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エロゲのヒロインにTS転生したのだけど、貞操がっ貞操がっっ!

作者: 羽狛弓弦

大体コメディです

「あっ」


 不意に前世の記憶というやつが蘇ってきた。

 日本という恵まれた国に生まれ、それなりの大学で大学生活を満喫していた男の記憶が。

 俺はその日ゲームをしていた。

 いわゆるエロゲだ。

 RPG要素の強いエロゲである『アルカディアフルエレジー』というエロゲを。

 RPG要素が強いというのが肝で、これがなかなかの完成度を誇る名作なのである。

 それこそ全年齢対象にリメイクされるくらいの。

 たが、これはエロゲである。

 当然、ヒロインがエロエロしたりされたりするゲームである。

 しかもRPG要素が強いためか当然のようにオークとか出てきて負けたら主人公の目の前でヒロインたちが陵辱されたりしてしまう。


 何故、こんな話をしているかと言うと、俺、もとい私は生まれ変わってしまったのだ。

『アルカディアフルエレジー』の世界に。

 しかも、ヒロインの一人である姫騎士ティエルに。


 姫騎士。

 それはエロゲ界においては絶対的な陵辱されキャラであり、「くっ、殺せ」の言葉はあまりにも有名だろう。

 そしてそんな姫騎士のパートナーとして有名なのはやはりオークさんである。

 姫騎士が単身オークさんに挑み、返り討ちにあい、捕まり、人に見せられない顔にされて陥落してしまうという展開は誰もが知るところだろう。

 最近はくっころ展開になってもオークさんの方が理知的な事もあるが、やはりそのまま陵辱されていく方が王道だろう。

 もちろん『アルカディアフルエレジー』にもくっころ展開はある。


 さて、そろそろ現実逃避は終わりにしましょう。

 ああ、何でこんなタイミングで前世を思い出してしまうのかな。

 まだ思い出さずにいた方が幸せだったかもしれないのに。

 この後の展開を知っている身としてはそう思ってしまうのも仕方がないのかもしれない。


 はい、そうです。

 私、姫騎士です。

 現在進行形でオークさんたちに単身で挑んでいます。

 前世を思い出した身として直前までの私に一つ言いたい。

 お前バカじゃねーの!?

 と。



 ー▽ー


『アルカディアフルエレジー』のプロローグとしてはこうだ。

 魔王が復活して、最近魔物の動きが活発にになってきた。

 そして姫騎士である私は王都の近くに出来たオークの集落によって女性たちが被害に遭っていると聞いて、姫騎士としての使命に駆られ単身でオークの集落に突撃。

 しかし、奮戦するもオークたちに捕まりくっころ展開に。

 その後、勇者に選ばれた主人公に助け出され、オークとすべての元凶である魔王に復讐する事を誓い、主人公とともに魔王を倒すたびに出る。

 という流れになっている。


 はい。

 プロローグの時点で姫騎士ティエルこと私はオークたちに犯されています。

 ゲーム内ではどう足掻いても回避される事はありません。

 主人公が行動を開始する前のことだからね。


 そんな現在の私はオークの集落に突撃して囲まれているところである。

 さっきまで使命感に駆られて意気揚々としていたけど、これからオークに犯されるかと思うとそんな使命感なんて投げ捨ててやりたい気持ちになる。

 前世では男だっただけに余計に嫌である。


 それにしても。

 うわぁ、気持ち悪い。

 なんのデフォルメもされていない見にくい二足歩行の豚たちがブヒィブヒィいいながら汚いヨダレを垂らして私に近寄ってくる。

 なんかもう生理的に無理。

 え、私これらに犯されるの?

 無理無理無理無理!

 絶対に無理!!

