第16話:月下美人
涼やかな音色は俺のすぐ足元で鳴った。
頭にハテナマークを浮かべながら体を曲げて見れば指一関節分くらいの小さな鈴。これは確か……
「エイミーちゃんのだよな……」
ルーチェ方向へ目をやってももう姿はなかった。走って追いかければ手渡せるかもしれないけど、今のミユキ先輩を一人にしておくほどKYじゃない。
俺は手にとってそっとポケットにしまった。
「どうしたんだ京太郎?」
隣で首を傾げているミユキ先輩に
「いえ、さっきのメイドさんがキーホルダーか何か落としていったんです。明日にでもヨードーちゃんに渡しておきます」
そう答えておいた。同じバイト先だしね。
そういえば桃ちゃんやミユキ先輩ばかりに意識いってて疑問に思わなかったけど、今日ヨードーちゃんとアヤ先輩って何しに来てたんだろ? 二人とも制服だったから学校帰りには違いないだろうけど部活の関係かな?
晩年妹orメイド役のヨードーちゃんのこと考えたら二人してメイドさん観察に来てても不思議はないんだけど、まさかデートってことはないよな?
まぁ二人ともライオンとシマウマ的な意味とは言えかなり仲が良いから付き合ってるとか言われてもあんまり驚かないけど……いや驚くか。うん。驚くよな。普通に。
しかしながらあの美少女少年って360度どっから見ても女の子だから一般の方がアヤ先輩とヨードーちゃんが二人仲良く寄り添ってるの見たら確実に禁断の百合百合……
「やっぱり、おかしいか?」
「へ?」
妄想世界から現実世界に戻って来て見ればミユキ先輩が何となく不安そうにこっちを見ておられます。心なしかちょっと頬も赤い。
何の事か分らずその目を見ていると珍しくお姉様の方から目を逸らして
「やっぱり。先輩と後輩の恋愛はおかしいのか?」
OK。状況把握。
「脳内トーク漏れてました?」
コクンと頷くお姉様。しんでもたれ京太郎。
「”いや驚くか。うん。驚くよな。普通に。”までは聞いた」
どうやら百合発言は漏れてないようですね。京太郎君終了のお知らせかと思ったよ。
「それ以降は聞かなかったことにする」
お姉様の気遣い、プライスレス。
しかしちょっと誤解してるようなので
「別に俺が驚くって言ったのは二人が先輩後輩だからっていう理由じゃないですよ」
また俺の目を見るミユキ先輩。
「それならどうしてだ? 私はあれだけ仲のいい二人なら別に不自然じゃないと思うが」
まぁうん。確かに仰る意味は分るんだけど……。
俺はポケットから携帯を取り出してパチンと開き
「ヨードーちゃんからメールみたいです」
と携帯をカチカチと操作して
「あ、やっぱり二人とも付き合ってるみたいですよ!」
と大仰な声をあげれば
「なに!」
グイと体を寄せて携帯を覗き込むお姉様。サラっと流れる黒髪からはもうすげー良い匂い。うー……やばい。甘い香りとか言うレベルじゃなくてもうクラクラ……。やっぱり間違いなくこの人が最強。
そもそもエイミーちゃんだって超のつく美少女(?)なんだけどあんまり目がいかなかったのはやっぱりお姉様がいたからだったか。
「どれだ京太郎? どのメールだ?」
一人赤面してる俺などお構い無しに携帯へ興味シンシンと目を輝かせてるミユキ先輩。良かった少しずつ元気が出てきてる。
しかしこういう無邪気なとこ見てるとお姉様も年頃の女の子だな~と重ねて思ってしまう。ミユキ先輩のノリじゃないけどキュンキュンきそうだ。
ともかく証拠は押さえたぞ。そういうことでパチンと携帯を閉じると
「あ。まだ見てないぞ」
と声を漏らし、俺の顔を不満そうに見るミユキ先輩。
「俺も見てないです。そんなメール来てないですから」
得意げな言い方した俺に溜息を吐いて
「なんだ。ビックリしたじゃないか」
釣れたぜ。
「ほ~ら。ミユキ先輩だって驚いてるじゃないですか?」
さらに得意げに腕組み。久しぶりにお姉様の怒った顔が見れるぞ~と横目で見れば
「お前、もしかしてウソついたのか?」
怒った顔もやっぱり綺麗だった。よしよしいつもの先輩だな。
「いいえウソじゃないです。これは例え話って言うんです。もし二人が付き合ってたらどうですか? っていうのをリアルに体験してもらったんですよ。言い換えるならフィクションですね~」
と煽ってみる。でもなかなかの文句だと思わない?
