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第15話:”信じること”と”知ってること”

"携帯の着信音"

「もしもし。どうしたの美雪?」

「もしもし母さん!? 無事なの!?」

「え? ええ。無事も何もいつも通りだけど……」

「何もなかった!? おかしなこと起きなかった!?」

「ええ。別段変わった事はなかったわよ」

「本当に? 本当になにも?」

「ん〜……そうね。強いて言うならこの電話ぐらいかしら? 変わった事。フフフ」 

「……」

「美雪?」

「……良かった」

「も〜どうしたのよおかしな子ね。あ、そうだそうだ。聞いて。今日美花が危ないところだったの」

「!」

「神社の階段でつまずいて危うく大怪我するところだったわ。あの子本当にそそっかしいから」


【脅迫状第7行目”断るなら美花は自殺する”】


「大丈夫だったのミカ!?」

「ええ、もちろんよ。それに美花がおっちょこちょいなのはいつもの事じゃない」

「うん、でも……」

「でしょ。ああ、シンシアちゃんもうそのくらいで良いわ」

「……待って母さん」

「え?」

「どうして……そこに、シンシアがいるの?」

「何だかおかしいわよ美雪? いったい本当に」

「どうしてシンシアがそこにいるの母さん! お願い答えて!」

「落ち着いて美雪。シンシアちゃんはたまたま近くに来たからって顔を見せに来てくれたのよ。こんな辺鄙なところまで散歩ですって」

「シンシアは今、どうしてる……の?」

「さ〜。当てて見て? とっても良い事してくれてるわよ。すぐ(ソバ)でね」

「……シンシアに代わって母さん」

「え? ええ。良いわよ。シンシアちゃん、ありがとう。もう十分よ」

……。

「もしもし代わりました。お邪魔してますミユキさん」

「シンシア。アメリカに渡ったと聞いていたんが?」

「でしょうね。私もそうお嬢様にお伝え致しましたから」

「説明してもらえないだろうか。つまらない理由だと思いたいんだ」

「説明しなくてもミユキさんのお考えの通りです」

「……どういうことだ?」

「そうですね。例えばさっきは利恵さんの首や肩をマッサージさせて頂きましたが、ミユキさんが最初にお読みになった手紙の通りだともう少し”強く”お揉みすることになってますね? とりわけ首を」


【脅迫状第8行目”断るなら利恵を絞殺する”】


「……」

「もう説明する必要、ないですね?」

「シンシア。母さんに手を出すな」

「それもお返事次第でしょうか? 今はまだ猶予期間ということで心地よい程度に加減させて頂きましたが」

「どうしてだシンシア? どうしてこんなことするんだ?」

「……いつだって恨みというのはそういうものです」

「え?」

「あなたのように与えた側は時が経つに連れて忘れてしまいますが、一方で与えられた側はどんどんその想いを募らせてゆくものです。今の受け答えがその温度差になってるんじゃないでしょうか?」

「分らない教えてくれ。どういうことだ?」

「それでは一言だけ申し上げます」

「……」

「クローディアを返してもらいます」


……。


 日がスッカリと暮れた平日の通り、灯った街灯の下を行き交う人は少なかったけど、それらをほぼ全部かき集めて作った野次馬と人だかり。

 その中に二人はいた。

「すみません! ちょっと」

 そうやって野次馬の2,3人を押しのけて俺が見たもの。

 それは路面に仰向けで横たわってるミユキ先輩、そしてその(カタワラ)(ホウ)けたようにペタンと座り込んでいる桃ちゃんだった。

 瞬間、頭が真っ白になった。

 たぶん今の俺に”一番あり得ない光景ってなんだ?”っていうナゾナゾが出されたら即答するのがこれ。

 ミユキ先輩が倒れてるっていうこと。

 だから目の前に突きつけられているのは今世紀最大の謎なわけで。

 意味が分らないし、分るわけもない。分りたくもない。

 ”お姉様が倒れてる”って何だよ? 