 姫騎士とかが、「くっ、殺せ!」ていう気持ちがわかった。

 こんなのに犯されるくらいなら死んだ方がマシだもん。

 今から自殺する。

 あ、だめだ。

 一回死んだだけに死ぬ勇気が持てない。

 でも、オークに陵辱されるのだけは嫌だ。


 ここはゲームの世界かもしれないけど、今私は私の意思で動いている。

 だったら絶対になんとかしてみせる。

 捕まりそうになったら死のう。


 頭をフル回転させて突破口を探す。

 所詮は二足歩行の豚だ。

 人の知能をもって何とかこの状況をとっぱするのだ。

 そして私に悪魔の囁きが巡る。

 そうだ、もはや使命感なんてどうでもいいのだ。

 オークどもに攫われた女性たちを助けようと私はやってきたけど、ミイラがミイラ取りになったのでは意味がない。

 やるからにはちゃんとやらないといけないのだ。

 変な使命感に駆られてアホなことするより緻密に計画を立てて確実に救出すべきなのである。

 だからこれは仕方のない事なのだ。


「サラバダー!」


 そう自分に言い聞かせてから私は180度身を翻らせて、全力で逃げた。

 いや、戦略的撤退である。

 何しろこの身は姫、つまり王女である。

 魔王の手下であるオークたちに私が捕まるのは戦略上よろしくないのである。

 何より私の貞操のために!


 少しでも身を軽くするため剣は投げ捨て鎧も可能な限り脱ぎ捨てる。

 なかなかヤバい格好になっているけど知ったこっちゃない。

 そもそも鎧を纏っていた時からしてなかなかエロい格好なのだ。

 さすがはエロゲ。

 こんな格好をしていた私はバカである。

 それが痴女レベルになったところで今更だ。

 それは女としてどうかって?

 私の貞操の方が大事である。

 途中で燃えそうなものは魔法で燃やしていく。

 追ってくるオークにも火をつけたし、集落の家にも火をつけたし、木々にも火をつけた。

 汚物は消毒しなければないらない。

 そして最後には山火事になった。

 たけど私は止まらない。

 だって私の貞操の方が大事だから!


 オークに捕まった女性たちも死ぬのでは?

 そうかもしれないけどこのままオークたちに陵辱されるよりはマシだろう。

 民の代表である王女である姫騎士が「くっ、殺せ!」と言うんだからそれは民の総意である。

 民の意思に応えるためのは王女の務め!

 だからこれで死ぬことになってそれは彼女たち望みなのだ!

 なにより私の貞操の方が大事である!!


 彼女たちを助けるために逃げているのではないかって?

 それは彼女たちを助けるとしたらその前にちゃんとしなければならないという話であって、現時点ではそれは不可能なのだから仕方ないのだ。

 なにより私の貞操の方が大事だし。


 恥も外聞も誇りも捨てて私は逃げさり、無事に王都まで逃げ込むことができた。


 ー▽ー


「おお、我が娘よ。よくぞ無事に戻ってきた!」


 私はなんとか王都で保護され、王城まで戻ってこれた。

 ただ、さすがはエロゲ。

 王都に着いた時点で私の格好はそれはそれはマズかった。

 大事なところは見えていないけど、むしろエロくなっているような格好であった。

 にもかかわらず兵士たちは私を保護したにもかかわらず身を隠すような事を何一つしなかった。

 むしろ私をエロい目つきで見てきている。

 お前らの顔覚えたからな。

 仕方なしに王女権限で兵士のマントを無理やり奪い取って身に包んだ。

 で、これはこれで不審者みたいな格好で王城まで戻り私の部屋まで無事に戻ってきた。

 それを聞きつけた父上が私の部屋にやってきた。

 私が無事で本当に嬉しそうである。

 今思えばこの人本当に親バカだよな。

 娘のする事を全肯定してくる。

 まあ、愛されてる感があって嬉しいけど、それはそれでどうなのって思ってしまう。

 そもそも、姫騎士ってなんやねん。

 私、王女。

 しかも一人娘。

 つまり直系の王族は私しかいないのだ。

 なのに私は騎士になるとか言い出したのだ。

 そして、それを止めない父上もどうかと思う。

 今回なんて変な使命感に突き動かされていた私を父上は止めもしなかった。

 むしろ立派になってと感激していたくらいだ。

 別に父上は私が邪魔でオークどもの餌食に自らなりに行っているのを止めなかったとかではない。

 私のしようとしている事を全肯定する甘々な父なだけだ。

 だけど、今思えばやっぱり止めて欲しかったな。


 そんな父上だが、今思うと頭が足りないと思う。

 国の運営という意味では問題はなかったのだけど。

 さっきも言った通り私一人娘。

 私に万が一あったらどうするんだろう。

 直系の王族なのに私一人しかいないと訳わからない。

 そしてそんな私をオークの集落に行かせるとか分けわからない。

 そして今!

