第9話:本当の脅迫って
かなり修正したような気がしますね。サブタイも変更です。
結論から言おう。昨夜、ミキさんがマジギレしました。つまりは大惨事です。
昼休みの教室。いつものメンバーでお弁当を食べている俺達は今、マリサが机に立てている赤の携帯に噛り付いている。桃ちゃんは相変わらず椅子の上で胡坐をかきながらカツサンドを頬張りつつ
「派手にやったな〜姉貴」
と目はワンセグに釘付け。で、そこに何が放送されているのかといえばですね。”一昨日までは”豪邸だった廃屋もしくはゴミ屋敷です。これだけじゃイメージしにくいので誘導して見ようか。まずは白塀と瓦屋根で出来た大きな大きな和風のお屋敷を思い浮かべてください。門は閂のついた大きな檜門で、右サイドには”神条”って筆書きされた大きな表札がついてます。立派な豪邸です。イメージ出来ましたか? それでは次に巨大化して下さい。君が。身長40mくらいに。ムリ? まぁ頑張って。それからその身長に見合ったジャイアントな包丁とマナ板を用意して下さい。包丁はピカピカに研いであるやつね。準備出来ましたか? 調理器具が揃ったらそのお屋敷を引っこ抜いてマナ板に乗せ、袖をまくり、テンションをあげて
”ボンボン屋敷の3分クッキング〜”
唱えてください。あとは任せた先生。
まぁそんな残念極まりないスクラップハウスの前で報道陣がマイクを手に騒いでたり、警察官がそれを押し返しながら規制してたり、そんでもってその間に挟まれるようにしてグラサン黒スーツがギャーギャー言ってたりするわけです。ちなみに興奮気味の報道陣は何を言ってるかというと、例えば女性アナウンサーの一人は塀の前に出来てる真っ赤な水溜りを指差しながら
「信じられません! まるで天に穴が空いたようです! 未だかつてこれだけ鉄分を含んだ豪雨が局所的に降り注ぐというような事態があったでしょうか!」
あるわけがない。どこの星だそれ。美月ちゃんの淹れてくれたお茶を啜りつつ心の中で突っ込む。それにしても神条のボンボンさん、ミキさんに手を出したのは最悪だったね。流石に今回は同情するわ。俺の後ろから同じく惨状の中継を見ているヒロシはアンパンの袋を破きながら
「ま、天気なら仕方ないんじゃねーの?」
お茶を鼻から吹きそうになった。たぶんこいつは皮肉じゃなくて素でそう言ったんだろうな。鼻の奥で玄米茶が香ばしくてたまらないけど平静を装う京太郎君。さてここで実際に現場を目撃していた俺がこの怪現象について説明するとしようか。
昨日、ミユキ先輩と別れて自宅の最寄駅についた俺。お姉様の手縫い黒帯が入ったカバンを手にして恐らくはとても素敵笑顔で住宅街を歩いていると、その脇を残像が残りそうな速度でセーラーのミキさんが走り抜けました。もう一瞬でただ事じゃないと思った俺はたまたま道路脇で止まっていたタクシーを見つけ、運転席で暇そうに雑誌読んでるおじさんに
「さっきの快速レディーを猛追して下さい!」
と御願いしつつ中に乗り込んだ。なんで”ただ事じゃない”と分ったかといえば、そりゃスレ違いざまに
「殺してあげましょう」
とか独り言が聞こえたら非常事態でしょ。
結局タクシーは追いつくどころかミキさんの姿さえ見えなかったけど、路面に烙印のように残された足跡を制限速度ギリで辿ってみたら辿り着いた場所は高級住宅街の中心。で、もう半分くらい終わってました、解体作業が。
「な、なんじゃこりゃ」
とかハンドル握ってる手を震わせてる運転手さんの顔を両手で掴んでこっちを向かせ
「お釣りはいいからマッハで帰って!」