 ともかく俺はミユキ先輩の元へ駆け寄り、しゃがみ込んでまず手首と首の頚動脈(ケイドウミャク)付近に指を当てた。

「……」

 強弱がどうとか詳しいことは分らないけど脈はある。テンポもまぁ普通くらいだと思う。

 次に口元に手をかざしてみると吐息がかかった。息もしているし規則正しい。気道も大丈夫そうだ。

 頬に手を当ててみたが外気のせいで少し冷えてるというくらいだ。顔色も特に悪くない。

 後は手の甲に薄っすらと切り傷があるけど、これは転んだときに着いたんだろう。何にせよ問題になるようなものじゃなさそうだ。

 他に目立つ外傷は……特になかった。ここで安堵の溜息をついて額の汗を腕で拭った。

 お姉様は心身ともに壮健だから心臓病とかの内科的なもので倒れることはない。だからひとまず安心しても良いだろう。

 隣の桃ちゃんはまだショック状態のようで俺には気付いてないようだ。セクハラ男の存在に。

「おい桃介。ミユキ先輩は気を失ってるだけみたいだけど、一応救急……」

 反応が無い。

「お〜い。そんな俯かなくても大丈夫だって」

 ポンポンと肩を叩いておいた。それに少しだけコクっと頭を下げて頷く桃ちゃん。目には大粒の涙。しばらくそっとしておこうか。

 俺は携帯を取り出して救急車の手配をしてもらった。


 さて野次馬の原因はこの美人二人に違いないんだろうけど、まだ他にもあるようだ。

 この二人から数メートル程離れたところの路面。そこに男が3人倒れているのだ。

 3人ともかなりラフな身なりなので”仕事帰りです”という感じではなさそうだ。

 どんな格好かと言えばパンチパーマに派手な半シャツ、半袖の腕には和風のタトゥーがチラリ。

 外見で人を決め付けるのは感心しないけど”一般人です”と言われたらやや首を傾げたくなるようなスタイルだ。

 でまぁ、言うの少し(ハバカ)るけど3人とも誰かにフルボッコにされたようです。

 路面で伸びてるお兄さん全員、顔面ボコボコで手足もちょっと妙な感じに曲がってます。

 あからさまに腕が明後日(アサッテ)の方角向いてるのもいるし、手首がギュっとしぼんでるのもいます。

「……なんていうか大惨事だな」

 もう一度お姉様の方へ目を戻すと路面に転がっている赤い棒を見つけた。今まで気付かなかったのが不思議なくらい目立つ色合いだ。ちょうどミユキ先輩と3人のお兄さんの間に落ちている。

 触っていいものかどうか分らないけどとにかく近寄って見る。光沢があって(アデ)やかだし、形は一見すると杖のように見えるけど……。

「杖なぁ。お年寄りが持つにしたら派手過ぎるしそれに……」

 どうも見覚えのある色だ。まるで神社の鳥居のように艶やかな赤で、いや赤というか紅というか……

「朱色?」

 呟いて俺はお姉様の愛刀を思い出した。

 咄嗟にそれを掴むとその杖らしきものは下7割の部分がスルリと抜け落ち、濡れた刃を(アラワ)にした。

 ”カラン”と路面に落ちたそれはどうも鞘らしい。

 つまりこれは刀だ。そして真剣だ。刃のあからさまな薄さにゾクっとなる。

 時代劇で見るような仕込み杖みたいだけど、まさかこれってミユキ先輩の……いや違うこれは見覚えがあるぞ。

 え〜っと何だったかな。ついさっきまで覚えてたはずなのに……思い出したはずなのに……あれ? 何だっけ?

「おい見ろよ刃物だぞあれ!」

「え!? あいつ何であんなの持ってんだ!?」

 喧騒(ケンソウ)に振り返れば野次馬の視線をガッチリ釘付け。残念ながら全員男だ。

「政治が悪い」

 いやいや訳わからんこと言ってる場合じゃないこれはものすごい誤解を招きかねないぞ!

「ちょ、ちょっと違うんです! 俺は通りすがりの純粋無垢な」

 慌てて弁明するようにブンブンと手を振れば持っていた刀も合わせてブンブンブン……って危ないぞ京太郎君! 