 オークの集落から命からがら逃げだして来た私を心配してきてくれたのはわかる。

 だけど、今の私の恰好!!

 思春期の娘がしていい恰好じゃないの!


「父上! 出ていって!」


 精一杯の怒りを込めて父上を追い出そうとする。


「なっ、父はお前が心配で」

「うるさい! 知らない! いつまで娘にこんな格好をさせるつもりなの!? いいから早く出ていって! はーやーくっ!!」


 なのにあわあわしているだけで一向に部屋から出ていこうとしないので私が直接強制的に追い出した。

 パタンとドアを閉めて一息つく。

 思い出すのは、オークの集落の出来事。

 前世の記憶が戻って、命からがら逃げだしたけど、もし、記憶が戻るのが遅れたら、もし、逃げるのに失敗したら。

 運よく逃げ出せたけど、ほんの些細な何かが違っていたら私はオークたちに捕まっていた。

 そして今ごろ「くっ殺せ!」なんて言うのも通り過ぎて王女どころか人間の尊厳も醜い性欲をぶつけられていたのだろう。


「は...は...あっ」


 あまりの安堵と恐怖に笑いと涙が出る。

 犠牲となった人たちには申し訳ないけど、心底助かってよかった。

 こちとら前世平和ボケした日本人、今世何不自由ない生活をしてきた王女なのだ。

 命がかかった危険など知ってはいても自分とは関係のない遠い世界の話だったのだ。

 だけど、今回いろんな意味で危険が迫り、今になっていろいろと自覚してしまった。

 アドレナリンが切れた感じだ。


「おー」


 あ、腰に力が入らずちょっと漏れた。

 後で口の堅い侍女に掃除してもらわないと。

 私はこれから心を入れ替える。

 王女として何があっても貞操を守ってやる。

 例えここがエロゲの世界でも。


 ー▽ー


「はぁっ!?」


 精神を落ち着けるのに一日要したが、そのおかげか私は今日も元気だ。

 今日から姫騎士なんてやめてちゃんと王女をしようと思った矢先にとんでもないニュースが父上より教えられた。


「昨日勇者が召喚された!?」

「うむ、お前が帰ってくるのがあまりにも遅いのでな。心配になって我が国秘伝の勇者召喚術式を起動させたのだ」


 何を事なさげに。

 そんな重大なこと、私がちょっといなくなったからって簡単にしないで欲しい。

 いや、ゲームではそのおかげで最終的に私は助かったんだけど。

 過程は無視しているが。

 それにしても、私がオークの討伐に出かけてまさか初日で勇者が召喚されるとは思ってもいなかった。


「それで今、その勇者は?」

「うむ、昨日は困惑した様子で話しにならなんでな。どうしたものかと、悩んでいたときに姫の帰還の知らせを聞いて、慌てて飛び出したのでその後のことは知らぬ」


 何やってんのこの父親。

 別に勇者を拉致ったとか、説明義務を果たしていないとかそんなことはぶっちゃけどうでもいい。

 今の私からすれば勇者なんてやたら知名度の高い暗殺者なんだから。

 問題はその勇者を放置しておくことによって生じる問題だ。

 万が一敵対したら、魔王を倒せる力を持った人間が私たちに牙を剥くのだ。

 ただでさえ、勇者視点からすれば、私たちはある日平凡な日常を壊して、どことも知れぬ世界で戦場に送る非道な人たちなのだ。

 まあ、人にもよるかもしれないけど。

 異世界ヒャッホー的な人もいるかもしれないけど。

 召喚された勇者はどっちだ?


