第8話:手縫いの御守り
西日の差し込む柔道場。事件の報告をシンシアちゃんから受けた後、俺とミユキ先輩は遅めの部活を始めていた。もうヒットマンのターゲットから外れているミィちゃんは余計なトラブルに巻き込まないため、一足先にマリサと八雲邸に帰宅してもらっている。だから今日は久しぶりに二人だけの練習だ。もう狙われていないという意味ではミユキ先輩もそうなんだけど、家に帰らずにこうして俺と柔軟体操してくれているのは言うまでもない。俺の護衛という事なのだ。
脅迫状の順番から行けば今一番気をつけないといけないのはミキさんで、それから順番に美月ちゃん、桃ちゃんと続き、俺なんかは”園田家の命”っていう要領を得ないものをのぞけば最後なんだけど、それでもなぜミユキ先輩が俺のそばにいるかと言えば非常にシンプル。ミキさんには護衛が必要なく、次の美月ちゃん、ミカちゃんは桃ちゃんが護衛しているから問題ないとのことだ。桃ちゃんがどのくらい頼りになるのか俺はまだ知らないけど、ミユキ先輩が自分の妹達を預けている辺りがそれを示してるような気がする。で、だからつまりは俺が一番危ないのだそうだ。
それなら京太郎君はさっさと家に帰ってガタガタ震えていれば良いという話なのだが、役員会議室から桜花ホールまでの道のりで、情けないながらもそれをミユキ先輩に進言したところ、お姉様は
「訳の分らない連中にあまり生活のリズムを変えられるのも癪だからな。出来る限りはいつも通りにやろう」
と仰った。納得しかねている俺に続けて
「心配するな。何があってもお前は私が守ってやる」
ニコリ、だ。この辺りの対応は園田美雪っていう人間を象徴してるような気もする。
そんなことを思い出しつつ隣で180度開脚してるお姉様を見ていると、ミユキ先輩はその栗色の瞳を俺に向けて
「開きが悪いのか? それなら湯浴みの後に体を解すといいぞ」
的外れなアドバイスをくれた。
受け身一式、筋トレ等の基礎練習が終わって立ち技の練習。ミユキ先輩は右手で俺の胴着の襟を取りながら
「掴む時は小指に力を込めるんだ。親指は襟の上から被せる程度で構わない」
それから次に左手で俺の右袖を取って
「背負いで大事なのは力ではなくその向きだ。相手の重心を崩す事を考えろ」
言って背を向けながら俺の懐へゆっくり入り込み、袖を引かれたかと思うと腰を軽く跳ね上げられただけで俺の体は見事に一回転。受け身で畳を打つ音が静かな柔道場に響いた。お姉様は俺を見下ろしながら腕組みして
「京はお前より力が強いが体重は40そこそこだろう。力負けしたらむしろそこが狙い目だ。引き込んで腰を跳ね上げてみるといい。さすがに体格の大きなお前が背負いを狙ってくるとは思わないはずだ」
と、また的外れなアドバイスをくれた。このまま練習を続けてもたぶん俺は集中できないだろうな。いつまでも立ち上がらないせいか
「どうした? 重心移動のイメージがしにくいのか?」
ミユキ先輩は小首を傾げた。俺はそれに
「いや、そうじゃないんです先輩」
答えて立ち上がり、帯を締めなおす。そしてあの役員会議室で本当に言いたかったことをここで切り出すことにした。俺はミユキ先輩の目を見ながら
「今日、美月ちゃんから聞きました。あの脅迫状が届く前から先輩の神社に嫌がらせの手紙が届いたり、帰りに後をつけてくる奴がいてたんですよね」
尋ねる。するとお姉様は眉を潜めた。
俺が聞いた内容の一部を申し上げると、まぁこんな具合。
一昨日の朝のことだ。美月ちゃんと妹のミカちゃんが仲良く学園に登校しようと園田神社の鳥居を抜けた時、石階段の下にはグラサンに黒スーツという分りやすい不審なおっさんが立っていたのだ。二人とも無視を決め込んで脇を通り過ぎようとしたら、すれ違いざまに
「神条財閥の名を語る殺し屋から……」
こう切り出してきたらしい。そこで美月ちゃんもミカちゃんも足を止めてしまう。このおっさんは続けて
「”悪戯の手紙”が届いたそうですね。親切な警察には相談されましたか?」