 その時刺すような痛みが突然右目を襲った。思わず刀を落として手の甲で(コス)る。

 あ〜なんか入ったかクソ! 拭った手の甲を見れば緑の液体が付着していた。

「何だこの汗でも涙でも水でもないファンシーな色は!?」

 転がった刀が目に留まる。よく見ればこの濡れた刃の色がどうもミド……

「ミユキ従姉!」

 桃ちゃんの声に目をやれば上半身を起こして額に手を当ててるお姉様。意識が戻ったようだ。あ〜しかし目が痛い。色がきもい何だよこれ。

 ゴシゴシとひたすら()きながらお姉様の方に行く。

 ミユキ先輩は自分の両手を見つめながら

「夢……だったのか」

 そう呟いた。何か悪夢でも見ていたのでしょうか。まぁ何にせよ良かったよ。しかし俺がここに走ってきた理由……何だったっけか?


「私だ」

 信じられない第一声だった。

「じょ、冗談やろミユキ従姉……?」

 噴水前のベンチ。ミユキ先輩の隣に腰掛けている桃ちゃんのセリフは俺の考えを代弁したものだ。

 ミユキ先輩は首を横に振って

「私がやったんだ。3人が毒の塗りこまれた刀を手に襲って来たから……私が彼らをやったんだ」

 彼らっていうのはあのボコボコになってた3人のお兄さんだ。半時間程前に俺が呼んだ救急車に担ぎこまれて行った。

 ちなみに救急隊の人によれば命に別状は無いものの、手首を潰されたお兄さんは後遺症が残るかも知れないそうだ。

 桃ちゃんは立ち上がって

「ウソやろ? 確かにあいつら神条会のチンピラやったけど……何もあんなにまですること」

 ”ないやん”だろうか。だろうな。だけど桃ちゃん、そこから先は言わなかった。いや言えないんだろう。

 ミユキ先輩はまた俯いて

「分らないんだ。私もどうしてあそこまでやったのか」

 首を横に振った。

「記憶違いってことないですかね?」

 俺の質問にも首を横に振るだけだった。

「おぼろげだけど覚えてるんだ。一人の手首を握り潰し、一人の腕を折り、地面に叩きつけ、後は全員を気が失うまで力いっぱい殴った。何度もこの手で」

 ハッキリ答えた。いやまぁ確かにあのお兄さんのやられ具合もミユキ先輩と喧嘩したってことなら納得だけど、

 いや、それでもやっぱり違う気がする。お姉様はあんなことしない。

「みーつけた」

 三人揃って顔をあげればアヤ先輩が来ていた。いつもみたいにニコニコとしていて場の雰囲気と全く合わない明るい笑顔。

 アヤ先輩は泣き腫らして目の赤くなってる桃ちゃん、俯きっぱなしのミユキ先輩、そしてたぶん微妙な表情してる俺を一通り見てから

「途中からしか聞いてなかったけど。良かったらアタシにも説明してくれないかな?」


 そういうことで俺はアヤ先輩にかいつまんで話した。要点を申し上げておこうか。

 まずミユキ先輩が喫茶ルーチェをコッソリと出た理由は単純に”嫌な予感がしたから”とうことらしい。武神の勘だろうか。

 そしてその勘に従って通りを歩いているとあの仕込み杖を持った神条会の3人組に遭遇。

 襲ってきたので適度にあしらいながら話を聞いてると、どうやら自分を桃ちゃんだと勘違いして襲ってきたということが分かったらしい。そこでカっとなって3人をボコボコにしたそうだ。

 そうして痛めつけるのに夢中になってると一人に背後から例の仕込み杖(毒入り)で斬りかかられ、かわしきれず腕に掠るとそのまま意識を失ったそうだ。

 ちなみに俺の右目に付いてた緑の液体は俺が刀をブンブン振ったときにそれが跳んで付いたようだ。目、大丈夫かな?

