世界が動いた
世界同時に起こった天変地異、それはダンジョンの出現。まるで、ゲームの様な展開に浮かれた若者世代はモンスター流出によって命を落とす、21世紀最悪災害、スタンピートにのまれた。
とある国は核を、別の国は軍事力でダンジョン破壊を行使するも全て無駄に終わった。
最後の策として、日本はダンジョンによるモンスター流出を防ぐための探索者育成計画、通称D.M.S計画を実施した。
第一次スタンピート発生から3年後、D.M.S計画は順調に進み、度々起こるスタンピートによる被害を最小限に食い止めるという驚愕の成果を見せた。また、探索者が持ち帰るダンジョン産の品、モンスターからドロップされる魔核が新エネルギーとなり、剥ぎ取った素材から新たな需要と供給の誕生により、バブル以上の好景気をみせた。
『災害に強い日本、ダンジョン対策も世界の先を行く』
でかでかと書かれた新聞の見出し。大手家電量販店に置かれたテレビ画面には、探索者特集が流れる。
「探索者になったきっかけは? 」
「高校生最後の夏休みにD.M.S計画が発表されて、それでこれだと思ったからです」
「自分は家族をスタンピートで失ったので、復讐のためですよ。今はそれでご飯が食えるからラッキーでしたよ」
街頭インタビューで答える面々は、とても一般人には見えない服装に武器を身につけている。3年で随分日本も変わっちゃったなーと、ボケーと見る俺は今年で29になる。
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最初に勤めていた会社はダンジョンに飲み込まれた。俺は窓越しに見た。黒い何かが、その場を侵食するように膨張していく様を。たまたま近くにいた人を飲み込んでいく様子を。
はじめは状況を理解するのに頭の処理が追いつかなかった。ただ、膨らんでいくそれを見つめていただけだった。
「おい、会議に使う書類はできているのか」
上司の声にハッとわれにかえった。そのまま、返答もせず、訳の分からない物体から逃げるように、上司からの怒号を無視して帰宅した。
翌朝、俺のいたビルが跡形もなく、逃げ遅れた者の生存確率は極めて0というニュースが流れていた。
職場を失った俺は、同僚や上司を見捨てた罪の意識で1年間引き籠った。
その1年の間に、世界は大きく変わってしまった。
俺が見た黒い何かが、至るところで目撃される。その後、期間はバラバラだが、それが発見された場所を中心に、洞窟や塔が現れた。
米、露、中国は首都に現れた塔へ軍を動かした。
同じく日本の都市東京にも塔が出現したが、政府は手を出さなかった。それよりも、民間人が塔や洞窟へ立ち入れないように整備に人員を割いた。また一部の自衛隊を洞窟の調査へ派遣した。
結果、塔を襲撃した軍は全て壊滅。
日本と同じように洞窟へ軍を派遣していた国には生存者がいた。その様子がライブ映像として流れ、国中が見てるなか悲劇が起きた。
塔や洞窟から一斉に飛び出す異形な姿。
ゲームでも目にした事のある、モンスターの群体が人々に襲いかかる。生々しい声と血飛沫が、映像越しに俺の五感を震えさせる。
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あれからもう3年が経った。
モンスターが塔や洞窟、所謂ダンジョンから出てきた出来事は、国民が自分自身て身を守る意識を強めた。政府側も、自衛隊だけで手を打つことは不可能だと知り、D.M.S計画が採決され今に至る。
3年間務めたブラック企業を辞め無職になった俺は、次の職を探そうと家電量販店の名前が目立つ雑居ビルに立ち寄った。目的はここの最上階フロアにある店舗だ。
『探索者斡旋センター、北浅井支店』
政府が行使したD.M.S計画によって全国に設けられた、探索者の為の国営施設である。ここでとある資格を得るため、自宅から自転車で30 分かかるここへやって来た。
その資格は国が許可する探索者である証。