レアな2000円札一枚押し付けてから飛び出した京太郎君。そこでまず何が見えたかと言うと戦車砲でも喰らったのか言いたくなるような正面玄関だ。そこに収まっていたであろう檜門はその一部を木屑と木片に変えて足元に散らばり、本体は遥かその奥、何とか原型ぽいものを留めた状態で瓦屋根に突っ込んでます。でも俺が度肝を抜かれたのはそっちじゃなくて同じく足元に転がってるヒシャゲた閂。その中央に靴型の押し印がクッキリ残ってたので、ようやくこの門が砲撃を受けたのではなく”蹴破られた”ってことを理解しました。無茶苦茶だ。そして次に目をやったのが豪邸を囲む白塀の向こう、その奥で次々と吹き上がっては振り下ろされる八つの赤い水柱。確実に”美鬼”さんですね。
新規な方に申し上げると実はミキさんは碓井貞光という陰陽師の娘であり、彼女には式神なる超常現象を操る特殊技能が備わっているのだ。具体的に申し上げると砂鉄を含んだ重く鋭くそして巨大な水圧カッター八振りを自在に扱うというチート技だ。威力もぶっ飛んでます。なんせ学園の校舎を”斬り”ましたから。いつかにその妹である桃ちゃんからチラっと聞いた話をそのままお伝えしておこう。どうぞ。
”姉貴が降ろす式神の名称は”逆巻く斐伊川”。送り名が”八岐大蛇”っていう玄武の突変異型やな。十二天将からも外れてるし文献もほとんど残されてないから霊格は分らへんけど、八岐大蛇伝説が残してる逸話からして力はぶっ飛んでるやろな。並の術師なら交霊段階で黄泉送りか取り殺されるんちゃうか?”
以上です。分らないよね。俺も俺も。
話を戻そう。ともかく俺が屋敷の中に飛び込むとそこには枯山水や五葉松のあるこれまた立派な日本庭園が広がっていて、でもそれがある種のカタルシスを覚える勢いでズタズタに切り裂かれていて、そんでその周りにはグラサンスーツのマフィア達がボロ雑巾のようになって散らばってるわけです。予想してたとは言えこの地獄絵図、直に見せられるとかなり来るものがあった。あの時はガチで背筋凍ったもん。
それから屋敷の中、青畳の上に土足であがってるショートヘアーの麗人が屋敷の中を見回しつつ
「どうやら本当にあのクソガキはいないみたいですね……」
呟いた。そしてその目の前で腰を抜かしているスキンヘッドのマフィアを見下ろして
「ならあなたでも良いでしょう」
穏やかな声色だけど確実にプッツンきてる抑揚の無い声。それにヨードーちゃんじゃないけど俺はカタカタ震えつつ
”クソガキってあのボンボンかな? でもミキさんのほうがお若いですよね”
とか突っ込んでるとその麗人、つまりミキさんは屈み込んでから左手でスキンヘッドの襟を掴み、引っ張り起こしてからさらに吊り上げて赤い瞳で見据え
「私は妹や姉のように甘くありません。無邪気な子供が罪悪感なく虫をバラすようにあなた達をなんの躊躇いもなく殺すことが出来ます」
ミキさんはそれから空いてる右手をスっとあげて
「次は相手を良く考えた方が良いですよ」
手の甲で払うようなビンタ一発。ビンタといってもただのビンタじゃない。スキンヘッドの巨体が10mは離れた俺の足元までブッ飛んで来ましたから。もんどり打って足元で伸たスキンヘッドに
”あ〜これってあの来賓室で美月ちゃんママに突っかかってたヤツじゃん”
モミジの烙印押された頬を見ながら固まってる俺。それにミキさんが気付いたようで
「あ、キョウタロウ……」
その赤い瞳を俺に向けてキョトン。互いに沈黙。正確には俺だけ石化。しばらく何とも言えない空気が漂う中、”フ”とミキさんは艶っぽく微笑んで
「お腹すいてたんですね。ごめんなさい。帰ったらすぐに夕飯の仕度……」
「食い意地で駆けつけた訳じゃないからね!?」
ま、そういうことがあったのだ。結局何でミキさんが怒ったのかといえば、俺より早く帰宅した彼女が郵便物を確認しようとポストを開けたところ、ヒットマンによって中に仕込まれていた動作検知式の超小型爆弾が爆ぜったらしい。恐らく脅迫状の順番から言ってミキさんを狙ったものだろうがそこはさすがミキさんというべきか、かわすどころか逆に両手で包んで周囲の被害をほぼ0に食い止めたらしい。爆圧は空間の広さに反比例するから手の中だと凄まじかっただろうね。さて被害はほぼ0であって完璧に0ではない。つまりはそれがミキさんを怒らせた原因なのだ。ほら、今ガラっと教室の扉を開けてミユキ先輩とミィちゃん、そして噂の彼女がやって来たことだし本人に言ってもらおうかな。せ〜の。
