下にいる②
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あの、私、藤田といいます。こちらの連れは会田さん、同じ大学に通っている友人です。
その……奇妙なことが起こったのは一月くらい前のことで、引っ越したばかりの私のアパートで起こりました。
そろそろ寒くなってきたかな? って時分の初冬のことで、空は透き通るように晴れた、でも気温の低い日でした。
以前住んでいた格安の古いアパートが改築で取り壊すことになって、同じ大家さんが持っている別のアパートへ引っ越すことになったんです。
新しいアパートの方が大学に近いし、設備も新しいし、家賃も幾分かまけてもらったので、私はその新居に喜んで入りました。
単身のそれも学生の身分には過ぎたるような物件で、キッチンもお風呂もしっかりした物件で、しかも仕送りとバイト代で十分住める家賃だったので私は大満足でした。
引っ越しの日のことです。私、物はそんなに持たない質なので、会田さんに手伝ってもらって引っ越しはすぐに終わったんです。
荷物を梱包していた段ボールなんかは脇へ置いて、宅飲みでお祝いをしたんです。ええ、二人で。
普段は私たち二人ともそんなに飲まない方なんですが、その日は美味しくスルスルと飲めちゃって、二人とも真っ赤になって、わいわいと騒いでしまいました。
そんな感じで会田さんの終電も過ぎちゃって、会田さん、私の部屋に泊まっていくことにしたんです。
私がベッドを使って、会田さんはベッドの脇に布団を敷いて横になりました。豆電球の明かりで部屋の中は一応見えるくらいの暗さにして、横になってすぐ、私はウトウトと眠りにおちるところでした。
すると、突然起き上がった会田さんが私を揺すりました。どうしたの? と訊くと「ねえ、藤田さん。コンビニ行こうか?」と言うんです。
私、だいぶ眠かったし、引っ越しで疲れてもいたので、会田さん一人で行ったら? というと「お願いだから、一緒に来て」と譲らないんです。
あまりに会田さんが懇願するものだから、根負けした私は会田さんとコンビニに行くことを承諾しました。
寝巻姿にダウンだけまとって、アパートの外に出ると身を切るような寒さで、私はやっぱ止めない? と言いました。
会田さんはそんな私の手を取ると、ぐいぐいと引っ張りました。コンビニとは逆方向に。
ねえ? どうしたの? 会田さんちょっと変だよ。と私が言うと。
「いいから、今から交番へ行くわよ」とすごい剣幕でいうので、私ははっとして、何があったの? と訊きました。
「いたの……貴方のベッドの下に……男が」と、私は青くなりました。えっ? 本当に? と再度尋ねると。血走った目がギラギラとしていて目が合った瞬間ぞっとしたと会田さんが言うんです。
交番に着いて、お巡りさんに事情を話すと、あまりまともに取り合ってはくれなかったんですが、一応私のアパートまで来て、中の様子を確かめてくれました。
結論から言ってしまうとそこに男は居ませんでした。