これまでの経緯や自分達が置かれている状況については、美月ちゃん達もしかるべきところに連絡している。しかし残念ながらマリサの言ってた通り、本当に伝えたいこと、対応して欲しいことについては証拠不十分、関連性が希薄ということで保留されたのだ。もちろんそのことを知った上での嫌味だろう。立ち止まっている二人の前にゆっくりと回り込み、さらに
「迷惑な話です。我々も神条財閥のメンツにかけてヤツらを捕まえるつもりですが、及ばずながらミユキさんをお守りすることが出来ませんでした」
と二人を威圧するように見降ろしてきたらしい。後でミカちゃんに聞いた話だと美月ちゃんはちゃんと前に立って庇ってくれたそうだ。優しいお姉ちゃんだよね。さらにこのグラサンは
「武芸達者なミユキさんだから事なきを得たものの、同じく狙われている貴方達だったら今頃どうなってたでしょうね。寛大なお坊ちゃまはミユキさんや貴方達の身を案じて、ここにも見張りをつけるよう強く父君に訴えたのですが……」
そこで薄気味悪い笑みを浮かべてから
「やはり”他人”にまで貴重な護衛を割く余裕はないとの結論になりましてね」
仰ったそうだ。この”他人には護衛は割けない”ってセリフ。この奥には何かが隠されてると思わない? ほら、マリサが言ってたあれ。暗に要求を伝えるってやつ。続けてこのグラサンは
「我々、神条財閥の誇るボディガードがお守りすれば、どんな殺し屋が来ようとも貴方達には指一本触れさせない自信があるのですがね。これもミユキさんのお気持ち一つですが」
と、”単にお前達が雇ってるヒットマンが襲ってこなくなるだけだろ”と突っ込みたくなるような事を言い、最後に
「その件も踏まえて近日、貴方のお母さんとミユキさんの元にまたお坊ちゃまが御足労なさることがあると思いますので、良くお考え下さい」
そう残して立ち去ったそうだ。これもマリサが言ってたあれだよね? ”言うことを聞けば脅迫が終わるよ”っていうさ。早い話が襲われたくなきゃミユキ先輩が……言うのもおぞましいのでやめよう。
とにかく問題はこれだけじゃない。実は脅迫状が届く前から不愉快な手紙がミユキ先輩宛に何通も届いていたそうだ。美月ちゃんは最初、送られて来た事さえ知らなかったらしいけど、たまたま神社の本殿を掃除していたらその裏に背中を預けて一人手紙を読んでいたミユキ先輩を見つけ、声をかけようとしたら無言のままそれを険しい表情で握り潰したのだそうだ。
そんなことがあって依頼、美月ちゃんは心の片隅に不安を抱えて過ごしていたら件の脅迫状が届き、そしてあのオッサンがやって来た訳だ。さすがに心配になった美月ちゃんは桃ちゃんに相談し、結局二人でお姉様に尋ねるとその結果、握りつぶした手紙にはなぜか俺を襲うような内容が書いてあったらしい。人気者だね京太郎君。
二人はミユキ先輩から
「すまないが、このことは口外無用で頼む」
と他の皆には黙っておくよう口止めされらしいけど、”それでも本人には”ということで俺には教えてくれたのだ。で、さっきから気になっていたというのはもちろんそのことだ。
俺は美月ちゃんや桃ちゃんから聞いたその内容を、目の前で腕組みしているミユキ先輩に全て話し、それから
「どうして秘密にしてたんですか?」
直球で聞いてみた。するとミユキ先輩はいつものようにクールな笑みを浮かべて
「黙ってて悪かった。隠すつもりはなかったんだが、余計な心配をかけたくなくてな」
話をサラっと流す。その平常通りな対応が何だか悲しかった。思わず溜め息が出そうになったけどそれを飲み込む。ウザイ態度は取りたくないけど、だけど言いたいことは言っておこう。俺は俯いてしばらく下唇を噛みながら思案して、けどやっぱり下手に考えるのはやめて気持ちをそのまま伝えることにした。顔をあげてミユキ先輩の目を見ながら
「あの、園田先輩」
切り出す。すると
「今度はどうしたんだ」
と優しく答えるお姉様。今度も何も今の続きに決まってるじゃないか。分っててもこうしてトボけるのはきっと気を遣ってくれているんだろうな。でもそれじゃダメなんだ。俺はその場で正座して、腰に手を当てて姿勢を正す。