「そういうのを屁理屈って言うんだ」
コツンと頭を叩かれた。一言で切り捨てるあたり流石。
「でも、そうか。お前の言うとおり確かに驚いたな」
クスっと笑ってるミユキ先輩。この至近距離でお姉様に微笑まれると頭が沸騰しそうになるのでやめて欲しい。マジでミユキ先輩、自分の容姿がどう見られてるか自覚して欲しい。
「でも私のは京太郎の少し違って嬉しいからだぞ?」
そう続けるお姉様。
「そ、それじゃぁ俺と同じですよ」
ここはサラっというのが格好良いんだけどこの距離だと言葉が上ずってしまう。
「え?」
キョトンとするミユキ先輩。その表情は俺にシネということですか。
「えっと、いや、その」
しどろもどろ。別に普通のセリフを言うだけなのに先輩の魔力めいた魅力のせいでサラっと言えない。
「だから俺も、アヤ先輩とヨードーちゃんなら嬉しいってことですよ。それに先輩だから後輩だからとか関係ないじゃないですか」
べ、別にこれは俺とミユキ先輩のことをなぞらえて言ってるわけじゃなくてあくまで一般論。一般論ね。
「そ、そうか?」
聞き返すミユキ先輩に
「ええそうです。もちろん」
もちろん、もちろんだとも。第一恋愛どころか結婚とかでも年の差5とか10とかザラだよな今の世の中。芸能ニュースとかでも親子ほど年の離れたカップル同士で”熱愛発覚”とか”結婚報告”とかもしょっちゅう見るしね。
脳内で話を逸らしてると少しクールダウンしだ。
「本当に……そう思うか?」
「ええ。即答です」
だから先輩後輩の恋愛なんかで驚きもしないわけで。それにそもそも二人の年齢差なんてたかだか1歳じゃないか。こんなのもう何年かしたら誤差の範囲だろうし実際に夫婦とかで見ても同い年ってケースのほうが少ないんじゃないのか? いやまぁ結婚までは少し話を広げすぎか。って……
「どうしましたミユキ先輩?」
何か嬉しそうだったので聞いてみると慌てて
「え? あ、いや何でもない。そうか。うん、それなら良いんだ」
否定なのか肯定なのか良く分らない返答だった。何が良いのだろうか?
頭にハテナを浮かべたまま握った携帯をふと見れば実際にメールが来ていた。というか溜まっていた。この時間だとミィちゃんもミキさんが心配して送ってくれたのかもしれないな。
改めて開けば新着メールが6件も。今のうちに少し消化しておこうか。
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送信者:ミィちゃん
件名:なし
本文:
ハロハロー。兄さん今どこですか? 今日の夕飯はビーフシチューを作りました。
お肉を先に赤ワインで煮込んだのでとっても柔らかくてほっぺ落ちまくりですよ。
早く帰ってこないと私と姉々(ネェネェ)で全部食べちゃいますからねマストビー。
だから、お姉様とのデートも程ほどに。ウィンク。
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あースゲー美味そう。これはマッハで帰らざるを得ないな。
「ミヤコの手料理か。羨ましいな」
携帯を覗き込んでるお姉様。ん~どうしようか? 元気付けの仕上げに今晩ミユキ先輩を晩御飯に招待してみようかな?
「ええ。ミィちゃんすげー料理上手なんですよ」
言えばそれにハァと溜息を吐きつつ頬に手を当ててキュンキュンきてるお姉様。まさかミィちゃんを食べたいとか言わないよな?
