神に戻された男③
看護学生に昼食をお世話している時にレアな友人が訪ねて来てくれた。
しかもこの病院に勤めていないにも関わらず白衣を纏い、手にはフルーツバスケットを持っていた。
「よっ、生き返ったって……ごめんじゃました」
「別に首が動かせないから介助して貰てるだけだから」
看護学生は見たこと無い医者が入ってきたとオロオロしているが。
「ごめんね、こいつはこの病院の医者じゃないから大丈夫だよ」
「そうなんですか、でもお医者さんなんですね」
「でもこいつ臨床医じゃなくて研究オタクだよ」
「何がオタクだ、細胞研究は俺の人生だ」
「悪い悪い、お前はオタクじゃなくて馬鹿だった」
看護学生は俺と友人のやり取りを見て、食事が終わると早々と病室を退散した。
「しかし斗真がお見舞いに来てくれるなんて、明日は槍がふるんじゃないか」
「何故、俺がお見舞いに来ることが珍しいんだ?」
「だって俺たちがいくら誘っても研究室から出てこないし。だから俺たちは新手の引き籠りだと思ってたよ」
「なんだよそれ、俺だって学会にも行くし外には出るよ」
こいつは藤堂斗真、中学からのいつも5人でつるんでいた親友の一人だ。こいつは帝都大の医学部を出て臨床医に成らずに大学院で研究をしてる変わり者だ。
しかし頭は目茶目茶良い。教授と共同だが様々な新発見の論文を書いてインパクトファクターの高い学術雑誌にも名前が載ってる注目の研究者だ。ただし研究以外生活能力ゼロ。待ち合わせして道に迷った時迎えに行くから場所を教えろと言った時帰って来た言葉が分からない、それじゃそこから何が見えるか聞いたら買い物袋を下げた女性が見えると答える変人だ。
「しかし怜志よく生き返ったな」
「死んでねーし」
「普通一回目の脳死判定受けて生き返らないだろ。研究するからお前の細胞くれ」
「嫌だよ、お前に俺の細胞とか培養されたら気持ち悪い」
「今後の医学会の発展の為脳細胞よこせ。なんてな冗談だよ」
「おまえが言うと冗談に聞こえねーよ」
「しかし本当に助かって良かったな」
この時は学生時代からの親友があんな事件を起こすとは思わなかった。昔からマッドサイエンティストだとは思っていたけどまさかこんな事するなんて。
ここで今更ながら俺と言う人物について紹介しよう
俺、男鹿怜志は大学の経済学部を出て外資系投資銀行に就いた、希望はファンドマネージャーだったが配属されたのはマーケティング部、部署の名前は良いが仕事内容は年の半分日本全国調査に行かされてデジタル時代のこの時代に法務局で閉鎖謄本や現地調査が主な仕事。買収案件の調査は相手にバレない様に調査しなきゃいけないし、本来なら外部に委託調査しても良いんじゃないかと思う事までやらされた。
そんな会社も日本支社長に創業者の人間が付いてからおかしくなったらしい。そんな事知ってれば入社しなかったのに、結局業績が良く無くて日本法人を解体してシンガポールと合併するらしい。しかも日本に居る社員の殆んどがリストラだそうだ。その代わり2か月は給料が貰え、再就職活動しても良いらしい。
それと俺の見た目だがどうも顔が怖いらしい。昔から大きな体と目つきが悪いとよく怖い人には絡まれ、女性や子供には怖がられる始末。それでも兄と一緒に始めた剣道と小学校時代の友達に誘われた日本拳法のおかげで絡まれてもそれなりに対応できた。ちなみに学生時代のあだ名は名字からなのか見た目なのか分からないがオーガだ。
しかしこの見た目と中学高校が男子校だった為、男友達ばかりで寂しい青春を送る。大学では国立だが女性もちゃんといる大学を選んだのに4年間で彼女は1人だけ、しかも振られてしまった。
俺自身は、体がデカくて顔がちょと怖い、動物も子供も好きな普通の人間だと思っている。
そんな俺も異世界に連れて行かれて賢者の素質があると筆頭王級魔導士の元で修行したのは良いけど、魔導士って頭脳派ってイメージでいたのに弟子入りしたら筋肉が足らないといきなり筋トレさせられて、何故か王級魔導士の皆さんは王国騎士団の皆さんよりマッチョってゆうかもうゴリマッチョ。魔力が勿体ないって魔獣を杖で撲殺すんだもん。魔法は教えられたけど魔力より筋力の方が付いたくらいだから。
それが有ったから俺は助かったのかも知れない。でもこの世界に戻って来たら頑張って付けた筋肉も勇者が死んだ時に付けられた頬の傷もまるで無かった事のようだ。頬の傷は勇者佐藤が俺のせいで死んだ事を忘れない為に消さなかったのにそれまで無かった事にされるなんて。フェア何とかって女神一回殴ってやりたいよ。
勇者が死んでから半年引き籠った後、シルフィーのおかげで立ち直り、仲間が死ぬのは耐えられなかったので一人で支配地域に乗り込んだ。時間は掛かったけど支配地域を取り戻し多くの人達を救った。
なのに今じゃベッドの上で安静にしていなきゃいけない状態。次元収納の中に上級ポーションも、1本しかないけどエリクサーだって持ってるのにこの世界じゃ使ったらモルモットにされる未来しか見えない。
多分一般人よりは回復は早いはずだからそれまでは我慢しよう。
行動は退院してからだ。その間にお金を稼いで資金を貯めないとな。あとできれば看護師さんと仲良くなりたいな、でもマスクで顔見えないんだよな~。
そんなこんなで3週間病室で株式投資とFXで1200億円を稼ぎ、看護師さんと普通に話す事ができるように成ったがプライベートな関係には成れず、その代わりに主治医の先生からは回復が異常に速いと研究の為にと熱烈なラブコールを頂いた。なんで俺の人生はこんななのか。本当なら今頃シルフィーといちゃいちゃ出来たかもしれないのに。
退院したら行動開始だ。