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孤独なダンジョン攻略  作者: 主食がお菓子
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北浅井ダンジョン

北浅井ダンジョン、通称初心者ダンジョン。国が発行している日本ダンジョン名鑑にて、ランク1に認定されている。国も認める初心者向けダンジョンである。


ちなみにランク付けは、モンスターの危険度、階層数、年間死者数から算出している。1〜5段階に別れており、ランク4と5は上層で出現するモンスターの危険度で別れる。上位の探索者といえど、ランク5に挑める者は限られている。


だが、ここで勘違いしてはいけない。ランク1=(イコール) 死者数0(ゼロ) という訳ではない。装備を怠れば自分の死に繋がる。充分に装備を確認してから、ダンジョン入り口の脇にあるカードリーダーに探索免許証を通す。


『認証しました』


音声と同時にゲートが開かれ、いよいよ、初ダンジョンである。

ドキドキする胸を押さえつつ、数段降りた先は薄暗いが拓けた場所だ。


ここで事前に調べておいた北浅井ダンジョンに関する情報を思い出す。特徴として、ダンジョン内は各階層同じ造りになっている。拓けた部屋が数個繋がっていて、一番奥の部屋に下へ降りる階段がある。階層の数は5で、奥にボス部屋が存在すると。


「初心者ダンジョンだから割と空いてる方なのか」


一階層は人がいる気配や音はない。それもそうか、ここで出るモンスターはラビット。ペットショップにいるウサギが少し大きくなったぐらいで、あまりモンスターらしくなく、臆病な性格で危険性も少ない。ドロップされる魔核は一円玉サイズで売値も100円と安い。剥ぎ取り素材の皮も1枚50円と、1匹倒してペットボトル一本分にしかならない。


モンスターの発生数もそれほど多くないらしく、基本単体でしか出現しないため、初心者には優しいが財布には優しくない。金稼ぎするには効率の悪いモンスターだからか、探索者からは不人気である。


「まぁ、初心者の俺には問題はない。今は金稼ぎより、レベル上げだ」


俺には3年間働いた貯蓄がある。装備にいくらか持っていかれたが、余裕がない訳じゃない。ゆっくり慣らしていけばいい。それに、ここはダンジョン。モンスター相手なんだ、しっかりとレベリングしなければ、先へは進めない。


「せめて、今日のお昼代ぐらいには狩ろう。よし、目標はラビット2匹だ」


スーパーの70円おにぎり3つ分。それだけ稼げればいい。


ダンジョン内の灯りは光る苔が足元を照らし、奥までは見えないが、天井からぶら下がっている光るキノコが照明代りになっている。


先ずは向かって右側の壁づたいに進んでいく。これなら右側がカバーでき注意する必要がない。その分正面と左側に集中できる。壁に沿って奥へゆっくりと歩く。額から汗が流れる。ふだん感じることのない緊張感が、鼓動を大きくしていく。


「あぁ、いるなら早く出て来いって思うけど、正直怖いな」


探索者専門店ではなく、ホームセンターで売られているナイフを前に向け、ゆっくり進む。予算の大半を防具代に充てたため、このオールステンレスのペティナイフ(1,280円)がラビットに対してどれ程効くのかわからない。使えないなら、無理してでも専門店で武器を買わなけれ探索者にはなれない。


ラビットよ、どうか最弱モンスターの看板を背負っているんだから、この調理用万能ナイフにやられてくれよ。

と、祈る気持ちでまだ見ぬ相手に投げかける。


それから5分程して、小さな茶色の足が見えた。


「………」


驚いて声が出そうになったが、なんとか留めた。


(いる)


息を潜めその場に留まった。すると、ぴょんぴょんとお目当てのラビットが姿を現した。


小さい。事前に調べた情報より、ラビットのサイズがペットショップにいるウサギとかわらない。


(しまった)


俺の身長は男子平均の175センチより少し低め。


(この体格差じゃ、ナイフを当てづらい)


姿勢を低くしてみたが、それでも足りない。むしろ、この体勢は相手にとって格好の餌だ。


ラビットには鋭い牙や爪はなく、攻撃はダッシュからのタックルのみ。大きさもスピードそれほどないため、避ける事も可能だ。が、人によっては当たり所が命取りになる。俺の場合まさしくそれ。こいつ男性の急所、そこを突っ込んできた。


「ひょぇぇ」


情けない声が出る。何度も何度も向かってくる敵を避ける。避けながらナイフを振るが空を切る。無理だ、股間に向かって飛んでくるボール(敵) に当てる事が出来ない。しかも、力加減を間違えれば、最悪自滅する。

どうする、リュックにはペットボトルが一本入っているけど、それを取り出す時間がさえない。


ラビットは疲れ知らずなのか隙がない。


(こいつ本当に最弱モンスターなのか? 既に俺手詰まりですけど)


避けるにも体力がいる。このまま持久戦に持ち込まれたらこちらに分が悪い。


しかたないここは。


「よっこいせぇー」


リュックを肩から下ろし、豪快に振り上げる。ダメージがあるかわからないが、見事にラビットが跳ね返った。仰向けに倒れたラビットの首元へペティナイフを振り下ろす。


一瞬戸惑ったせいで、少しズレたがなんとか倒せたのだろう。ピクリとも動かなくなった。


「うぉっぷ。うげー吐く」


血の匂いが鼻につく。慣れない臭いに胃液が逆流してくる。壁に向け、少しキラキラが出た。手探りで、リュックからタオルと水を取り出す。ラビットに当たったのだろう、ボトルが凹んでしまった。が、なんとか形を保っていて、中身も無事だ。よかった。


水をグッと流し込み、気分が落ち着く頃にはラビットの姿はなく、代わりに小さな小さな魔核が落ちていた。


初勝利は100円分の少ない報酬。だけど、俺でもモンスターを倒すことが出来るという、自信が手に入った。


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