「私のキャンディボックスに引火したんです。お陰で北海道ミルク味がパーですよ」
マリサの隣に椅子を持ってきて座りながらブリブリ怒ってます。アメ一袋と豪邸一軒が引き換えか。ナイス・トレードだボンボン。割りに合わないにも程があるよ。だからミキさんには手を出したらダメなんだってば。美月ちゃんの隣、つまり窓の縁に腰をかけてるミユキ先輩がそれに
「本当にミキはとんでもないことをするな。たかがアメじゃないか」
呆れたように溜息を吐いた。ごもっともだお姉様。言われてミキさんは赤い瞳の目を細めて
「従姉さんだって、もしあのヒットマンに神社の手水舎にひっそり住み着いてるキュートなサワガニの春日(お姉様命名)を取られたらどう……」
「生きて返さないな確実に」
あんたも同類だユキたん。次にこの爆弾テロについてを話そうか。
テロ攻撃を受けたミキさんはすぐに通報して警察に来て検証してもらったものの、今回も証拠不十分というか証拠皆無だったので事件として取り上げてもらえなかった。納得しなかったミキさんは本署まで出向き、証拠として自分の煤けた黒い両手を見せながら
「ここで爆発したんです」
そう待合室で巡査さんに説明した。もちろんそれだけでなのでやはり相手にしてもらえなかったようだ。普通なら爆弾の部品や殺傷目的で仕込まれたクギや鉄クズなんかが残ってるらしいけど、手のひらの中という極めて小さな空間で想像を超えた爆圧になった爆弾はそれらを見事に蒸発させたらしい。そんな状態で両手がほぼ無傷というのでは
「あのね、私も仕事でやってるので冗談はエイプリルフールだけにして下さい」
と溜息を吐かれても仕方がなかったのかも知れない。それでも
「私も暇じゃないので洒落でこんなこと言いに来ません」
ミキさんは腕組みしたまま頑として引き下がらなかった。
それから会話は半ば水掛論状態になり、いい加減ウンザリした巡査さんは多少の皮肉を込めて
「受付のアメ全部あげるから、それで勘弁してよお嬢さん」
苦笑いしたそうだ。すると途端に
「分りました。それで手打ちです」
と席を立ったミキさん。ポカンとなってる巡査さんを放置して待合室を出て受付に向かい、カウンターに置かれていたお子様接待用のキャンディ袋を
「ふふふ子供に抹茶金時味とはなかなかしぶいチョイスですね。さすが目の付け所が眉の下」
とか幸せそうにそして本気でカバンに全部詰め込んでいったそうだ。それから反論を覚悟していたであろう巡査さんが待合室から出てきて、何か言おうとしていたらしいけど
「それでは有難うございました。主にアメ」
お辞儀して出て行ったらしい。で……
その足で神条家襲撃に至る、と。
そんなミキさんは今現在
「幸せのお裾分けです」
とか言いつつ俺達にオレンジの包みがお洒落なキャンディを一人一人に配っている。俺にも機嫌良さそうに”ハイ”と手渡しながら
「流石の警察もキャンディを全部取られたのはショックだったみたいですね。でも男性に二言は認めません」
可愛くニコリ。内心はともかく頷きながら包みをあけて口にイン。舌の上に広がる抹茶風味を堪能しつつ
”別の意味でショックだったと思うよすごく”
密かに突っ込んでおいた。ミキさんも同様にキャンディの包みを開け、既に口をオープンして待機してるミィちゃんに
「はいミヤコちゃん。夕張メロン味ですよ〜」
親鳥が雛にエサをやるようにツイと指でアメを口に入れた。何となくほのぼのな結末に安堵と疲労の溜息をコッソリと吐く。しかしヒットマンを今まで、え〜っと何人だ? 4人かな? それだけ仕掛けて被害がアメ一袋だけで代償が豪邸一軒ね。返す返すもひどい戦果だよマフィアさん。一方でお姉様はアゴに手を当てて目を細めながら