探索免許証だ。
「68番のカードをお持ちの方は、18番の窓口にお越しください」
紙に書かれた数字を確かめてから18番の窓口に向かった。施設内は銀行や郵便局と同じでわかりやすく、要件によって窓口が分かれている。圧倒的に違うのは、その数が多く、フロア一杯に並んでいた。
「本日のご用件はいかが致しましたか」
「探索者の登録に来ました」
「新規ですね? ありがとうございます。では、こちらにご記入して頂き、身分確認のため、保険証または免許証の提示をお願い致します」
「保険証でお願いします」
保険証を受け取り、受付のお姉さんが席を離れた。先に渡された紙に目を通す。名前、生年月日、住所など空欄を埋めていく。ほとんど埋めた所でお姉さんが戻ってきた。
「コピーが取れましたので、こちらお返し致します。記入されましたら、横の通路から奥にお入りください。そこで2時間の講習と試験ののち、合格の場合この下に試験官のサインが記入されますので、用紙を持ったままもう一度こちらで受付を行なってください。不合格でも同様に受付を行なってください」
「不合格の場合は次回チャレンジできますか? 」
「はい。再度講習からのやり直しとなりますが、こちらで日時を指定出来ますので、予約という形になります。第三者に用紙が渡らない様に、当日は受付で新しく用紙をもらってくださいね」
「わかりました。そうならない様に頑張ります」
「自分の命がかかった講習と試験です。頑張ってくださいね」
命か…そう言われると足がすくむ。ブラック企業を辞めてから、俺は再就職を諦めた。働きたくない訳じゃない。ただ今度は人の下でこき使われる仕事じゃなく、自分のペースで働ける仕事がしたかった。
そう、探索者は命の危険はあるが、自分のやりたい様にやれる自由があった。マナーやルールはあれど、そこに俺は惹かれたのだ。
講習を1時間半受け、その後30分のテストが行われた。内容はダンジョンでの基本知識。マナーや武器の扱い、ポピュラーなモンスターの対処法。探索者以外の第三者との法律関連。ドロップ品や素材の処理法など全て○X回答だった。
その後採点の為10分待たされ、予めテスト用紙に書かれていた番号が電子版に発表される。番号があれば合格という訳だ。
試験官の元へ行き、用紙にサインをもらった。無事に一発合格でき、受付に戻った。
「おめでとうございます。ではこちらが探索免許証になります。再発行出来ませんので、紛失しないよう注意したくださいね」
「ありがとうございます」
受け取った免許証には名前と9桁の数字のみ記載されている。中に電子版が組み込まれていて、ダンジョンに入る時に使う。また、9桁の数字は口座番号になっていて、素材の売り買いは基本このカードで行う。日本の資源を海外に流出させないためだ。もちろん各銀行の口座へ入金も出来る優れものだ。
探索者という職業は、上手く行けば1日で大金を稼ぐ事が出来る。その為、制度が出来て間もない頃、強盗や殺傷事件が度々あった。それからは未然に防ぐ対策の一つとして、現金での受け渡しは禁止となり、キャッシュレス化した。
「では、高橋 日向 (たかはし ひなた) 様、まずは北浅井ダンジョンですね。御武運を祈っております」
お姉さんが言う北浅井ダンジョンとは、通称初心者ダンジョンと言われている。その名の通り、探索者になりたてにピッタリな階層数、モンスターの危険度共にランク1のダンジョンである。
全国には100以上のダンジョンがあり、その上、年々新しいダンジョンが発見されている。
その中で、探索者斡旋センターは主に初心者ダンジョンの近くに設けられている。資格を取得したその日にダンジョンに挑める様にする為らしい。
「今はちょうど13時か」
朝10時に来たから、午後はゆっくりダンジョンに挑める事が出来そうだ。とは言っても装備は持ってきていなかったので、一旦自宅に帰る事にした。
高橋 日向。今日から探索者として4度目の社会貢献頑張ります。