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孤独なダンジョン攻略  作者: 主食がお菓子
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ダンジョンには特典があるようです

「ぬぁんだってーーー」


あの後、清掃道具を一通り探した俺は、倉庫にダンジョンが出来たことを両親に伝えた。


「ちょっとお父さん。ご飯粒が飛んでますよ」


美味しい豚カツが、だんだん薄味に感じてくる。まぁ、父さんが怒る気持ちも分かる。なんたってダンジョンは大事な物をのみこんでしまったんだからな。


「タイヤだぞ。俺の冬タイヤ。安もんじゃないんだぞ」


「とは言っても、日向に怒ったって意味ないじゃない。タイヤよりも今はダンジョンをどうするかでしょ」


「よりもってなんだ。いいか、車検が控えてるのにタイヤ4本買い足すんだぞ。いくらになると思っとるんだ」


あ、母さんの箸が折れた。


「今はお金よりも大事な話です。少しは冷静になってください。ありさちゃん」


「かあさん、その名で呼ぶのはやめてくれ」


ありさ……高橋 有紗。父さんの本名だ。


「怒鳴った事は謝る。だが、それぐらいでそれはひど「ちなみに私のお気に入りがコレ」 ぎゃー、日向の前でその写真はやめろ」


母さん曰く、父さんのお母様が女の子を欲しいあまり3人目の子は男女関係なく有紗にしたいと言っていたそうだ。で、運悪く男として産まれた父さんは、名前通り可愛らしい子供に成長し、10歳まで女物の服をよく着せられていたそうだ。


「おまえ、その写真をどこで」


「日向がお腹にいた頃マタニティブルーになっちゃって、お母様がコレを見ていたら元気が出るわよってくださったの。あの頃は仕事仕事で、帰りも遅く寂しかったわ。だから、このありさちゃんに慰めてもらっていたのよ」


みるみる青ざめていく父さん。


「べつにあの頃の事を根に持ってはいませんよ。ただ、楽しい夕食を台無しにされる事に腹を立てただけですよ」


写真効果で父さんは撃沈し、母さんに明日探索者斡旋センターに問い合わせてみると言ってこの場を流した。俺の日向と言う名前は、母さんとお母様の所為なんだろうなぁと改めて納得した。昔父さんに名前の由来を聞いたら、ボソボソっとそんな事を言っていた。




次の日、起きたら父さんはもう仕事へ行っていなかったので、母さんにでかける事を伝え斡旋センターへ向かった。


9時は空いている時間帯なのか、すぐ窓口にいけたのでダンジョンの件を伝える。


「まぁ、それはおめでとうございます」


「おめでとう? 」


「はい。ダンジョン内の調査は自衛隊の探索チームを派遣致します。その後ダンジョンの入り口にはゲートを設けまして、一般開放も行えます。どちらも国負担ですので無償です。高橋様には一切の負担はございません。さらに一般開放後収益の一部は、その土地の持ち主である高橋様宅に渡ります。」


「それでおめでとうとは? 」


「あら、ご存じないのですか? それは失礼致しました。説明致しますと、ダンジョンは出現してから初めて内部に入った方には宝箱が贈られるのです」


「知らなかった」


「本当は国が情報を隠していたかったのですけど、出現時に自衛隊を派遣出来なかったダンジョンがいくつかありまして、そこに一般人が入ってしまったんです。その後D.M.S計画の発表後、ネットに様々なダンジョン情報が拡散され、その内の1つが、『ダンジョンに最初に入った人には宝箱の恩恵がある』 なんです」


わぁー、それは隠し続けていたら国民に叩かれるな。


「ですので、調査チームには鑑定士と地主、この場合高橋様も御同行頂く形となります。もちろん、宝箱の権利は高橋様のモノですので、御都合が宜しい日をおっしゃってください」


国としては喉から手が出るほど欲しいモノでも、絶対に譲らないといけないと法律に定めてあるらしい。だが、スキルや魔法関連のアイテムなど鑑定が必要なケースもあるため、鑑定士が同伴となるみたいだ。