「ただこれでアイツらは黙ってはいないはずだ。それなりに警戒した方が良いだろう」
呟く。その通りだろうね。ああいう連中は裏も表もメンツが全てだからさ。分りやすく言えば舐められたら終わりの商売ってこと。素人相手にここまでやられて何もしないようじゃ廃業決定だもの。報復は必ずあると見て間違いない。ミキさんはそれに赤い瞳を流しながら
「ヤキ入れが足らないということですか? それなら今からでも喜んで骨一つ首一つでも……」
「姉貴、まだアメちゃんのこと根にもっとるやろ?」
桃ちゃんがカツサンドを咥えたまま額にドヨンと青線を降ろしている。食べ物の恨みは怖いねマジで。隣で美月ちゃんは皆の顔色を伺いながら
「でも、ああいう人達ってすごく執念深いじゃない? マリリンだって今回狙われてるくらいだし……」
不安そうに呟くああ可愛い。そういえば何年も前にアメリカテキサスでシンシアちゃんに返り討ちにあってるよね神条さん。キャッスル何とかっていう州法でさ。普通はあれで懲りるだろ。俺は腕組みしつつ
「すると、脅迫状とは別件でミキさんが狙われる可能性があるわけ、かな?」
隣のツインテールに尋ねてみる。マリサは俺に頷いてから
「もちろんミキさんもだけど、ミキさんに手が出せなくなったらそれに関わる人を狙って来るでしょうね」
言いながら携帯のワンセグ放送を切った。あ〜嫌だねそういう連中。直接折れないとなったら今度は間接的に折りに来るわけか。今回のミユキ先輩の件でも、本人に脅しが効かないと悟ったから俺達に標的を変えているんだろう。”自分だけの問題じゃすまなくなるよ”って。だけどそんな形でミユキ先輩をゲット出来るとか本気で考えてるんだろうか。金持ちというかマフィアの思考は良く分からないな。貞っちじゃないけどさ。腕組み。
その時”なんか静かだな”と思ってふと見ればミキさんが俯いている。腕を解いて
「ミキさん? どうしたの」
声をかけると彼女は顔をあげずに
「ごめんなさい。また迷惑をかけてしまいましたね私」
元気の無い声で呟いた。そうして肩を落としている彼女にマリサは”あ”と一瞬口に手を当ててから
「ごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃなくて……」
弁解するように手を振る。さっきミキさんの言った”また”というのは言わずもがな。彼女と始めて出会ったとき、つまり俺達がミキさんに襲われたときのことだ。
あの事件に関しては鋭いフックをもらった俺や、お姉様の救援が間に合わなかったら死んでいたかも知れないマリサですらもう気にしてないのだ。そのことは既に何度もミキさんには伝えているんだけど、今でも時々何かの拍子に思い出しては部屋で一人落ち込んでいるという事があるのだ。
考えれば考えるほどに友人、家族想いの強いミキさんが何故あんなことをしたのかさっぱり分らないんだけど、以前にミユキ先輩に聞いたところ、説明の難しい”悲しい事情”があったらしい。俺にはその理由や事情は聞いていいものか分らないので、彼女が自分から口を開いてくれるのを待とうと思う。
マリサは俺に青い瞳をチラっと向けて
”助け舟出してキョウ”
珍しく弱気なアイコンタクト。それに頷いてから俺もミキさんの方を向いて
「いや、むしろ”ありがとう”だよミキさん」
明るくそういいった俺に顔をあげる彼女。続けて
「これまでの脅迫とか嫌がらせで皆かなりストレス溜まってたし、ミキさんの一暴れで皆良いガス抜きになったよ」
親指を立ててクールに微笑む。次にお姉様へ流し目。すると
「何にしても」
ミユキ先輩もミキさんの方を向き
「あの神条の跡取りが私に熱をあげている間は、皆が狙われている事に変わりはないからな」
