天から舞い降りた堕天使の誕生
かって──世界は4つに分け離たれていた
無より理を得し世界、何者も抗えず死すらも凌駕する───「天界」
己が魔こそが、唯一絶対の力とし他を蹂躙し支配する───「魔界」
その2界に、挟まれながらも独自の文明開化の下に暮らす「人界」
そして───存在するかも分からない行き方すらも不明な世界「裏世界」
今はまだ、この裏世界の事については時期を見て話すとしよう。
世界はその4つから成り立っていた。
だが──突如…世界のバランスが崩れる事件が発生する形となった。天界にあった地上への扉[天門]が魔族によって支配されたのだ。
魔界が、下界に戦争を仕掛けた。
圧倒的な数の暴力と、魔法による蹂躙で、下界は元々あった世界の半分を魔界に支配された。
二界が戦争してる中──
天界では、地上の様子を見ていた天王が、自らの神殿に幾多の天使を集める。
その中には、上位天使の熾天使、智天使、座天使は勿論の事。
中位天使の主天使、力天使、能天使。更には下位天使の権天使、大天使。そして、見習いの天使達までもが居る。
それら一同が、天王の御前の下、頭を垂れ跪く。
「よくぞ集まった。勇敢なる我が子達よ」
天王の声が辺り一面に響く。
一声一声に、神力が乗せられてるのか聞く度に体が震えてならない。
「天王様の御前だ、面を──」
天王の右脇にいる熾天使が一同に命を下そうとした時────
天王の声が熾天使の命を遮る。
「よい……聞け!!!!我が子供達よ!!今、世界は魔界と人界の戦争により、世界のバランスが崩されようとしている。」
天王の声が響くと共に、頭を下げていた者達は一斉に天王に視線を向け天王の声を聴き逃す事が無きよう聞き耳を立てる。
「魔界は人界に住みし人間を蹂躙し燃やし虐殺の限りを尽くした。我ら天界にとって、魔界は真逆なる存在!また、我らを敬う敬愛なる教徒達がいる人界にも手を出した野蛮なる蛮族。皆は、この惨状を許せるか!!!!」
天王の声が響くと共に黙って聞いていた天使達が一斉に声を上げる
「許せるはずがない!!秩序こそが、この世界絶対のルールにして正義。
それらを、乱す魔族の存在は許し難い。」
1人の天使が声をあげると連られて他の天使も声を高らかにあげる。
「そうだ!!我らこそが絶対なる正義。今こそ、奴等に断罪の時を。」
天使達の気持ちは1つになったのか誰もが声高らかに──────
「「「「「断罪の時を」」」」」
と吼える。
「嬉しいぞ、我が子達よ!!そうだ、我らこそが絶対なる秩序を重んじ者。
それらを、妨げる存在は排除せよ」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオ」」」」」
そして、熾天使率いる天使軍は総勢200000の数を引連れ魔界に戦争を仕掛けた。
血の雨や絶叫が鳴り響く。魔界にも老若男女は疎か幼子もいるだろう。
それも軍に直接関わりあいも無く、人間と共存して暮らす魔族も。
天使の軍団は、それらの存在にも一切の慈悲すらなく根絶やしにする。
だが、そんな中1人の熾天使が自らの行いに疑問を見出した。
「……何故、軍に関わりあいすらない幼子や、共存して暮らす者まで殺す必要があるのだろうか……」
熾天使がそう呟いた時、熾天使の背後より1人の魔族の少年が涙を浮かべながら、手に持つナイフにて熾天使に対し斬りかかった。
間一髪で、避けたもののバランスを崩し、地面に腰を付いてしまう。
少年は、そのチャンスを逃さず熾天使に馬乗りになりながら叫んだ。
「よくも…よくも…!!!!僕の家族を殺したな!!!!お前らは絶対に許さない!!!!僕の手で殺してやる!!!!」
見ると──少年の横には、天使の槍で胸を貫かれ息絶えている母の姿があった。
「………すまない………」
「ふざけるなぁぁぁ!!!!!!」
少年はそう言って、手に持ったナイフを熾天使に振り下ろそうとした時、少年の背後にいた智天使の手により、両胸を槍で貫かれた。
