ホウレンソウ
今回は長めです。
次の日もダンジョンに潜った。潜って思ったのだが、ルコの燃費の悪さに頭を悩ます。
とにかく、昨日たくさんラビットからエネルギーを吸収したのにもかかわらず、ダンジョンに入ったとたんすぐにラビット探しへ飛んで行った。
その後ろを追うと、漂よってくる死臭に吐き気が止まらない。
結局、ドロップ回収に専念して2匹狩るだけでダンジョンから出てしまった。
ルコはお腹一杯になって満足顔だが、朝食を全て出し切った俺には少しだけ憎く見える。
今日は買取後、斡旋センターに立ち寄った。
というのも、以前お世話になった東堂さんから戦闘妖精について調査したいから何かあれば連絡してほしいと頼まれていたのだ。だが、肝心の連絡先を交換し忘れていたので、ここのスタッフの方なら連絡先を教えてもらえるかもしれないと思い来た。
窓口でその事を伝えると、俺を覚えていたお姉さんが電話を繋げてくれた。お礼を言うと、高橋さんはいろんな意味で有名ですからと、肩に乗っかるルコを見て微笑んだ。
実はさっき知った事なのだが、東堂さんからルコの事について情報がセンター内に伝わっていて、買取センターやここで顔を出していても問題ないそうだ。
とはいえ、街中や他の探索者の目につかない様に気をつけてほしいと念を押された。
やはり、使い魔という存在がまだ公に公表されていないからだと言う。
それは仕方ないと思うし、のちのちテイマーのスキルや俺みたいに特典で使い魔をゲットする人が現れるまで気長に待つしかない。
『もしもし、高橋くん?東堂だけど、 あれから何か面白い情報でも入ったの? 』
「あ、お久しぶりです。ええ、戦闘妖精の件で報告があります。よければこの後時間取れますか? 」
『んー、今日はここから出れそうにないから無理ね。その代わり明日一日空けるわ。場所は高橋くん宅でいいかな? 』
「仕事忙しいんですね。俺は問題ないです。母さんにもそう伝えておきます」
『そうなの、もう鑑定ばかりキリがないわ。了解、お邪魔するね。ルコちゃんに会えるのを楽しみにしてるわ』
遠くから東堂さんと呼ばれる声が聞こえた。忙しいなか電話してしまって申し訳なかった。
「要件は済みましたか? 」
「はい、ありがとうございました」
「どう致しまして。またのご来店をお待ちしております」
東堂さんと約束を取り付けたので、母さんに報告する。その後は、話す内容を整理するため、自室でチラシ紙の裏にどんどん書き足していく。なんだか、仕事をしている気分だ。
ルコは母さんの料理を見学に行っている。外の作業は終わり、業者もいなくなっていた。帰宅した時には更地になっていた場所にバリケードは無く、代わりにゲートが建っていた。買取センターの建設は明日から取り掛かるそうで、空き地にあったショベルカーの姿はなかった。だからか、ルコの興味が料理へ移ったのだろう。
ご飯の声があるまで、1人の時間を過ごした。
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翌朝、目覚ましより先にチャイムが鳴った。
「来るの早すぎ。まだ8時じゃんか」
慌てて着替え、リビングに向かった。部屋に入るとお茶を啜る東堂さんがいた。その姿は白シャツにジーパンとなんともラフな格好をしていた。
「今日はお休みだからね。堅苦しいのは勘弁なのよ。あ、お菓子頂きます」
ボリボリとポテチを貪る。ラフにも程がある。
俺も簡単に朝食を済ませ、東堂さんに話を切り出した。
「実はルコ……この子の事なんですが、2日間一緒にダンジョンに潜ったんです」
どこからかペンとノートを取り出し、それでと催促される。
「種族名に恥じない強さでした」
素手で相手を粉砕していく勇姿を事細かく語る。はじめは驚いていた東堂さんも内容が内容なだけに、ドン引きしている。
「へ、へぇー。妖精にも様々な種類がいるから、それもありなのかもねー」
口では笑っているが、目が座っている。グロのオンパレードに、東堂さんの中で妖精のイメージが崩れているのだろう。食事については無表情の対応だった。
「牧野さんが以前シリーズモノかもしれないとおっしゃっていましたよね」
「そうそう。一応上に報告はしたけど、トラブルを回避するために今はまだ公に公表しないと返されたわ。ま、殺傷事件を起こされちゃたまらないもんね。 とは言ってもこのまま公表しない訳にはいかない。入手手段と種族名だけ伏せ、人類初の使い魔として別名で公表は行うわ。そうしないと、どこのダンジョンにもその子を連れていけないもんね」
と言うことは、近いうちに他の初心者ダンジョンにも行けるのか。
よかった。ルコに窮屈な思いをあまりさせたくなかったんだよ。
「その件はありがとうございます。種族名を偽るのは良かったと思います。というのも、一緒に過ごした俺としては他のモンスターと比べて特殊な分類に入る気がするんです。実際、ルコ自身、シリーズ内では粉砕スタイルを持つ戦闘妖精だと言っています。自分は作られ、主人のために願いを叶える妖精だと言ったんです」
「粉砕スタイル、ね。それならあのグロ話も納得いくわ。とはいえ、いくつあるかわからないけど、それぞれ異なったスタイルを持つ子が他にもいるのね。作られた存在というのも興味深いわ」
そう。異なるスタイルが、剣術なのか魔法なのか補助なのか全くわからないが。粉砕スタイルを変えないルコを見るあたり、他のスタイルが存在するのは間違いない。本人もそれっぽい事言っているわけだし。
