灯台下暗し?
魔核を大事にリュックにしまう。そのあとは悩んだが、精神的に疲労が大きく、もう一匹を狩るのは断念してダンジョンから出た。時計を見ると1時間も経ってない。なのにどっと疲れてしまった。
ダンジョンを出たあと近くの買取センターに向かい、持ち帰った戦利品である魔核をスタッフのお姉さんに渡した。この買取センターも国が運営をしており、ダンジョンで得たアイテムが市場に出回って良いものか悪いものかを選別と管理している。
ちなみに無断で持ち帰った場合は罪になり、最悪の場合探索者資格を剥奪されるという重い罰則がつく。というのも三年前は人手不足もあり、無断で持ち帰る探索者が現れ、その都度、事件に発展し一般市民に被害が出たため厳しくなった経緯があるからだ。
国が定めたルールはしっかり守らないとな。何かあった場合国から護ってもらえなくなるかもしれない。
因みに、無断で持ち帰った馬鹿は、その後ネットのオークションにかけた所、強盗に入られ殺されている。モンスターの剥ぎ取り素材だったらしく、とんでもない額が付いた結果、ヤバイ連中に目をつけられたのだろうと俺は思う。
「ラビットの魔核が1つですね。それでは、こちらが買取金額ですのでご確認ください」
提示された金額は100円。事前情報通りだ。
「やっぱり安いですね」
「そうですね。でも、これ以上値は下がりませんよ。国の方針として魔核であれば最低金額は100円と決まっています。ラビットの魔核とはいえ、乾電池2個分のエネルギーがあるのですよ。リモコンに使えるエネルギーですから、需要はあります。買取不可の品物より、確実に利益になりますよ」
リモコン…確かに必要だわ。ラビットさんありがたやー。
「では、買取になさいますか? 宜しければ、こちらにサインをお願いします」
そう言われ、空欄にサインをする。そのまま持ち帰っても使えるものじゃないからね。乾電池2個分とはいえ、それは工場で魔核のエネルギーを乾電池に注入する過程を得た場合の話だし。
「では、カードに入金しますのでこの台に乗せてください」
言われるまま、免許証を台の上に置くと、『ザクザク』なんとも渋い音が出た。
「これで入金が完了しました。他に何か用件がございますか? 」
「いえ、特にないです」
「わかりました。本日は北浅井ダンジョンをご利用いただきありがとうございました」
免許証を財布に戻し、その場をあとにした。
安全面から例え100円でも、現金での手渡しはない。それが便利といえば便利なんだけど、俺としては初ダンジョンの成果は手にできる形がよかったな。とちょっと残念がる。
買い取りも終わり、これでひと通りの流れが済んだ。んーーっと背伸びする。
徐々に慣れていくとは思うし、なんとかやっていけるだろう。
家に向かって30分の道を漕いで行く。ラビットを狩ったからなのか、足取りが軽く感じた。
あ、そういえばモンスターを倒したから、俺にもレベルが備わるはずだ。
明日もう一度ダンジョンに行って確かめてみよう。
家に着くと、母さんが出迎えてくれた。築30年の一戸建て。俺がお腹に出来た時に建てた1つ上の先輩である。
「今日ダンジョンに行ったんだってね。お疲れ様。お湯張ってあるから入ってきなさい」
近所の誰かに聞いたんだな。斡旋センターから一度帰宅してダンジョンに向かった時、何人かに見られていた気がする。その中の誰かが母さんに伝えたんだろう。今は身につけていた装備を全てリュックに入っている。買取センターには更衣室があり、血で汚れていても無償で洗浄してもらえるサービスがある。家からダンジョンに行く時は着ていたから、その時だろう。
ゆっくり風呂に浸かった後は、自室でラビット対策を練る。今回ペティナイフが全く役に立たなかった。なので代わりの武器が急遽必要となる。しかし、あんな小さくてすばしっこいモンスターに対抗できる物が思いつかない。
スマホで武器の画像を出す。
ハンマーや金槌はどうだろう。
いや、脳天や内臓をぶちまけるのは嫌だ。血の匂いでさえ吐いた。まずは血の匂いに慣れてからにしたい。本音でいえば、そんなグロテスクな展開は避けたい。
じゃあ殴るか。手なら、グローブやメリケンサックがある。……無理だ。そもそも殴る対象が低い位置にいるのだから当たらない。ナイフと結果は変わらない。
そもそも、腰の位置より下にいるすばしっこく小さいモンスターってスキルや魔法がないと無理なんじゃないか?!
ある程度サイズのあるハンマーなら広範囲狙えるけど、それを扱う力がない。
それに、スキルや魔法なんてもっと入手困難な無理ゲーだ。市場に習得するアイテムがいくつか出回っているが目玉が飛び出る程高い。攻撃系ならそれの倍以上の値がする。初心者の手に届く額ではない。探索者以外で買える奴は金持ちばかりだ。
うぅ、いっそのことラビットは諦めて2階層に下りるか? 確か生息モンスターは……
パラパラとダンジョン名鑑をめくる。あった、ビックラビットか。こいつはラビットの上位版。その名の通りサイズがふた回りも大きくなり、さらに気性が荒く、タックルの威力も高いと言われ、打ち所が悪ければ死ぬ事もあるらしい。
「よくて骨折とも聞くから、出来ればもうちょっとラビットでレベルを上げてからがいいんだけど」
レベルとは、ダンジョン内でモンスターを倒した際経験値が入り、それによって身体能力が向上する仕組みのことだ。なぜか、ダンジョンでモンスターを倒した際、身につく。ただし、レベルや身体能力値は鑑定のアイテムもしくはスキルがないと知ることが出来ない。
大抵の人は、なんだか身体が軽くなったとか感覚でわかってくるケースだ。俺もそれ。だから、例えラビットをたくさん倒したとしても、レベルがどれだけ上がったかは知ることができないので、ビックラビットに勝てるかは運と勘まかせだ。
「あーもー、八方塞がりだ」
床に大の字になる。他に方法はないかと悩んでいると、車庫に車のエンジン音がする。父さんが帰ってきたのか。時計を見ると、18時になっていた。考えるのは明日にしようと、リビングに向かった。
「お、日向いたのか。ちょうどよかった」
「なんだよ」
「明日、会社の周りの清掃作業をする事になってな。悪いが、倉庫から道具に使えそうなものを探してきてくれないか」
「げぇー、めんどくさい」
「そう言うな。ほれ、鍵渡したから頼んだぞ」
投げ渡された鍵を手に渋々靴に履き替え、車庫の後ろにある倉庫へ向かった。
「久々に開けるな」
鍵を開け、奥を覗くと
「あれ? 」
ない。あるはずの冬タイヤが無く、代わりに黒い窪みがあった。それを覗くと……
「ただの偶然だよな」
兆しはなかった。知らないうちに倉庫の中に黒い何かがタイヤを飲み込み、その下を飲み込みダンジョンに作り替えていたなんて。