さて次……
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送信者:美樹さん
件名:ビーフシチュー
本文:
京太郎の分は私が責任もってカスタムしておきました。抹茶味最高
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「どうした京太郎? 死んだ魚の目して」
「いえ。少し無責任なお知らせがありまして」
クールを装って次へ
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送信者:美樹さん
件名:ビーフシチュー其の弐
本文:
そして私が食べました。あーおいしーおいしー
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「どうした京太郎? そんなに強く握ったら携帯折れるぞ」
「先に俺の心が折れそうです」
歯を食いしばりつつも次へ。
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送信者:oyamahutoshi@guhuhu.ne.jp
件名:ぐふふ
本文:
ウスロ宮
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「どうした京太郎? 顔色がセラミックホワイトだが」
「ただの迷惑メールです。異次元的な」
パチンと携帯を閉じてポケットにイン。続きは後だな。いい加減帰らないとお巡りさんに補導されかねない。
え~っとそれじゃぁ切り出して見ようか。ミユキ先輩を夕食に誘うのは恥ずかしいけど今の時間帯やミィちゃんのメールの流れも考えたらナチュラルに言えないこともないだろう。
俺はお姉様の方に体ごと向いて
「ミユキ先輩。こ、今晩ですけどその……」
やっぱりサラリと言えませんでした。いやいやでも言い淀めば淀むほど意味深になったりするからさっさと言わないとダメだぞ!
でも無駄に”今晩ですけど”とかで区切ってるせいで余計に言いにくい。ミユキ先輩がまたキョトンと無垢な表情で首を傾げてるから余計言いにくいというか可愛いというかハァハァ…… いやいやさっさと言おうか京太郎君。
深呼吸して平常心。そしてクールな表情をお姉様に向けて
「うちに泊まりませんか?」
夏の夜、ここに著しいバカを見つけました。
「……というのは冗談でしてハイ。本当は夕食をご一緒したいと存じます」
「なんだ。私は泊まっていくつもりだぞ?」
「ですよねハハハ。もちOKです」
「ああ。世話になるな」
「いえいえあまりお構いできませんがどうぞどうぞ」
この流れはおかしいだろ。
「いや、あのすみません先輩どういうことですか?」
「何がだ?」
「何がだじゃないですよお姉様!」
俺は立ち上がって
「良いですかいくら俺がミユキ先輩の後輩だからと言って”今晩泊まりに来ませんか”とか男に誘われて女の子が軽々しくOKしちゃダメでしょ何考えてるんですか!」
一気にまくしたてるとお姉様は可愛くニッコリ笑って
「体育会系だろ?」
「ある意味そうかもしれませんね! でもこれは大問……」
とかわめいてる俺にクスリと笑ってから栗色の瞳を向けて
「もちろん、お前意外なら断ってるさ」
未だかつてないインパクトですそのセリフ。
鼻ティッシュ装填している純粋無垢な京太郎君に
「思い出したんだあの鈴の音で」
と夜空を見上げて語り出すお姉様
「鈴? さっきのエイミーちゃんのですか?」
ミユキ先輩は答える前に自分の隣をチョンチョンと指差した。まずは座れということらしい。
ともかく言われたとおりに着席すれば
「実は今日、お師匠様に会ったんだ」
少しハニかんだ様子で切り出して来られました。ミユキ先輩のこの表情もレアだな。脳内ハードディスクにしっかり保存しておきませうっと。
しかしお師匠様? お師匠様って……
「ミユキ先輩のですか!?」
思わず立ち上がるとグイと手首を引っ張られて椅子にペタン。あ、はい、もう立ちませんから。
そんな俺の意思を読み取ったのかお姉様は”うん”と頷いてから今日の出来事を話し始めた。
とっさに差し出した腕の皮を一斬り。女の握る小太刀はそこで止められた。
「腕力にものを言わせた太刀使い、相変わらずやな未有鬼。力任せで心の修練を疎かにしとるからこんな戯言に惑うて反応できへんのや」
呟いてから小太刀を鞘に納め
「これやったら、授かった力を薬に出来とるとは言えん」
首を横に振った。徹底的に教え込まれたからこそ、女の、自分の師の太刀筋は良く分っていた。もしも本気で来られていたら今頃自分の首がついていたかどうか。