「作られたのが兵器としてなのか、または別の意味があるのか、それはわかりません。が、どの戦闘妖精にしろ、モンスターとして敵対することは避けたいですね」
「この子の実力を間近で見ていた高橋くんがそういうのなら、私としてもそう思うわ 。事例がない分、どう対策していけばいいのか、課題は山積みね。そもそも使い魔を持つ前例がないもの」
スタンピートが起こってから、人々がモンスターへ向ける憎悪は物凄い。
身内を失った人の話をニュースで見た。画面越しに伝わる、悲しみとやるせなさ。
そして、モンスターに対する復讐心。
親を殺された恨みを、探索者になって晴らすと宣言した中学生がいた。その子は今高校生になっているだろう。
そんな人たちがいる中で、モンスターであるルコの立ち位置は厳しい目を向けられるものだろう。
「使い魔の存在がもっと増えれば、人々の気持ちは変わるんでしょうか」
「どうだろうね。……そうだ。使い魔に何かメリットがあれば、人の気持ちを動かせるかもしれない」
「メリット?」
「えぇ、一緒にモンスターと戦ってくれるのもいいけど、他に何か特別な事はなかった?」
特別か……、もしかしてアレなら。
「実はこの2日間で気づいた事があるんですけど、それなら東堂さんの言うメリットになるかもしれない。それを説明する前に、俺のこと鑑定して頂けますか?」
「それぐらいお安い御用よ。………はい、結果を書いたわ。見てびっくり。いくら強い使い魔がいるからって無茶しすぎてない?」
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タカハシ ヒナタ
異形を従える者 レベル8
HP 85/85
MP60/60
スキル 異形からの贈り物1 強運
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レベルがもうすでに8になっている。いやそれだけじゃない。
スキルとこれは所謂称号というヤツなのか? この異形の文字。
これはルコを指しているのか。
「この子は他のモンスターとはまた違う存在なのかしら。全くワケワカメ」
「俺の以上なレベル速度は、このスキルのおかげです」
「ん? この異形からの贈り物のことかな」
「はい、ルコから教えてもらいました。この子は加護妖精でもあり、自分が得た経験値を主人である俺に与える事が出来ると」
共に戦うだけじゃなく、俺の成長を助ける力を持つ。それは、探索者として喉から手が出るほど欲しいに
決まっている。
「つまり、経験値を丸々貰えるということ?! うそ、何それ? ずるーい」
俺とルコと紙を見比べながら、驚きを隠せない様子だ。
俺も聞いた時は驚いたもんだ。レベル上げが楽になるからラッキーなんて。
「でもそれって、このスキルのおかげなんだよね」
「と思います」
「じゃあ、メリットと捉えるには弱いわ」
「なんでですか? どう考えてもチート級のメリットですよ」
俺の言葉にため息をつく。何がそんなに不満なんだ?
「使い魔全てにそのスキルがあるとは限らない」
「え」
「そもそも異形が使い魔となったモンスターを指しているのか。この子の様に特典として与えられた使い魔限定なのか。この違いは大きいわよ。今の段階で簡単に言っていいことではないわ」
「他に使い魔を持つ探索者が現れるまで、この件は保留ね」
と言って、席を立った。
「帰るんですか?」
「えぇ、情報は得たし。これでも私、けっこう引っ張りダコ状態なのよ。あなたの使い魔の件だけじゃない。鑑定士としてやらなければいけない事が山の様よ」
とウィンクしながら
「まぁ、その調子で頑張りたまえ、少年」
「いや、どう見ても東堂さん俺より歳下でしょ」
「むぅ、探索者として私の方が先輩よ。高橋くんは私を見習って精進しなさい」
「へいへいへい」
適当に流す俺の前に突然寿司が現れた。
「コレは今日の御礼よ。びっくりした? これはマジカルポーチと言って生き物以外なら15個まで入れれる優れものよ。ちなみに特上寿司だからね。味って食べなさいよ」
マジカルポーチ……入る量によってはウン百万、ウン千万とも言われる高級マジックアイテム。
「儲かってますね」
「ボチボチね」
その後はいつ呼んだのかタクシーに乗って帰っていってしまった。
あ、番号聞き忘れてた。
「あら、東堂さん帰っちゃたの?」
「おう。仕事が山積みなんだって。あ、そこの寿司、東堂さんから情報のお礼にって」
「まぁ、美味しそう。なんだか悪いわねー」
お昼は豪華に寿司三昧。
父さんように少し残して、後は母さんと2人で美味しくいただきました。ゴチでーす。
「そういえば、今日なんとか出版社から電話が来てたわ。ダンジョンの件って言ってたような」
「あーー、ダンジョンの情報誌かな。もしかして取材とかかも」
「あら、それじゃおめかししなきゃね」
「いや、母さんもルコも無関係だから。用があるのは俺だけって、スーツはいらない」
顔出ないからそんなめかさなくていいんだよ。
なんで、そんなに張り切っているのか謎だ。
お昼ご飯もすませてリビングでゆっくりしていると、
「主人、ご飯」
ルコのため、ダンジョンに潜った。
うーん、マスク様でもこの強烈な死臭は防げないか。
それでも一定の距離を取り、なんとか寿司をリバースせずに済んだ。
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今日の買取金額
ルコの養分になったラビット34匹分の魔核。3,400円也。