 とにかくそこまで俺が説明し終えて

「まぁ、その……ミユキ先輩も従妹(イモウト)を守るためにやったことだと思うし、法律的にも正当防衛……」 

 とか頭を掻きながら弁護を始めると

「それ間違いなくユキたんじゃないね」

 アヤ先輩は自信たっぷりに遮った。腰に手を当てて大きく頷いている。

「さっき力一杯、それも何度も殴ったって言ったよね? ユキたんが本気で殴ったら一発で天国行ってるんじゃないかな?」

 ごもっともだ。桃ちゃんが顔をあげる。

 アヤ先輩はすがるような目で見ている桃ちゃんを安心させるように頷き、

「それにね」

 俯いてるお姉様の方を見て

「腕を斬られたって言ってるけど。ユキたんが素人に剣術で一杯食わされるとか、有りえないでしょ?」

 ごもっともだ。ミユキ先輩も顔をあげた。

 言われてみれば二つとも単純かつ当たり前のことだった。

 こんなことに気付かなかったなんて三人ともいかに動転していたのか良く分った。

 アヤ先輩は3人の顔をサラっと一通り見てから納得させるように”ね?”と頷いて

「それになによりさ」

 人差し指をクルクルと回してからツンとミユキ先輩のおでこに当てて

「ユキたんはそんなことする子じゃないよ」

 ツンツンとしながらまた微笑んだ。

 そのセリフって俺も桃ちゃんも言ったんだけど説得力が全然違うよ。

「もちろん正義の生徒会長ユキたんは仲間を守るためなら悪いやつをバッタバッタとやっつけるけど……」

 オーバーリアクション気味に腕や足をブンブンと振るアヤ先輩。妙に様になってるのは流石演劇部ということだろうか。とにかく落ち込みっぱなしだった桃ちゃんが少し笑ってる。

 それを横目で認めるとアヤ先輩は少し恥ずかしそうに動きを止め

「けど。救急車が必要になるまで痛め付けるようなこと、絶対しないよ」

 改めてそう言った。

 でもミユキ先輩は下唇を噛んで

「ありがとうアヤ。私もそうだって信じたいんだ。でも確かに……」

「アタシは”信じてる”んじゃない。”知ってる”の」

 そう遮ってから俺の隣に座るアヤ先輩。

「知ってる?」

 俺を挟んでアヤ先輩に聞き返すお姉様。

「そ。信じるっていうのは確証が持てないポッカリ空いた部分を”こうあって欲しい”っていう願いで埋めることでしょ? アタシはそうじゃなくて確証を持って”ミユキはこんなことしない”って断言できる。だから”知ってる”っていったのよ」

 沈黙するミユキ先輩。その時アヤ先輩が何かボソボソっと口を動かした。

 見れば顔は正面を向いてるけど横目で俺の方を見ている。どうやら耳を貸せってことらしい。

 空気を読んでさりげなくアヤ先輩の方へ体を傾ける。するとほとんど聞き取れないような声で”ある事実”を伝えた。そしてそれを俺に言わせたいらしい。らしいんだけど……。

 俺は横目でアヤ先輩を見て

”それなら先輩が言った方が説得力ないですか? 俺なんかより”

 無理を承知でアイコンタクト。

 それが伝わったのか伝わってないのか、アヤ先輩はただニコニコとしてるばかりだ。仕方ない。

 俺はお姉様の方を向いて

「あの、ミユキ先輩」

 呼びかけると”ん?”と俯いたまま元気の無い返事が返って来た。すごいショゲてる。でもだからこそ今がチャンスか?

 俺はお姉様の手を取ってそっと両手で包んだ。

「京太郎?」

 顔をあげるミユキ先輩。目が合って顔が沸騰。ダメだ死ぬほど恥ずかしい。

 あとこのセリフやっぱり男の俺が言うと意味が盛大に違うと思うんだ。で、でもやるぞ。い、言うぞ。

 さりげなく深呼吸。

「先輩の手。すごく綺麗です」

「え?」

 俺も真っ赤だけどミユキ先輩の頬も赤くなった。ほーらー意味が違うって言ったじゃん! これじゃただのキザ男@失敗ヴァージョンだろ!

