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プロローグ

「マーガレット姫、どうかお許しを……!」


 侍女は震えながら、姫君に許しを請うた。


「こんなクッキーなんて持ってきて……お客さまに二日も続けて同じお菓子を出すなんて、絶対にしてはいけないことよっ!」


「申し訳ございませんっ!!」


 侍女は平伏して謝罪した。

 マーガレット姫の視線の先に、星形の小さなクッキーが映る。

 それは昨日姫が美味しいと喜んで食べたものだった。


「昨日、姫さまがお気に召していたようなので、同じものをと思い……」


「わたくしが社交辞令でそう言ったとは考えられなかったんですの? それなのに二日も続けて同じお菓子を出すなんて、絶対にあり得ませんわ!」


 マーガレットの鋭い眼光に睨まれた侍女は、涙を流しながら平伏するばかり。


「持ってきてしまったからには食べるけれど……同じことをまた繰り返したらどうなるか……覚悟はできているのでしょうね?」


 かわいらしい容貌からは想像もつかないような低音ヴォイスでそう告げられて、侍女の口からヒッと悲鳴が漏れた。


「わたくしの国では、粗相をした侍女にはそれ相応の罰が与えられるの。ねぇ、アンヌ」


「さようでございます」


 マーガレット姫付きの侍女であるアンヌはそう言って、静かに頭を下げた。


「さぁ、あなたにはどんな罰を受けていただこうかしら?」


 恐ろしい言葉とは裏腹に、その声色はウキウキと弾んでいるように聞こえる。

 侍女が全身をガタガタと震わせながら、滂沱の涙を流して再び謝罪しようと口を開いたそのとき。


「どうしたのですか」


 その言葉と共に、一人の男が入室してきた。


「まぁ、エイリークさま」


 婚約者であるエイリーク王子がやってきたと言うのに、マーガレットは憮然とした表情のまま、苛立ちを隠そうともしなかった。


「この者が何か失礼をいたしましたか?」


「二日続けて同じお茶菓子を出したのです!」


 見てください! と、クッキーの乗った皿をエイリークの眼前にズズイと出すマーガレット。


「あぁ、本当ですね」


「こんな不手際、わがワイアン王国では絶対にあり得ないことです!」


 不機嫌さを隠そうともせず、一気に捲し立てるマーガレット。

 しかしエイリークは嬉しそうな笑顔を浮かべて


「侍女の不手際をきっちり教育してくださるとは。さすがはワイアン王国の姫巫女さまだけのことはある」


 と、感激しきりの様子だ。


「え」


「お茶会の席で前日と同じお菓子を出せば、主人が恥をかくことは必至。それを年若い侍女にきっちり教え込んでくださるとは、さすがとしか言いようがない」


「あの、いえ、そう言うことではなく」


「やはりわが国の未来の王妃に相応しいのは、あなたしか考えられない」


「あの、本当に」


「お礼と言ってはなんですが、あなたにぜひドレスをお贈りしたい。最新カタログをお持ちしますから、一緒に選びましょう。今から取ってきますから、少しお待ちください」


 そう言うとエイリークは床に伏したままの侍女を促して、部屋を後にした。

 室内に残されたのは、マーガレットとアンヌの二人きり。

 しばしの沈黙の後、姫はポツリと呟いた。


「まただわ……また失敗してしまったわ」


「お気持ち、お察しします。ですがもう、やめにしませんか?」


「駄目よ!! だって私、何がなんでも嫌な女になって、この婚約を絶対に破棄するのだからっ!!」

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