 いや、勇者召喚と聞いて、前世のネット小説にあるような感じに思ったが、ここはエロゲの世界。

 エロゲの設定どおりの勇者が召喚されるかもしれない。


 ここは主人公の設定を思い出してみよう。


 確か、主人公の設定は、平凡な(嘘をつけ)日本の高校生(イケメンだけど前髪邪魔で童貞)。

 正義感が強く、召喚された異世界で困惑するも、この国の肖像画に描かれた王女に一目ぼれし、聖剣を手にオークに囚われた姫を助けにいく。

 確かそれで物語が始まるんだよね。

 それで姫を助けて、そんな助けられた姫は勇者に惚れ、さらにオークに凌辱され身も心も穢れた自分を受け入れて(シーン)くれた勇者を慕うようになる(陥落)。

 そして2人で世界を救うため、魔王討伐の旅に出る。


 って感じだったはず。


 そうはならんやろ、って思うけど、そこはゲーム。

 仕方ないとして、件の勇者はどんな勇者なのかしらね。

 仲良くできるタイプならいいけど。

 実際に会ってみるしかないか。


 ー▽ー


 あれー? どうしてこうなった?

 何故か私は召喚された勇者と共に魔王退治の旅に出ている。

 前世の記憶が戻った私は、当然の事ながら勇者と共に魔王退治の旅に出るつもりなんてなかった。

 オークに凌辱もされなかったし、ともすれば、勇者に助けられることもなかった。

 つまり、すべての元凶である魔王に対する復讐心も、勇者と一緒にいたいという恋心もない。

 だけど、なぜかしら勇者と一緒に旅をすることになったのだ。

 まあ、いろいろ事情があって、引くに引けない状況になったからなんだけど。

 どうしてこうなった?


 幸いと言うべきか、勇者はとてもいい奴だった。

 この世界のエロゲの知識を持つことなく、普通に正義感を持って使命感で魔王を倒そうとし、設定通りに私に一目ぼれをした。

 いや、別に告られたわけではないけど、こいつわかりやすいから。

 たまに下心向けてくることもあるけど、まあ許容範囲だろう。

 ただ忘れてはいけない。

 この勇者はエロゲの主人公であることを。

 ただでさえ男はケダモノ、オオカミなんだから。

 いつ襲われてもおかしくはない。

 警戒だけはしておかなければ。


 そう思い、最初はめちゃくちゃ警戒していたが、勇者はとても紳士だった。

 ぶっちゃけ私の体はめちゃくちゃエロい。

 あれ以来、露出度の高い装備はしていないけど、エロゲのメインヒロインなだけあってエロい体つきをしている。

 だけど、宿を取ればちゃんと部屋を分けてくれるし、野宿をしても襲われることはなかった。

 こいつ......実はヘタレ童貞だな。

 何にせよ、それならばある程度安心できるものだ。


 だけど、この時私は勘違いしていた。

 この世界はエロゲの世界なのだ。

 主人公とヒロインがエロいことをするだけの世界ではないのだ。


 旅は順調に進み、仲間も増えた。

 エロゲ故に仲間は女ばかりだけど、そんなものだ。

 男が増える方が怖い。


 この日は船旅をしていた。

 訓練された皆様ならこの後の展開は容易に想像できるだろう。

 突然、強大なイカが現れた。

 勇者以外の女である私たちはイカの触手に絡めとられてしまう。

 なーぜーか、触手から染み出る成分で服が溶かされてしまう。

 エロゲらしい、お約束のイヤーンな展開だ。

 男からすれば素晴らしいと物が見れたと思うかもだけド、女として被害者になって見ればマジで最悪だからね!?

 ぬるぬるして気持ち悪し、服がとかされて恥ずかしいし。


 ちょっ!?

 触手が変な所に!? 

 え? え? マジでやめて!?

 入れようとしてくんな!?

 私処女!!

 こんなイカで貞操が消えるなんて絶対に嫌だ!!。


 他の捕まった仲間たちからエロい声が聞こえてくる。

 ちらりと下を見れば、鼻の下を伸ばしながら「今助けるぞ」って言っている勇者がいる。

 声に出すくらいなら早く助けてよ!

 あっ、まずいまずい、マジでマズイ。

 入り口まで来た。

 無駄に触手捌きがヤバくて本当に入りそう。

 いやあああっ、こんなところで私の貞操が!?

 嫌だ、絶対に守ってやる!!


 爆発する魔法を自分自身に向けて放つ。

 とんでもないダメージを受けたが、触手はちぎられ私は海に落ちる。

 何とか貞操を守り切ってやったぞ。

 他の仲間もたぶん大丈夫。

 勇者がいるし。

 私はそう思いながら気を失った。


 その日、勇者に引き上げられた後みんなにめちゃくちゃ怒られた。

 でも、だって、あのままじゃ私の貞操が危なかったし。

 私の貞操のためなら仕方なかったんだもん。

 え? 一日安静?