 ”ツン”と脇腹をアヤ先輩に肘で突かれる。続きを言えということらしい。確かにこのまま止めたら意味が違ったままになる。

 ああしかしやばいな。ミユキ先輩の手をこんな風に握ったのって初め……いやいやいらぬことを考えるな!

「だからミユキ先輩。その……こんなに手が白くて綺麗だから……」

 ますます顔を赤くしてるミユキ先輩。誤解は進むよどこまでも。

 もう少し手を握っていたいけどミユキ先輩の前に立ちつつ俺を見下ろしてる子悪魔桃ちゃんの目がハゲタカめいてて怖いので早く言おう。隣のメガネ美人も変なテンションあげそうになってるので早く言おう。

 俺はクールな笑顔で

「だから。先輩がアイツらを殴ったとか有りえないです」

「「「え?」」」

 声を出したのは桃ちゃんにミユキ先輩。そしてこの計画の張本人であるアヤ先輩もだ。このメガネ美人、あくまで俺が思いついたことにしたいらしい。

 俺はステキな表情を崩さず

「ほら。あのチンピラ、3人とも顔をかなりの回数殴られてたじゃないですか? だからもしあれをミユキ先輩がやったって言うなら、血とかの汚れくらいつくでしょ?」

「あ〜ホントだ! アタシ気付かなかった!」

 立ち上がるメガネ美人。ウソつけー。

 俺は続けて

「それにいくら頑丈な先輩でも、あれだけ殴ったら手に掠り傷くらい付いてないと不自然です」

「ほ、ほんまや! それやエロノミヤ!」

 ビシっと俺を指差す桃介。ウゼー。

「が、頑丈は余計だ京太郎!」

 そっぽ向くユキたん。面倒くせー。

 とにかくそれを切っ掛けに話を進めていくと”ミユキ先輩がやった”と結論付けるにはおかしな点がいくつも出てきた。

 例えばミユキ先輩が気絶した理由を刀の毒のせいにしてたけど、アヤ先輩曰くお姉様を昏倒させるにしては随分と弱いし量が少ないらしい。まぁこれは特例か。

 とにかくそんな点が見つかるたびに元気が出たり、あるいは冷静さや平常心を取り戻していく3人。

 それに合わせて頭も徐々に冴えてきてまた新しく見つかるおかしな点。人間って本当に非常事態に弱いんだなって俺は思った。

 そうして半時間ほどあれやこれやと推理ごっこしていると

「そうだ! アタシ、ヨードーちゃん待たせてるのスッカリ忘れてたわ!」

 急に立ち上がるアヤ先輩。そういえば喫茶でヨードーちゃんと一緒だったね。

 メガネ美人は振り返って

「ねぇ桃花ちゃん、一緒に来てくれる?」

 ニッコリ微笑まれて

「へ? うち?」

 と間抜け顔で自分を指差す桃ちゃん。

「うん。もうすっかり暗くなっちゃったから心細くてさ」

 言いながら意味ありげに俺にウィンクするメガネ美人。

「はい。別にうちは構いませんけど」

 桃ちゃんは自分の右耳を触りながら答えた。良い意味でKYなのだろうか。

「じゃぁ早速!」

 と桃ちゃんの手を掴み

「それじゃぁまたね後宮君! ユキたん!」

 アヤ先輩は俺達に”バイバイ”と手を振ってから小走りで喫茶ルーチェの方へ消えていった。

 最初から最後まで本当に明るい人だった。すげー。


 後に残されたのは俺とミユキ先輩。特に会話もせず、黙って噴水の音を聞きながら並んで座っていた。

 本当に今日は色々と衝撃的なものが見れた。桃ちゃんのメイド服とかお姉様の着物姿とか。でも何より一番驚いたのはミユキ先輩の気弱な一面だろうか。

 朝礼のある朝は凛とした姿で校門の前に立ち、遅れてきた生徒には(ゲキ)を飛ばす生活指導担当のミユキ先輩。

 問題校の不良集団が学園に乗り込んできたら颯爽(サッソウ)と現れて瞬く間に撃退し、皆の喝采(カッサイ)を浴びてる武神ミユキ先輩。

