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孤独なダンジョン攻略  作者: 主食がお菓子
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ルコの食事事情

ダンジョンに潜ってから1時間以上が経過する。その間、次々とラビットを葬っていった。主にルコが。

戦闘の感覚を思い出すかのように、手加減を覚える前に動きのキレが増し、威力が上がったように見える。

なにより・・・


「メタボ」

「筋多め」

「ムムム、良質」


殴る感触で、相手の肉質を見極めれるようだ。が、すぐ骨諸共粉々になるので、意味のないオプションが追加されただけだ。

媒体から離れた拳でラビットの命を食い尽くす。それなのに、胸元が血で染まるのは不自然だなと感じていたら。


「私の心臓、エネルギーチャージ」


胸元の石、おそらくターコイズにモンスターを吸収させる時に付着したのだと理解した。出会ってから食事を摂るそぶりもなく、光合成でもしてるのかと思っていたのに……。現実はそんなファンタジー要素はなかった。ルコがどんどん妖精のイメージからかけ離れていく。


「昨日は断食状態だった。だから、ペコペコ」

「それでこの死屍累々な有様なんだな」


どうやら俺は、知らずに飢えた獣を放ってしまったみたいだ。可愛そうだがラビットには尊い犠牲になってもらおう。南無。


人生最大の危機に瀕しているのか、普段単体行動しかとらないとされるラビットが集団で押し寄せてきた。ゆうに30体はいる。

その光景にご飯が来たと、ルコは楽しげに両手で次々と潰していく。細かい程吸収率が高いのだとか……。


とんでもない悪臭に耐えきれず、ルコを置いて階段まで戻ったのは言うまでもない。



「主人、身体大丈夫? 」


吐いて吐いて、身体を休めていると、食事はもういいのかルコが背中をさすってくれた。もちろん、血と肉片の手ではなくひじでだ。いい子。


「だいぶ楽になったから、動けるよ。ルコはお腹いっぱいになった? 」

「満タン」


心なしか、宝石の輝きが増している。


「出たら、センターでその服を洗おうな」


そう言うとルコは顔を横に振る。


「いらない。キレイ」

「どこがだよ。血でベトベトじゃないか」


本来白い服が見事に真っ赤に染まっている。


「ム、キレイだ。リフレッシュ」


緑の光がルコを包みこんだと思ったら、そこにはダンジョンに入る前の純白の服に身を包んだルコの姿があった。


「今のって」

「魔法。戦闘妖精の必需品」


ドヤ顔で言われた。魔法が使えるとは聞いていたが、もしや究極の魔法がそれだとは言わないよな。


「究極とは別物」


微妙な顔をしていたら、ルコは付け足してそう言う。だよな。洗浄魔法が究極なわけないよな。

それにしても、このままルコに戦ってもらえれば何もしなくてもボスを倒せてしまうんじゃないかと思う。

だけど、それだと俺のレベルは上がらないままじゃないのか。それだと、影に身を潜めてこそこそドロップ回収……ダメだダメだ。それなカッコ悪い探索者は嫌だ。思わず、頭を抱える。