 はーい。ちゃんと寝ています。


 他の仲間に回復させてもらったけど、一日安静を言い渡された。

 あー暇だな。

 ...

 ......

 ん?

 何か聞こえる?

 こっち?


 声のする方を見ると、部屋の壁に小さな穴が開いていた。

 覗いてみると、そこでは勇者が他の仲間たちと乱交していた。


 えっ? えっ?

 うそ。

 いや、なんとなく、勇者が全員と関係を持っていたのは知っていたけど、全員でしているだなんて。

 うわっ、うわぁ。

 すごっ。

 えっ、あの子あんな声を出して。

 やっぱりエロゲなんだなぁ。


 この日私は何を思ったのか、胸の奥に少しチクッとしたものを感じながらそれを誤魔化すように、一人でしてしまった。



 ー▽ー


「よく来た勇者よ。わしが王の中の王。魔王だ」

「わしは待っていた。お前のような若者が現れるのを」

「もしわしの味方になれば世界の半分を勇者にやろう」

「どうだ? わしの味方になるか?」


 はい/いいえ


 どこかで聞いたことがるようなきもしないでもないけど、深く考えてはダメだろう。


 私たちはとうとう魔王にまでたどり着いた。

 ここまでいろいろなことがあった。

 勇者が他の仲間と陰でエロいことをしていたり、私の貞操が危なかったり。

 私の貞操が危険だったり。

 私の貞操が風前の灯火だったり。

 だけど、私は貞操を守り切った。

 これで最後だ。

 これが終われば...。


 魔王の問いには当然いいえだ。

 きっとはいと言ったら復活の呪文的なものを教えられるだろうけどいいえなのだ。

 リセットなんてないのだから。


「世界の半分が欲しくないのか?」


 はい


「どうしてもわしを倒すというのか?」


 はい


「愚か者め!! ならば思い知るがよい!!」


 こうして、魔王との最後の戦いが始まる。

 事はなかった。


 魔王の目が光る。

 なにこの光。

 体が動かない。

 あっ、あっ。

 魔王さまぁ。


 とろんとした目つきになり、愛しい人を呼ぶように魔王さまの名前を私たちは呼ぶ。

 そしてフラフラと魔王さまの元まで歩いて行く。


「なっ、みんなどうした!?」

「ふははは、無駄だ。我がチャームの力により、女たちは身も心もわしのものになったのだ」

「なんだとっ!? みんな正気に戻れ!!」


 勇者が何か言っているけど知らない。

 早く魔王さまの元に行かなくては。

 他の女たちに魔王さまが取られてしまう。

 魔王さまのご寵愛を一番にもらうのは私なんだから。


 そう思い、動かない体を必死に動かして魔王さまの元に傅く。


「ふははは、お前が一番早くわしの元までたどり着いたか。愛い奴め。お前は確かあの国の姫だったな。わしらの仲を勇者の奴に見せつけてやろうぞ」

「はい、魔王さま」


 服をはだけさせ、魔王さまのご寵愛求める。

 勇者に見られるのは恥ずかしいけど、魔王さまのためだ。

 これで私の処女も。

 うん?

 処女?

 このまま魔王さまとやるの?

 あれ? 私何をやってるの?

 待って待って待って!?

 なに私、魔王とやろうとしているの!?

 はっ、そういえば、魔王って魅了の力を使うんだった。

 私、魅了されていた?

 あっぶな!

 このまま自ら魔王に貞操をささげる所だった。


「私の貞操おおおおっ!!」


 すんでの所で正気を取り戻し、身に着けていたナイフで魔王を刺す。


「なにいいいいっ!?」

「ナッツクラーーッシュ!!」


 そして体制を変え、魔王の股間を潰す。


「ばぶ......あばば」


 魔王が白目をむいている。

 今がチャンス!!


「勇者様!!」

「え?」

「早く魔王にトドメを!!」

「う、うん」


 こうして、世界に平和が訪れた。

 そして私の貞操は守られた。



 ー▽ー


 世界に平和が訪れ数日後、私は勇者と2人で歩いていた。


「見てください勇者様。彼らの笑顔を。あなたが魔王を倒したからこそ見ることが出来る笑顔です」


 口調が違うって?

