑いすれば
「どうして? ただ3時間突っ立てるだけよ?」
「そんな体力ないよ」
再びモニターに向かってパタパタと手を振り
「それ以前に、僕がモデルやれるほど……」
コツコツと音がしたと思うと
「ジュンちゃーん」
キャロットの猫なで声がしたかと思えば急に両手が脇の下に回されて
「てい」
むんずと僕の胸を掴……
「キャ! ってちょっとな、何するんだ!」
「可愛いわもう! ちょっと小ぶりだけど形は良いし。ウェストだってくびれてるんだから絶対いけるわ」
そのままグイと僕を椅子から持ち上げて
「このままお店まで引っ張ってっていい?」
「ダメに決まってるだろ! 離せってば!」
暴れてみだけど始まらない。まずキャロットは身長175cmで、僕はたったの150cm。
それ以前に力がノミと象くらい違う。
「髪も柔らかいし痛んでないから、櫛を通せばサラサラよ? なのにいつも手櫛だし」
片手で抱き締めつつ頭を撫で始めるキャロット。
「服だっていつもデニムパンツに黒Tシャツだけって、ジュンは女の子なんだからもっとお洒落しないと」
後ろから頬ずり。ううう。
「アインシュタインだって服はいつも一緒だったよ」
無意味な反論。いつか言わないといけないって思ってたけど、こんなに早いとは思わなかった。
えっと、ごめんなさい。僕は女の子みたいです、一応。
「まぁお洒落も考え物かな? 前に付き合いで合コン行ったとき、私とジュンで相手二分したもんね」
それと、割と可愛いいらしいです……。
「とにかく、僕がオメカシしたって良い事ないって分ったでしょ? だからさっさと降ろして」
首根っこつかまれた猫のような僕。情けないな。
「それって、ベッドの上に?」
「え……」
妙な間、および沈黙。
「椅子の上に決まってるだろ! 何考えてるんだ!」
「ジュンこそ何考えたの今? 顔赤いし。もしかして一緒にニャンニャンとか?」
悪戯っぽく微笑むキャロット。考えました? って
「僕はノーマルだって! いい加減にしないと冷蔵庫のニンジンにタバスコ振りまくるよ!」
ようやく椅子に降ろされる。あーあ、こんな気軽に胸触られたら貞操もへったくれもないな。溜息。
「それじゃぁ行って来るねジュン」
「待ってキャロット」
玄関扉を開けて”ん?”と振り返る彼女に、僕は笑顔で
「土足であがったんだから、床掃除していこうね」
結局、その日キャロットはバイトに遅刻した。
追記:
なぜ「エンターテイナー」というタイトルなのか説明不足というか
全く説明してませんね(爆)
その理由は万が一、連載になった場合にはネタバレになってしまうのですが、
簡単に申し上げますとキャロットが製造された本来の役割を意味しています。
文字通り”エンターテイメント”を提供することです^^