「主人、やはりまだ身体が」

「いやいや違う。ただ、レベル上げをどうしようかと悩んでいるだけだ」

「レベル? 私の実績は主人へ献上済み」


何言っているだ、こいつ。


「ム、信じない。なら……」


どこかへ飛んで行ってしまった。

帰ってきたと思ったら、ラビットの耳を掴んでた。いらない、いらない。元の場所へ返してきなさい。


「主人、戦う」


ポイっと放り出されたラビットさんは、雑魚認識した俺に向かってタックルをかます。もろに腹に食らったが、前見たいな強烈な痛みがない。それどころか全く痛みを感じない。


そんな俺の様子に、ラビットが怯み隙だらけだ。

すかさずラビットを蹴り上げ、倒れた所にペティナイフをお腹からお尻に向かって下す。


「ぴぎぃ」


豆腐のように滑らかに肉が切れた。え、なんで、おかしい。一度ラビットを剥ぎ取った時は、思いの外丈夫で切れにくい皮に苦戦したのに、今回は簡単に切れた。


ぽかーんとしていると、ツボに入ったのかケラケラとルコが笑う。


「私は戦闘妖精であり、主人の成長を叶える加護妖精」


宝石の眩しさも相まって、つい拝んでしまった。

ありがたやー、ありがたやー。

まさか、実績の献上とは、経験値の共有とは思わなかった。思わぬ収穫に、内心浮かれた。


自分の変化に感動した後は、買取センターでドロップ品である大量の魔核と、自分が仕留めたラビットの皮一枚を買い取ってもらった。2回目にして大量の収穫に、お姉さんが驚いていた。


「本日はたくさんの買取をありがとうございます。こちらが金額となっておりますので、確認と良ければサインをお願い致します」


書かれた金額が4.550円。俺が倒した1匹分の150円を引くと、ルコは44匹分狩ったわけだ。その内9割を腹に収めている。これは燃費が良いのか悪いのか判断に困る。


でも、お金が増えたことは素直にうれしい。ルコ様々だ。すぐにサインして、『ザクザク』カードにお金が振り込まれた。今日は最弱のラビットだけだった。それなのにこの金額はうれしい。この調子なら明日は思い切って2階層のビックラビットにいけるかもしれない。それで今日と同じ量を狩れば、倍まではいかないがかなりの額が稼げる気がする。


まさしく金のなる木を手に入れてしまった。


「主人、うれしい?」

「ん? 何かおっしゃいましたか」

「あーいやいや、なんでもありません」


しまった、ルコがポケットの中に隠れているのを忘れてた。

俺はそそくさと買取センターを後にした。お姉さんはそんな俺を不思議そうに見ていたとかないとか。


「あーびっくりした。ルコ家とダンジョン以外は声出しちゃダメだよ」

「主人、シーってことか」

「そう、シーってしててね」


にーっと歯を喰いしばって見せてくる。ネットではまだテイマーの存在がない。

だからこうして、モンスターに見えるルコの存在はあまり知られてしまっては不味い。

ルコには申し訳ないが、こうやって人に見られず、気づかれないように我慢してもらおう。


帰宅すると、車庫と倉庫があった場所には何もない更地に変わっていた。

ダンジョンの入り口の周りは、立入禁止のバリケードが置かれているだけで、ちょっと無防備な気もする。

まぁ、いつダンジョンが出来たのかはわからないけど、刺激さえ与えなければスタンピートは起きないと思う。


ダンジョンが出来てすぐ塔へ軍を送り、成果を残さないまま壊滅したとある国は、核を落とし塔に傷一つ付かなかったうえ、スタンピートによるモンスターの大群により首都を失ったと国際ニュースに載っていた。

日本もスタンピートの脅威に晒されて、今のD.M.S計画がある。ダンジョン内のモンスターを狩りつつ、ダンジョン自体には攻撃しなければ、もうスタンピートは起きないと認識されている。


だからこそ、このダンジョンが多くの人の目について、探索者による攻略が進むことを祈るしかない。


でもそうなると、ルコと一緒にここを探索できる機会がなくなる。

D.M.S計画の中には、行方不明者や死者を出さない対策として夜間はダンジョン攻略を規制している。

日をまたぐほど下層へ行く場合には、事前に近くのセンターに届けを出さないといけないというルールもある。


そもそもまだ初心者である俺が、ランク3以上と言われている中級クラスのダンジョン入ることは許されない。

次にここを挑戦できる日まで、まだかかる気がする。


「主人の希望、叶うためルコがいる」


バリケードの周りをクルクル踊りながら、ルコなりに励ましてくれる。


「ルコがいれば、か。確かにこんなに心強い相棒は他にいないよ」

「ふふふ。主人はやさしい」


俺たちは俺たちのペースで頑張ればいい。

何も焦ったり、悩んだりする必要はないんだ。




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