すっかり戦意を喪失して俯き、唇を噛んでいると
「何度も言うようやけど抜刀は間合いが命や。得物を晒して優しい虎を気取るのはまだまだ早いで?」
女はミユキへと近付き、
「優しいことは強いことや。ええかミユキ」
そっと頬に手を当てた。
「あんたは確かに人よりは強いかもしれん。せやけどそれは絶対的なもんやない。強いヤツはより強いヤツの前には敗れるんや。もっと謙虚にならなあかん」
穏やかな口調でそう言い、赤い瞳でミユキを覗き込んだ。
「腕に切り傷あったのもスゲー納得しました。お姉様に一太刀浴びせるなんてすごいですね」
言えば苦笑いして
「いいや。お師匠様相手によく切り傷だけで済んだもんだ」
女は目線をそのままにして
「こんな人斬り包丁でも大切なものを守る役に立てるんやから有り難い話や。人助けは尊いことやけど、実際に救えなかったらそこに何も意味は無い。何も残らへん。自己満足にもならへん」
首を左右に振った。もし刀を止められていなければ死んでいた。
そして意思があればそのままの足で桃花や京太郎達の元に向かい、皆殺しにすることも出来ただろう。
「自分は人と違うからと孤独を抱える。そうやない、今の未有鬼が腕に抱いとるのは自分は特別やという孤高、慢心や。そして最後の最後に、一人を選んだ結果がこれなんや」
そもそも自分がショックを受けたのはシンシアが母を襲っていると告げられたからだ。ミユキは今になってある重要な事に気付いた。なぜ彼女を信じず、まず疑ってしまったのだろうと。
「一人の限界を知る。うちが謙虚にならなあかんて言うた意味はそういうことや」
仲間と呼びながら、守ると言いながら心のどこかで信じ切れない自分がいる。
心の奥底では”分かり合えない”と壁を作り、知らないうちに余所余所しい外面だけの関係になっていた。そんなんじゃないだろうか。
決して失敗してはならないこの局面でも、自分は命をかけて守りたかったはずの仲間を信頼できずにいた。ミユキは言葉を返せなかった。
「結局、私は自分の力に自惚れていたんだ。この刀さえあればどんなヤツが来ても倒せるって。お師匠様風に言えば”その高うなった鼻柱、ヘシ折ったるわ”だな」
そうして袖から取り出したのは朱塗りの鞘、月下美人。今日もちゃっかり持ってきてたのね。
「でもまさかその、お師匠様が来るのは想定外だったんじゃないですか?」
「ああ、まぁそうだな」
何にしてもすごいなユキ先輩相手にその仕打ち。
「せやけど未有鬼。アンタはほんまに強うなったな」
ミユキが俯いていた顔をあげる。女はそれに大きく頷いて
「最初からうちに敵わんと思ってても身体を張って前に立ちはだかって、死ぬ気で刀を抜いた。滅茶苦茶怖かったやろ?」
穏やかな口調だった。それは自分が師との別れ際、最後に聞いた懐かしい声。
「あ、あのお師匠様……」
ミユキの頼りげない声がおかしかったのか、女はクスリと笑って
「昔は鬼子鬼子言われてうちに泣きついとった弱虫やったのに。うちに刃向かうなんてな。ようよう強なったよホンマ。それから」
ミユキに近付いて頭をそっと撫でて
「綺麗になったんやな、美雪」
ミユキは本当に久しぶりに、自分の師匠がかつて見せてくれた温かな笑みを見た。それがあまりに懐かしくて、あまりに恋しかったから
「お師匠様……」
知らぬ間に泣いていたのだろうか。そう漏らした声は震えていたような気がした。女が優しくミユキを抱き寄せる。
「せやけど泣き虫は相変わらずやな」
あ~俺もそうやってミユキ先輩を抱き締めてみたいな。いや無理かな?
ともかくそれからお姉様が話してくれたのは結構衝撃的なことだった。まず最初の脅迫状は”お師匠様”が書いたものらしい。
ただしその目的は脅迫ではなく命の危機が迫っていることをいち早くミユキ先輩へ知らせるためだったそうだ。
「わざわざ命の狙い方まで調べてくれてたみたいだ、お師匠様」
けどもともとは誰が送ったのか、あるいは文面に記されている”断るなら”が何を指すのか、そして”園田の命”が何かまでは教えてくれなかったそうだ。そこは自分で見つけてみろということらしい。
「厳しいですね」
「いいや。優しいと私は思うぞ」
ちなみにあの3人のお兄さんをボコボコにしたのもお師匠様だそうだ。何でもおでん屋の親父さんに因縁をつけてたのが気にいらなかったらしい。あ~怖い怖い。
で、次に桃ちゃんの毒殺について。もともとは別の手口だったらしいけどこれはお師匠様の判断で”ミユキ先輩だと対処がちょっと難しい”と考え、自分がヒットマンを始末してから”毒殺”に書き換えたらしいのだ。
「な、優しいだろ?」
「ん~……」
俺には分からない世界だ。何ていうかまどろっこしい?
