■ゆうの助、相撲大会でぶっ飛ばされる
今年も年に一度の相撲大会の日がやってきた。この村では毎年子供だけの相撲大会が行われ、一等になった子供には米一升と、箱いっぱいのお菓子がもらえる。その他にも、一回でも勝った子供達にはとてもおいしそうなお菓子の袋がもらえる。村の子供達はそれが楽しみでしょうがなかった。しかし、ただ一人、雨雲のようにどんよりと落ち込んでいる子供がいた。ゆうの助である。
ゆうの助はなにをやるにも意気地なしで、相撲大会がいやでいやでしょうがなかった。去年の相撲大会では、結局一回も勝てなかった。しかも年下の女の子にさえもこてんぱんに投げとばされた。
「はあ~。今年もどうせなにももらえないんだ」
ゆうの助は最初っからがっくりと肩を落として相撲大会の会場に向かった。
そこにはもう、たくさんの子供達が集まっており、村の人たちのほとんどが集まっているかのようなすごい人だかりだった。ゆうの助はどぎまぎしながら周りを見まわした。会場の片隅にある神社の柱の陰で視線が止まった。その時ゆうの助の心臓がドキンッと音を立てた。サヨリちゃんがいたのだ。
サヨリちゃんはゆうの助の中学校の同級生で、村一番かわいい子だ。お花が大好きで、いつも教室の横の花壇に水をやっている。ゆうの助はそのすがたをいつも窓の影からこっそりと見ていた。お花に水をやっているサヨリちゃんの目はキラキラと輝いて、ゆうの助にはとてもまばゆかった。
「サヨリちゃんの前で負けるのはいやだな~」
ゆうの助の肩は、更にがっくりと下がった。
相撲大会が始まり、どんどん自分の番が近づいてきた。
「ええ~と、僕の相手は誰だろう?」
ゆうの助は自分の組の順番と相手の順番を数えた。数えだしたとたん指先がふるえだした。そして、お腹がギュウとしめつけられるように痛くなってきた。
暴れん坊の太がその太い腕をがっちり組み、こっちを見ながらニヤニヤと笑っていた。
ゆうの助は何度も順番を数えなおした。自分の順番は7番目、相手側の7番目にはあいつ。何度数えても変わらない。一昨日太に殴られたたんこぶがジンジンと痛みだした。
5番目の試合が終わり、6番目の試合が始まった。割れんばかりの声援が会場に響き渡っている。しかし、ゆうの助の心臓はそれ以上の音を立ててドンドンと激しく唸っていた。
6番目の試合も終わり、とうとうゆうの助の番が回ってきた。太は勢いよく土俵に飛び乗り、その大きな手でパンパンと太股をたたいた。ニヤニヤとやいばを見せながら、ゆうの助を見下ろしている。
ゆうの助はおどおどしながら土俵に上がり、心の中で祈るように唱えた。
(生きて帰れますように・・・)
ゆうの助と太は土俵の真ん中で向かい合い、腰を低くして構える。
行司の手が高く上がった。さっきまで騒がしかった周りの声が全く聞こえなくなった。
「はっけよーい、のこった!」
行司の声がかすかに聞こえた。ゆうの助が憶えていたのはそこまでだった。
目を覚ましたのは土俵からずっと離れた神社ののき下だった。
「ゆうの助君、大丈夫?」
女の子の声が聞こえた。遠くでセミが鳴いている。ジワリと目を開けるとサヨリちゃんの顔がにじんだ視界に浮かび上がってきた。
「あれ? もう試合は終わったの? 僕負けちゃったの?」
一瞬馬鹿なことを聞いてしまったと後悔した。サヨリちゃんは困った顔をして何も答えずに相撲会場の方に行ってしまった。
それから太はどんどん勝ち進み、優勝した。
表彰台に立った太が得意になってガッツポーズをしている。
ゆうの助はそれを遠く離れた神社ののき下から、虚ろな目で眺めていた。サヨリちゃんがニコニコしながら太に花束を渡すのが目に入った。ゆうの助の赤くはれたまぶたがジーンと熱くなってきた。