「スタンピートの件もありますので、なるべく早い日時が望ましいです」


「それはこっちも思っているよ。……では、今日か明日の10時でお願いします」


「かしこまりました。確認致しますので、お待ちください」


今日は鑑定士の都合がつかないため、明日の10時に決まった。自衛隊2人と鑑定士1人が来ることが決まった。

手続きを済ませ家に帰ると母さんがリビングでニュースを観ていた。日時が決まったことを話すと、


「よかった。スタンビートは怖いからハラハラしちゃった」


ビートってなに音楽刻んでんだよ。ピートな、ピート。


「あら違った? もぉ、横文字ってホント苦手なのよねー」


横文字以外にも怪しいのがいくつかあったように思うが、言わない方がいいだろう。

明日に備えて、俺は自室で装備の点検をした。



翌日、チャイムが鳴り玄関を開けると、迷彩柄の屈強なお兄さんが2人と、ヒョロッとしたお姉さんが立っていた。


「本日、ダンジョン調査の依頼を受けた仲田と牧野だ。それと」

「鑑定士の東堂っていいます。こちらは高橋 日向さんのお宅で間違いないですか? 」

「はい、俺が高橋 日向です」

「あれ? 女性だと思ってたのに男性なのね」


男2人が少しがっかりしている。悪かったな紛らわしい名前で。てか、事前に性別の情報わかるだろう。用紙にも記載したし。


「では、案内しますね」


ブラック時代に得た営業スマイルで、何事もなくダンジョンがある倉庫へ向かう。ゲートは調査後ダンジョンの難易度によって設定を変えるので、設置は後日となった。


「わぁー見事な穴ですね。真っ暗。これただの落とし穴ってオチじゃないですよね」


東堂さんが中を覗きながらそう聞いてくる。確かに底が見えない穴にしか思えない形をしている。


「間違いありません。昨日足を入れてみたら階段らしきモノがありました」

「あ、すでに足入っちゃってるんだ」


話を聞くと、ダンジョンは片足だけでも入ると、その人を認識するらしく宝箱が出現した状態になるという。


「もともと高橋さんのモノって決まっているので、特に問題はないのですけどね」

「とはいえ、探索者資格のある方でよかった。また示談や裁判沙汰になるのは勘弁してもらいたい」


資格のない人は法律上ダンジョン入れない。という事は、中の宝箱を手にできない。しかし、それはこっち側の都合な訳で、ダンジョンにしたら知らない話である。問題は、宝箱の中には稀に手にした者しか触れることができないアイテムが出る場合がある。つまり、その所有権が誰のものになるのかという話だ。

調査後、自衛隊が持ち出したから泥棒だとか、国の法律のせいだとか不当利益だとかでいちゃもんつける輩がいるらしく、示談で済んだモノもあれば、裁判まで発展した事例もあるらしい。


ちなみに不当利益とは他人の財産または労務によって得る利益のことで、この場合、自分の土地に出来たダンジョンなのに、宝箱の中身が他者に渡ってしまったことに当たる。


だが、探索免許証を持たない人が悪いと俺は思う。ほんと人って金が絡むと怖いな。資格取って本当に良かった。うちの父さんなら裁判をやりかねないからだ。


「では、そろそろ行きましょう。高橋さんがすでに入ったという事で、先に私が行きます。宝箱以外モンスターは出ないと証言はありますが、万が一の為、高橋さんは後ろをついてきてください」


「わかりました」


鑑定のお姉さんに聞くと、仲田さんはレベル80、牧野さんはレベル78と2人共中級ダンジョンを攻略出来るほどの実力がある。東堂さんはレベル21と2人よりだいぶ低いが鑑定スキルがレベルMaxなので抜擢されたと胸を張っていた。鑑定スキルがレベルMaxだと、鑑定できないモノはないという。あとで俺のレベルも見て欲しいなと思った。


急な階段を降り下にたどり着く。北浅井ダンジョンと同じ明るさの拓けた場所に出た。

見渡すとポツーンと宝箱が置かれていた。


「明らかに罠っぽいですね」


なぜか宝箱の上にスポットライトの如く灯りがある。箱自体いいモノが入っていますよと主張するように、神々しく輝いている。


「ははは、確かにあの見てくれじゃそう感づいちまうな。だが、安心するといい。トラップ有りは今まで一度もない。もちろん、特典以外の宝箱にはトラップもあり得るから、見つけた時は慎重に対処するように」

「ねぇ、早く開けましょう。私中身が気になって仕方ないです」


頷き、宝箱に手をかける。周囲への警戒は仲田さんが右側、牧野さんが左側をしてくれている。


ごくっと生唾を飲み込み、人生初の宝箱を開ける。


光と共に中から出てきたのは


「漸く迎えに来てくれましたか。我が主人」


両腕はひじ、脚はひざまでしかない、片目の潰れた妖精が目の前に現れ、お辞儀した。

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