「すみませんお師匠様。なんか着物を汚してしまって」
埋めていた顔をあげると、女はミユキの目元を親指でそっと拭い
「いいや。美雪の涙はいつも綺麗やったし、今も綺麗なまんまや」
ポンポンと優しく頭を叩いた。
「あのお師匠様。そこの喫茶店に桃花がいるんです。一緒に行きませんか」
ミユキの申し出に女は笑顔で首を振る。
「そのうちな。でも今は遠慮させてもらうわ」
その笑顔が寂しそうだったから
「どうしてですか? 絶対に喜ぶと思うしそれに美樹だってきっと元気に」
「死人には死人の会い方があるんや」
「え?」
ミユキはその意味が分らなかったが、女はそれに答えず背中を向けて
「ほな、そろそろ師匠としてケジメをつけていこか」
顔を微かに傾けミユキに赤い瞳を流した。
「うちが伝えたかったのは一つだけや。美雪、あんたが仲間を庇う気持ちにウソはない。せやけどあんたが仲間を想う気持ちにはウソがある」
「ウソ……ですか?」
ミユキが聞き返すと頷き
「そうや。せやからアンタに与える最後の修練は心の修練。美雪に学んで欲しいのは心を開くということ、そしてその強さや」
ミユキは何となく意味が分った。親友に昔、学校で同じようなことを言われたから。
「それが全てや。ほな死人はさっさと去ぬわ」
そうして女が鈴を鳴らすと、徐々に眠気がミユキを包んでいった。
「まぁ、こんなところだな」
話し終えたミユキ先輩は少し照れくさそうで、でもそれよりほんの少し嬉しそうだった。
あ~でも最初、お姉様が目覚めてから聞いた話だとあのお兄さん3人をボコボコにしたのは自分だって言ってたよな? そもそもそれで凹んでたんだけど、なんでそんな記憶違いが起きたんだろうか?
「あの、先輩」
”ん?”と屈託無く顔を向けるミユキ先輩。答えてくれた内容はこんな感じ。
「それがお師匠様の言ってた修練の一つだろうな。もし私がまた一人で抱え込んでいたら、あのまま落ち込んだままだったと思う。でも」
俺の方に笑顔を向けて
「お前やアヤに相談したから気持ちも落ち着いたし、冷静になって見つめなおす事も出来た。そして結果、こうして真実に辿り着けたんじゃないかって思う」
ん~、どうだろう? エイミーちゃんの鈴があれば全て解決したような気もするんだけど。
ただどちらかと言えばそれは仲間じゃなくて、その前に自分が自分を信頼出来ているかどうかを試されていたんじゃないかなって思う。俺はね。
けどまぁ本人がそれで納得してるなら俺から言うべきことは何もないか。うん。
「いやあるぞ」
危うく本題忘れるトコだった。俺の言葉にお姉様はまたキョトンとしてるので
「確かに良い感じにまとまってますが、でもどうしてそれが俺の家に泊まる理由になるんですか?」
至極全うなことを聞けばミユキ先輩、また俺に流し目して
「どうしてって。あの脅迫状、次の標的はお前じゃないか」
そうだスッキリ! じゃなくて
「いやいやでもやっぱり俺とミユキ先輩が一つ屋根の下で一夜を」
「今晩は」
噴水の音に紛れた靴の音に振り返る。そこには道端で会ったら目を合わせられないような怖いお兄さんが2人いらっしゃいました。一人がスキンヘッドで一人が角刈り。
黒スーツに黒ネクタイに白カッター。これだけなら喪服と言えないこともないんだけどサングラスを装備しております。
お兄さん二人は威圧感タップリに近づいてきてまだ座ってるミユキ先輩を見下ろしながら
「うちの可愛い舎弟を3人も可愛がってくれたそうですね? ミユキさん」
低い低いドスの聞いた声だ。それにお姉様は腕を組んで座ったまま。けど目はしっかりと見据えている。
「お坊っちゃまが気にかけている方ということで今まで大目に見させて頂きましたが、今度ばかりは少し遊びが過ぎてると思いませんか」
そう続けるのはスキンヘッドの方だ。大方あのボコボコになってた3人のお兄さんのことだろう。どうしよう? 真犯人教えてあげようかな?