「すいません先輩。たぶん今から失礼なこと言うと思うので先に謝っておきます。だけどブツのは後にして下さい」
頭を下げる。こんな態度を取るのは初めてだからだろう。ミユキ先輩は一瞬だけその瞳に動揺の色を浮かべた、が、すぐに
「話してみろ」
といつもの冷淡な表情を浮かべて俺の目を真正面から見下ろす。もちろんその鋭い目線を真正面から受け止める。ここで逸らす様じゃ俺の言葉に重みがなくなってしまう。息を短く吸ってから
「自分で言うのもなんですけど俺、ハッキリ言って滅茶苦茶弱いです」
第一声。それに目を細めるミユキ先輩。そのまま続けて
「たぶん先輩と比べたら、力にアリと恐竜くらいの差はあると思ってます。だから銃を持ったヒットマンから先輩を守ったりとか、一緒に戦ってやっつけたり出来るとか、そんな事はこれっぽちも思ってません」
そこで少し間を置く。お姉様はウンともスンとも言わず腕を組んだままだ。俺は高鳴りそうになる心拍を落ち着けて
「でもです。そういう殺し屋とかモヒカンとかの撃退が先輩にしか出来ないように、逆に俺にしか出来ない事もあると思います。大したことじゃないけど例えば……」
例えば……何だ? 下を向いて考えたいけどここで目を逸らしてもダメだ。
「例えば……」
マフィアを掃討できるような権力やコネでもあるとか? 金に物言わせるような財力があるのか? いや、だから考えるな。俺は一度息を吸ってから
「……先輩を笑わすとか」
お姉様は思わずパチクリと瞬き。アホ確定だな京太郎君。死にたい。だけど一度マキに火をつけたら……何だっけ? まぁそういうのだ。最後までアホを通そう。
「とにかく一人で悩まれたら、そういうつまんないことだって出来ないじゃないですか。ギャグだって考えられないしその……」
出来ないからどうなんだ俺。勝手にパニくり始める。
「何ていうか、俺だって猿じゃないんだから考える頭ぐらい持ってます。先輩から何か相談を受けたら必死こいて考えますよ。それで無い知恵絞って、俺なりの答えを捻り出して見ます。あと」
本音はそうじゃないだろ俺。それに回りくどいのはミユキ先輩も嫌いだから真っすぐ行こうよ。一人決心して
「俺にも悩む権利くらい下さい!」
予想外に大きな声が出た。
「大したこと言えなくても、気休め程度のことしか言えないかも知れませんけど。それでも俺は先輩一人が悩んでるよりずっと良いと思います。ていうかそれ俺がスッゲーつまんないです!」
ミユキ先輩は眉を顰める。俺がつまんないとか何言ってるんだよ。だけど不思議と言葉が止まらない。
「楽しいことだけは共有しても、辛いことは共有しちゃダメなんですか? 別に仲間だとかそんなありふれた言葉使ってるんじゃなくて、ただ俺は」
俺は何が言いたいんだ結局。気付けば胴着の帯をギュっと握っている。最近、先輩からもらった黒帯だ。俺はまたそれを力強く握って
「楽しい時だけじゃなくて、悩んでる時も隣で一緒にウンウン唸りたいんです!」
意味不明、だ。沈黙。まさかここまで俺が痛い子だと思わなかったよ。どうしようもないな。ここでとうとう俯く。さんざんカッコつけた出だしに対して最後に吐いたセリフがこれ。顔とかあげれません。しばらそくそのままでいると
「立て後宮。お前は大きな勘違いをしてるな」
予想してたとは言え、ミユキ先輩の声色があまりに冷たかったから思いのほか心に刺さる。脆いな俺。俯いたまま黙って立つ。けどあんな訳の分からない事言ったんだから仕方なしか。呆れてるのか怒ってるのか分らないけど、少なくとも感触は良くない。顔をあげるとミユキ先輩は柔道場の窓の外、陽が沈んで薄暗くなっているグランドを眺めている。
「野球部が帰って来たな。見てみろ」
それからサラサラサラと髪を腕で流した。何を言おうとしてるのか分からないけど、とにかく言われた通りにする。桜花ホールの前、スポーツバッグを肩にかけた野球部の部員達がワイワイと談笑しながら体育館に向かっている。その中で俺に向かって手を振っているメガネのイケメンは
「加納か。そうか、あいつ野球部に入ったんだってな」