「危ない所でしたね、大丈夫でしたか?」
「……ああ…………」
熾天使は智天使の問いかけに対し、そうとしか言えなかった。
「それにしても……我等が、天王様の意思に背く愚かな魔族には心底恐れ入りますね……。虫けらは、黙って地べたを這いずれば良い者を…」
「……智天使よ……我等は間違って居るのだろうか?相手は無抵抗な子供なのに手掛けてしまうとは…」
「甘いですね?我らが、主の命に背く愚か者ですよ?そこに、幼子だがらと言って、許される道理はありません!!等しく。平等に。死を与える。それが王の、ご意志であり!!私達、天使の使命なのですよ?忘れたのですか?熾天使ともあろう貴方が。」
「忘れてはいない……だが、無抵抗な者まで、殺す必要は無かった筈だ!!王の意思だからと、私は涙を流し私にナイフを振るう、この子に何も言い返せなかった……。今回の戦争に至っては、魔族の軍隊を根絶やしにするのが主な目的だった筈!!何故、軍以外の魔族も殺す必要があるのだ!!」
熾天使の気迫に、気圧されていた智天使は顔を歪めると共に、熾天使の目の前まで瞬時に移動した。
「やれやれ、貴方は主の命に只黙って従えばいいんですよ?このガキのせいで、余計な知識を覚えたようですが……王に逆らった所で貴方に未来などありませんし。ここで死ぬ者に慈悲も必要ないでしょう。」
智天使は、そう言うと手に持っていた槍で、熾天使目掛け攻撃する。
目にも止まらぬ速さでの攻撃を、間一髪で避けつつ、天使の力で生み出した剣を片手に槍を弾き、熾天使と智天使は相対する形になる。
「ほう?魔力にて剣を創りましたか……なるほど、これで貴方は完全に天王様に反逆しましたね……ククククク……」
「そうだな!だが、それがどうした!!貴様らの様な獣に、成り下がるならば、私は、王の意思に逆らおうとも構わぬ。」
「貴方には心底失望致しました……もういいでしょう?ここで死になさい。」
智天使はそう言うと、天高く舞い上がり!手にした槍に、天使力を宿し込み巨大化させる。
「死に絶えなさい!!熾天使よ。我が槍に貫かれ塵さえ残らぬよう消滅させてやろう」
智天使はそう言うと、巨大化した槍を熾天使目掛け投げ飛ばす。
そのスピードは、時速300万kmの速さ!!熾天使の目の前まで、槍は迫るが熾天使は智天使が、槍を巨大化させたのと同じく、自らの剣に天使力を宿し、巨大化させ受け止めた。
2人の攻防により、大気は震撼され、森の木々は余波によりなぎ倒されていき、大地には亀裂が走る。
「「グオオォォォォオオオオ」」
2人の攻撃は、鍔迫り合いのように逼迫する。
互いに1歩も譲らぬが、熾天使と智天使とでは、天使力に差があったのか、此処に来て差が出てきてしまった。
熾天使の魔力が、力を増し智天使を圧倒したのだ!!智天使は、自分の魔力をフルに槍に対し注ぎ続けるが如何せん遅すぎた…。
熾天使の剣より、発生した剣戟によって。槍諸共、智天使を斬り伏せたのだ。
「ば…ばかな…貴方ごときに何故そのような力が……」
「さあな……貴様には一生分からぬものだ……獣に成り下がった貴様にはな。」
熾天使は智天使に振り抜きもせず、
天使の大軍に対し、自らの剣で持って戦いを挑む!天王の前に赴き主の本当の気持ちを知りたいが故に。
「そこを退け!!!!退かねば斬り捨てる。」
熾天使の気迫に、圧倒されたのか
200000にも及ぶ天使の軍団は、誰一人として動けなかった。
頭では、主の命に従い熾天使を止めなければならない事は、理解していたが…。
智天使というリーダー格を、失った今となっては誰一人として、熾天使を止められる者など居なかった。
熾天使は、そのまま天界にある神殿へと入る。
勿論、唯では入れぬよう門には智天使や座天使クラスが大勢配置されていた。
その数まさに5000。
恐らく、熾天使が反逆するだろう事は、予測できていたのだろう。
天王は、智天使1人に20000にも及ぶ下級天使だけの軍で、魔界に攻撃を仕掛け。