 生徒会で教壇に立ってるときは役員の発言した内容を正確に、そして深く読み取って的確にまとめながら進行する生徒会長としてのミユキ先輩。

 本当に出来すぎの人だと思った。

 だけど今日の落ち込み具合を見てたり、途中でアイスを買ってたり、お忍びで来てるはずなのに無用心に喫茶に入ったりと結構抜けてる部分を見ると、やっぱりミユキ先輩も普通の女の子なんだと思った。まぁ当然だけどさ。

 ていうかそういうの分ってるつもりで柔道場でエラそーなこと言ったのに、今更になってやっと気付いたとか、ホント格好悪いな京太郎君。苦笑い。  

「こんな遅くまですまないな京太郎」

 ミユキ先輩の声に振り向けばお姉様は夜空を見上げていた。

「本当は夕暮れまでにケリをつけたかったんだ。でも私が不甲斐ないばっかりに皆に迷惑をかけてしまったな」

 ”ハァ”と溜息が聞こえた。いやいや

「何言ってるんですか先輩。今日は大成功ですよ」

 そう答えた俺の目を見るミユキ先輩、キョトンとしていて少し可愛らしかった。

 俺はアヤ先輩みたいに明るい表情を作って

「だって今日の目的は桃ちゃんの護衛でしょ? それなら無事完了じゃないですか。ピンピンしてたじゃないですか。それにこうして戦利品もあることだし」

 俺は足元の仕込み杖にチラっと目を向けた。

「それから俺の方こそ。エラソーなこと言った割に何も出来ずにすみません」

 ペコっと頭を下げる。

「京太郎……お前」

 ふと顔をあげればミユキ先輩が俺の手元を見ている。同じように目をやれば俺の手、お姉様の手を包んでいる。あ〜そういえばアヤ先輩の指示通りにやってこうなってるんだよね。ていうかあれからずっとこうして手を握ってて……

「あーすみません! 失礼しました!」

 慌てて引っ込めようとした右手を

「いや。そうじゃないんだ」

 逆に掴んでお姉様は引き寄せた。え、いや、これはまさか……。

 あらぬ期待をしていたらミユキ先輩は俺の手をじっと観察している。

 そこで俺も気付いた。あの刀に付いてた緑の液体が滲んでいるのだ。

 目を拭ったときについたやつだけどやっぱりこれ……。

 ミユキ先輩はそのまま顔を近づけて

”あ”

 舌先でそっと舐められました。わ〜今の感触すっげーくすぐったというか何ていうか最高!!

 いや文字通り毒見だって分ってるんですか妙に高揚するのは正常な男子の証であり自然現象であるからして

「私と同じ神経毒だな」

「興奮してませんからね!?」

「え?」

「何でもないです」

 危なかった。

「Bloody Hell!!!!」

 いきなりの叫び声に思わず飛び上がった俺とミユキ先輩。

 見れば噴水を挟んだ向こう側に立っているのはサイドテールのメイドさんことエイミーちゃん。

 彼女はその場で優雅にオジギしながら

「二人の淡き恋を息を潜めて見守りつつこの紅茶を支給するに最も相応しきタイミングを今か今かと伺っていれば」

 そこで区切って顔をあげ

「突如訪れたる絶好機!」

 ビシっと俺達を指差すサイドテール。何が始まるんだ……。

 エイミーちゃんはいつの間にか右手に持っていた真っ赤な薔薇を頭上に掲げながら

「握り締めたるその手の固きこと熱きこと実に37分と41秒。そのまま見上げた和装の姫君の目には満点の夜空」

 続いていつ取り出したのか左手の真っ白な薔薇を俺達の方に向け

「背後にはロマンチックな噴水」

 そして両手の薔薇をサっと手品のように消してから

「そんな二人の影に」

 最後に自分の胸に手を当てて頬を染めて

「愛のキューピット、エイミー・クリスティ」

 キューピットじゃなくてただの”覗き”っていうと思うんだそれ!

