はやっ③
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道路の怪異というのは意外と数が多い。
剛さんが見たというターボババアあるいはターボおばあちゃんという怪異が道路の怪異の一番代表的なやつで、剛さんが無事だったように驚かすだけで無害なのが特徴である。
これが悪意ある怪異になってしまうと、バスケットおばあちゃんの様に、
一応説明しておくとバスケットおばあちゃんはターボおばあちゃんと同じ道路の怪異でバスケットボールを高速でドリブルしながら、主にバイク運転をしているライダーにパスを投げてくる。受け取ると事故にあい、無視しても身体にボールが当たり事故になるという、誠困った怪異なのである。
まあ、道路の怪異はどれもどこか冗談っぽい怪異が大半であり、高速でハイハイしてくる赤ちゃんとか、ミサイルにまたがった女子高生などと、見たと証言した人間の頭を疑ってしまう様なものが道路の怪異には多い。
あとは、六甲山が本場であると言われるが、目撃情報は全国様々な道路や高速道路にあると言われる。
ターボおばあちゃんがらみだと、某通信会社のCMなんかが面白く、やっぱりターボおばあちゃんはジョーク的な怪異なんだなと再確認させてもらえる。
「抜かれると死ぬって話もあるじゃねえかよ。和尚お願いだ! 除霊してくれ」
「だから拙僧のは除霊じゃないっていつもいっておろう」
「まあ、なんでもいいよお経あげてくれよ」
夢幻和尚はやれやれだぜと言わんばかりのポーズを決め剛さんを生暖かい目で見た。
「その剛氏が見たターボおばあちゃんは十中八九親戚のおばあちゃんだと拙僧は思うよ」
「そういえば似てた気もするが、可哀そうになそんな怪異になっちまって」
「…………」
「やっぱりそのおばあちゃん剛さんと血がつながっているだけはあるよ」
絶対驚かせてやろうというサービス精神を天然で、しかもこんな形で見せるあたり、やっぱり剛さんの一族だと僕は思った。死んでもただでは死なないのである。
「こっちは給料日直後で金はあるんだ。なあ、和尚いいだろ?」
たぶん剛さんはそのうち、年金支給日に銀行に並んでは、即座にパチンコを打ちに行く不良老人になるに違いないと僕は確信した。
「まあ、そういう事ならお経を上げますかね」
やっぱり生臭坊主、金には弱いようだ。
「やった! 和尚は験力だきゃあ確かだからな。これでばあ様も即昇天ってやつだ」
これで当分の間坊主の懐は暖まるという事になるのだろう。まあ剛さんにお金を持たせておいても良いことはなさそうだし、お金が無くなれば、つましいちびちび飲みを再開する辺り、借金をしてまでお金を使わないところが数少ない剛さんの美徳なんだろう。
「しかしターボおばあちゃんか、本気でそんなもんに行き会う人は剛さんくらいでしょうね」
「作家どの、それ褒めてるの? 貶してるの?」
「う~ん、どちらかというと褒めてるかな? まあ無駄な霊媒体質だと思うけど、ある意味純粋なんでしょうね剛さんは」
「そう? 俺は純粋よ。だからかかあも……」
そうしていつもの様に剛さんのかかあ自慢が始まった。いつも幽子さんに色目を使う剛さんの奥さんは実は結構な美人なのだ。
もちろん年はそれなりで、上品な貴婦人然とした初老の淑女なのだが、なんで剛さんにこんな人が? と首をかしげたくなる。ある意味ターボおばあちゃん以上の不思議なお話なのである。
今日の幽は明るい笑いがこだまする。酒の美味い夜だった。