お姉様が微笑む。手短に紹介すると名前は加納志気。通称はシキで、ミユキ先輩の大親友であるアヤ先輩の弟。俺の同級生だ。俺はそれに手を挙げて応え、お姉様は小さく頷いて応えながら
「野球場からの帰りみたいだな。充実したいい顔だ」
呟いた。ともかく同じように眺める。彼らの担いでいるパンパンに張ったスポーツバッグの中には泥や汗を吸ったキャップやユニーフォムが詰まっているんだろう。練習帰りの顔には疲れの色が見えるけど、その誰もが、まぁベタな言い方になるけど楽しそうだ。たぶん先輩も同じようなことを考えてると思う。横目でチラっと伺った表情は穏やかだ。
「武装高校とあの野球場を賭けて試合をしたのは、学園の桜が散り始めた頃だったな」
回想を始めるミユキ先輩。そういえばそういうことがあったね。桜花学園と武装高校がお互いに所有権を主張し合ってて、それで試合で白黒つけようってさ。でも
「不運なハプニングがあって部員が足りなくて、俺やヒロシ、演劇部のヨードーちゃんや、ルール知らない先輩までチームに入りましたよね」
あの時は緊急事態だったから何とも思わなかったけど、今考えてみたら笑ってしまうメンバーだよな。良くあれ試合やって勝てたもんだ。つい思い出し笑いして頬を緩めた俺に
「悪かったな、ルール知らずに刀を構えて」
隣で口を尖らせるミユキ先輩。いや、そういう意味で笑ったんじゃないですよお姉様。でもその横顔が可愛くていっそうニヤけてしまう。ますます面白くなさそうな顔をするミユキ先輩。俺は話を逸らそうと
「本当にどうなるかと思いましたけど、先輩やマリサ、それからシキのナイスピッチングのお陰で終わってみれば余裕でしたね」
適当にまとめた。その試合の時も俺はせいぜいバントしか出来なかったけどさ。あぁ、やっぱりダメだな〜俺は。溜息。まだそれを吐き切る前にお姉様は俺の方を向いて
「大した奴だよお前は」
予想外の一言に思わず
「え?」
間抜けな声をもらす。それに
「お前の筋書き通りに試合が進んだから、私は正直驚いたぞ」
ニコリと微笑んだ。続けて
「最初聞いた時はどれも奇策ばかりでうまく行くか怪しいものだったが、蓋を開けてみれば最初から最後までお前の手の中だったじゃないか」
そういう言い方されると照れくさい。でもあれはですね……
「あの時はシキが”あの天才投手の七色のシキ”っていう予想外の展開とか、先輩やマリサの人間離れした力があったからこそですよ」
「さりげなく失礼なこと言ってないかお前?」
「滅相もないです」
誤魔化す。そんな俺に流し目しながら
「野球は集団競技、誰ひとりが欠けても成り立たないスポーツだってお前は教えてくれたな」
と穏やかな声で言うお姉様。いまいち言いたいことが読めなくてその綺麗な瞳を見ていると、ミユキ先輩はゆっくり頷いて
「誰にでも向き不向き、得手不得手はあるさ。私は正攻法が得意で真正面から戦うのが大好きだ。例えるなら武士が理想だな」
人差し指を立てるお姉様。うん、それはよく分かる。装備品とか見ても。
「逆にお前のように策謀を巡らせたり、隙や虚をつくような事は苦手だ」
立てている指で今度は俺の額をチョンと押しながら
「でも試合を戦に例えるならそういうのも必要だろ。戦略や戦術が。勝つためには武技に秀でた武士だけでは足りないんだ。例えるなら軍師が必要になってくるじゃないか」
額に触れている指先の感触は少しだけど、不思議と温かい。
「あんな即席のメンバーで、それもほんの2,3時間で策を打ったお前は天才軍師だよ」
指を戻してまた腕組むミユキ先輩。その不相応な褒め言葉に思わず
「俺は戦い向きじゃないのでそれくらいしか取り柄が……」
「そこが大きな勘違いだと私は言ったんだ」
コツンと頭を小突かれた。
「あいつらの楽しそうな顔をこうして見る事が出来るのは、あの時お前がいたからだろ?」
痛いからじゃなくて小恥ずかしくて叩かれた箇所を擦っていると
「怠けずに朝練に出て、部活に参加して厳しい練習にも音をあげない。実際、日に日にお前は強くなっている。私は情けや愛嬌で黒帯はやらないぞ」