 エイミーちゃんは石化してる俺達の方に歩み寄りながら

「そしてこのキューピットの前で交わされたる愛のファーストコンタクトが指を絡ませたホールドハンドなら」

 絡んでねー!!

「セカンドコンタクトは姫君による殿方の手へのディープキス」

 違げー!! 

「あえて言おうもう一度。Bloody Hell!!」

 発音うめー! お〜ミユキ先輩の顔から火が出てるぞすごい顔芸だ!

「しかるに殿方!! It's YOU!」

「は、はい!?」

 ビシっと指差されたその迫力に思わず返事。

「このような熱烈な愛の表現に対して”興奮してませんからね!? ぐふふ”とはいかがなものか!?」

「あんたもいかがなもんだ興奮しろってか!? 」

 ていうか”ぐふふ”って何だよ!

 エイミーちゃんはキョトンとして

「え〜っとほら、そこは君、何だ。えっと〜」

 ポリポリと頭を掻きながら悩み始めて

「”(ハラ)んだ”とか”濡れた”とか言う部分だと僕は思うわけで……」

「おまえイギリス帰れ! 歩いて帰れ!」

 それに人差し指を立ててチッチッチと左右に振ってから

「海の上を歩けるのはジーザス・クライストだけだって、ママに教わらなかったのかいBOY?」

 腕を組んでニィと笑うサイドテール。

「いや俺ら一応仏教徒ですのでジーザスもといイエス様のことあんま知りません」

「私は日本神道だぞ京太郎」

 ユキたん、巫女としてそこは譲らなかった。

「ふーん。まぁいいやどうでも」

 ”ピュー”と口笛を吹いてるエイミーちゃん……っていいのかよどうでも!

「それより紅茶。ここに置いておくよ。淹れ直してきたんだ君達のために」

 エレガントな仕草で二人に差し出されたトレイの上には例の二股ストローがインされた赤い紅茶。どこに持ってたんだマジで。

 とにかくそれを受け取るミユキ先輩。それにエイミーちゃんはニコリとして

「そうそう。ストローは特製に変えさせてもらったよ。それでは夏の日差しにも負けない熱い夜を。NightNight!」

 エプロンの両裾を持ってオジギし

「ラララBoy-meets-girl story!」

 とか歌いながら立ち去って行かれました。

 再び置き去りにされる俺、ミユキ先輩、そして紅茶。

「「……」」

 沈黙。

「何だったんだろう今のは」

「何だったんでしょうねホント」

 呟いて二人同時に溜息。そしてまたベンチに腰を降ろした。

「あ、お手拭とかティッシュいる?」

「はよ帰れ! 4足歩行で帰れ!」

 ベンチ裏からニョキっと生えて来たサイドテールを今度こそ追い払った俺達。ていうかティッシュって何だよ、全く。

”チリリーン”

季節の変わり目にグッタリしてる無一文ですこんにちわ^^

次回がプロローグの予定だったんですが

もう一話挟ませて下さい^^

シリアスパートは一旦、次回でなくなります(爆)


さてさて気付けば総アクセス数が45万PV突破です。

ちなみに正確には450769です

読者の皆様、本当にどうも有難うございます<(_ _)>


え〜っとそうそう。

さりげなく2部でお願いしておりましたヒロイン投票ですが

ヨードーちゃんをアヤ先輩が抜くという奇跡が起きました(爆)

ちなみに順位ベスト3は


1位:ユキたん 2位:マリサ 3位:ミィちゃん 


となってます。


1位は圧倒的大差。2,3位は僅差です。少し離れて4位美月ちゃん。

今の感じだと次ルートはマリサかミィちゃんですね。


最近は他ヒロインが全く出てきてませんが

プロローグ以降は学園生活に戻るので

また騒がし〜く書いていこうと思ってます。


それでは引き続き、本拙作小説をお楽しみ下さいませ。

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