 私王女。

 オーケー?


「僕だけの力じゃないよ。みんなのおかげさ」


 そうは言うが、勇者がいなければ魔王は倒せなかったと思う。

 思えば、最初の頃はいい奴ではあったけど、あまり頼りにならなかった。

 でも、この旅で成長してとても頼りになるようになった。

 だからこそ私は。


「あの、勇者様!」

「なに?」

「私、勇者様をお慕いしています。私とお付き合いしてください!」


 だからこそ私は勇者に惹かれてしまったのだ。

 こいつがエロゲの主人公だと分かっている。

 他の女とやっているのも知っている。

 でも、惚れた弱みか、それでも私は勇者と一緒にいたいと思うようになってしまったのだ。


 流石はエロゲの主人公。

 前世で男だったという記憶を持ち、オークに凌辱されて身も心もボロボロな私を助け出すというシュチュエーションも無しによくぞ私の心をものにした。

 勇者になら私の貞操をささげてもいい。

 この私とエロいことが出来るなんて全世界の男の夢だよ。

 そのことに幸せをかみしめるがいいわ。


「え? うん、えーと」


 なのに、勇者の反応が鈍い。

 どうしたのだろう?

 ここは光栄のあまりに泣いて跪くべきじゃないの?

 それは冗談としても私を抱きしめるのが普通でしょ。


「君の気持ちはうれしいけど、その気持ちには答えられない」

「え?」


 え?

 なんだって?


「その、君の事は好きだったけど、なんて言うか、貞操観念が強すぎると言うか。いや、悪い事じゃないんだよ? でも、今まで見てきて貞操を守るのに必死すぎると言うか、度が過ぎるというか」


 え、だって貞操を守るのは普通じゃないの?

 そんなどこの誰ともわからない人間ですらない奴に貞操を奪われるわけにはいかないじゃない。

 なのに、そんな度が過ぎるだなんて。


「悪いことじゃないんだよ。でも、僕にはちょっと。だからごめんなさい。君とは付き合えない」


 あ、えっ。


「そう、ですか。ええ、わかりました」

「ごめんね。でもこれからも君とはいい関係でいたい」

「そうですね」


 そこから私はどうやって自分の部屋に帰ったのか分からない。


 ...

 ......

 ふ、ふっふふふふふ。

 うふふふふふふふふふふふ。


 男は結局下半身か!!

 そうだよ。

 忘れていたけど、男なんて下半身で生きているんだよ!!

 私もそうだったもん!!


 くそぅ! くそぅ!

 あのヤリチンめ!

 もう知るもんか!

 私はこれからも貞操を守ってやる!!


 例えどんなことになろうとも絶対に! 

 貞操を守ってやる!!


 すべては私の貞操のために!!


気に入ってくれましたらブクマや評価、感想をお願いします。


登場人物紹介


ティエル:主人公。前世が男で突然記憶を取り戻す。結果、貞操観念の塊になり、エロゲの世界でありながら何が何でも貞操を守ろうとする。しかし、旅を経て、何度も何度も貞操の危機を迎えながらも勇者に惹かれるも時すでに遅し。フラれた結果、さらなる貞操観念の化け物と化す。


勇者:エロゲでの主人公。設定通りティエルに一目ぼれするが、その度が過ぎた貞操観念により、引き気味に。結果、恋心も消え去った。他の仲間とやることはやっている。流石はエロゲの主人公。


魔王:本来のゲームでは、魔王にチャームを受けたヒロインたちは一定以上の好感度を稼いでいると愛の力で正気を取り戻し、勇者と共に戦うという展開。最初に正気に戻ったヒロインとのハッピーエンドを迎えることになる。しかし、絶対貞操守るウーマンになっていたティエルにすんでのところで刺され、勇者に殺された。誰一人ヒロインの好感度が足りていない状態では、そのまま勇者の目の前でヒロインたちとの乱交に入り、勇者は絶望で目の前が真っ黒になるというもの。選択しで魔王に与していても似たような結果に。


他の仲間:勇者とやってる。


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