言いながらミユキ先輩が指差した先、そこにあるのは俺の腰をギュっと縛っているまだ固い帯だ。”桜花学園柔道部”そして”後宮京太郎”と朱色の刺繍されている。
「最初は何回か寝坊しましたけどね」
頭を掻きながら自分で腐してみる。うわコテコテなポーズ。ミユキ先輩はそれには答えず
「我ながら良く出来ているな」
頷きながらお姉様の視線は俺の腰の辺り、つまりは黒帯。何の事か分らず
「何がですか?」
聞き返す。するとミユキ先輩は少しガッカリしたように小さく溜息を吐いてから、でもすぐに笑顔になって
「その帯の”名入れ”、私の手縫いだぞ」
アンビリーバブルな事実に京太郎君はしばし呆然。ショック状態のままお姉様の端正な顔を眺めていると、珍しくミユキ先輩のほうか目を逸らして
「と、とにかくだ」
ちょっと頬をピンクにしてから
「自分のことを弱いと言ったのは訂正しておけ。良いな」
念を押された。
「ただ、だからこそ私にも問題があった。よくよく考えたら……」
そう区切ってから俺の目を見て、
「戦をしてるというのに、あの野球場を勝ち取った軍師に相談しない手はないな」
それからいつの間にか曲がっていた俺の背筋を正すように”バシン”と強く叩いた。
「これからはお前の知恵を借りることにするよ。相談に乗ってくれ」
”ゲホゲホ”と咳き込む俺にニコリとした。その笑顔を見てつくづく思った。やっぱり俺とミユキ先輩にはアリと恐竜ぐらいの差があるって。でもそれは力だけじゃなくて人間的な意味でも。お姉様の悩みを少しでも軽くしようとアホみたいなにまくしたてて、まぁ結果自爆したけど、それでも呆れられても何でも良いから笑ってくれたらって思ってた。でも気付けば逆に俺の方が元気づけられてるじゃないか。いったい何なんだよこの人……。見つめている俺に
「体が冷めてしまったな。もう遅いし、今日はここまでにしようか」
腰に手を当ててミユキ先輩。そこで我に返って
「はい。お疲れ様です」
お辞儀。それに
「うん。お疲れ様」
笑顔で頷き、そして更衣室の方に歩いていくミユキ先輩。その後ろ姿をまた見送っていると更衣室の扉に手をかけたところで立ち止まって
「それから」
長いツヤツヤの髪を揺らして振り返り、クールな笑顔だけど何故かお姉様はほんのり頬を染めて手を後ろで組み
「心配してくれてありがとう。嬉しかったぞ京太郎」
それだけ言うとまたクルリと向きを変え、更衣室に入ってトンと扉を閉めた。あ〜今の表情やばいな〜可愛いな〜反則だろ。それに”ありがとう”だって、ありがとう……って。
「って、先輩! 今俺のこと京太郎って呼びませんでした!?」
その日、駅前までの短い二人だけの帰り道。何となく会話がぎこちなかった様な気がする京太郎君でした。
あとその日から俺は、この帯だけは毎日カバンの中に入れて持ち歩くことにした。黒帯ってやっぱり嬉しいよね? いや、深い意味とかはないからね。たぶん。
新事実! ユキたんは裁縫が出来た!
こんにちは。無一文です。暑い日が続いてます^^
まずはお礼を申し上げます。
「読んでるよ」「誕生日おめでとう」
メッセージを下さった読者様、本当に有難うございました!
まだアクセス数確認できない状態なので本当に助かります^^
今話のテーマはキャラの掘り下げというとこでしょうか。
お姉様はまぁ相変わらずですが、京太郎君。
いざというときはいつものクールなセリフが出ない子なのかも知れません。
で、本当は今回書きたかった内容が次話になりました。
今ルートの雰囲気、スタイル、展開が一番濃く出る話になると思います。
そして私が一番描いてみたかった部分ですね。ウズウズするのでちょっとだけネタバレ。
「初の私服」「あの喫茶店」「まさかのバイト先?」「禁断のドリンク」
香ばしいと思いませんか!? 思いませんか!?
すみません自重します。
あと感想、評価、メッセージは年中無休で募集・渇望中です。
モチベ向上のために愛を下さい(爆)
それでは今回はこの辺りで。引き続き本拙作をお楽しみ下さい^^
PS:
「あの喫茶店」はもちろん第一部の”土曜日の過ごし方”で出てくる喫茶店ですよ〜
ヨードーちゃんのバイト先ですね。