「それに加えてあなたの妹さんがお坊ちゃまの別邸を御釈迦にしてしまいましたよね。どう責任を取られるおつもりですか?」
畳み掛けてきたのは角刈りの方だ。連携取れてるね。けど妹? 別邸?
「どんな手を使ったのか知りませんが、あの真っ赤な水のせいで修繕費に数億かかりましてね」
ああ。ミキさんがやったボンボン屋敷のことか。そりゃ鉄筋コンクリートで出来た校舎を叩き切るようなシロモノなんだから木造建築くらい訳ないよな。
しかしあれで別邸かよどんだけ金持ってるんだボンボン。スキンヘッドのお兄さんはサングラスを取って
「もちろん請求はあなたの方へ送らせて頂きますよミユキさん。もしそれが無理だと仰るなら我々の申し出を」
「断る」
ミユキ先輩はそこから先を言わせなかった。そして顔を曇らせた二人にフっとお姉様は笑って
「言い忘れていたが」
と立ち上がってアッパポニーになっている髪をサラサラサラと腕で流した。今日も髪はツヤツヤお手入れ万全。いよいよ本調子に戻られましたかお姉様?
「私にはもう許婚がいるんだ。生憎だ」
フフフそれは諦めないとダメだなボンボンさん。もう将来を誓い合った方がミユキ先輩にいらっしゃるならそれ以上追いかけるのは男として無粋というもの。何事も引き際が肝心だ。うむ。
何でだろう。立ち直れないよ僕。
クールなままエクトプラズム吐いてる京太郎君、そして急に電話しだしたマフィア二人。
「あ、もしもしお坊ちゃまですか!? 実はミユキさんの……失礼致しました! ミユキ様の件についてですがどうも既に相手がいるようでして……」
とか何とか言ってます。それにクスっと笑ってから
「よ~しそれじゃぁ帰ろうか?」
立ち上がってグイと俺の腕を捕まえるミユキ先輩。ああ~何と言うことか俺の右腕にはこの世のものとは思えないほど柔らかで心地よい感触が……
「じゃなくて許婚ってどういうことですか!?」
思わず叫んだ俺の鼻を摘んで
「何言ってるんだ本人が」
ミユキ先輩は聞こえよがしの爆弾発言。むしろ後ろで電話してる二名様の方向いて仰ってます。
「それに、今晩はお前の家に泊りじゃないか」
続けざまの大問題発言。後ろの二人は電話の向こうで大目玉。それを面白そうに見てから俺の方に悪戯っぽい目を向けて
「ほら、さっさと行くぞ。京太郎」
月明かりの下、無邪気に微笑む着物の美雪先輩はいつにも増して綺麗だと思った。
桜咲くここは桜花学園:第2部:
ルート美雪:
オープニング:「月下美人」完
プロローグへ続く。
どうも無一文です^^
ようやくオープニングが終わりました。お疲れ様でした!
これでシリアスパートは当分おしまいです。
次回からはまたラブコメやって参ります。
先に紹介申し上げますと自宅メンバーが
キョウ・ミキさん・ミィちゃん・マリサ
から
キョウ・ミキちゃん・ミィちゃん・ユキたん
へと代わります。本当は全キャラ一新したかったんですが
ユキたんとミィちゃんの掛け合いは外せなかったので(爆)
え~っとそれから
お師匠様の正体がほぼ出てしまいましたね。
本当はラストまで今回の部分を明かすつもりはなかったんですが
ユキたん可哀そうという意見を複数頂きましたので
早めのカミングアウトとなりました^^
それからご~く局所で伝説のキャラ大山君登場しましたね。
彼が何ゆえこれだけ人気があるのか拙作のミステリーの一つです。
さて今平行執筆してる「死神とピアノ線」ですが
またTIPSという形で何話目かに投稿しようかなと考えております。
私からは以上です!
え~っとそれからもし宜しければ感想頂ければ幸いです^^
ではまた!