うまく繋いでくれた。それにそもそも”たかがアメ”って言い方したらミキさんが怒るかも知れないけど、彼女がそれだけの理由で神条の屋敷に殴り込んだとは誰も思っていない。もっと突っ込んだ言い方をすれば、彼女はやっと手に入れた”自分と仲間達の居場所”を”部外者”が傷つけようとしたことが許せなかったのだ。
一般的な考え方からすれば今回の仕返しはやり過ぎなのかも知れないけど、そういう意見に俺は”個人を平均的な物差しで計るのは待ってほしい”と答えたい。もちろん何でも個性や性格という言葉で説明をつけようとするのは間違いだと思うけど、それだけ彼女にとって今の居場所が大切なものなのだと考えてくれたら俺は嬉しい。まぁ贔屓目に見ても彼女が過激で排他的な面が強いのは認めるけど、そうなった理由に関係しそうなことをおいおい話せたらと思う。
俺やミユキ先輩の言った言葉を吟味するようにミキさんがゆっくり頷いていると
「ちょっと待った」
俺の頭上からヌっとクマのように大きな手を出したのはヒロシだ。こいつ何か余計なこと言うつもりじゃないだろうな? 俺は背もたれにグっともたれてブリッジするように後ろを向き、
”ミキさんって意外にセンシティブだから空気読めよ?”
ヒロシにアイコンタクト。シロクマはまるで分かってないようで”ん?”と俺に首を傾げてから周りを見て、でも自分が”まるで分ってない”という事態にいるのは理解してるのか頭を掻きつつ
「だからあれって異常気象なんだろ? なんでミキさんが気にしてるんだ?」
場がさらにシンとなった。想像だにしなかったマヌケ発言に皆がポカンとなっているのだ。ミキさんも赤い瞳の目をパチクリとさせている。その沈黙を”クスリ”と破ったのはミィちゃんで、いつものように人差し指を立てて
「うん、お天道様のしたことなら仕方ないですね、マストビー?」
桃ちゃんにウィンク。それを受けた関西娘も超珍しく空気を読んだようで
「ま〜天気ならしゃーないわな」
両手を後頭部に当ててニっと笑う。美月ちゃんとマリサは互いに顔を見合せてから瞬き、でもすぐにクスっと笑い、ミユキ先輩も窓の外を見て表情を隠してるけど、窓に写っている端正なお顔は笑顔だった。そんな中でミキさんは一人納得いかないようにむずがゆそうに鼻を掻いてるけど、でも口元は少し緩んでるように見えた。そんなミヤコシスターズの反応を一通り見てからヒロシは俺を覗き込むように見下ろして
「なぁキョウ、やっぱり俺まずいこと言ったのか?」
腕を組む。つくづく間抜けなコメントにに思わず噴き出しそうになって
「いや、なかなか冴えてたぞ。グッジョブ。あと日陰になるしムサイから寄るな」
ポンと後ろ手で腹を叩いておいた。ほんと自滅型の救世主だおまえ。
時間は昼休み終了間際になってようやくここで本題。ミユキ先輩が俺達の教室にいらっしゃった理由は世間話をしに来たのでもなければ
「美月と八雲のお弁当を食べに来た、というわけでもなくてな」
クールな表情で髪をサラサラと流しながら仰った。今日も髪はツヤツヤお手入れ万全。しかし俺のお弁当取り分を7割も食べられてからではそれも怪しいと言うもの。かといってここで物欲しげな顔をしてまた朱色の包みをオープンされてはたまらない。”あーんしろ”と言われてもたまらない。食べちゃうから。でもそれじゃさっき美月ちゃんのクッキーを食べて保健室に搬送されたシロクマと桃介の二の舞だ。”バカ”は二人で良いと思う。つまり武士は食わねど高楊枝。
さて実際、緊急時に備えて休み時間もなかなか教室を離れない美人生徒会長が果たしてどんな目的でやって来たのかクラスメイト達も興味津々(シンシン)のようだ。前は手作りクッキーを直接食べさせてもらうというトンデモ事件もあったことだしね。ミユキ先輩は腰掛けていた窓際からトンと降りて
「実はお前に用があってな」
仰いながらお姉様は足元に置いていた制定カバンから何かを取り出して