主な主力部隊を、こっちに回したのだ。
「読まれていたと言うのか……私が反逆する事を…。」
「当たり前だろ?俺らの主だぜ?テメェの考えなどお見通しに決まってんだろうが」
座天使の1人が熾天使に対して口を開くと横にいた智天使もまた口を開く。
「地上で我らが同胞を1人屠った様だが、此処にはその倍の数がいる。今度こそ終わりだぞ熾天使。」
5000にも及ぶ智天使と座天使は一斉に槍を構える。
そんな、ピンチの状態にも関わらず。
熾天使は、可笑しな者を見るかの如く大笑いしていた。
「クッククック....フハハハ!!!!!これは愉快だ!まさかこの程度で我が足を止められると本気で思われていたとはな……実に傑作だ!!!かかってきな雑魚ども!!!」
「あ?ついに頭がイカレやがったのか?この数を前に、大笑いしただけでなく余裕までかますとはな」
「おそらくは、ハッタリでしょう?まさか、我等を雑魚当然だと思っていたとは憤慨ですね。
総員、天使力を槍に込めた後、熾天使に向かって撃ち放て!!!!!!」
5000の天使達が一斉に槍を放つ。
熾天使の目の前まで槍が迫った時、
熾天使の背中から何かが光り「強欲之力」と唱えた。
熾天使の背中より、光り輝く強欲の紋章が浮かび上がると共に、魔力を帯びた槍は跡形もなく消滅する。
「ばかな……ありえないだろ!!」
「大罪スキルだと……なぜ、貴様が持っている!!!!」
智天使と座天使の2人が怯える様が伝わったのか、周りにいた者達も狼狽え始める。
在る者は発狂し、また在る者は死を覚悟したのか、自らの終わりを悟る。
「何故だと…それは、このスキルの本来の持ち主が私だからだ!!死に絶えよ!!強欲のスキル、強欲之力にて、万物すら残さず粒子に変えてやろう。」
熾天使が再び強欲の紋章が浮かび上がり、目の前にいた5000の天使全てが光の粒子に変わる。
宣言通り、智天使や座天使達は塵さえも残らず、この世から粒子となり抹消されたのだ。
熾天使は、智天使達が消えたのを確認すると、門を開き神殿への道を開く。
荘厳なる白と金の基調と、古代ギリシャ神殿を思わせるかのような神殿が、熾天使の目の前に現れる。
熾天使が神殿の中へと入ると、
待っていたのか…熾天使の周りの空間が歪み始め、底なし沼にあったかのように飲み込まれる。
飲み込まれた先は、天王への謁見の間に通じていたのか。
玉座の間にて肩肘を付きながら足を組み如何にも王を思わせる態度で壇上より熾天使を見下ろす者がいた。
「天王よ!!…これはどういう事ですか?貴方の命により、私は無抵抗の多くの魔族を殺してきました。
ですが、彼らは戦えない無関係な者達、それでも討伐する意義はなんなのでしょうか?」
熾天使は天王に対し、自分の意見を言うべく言葉を連ねるが、次の天王の言葉により全てかき消される。
「貴様こそ、一体どう言うつもりだ?多くの同胞を、その手にかけ殺し、我が前に姿を現すとはな………死にたいのか?小僧!!!!!!!!」
天王はそう言うと、瞬時に熾天使の目の前に現れ、熾天使の顔を鷲掴み持ち上げる。
「ぐわぁぁあああああ……は、離せ……天王よ………」
「フハハハハ!!!!!!貴様、まだ我が強さを知らぬのか、おめでたい者だ。冥土の土産に真実を見せてやろう…」
天王はそう宣言すると、空いている左手にて、自らの顔を引っ剥がした。
そして天王の禍々しい気を放つ16枚の白翼を出した。
「我は天王ガルア!!神煌冠座の一柱であり初代天王!!我が前に立ちし愚かなる熾天使よ!!!!貴様の全てを、我が神座スキル強奪にて奪ってくれるわ!!!!!!」
天王はそう言うと、神座スキル強奪を発動し、熾天使の大罪スキル以外のあらゆるスキルや能力を奪った。
「ふん…やはり、貴様のそのスキルを奪えぬか。だが、それ以外の物は得た!!もはや貴様には用は無い。我が剣の前にて消え去れ!!熾天使よ!!!!」
その言葉を最後に熾天使は下界へと堕落し、堕天使が誕生したのだった……。