「読んでくれ京太郎」
スっと俺に差し出したのは一通の手紙。
”携帯でメールが打てるこのご時勢に手紙とな”
思いながらも丁寧に封のされた白いそれを受け取る。隅にさりげなく描かれた可愛いカニのイラストをマジマジと眺めていると
「必ず一人で読んでくれ」
いつもと少し声色が違ったので顔をあげる。ミユキ先輩の表情はいつもと変わりはない、でもほんの少しだけ頬に赤みがさしているような気もする。そのまま顔を思わず眺めていると
「お前の返事を放課後、屋上で聞かせて欲しい」
念を押すようにお姉様は小首を傾げた。それはつまり
「はい、分りました先輩」
この返事を待っていたということ。ミユキ先輩はそれに”うん”と頷くと
「必ず一人で読んでくれ。約束だぞ?」
そう残してから教室を出て行った。そういう趣旨ならこっそりと俺に渡せば良いと思うんだけど、なんでこうして堂々わざわざここで手渡すんだ? 意図が読めずにその後姿を消えた後も教室扉を眺めている俺。人差し指で頬をかきながら
「何だろうな。わざわざ手紙にしたためて手渡して、それで一人で読んで屋上で返事を聞かせろ、か」
”ふ〜む”と思案していたらそこで今までとは桁違いの殺気を発しているクラスメイト諸君に気付いた。周りを見渡すと黒紫と赤い殺意の波動で教室の空気が蜃気楼宜しく淀んでいる。いや意味が分らないぞお前ら。ていうかなんで女子までキレてんのよ。俺は隣で面白くなさそうにしてるツインテールの方を向いて
「状況解説求む」
無駄に親指を立てて告げるとマリサはワザとらしく溜息を吐いて
「やっぱりあんたバカね」
やっぱりバカだそうです。それでも俺が純粋に状況を理解していないのだと悟るとマリリンは俺の鼻を人差し指でグジっと押しながら
「あのね」
と切り出して
「滅多に教室から出ないミユキ先輩が前はわざわざここに来て手作りクッキーを直接キョウに食べさせて、今日は手紙を持って直接キョウに手渡した。それから一人で読んだ後に放課後、それも屋上で返事を聞かせて欲しい。これだけフラグが用意されててアンタ本当に周りが何も勘ぐらないと思ってるの?」
グリグリと鼻を押すマリサ。いや、そうやって整理されたら思い当たるものもあるけど、かなり。まさかね……? チラっと美月ちゃんを見れば彼女もツンと口を尖らせて何だか面白くなさそうだ。え? これもフラグか何かですか? そんな妄想を始めようとしてる俺の鼻をマリサはさらに強く押し込みながら
「で、いつからキョウは”京太郎”って呼ばれるようになったわけ?」
青い瞳の目を細めながら問い出す。あ〜、それは昨日からだけど
「でもそれとこれとは関係……」
「ないほうがおかしいんじゃないかしら?」
被せるように言われた。それじゃやっぱりこの手紙……と手元を見ようとしたらいつの間にかない。慌てて見渡せばミィちゃん。彼女が手紙を両手で掲げてお日さんに当てながら
「エロイムエッサイム〜エロイムエッサイム〜ここに封じられし言霊を……」
悪魔めいた力を借りてっていうか普通に光で透かし見ようとしてます。それを慌てて取り上げて
「ミィちゃん。お兄ちゃんの手紙取ったらメー!」
振り向いたミィちゃんの小鼻に人差し指を当ててお説教。
「ご、ごめんなさい兄さん。ミヤコセンサー的にどうしても中が気になって……」
さりげなく上目遣いで謝ってるミィちゃんに萌え萌えしつつ頭をポンポンと撫でる。そしたら
「……でも」
何か言いたいことがある模様。
「でも、どうしたんだいミィちゃん?」
聞き返すと何となく言いずらそうに、でもマリサ(ネェサン)の目線のせいもあってかオズオズと口を開いて
「”断るなら京太郎を斬殺する”って文脈があったような気がしますメイビー」
8月4日:説明不足に加えて文章も間もダメダメだったので修正多めです。
後でまた見直していきますけどいったんこれで再投稿。