表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この多重宇宙のどこかで  作者: かべちょろ
クムラギ防衛篇
PR
85/158

お客さん1

二十.【お客さん】


 お廟の廊下で、ユタはその女の子に会った。歳は彼よりも少し下で、買ったばかりと思われる綺麗な着物を着ていた。花と小鳥の柄が、可愛らしい顔に良く似合っていた。壁にかけられた筒灯を物珍しげに見ていたが、彼の方をふり向くとこう言った。


「あんた、ここの子?」


 ムッとなった。この女の子は口のきき方を知らないと。が、年下の子には親切にしてあげるべきだと考え、彼は丁寧に答えた。


「ここの子というわけではありませんが、ここで働いている者です」



 大人な受け答えのお手本を見せたつもりだったが、相手はあまり感心した風はなかった。

「ふーん」と答え、筒灯に目を戻した。「これ、ランプでしょ?」


 ユタは何度も聞いていた。アオイが筒灯のことをそう呼んでいるのを。だから物知り顔でこう答えた。


「そうですよ。筒灯と呼ぶのが一般的ですが」


「なあんだ。ツツトウってランプのことだったんだ」

 そう言って屈託ない笑顔を見せた。笑った顔が人懐こくて、つられてユタも笑顔を返した。


「超シブいわねぇ」


 その言葉もユタはよく知っていた。だからこう答えた。

「やばいでしょう?」


 すると相手は訝しげに眉をしかめ、次いで呆れた顔で笑った。「ヤバイってほどじゃないし」


 馬鹿にされたように感じ、やっぱりこの子は生意気だと思った。


「そもそも、君は誰です? どうしてここにいるの?」歳上の威厳を示してそう言うと、

「私はお父さんと一緒にここに泊まるのよ」と答えた。


「じゃあ君が」


 竜使いの頭首リコチャキが、娘と一族の者数名を連れてお廟に逗留することは聞いていた。


「リコチャキさまのお嬢さん?」

「そうよ。よろしくね。二日泊まるの。あんた、ここのお手伝いさんなんでしょ」


 認識を間違っているうえ、その言い方には語弊があると感じた。今度こそマジでムッとしたユタ。そこへリュウが通りかかった。


「ユタ。どうしたの? その子は誰?」


 ユタが答えるより先に、女の子が答えた。


「私はニニチャキ。あんたは誰? あ、そう言えば、さっきから話してるけどあんたの名前も聞いてなかったわね」


「僕はユタミツキ。君より少し歳上です」

 かろうじて歳上であることと、礼節ある物の言い方をアピールしたユタ。しかしそれは、この相手にはまるで問題ではなかった。としか思えなかった。


「あ、そう」軽く言われた。


 困惑気味の表情でリュウも名乗った。「僕はリュウミチモリ。ユタとは親友で同い年です」


「へえ」こちらも軽く。


 しかも名前を覚えてくれた様子はない。その後の会話でもあんたと呼ばれたユタとリュウ。


 二人はため息をついて顔を見合わせた。


 なにしろ、竜使いの頭首リコチャキがお嬢さんを連れてやってくると聞いて、勝手に歳上の素敵なお姉さんを想像していた二人。期待を裏切られたうえに取り扱いに困る子。


 けれど優しい二人は、多少生意気でも歳下の子には親切にしてあげるべきだと考え、お廟の中を案内してあげることにした。



 ユタとリュウがニニに翻弄されていたその頃、廟堂の一室でリコチャキとタパタイラが話していた。ニニの事を。


「なるほど。では、ここに来るまでの道中、その子を知る者は誰一人いなかったと、そういうわけですな」


「ええ。誠に不思議なことですが。どれほど歩いたとしても子供の足。きっとすぐ見つかると思っていたのですが……」


「両親が見つかるどころか、誰一人知る者がいなかったと」


「ええ。一人として」


 タパは静かに頷くと、いつもの穏和な笑みを浮かべた。一人の男を思い浮かべ。


「ここクムラギにも、似た境遇の者が一人現れた。今、この廟堂で暮らしておる。アオイセナという剣士。その者、剣士でありながら、異例づくめのケイを与えられ、その働きたるや比ぶる者なきありよう。おそらくは聖女マナハナウラ誕生に始まる定めを結実に導くため、天が遣わした者。私はそう思うておる」


「ほう、そのようなお方が……」


「そう。故に私は思う。リコチャキ殿。そなたの元に現れたその幼き子も、長じてはこの定めに深く関わる勇者となるのではないかと。記憶なきことが、誰も知る者いぬことが、その証拠。そして時折漏らす奇異なる言葉。まるでフィオラパのような。それもまた、天の遣わした者である証拠ではないか」


「なんと」リコチャキは言葉に詰まった。「ではあの子は、定めの為に天が遣わした者だと? それが私ごとき者の元に?」


「うむ。断言するには早計かもしれぬ。しかし我が私見ではそうとしか思えぬ。故にリコチャキ殿。それが天意ならば、そなたの術を余す処なくその子に伝えるが良い。その子がひととなりし時、定めを導く助けとなるはずである。なぜならば天はそれを予見して、そなたを選び、そなたの元に遣わした筈」


 リコチャキは頭を垂れた。床に拳をつけて。胸にこみあげるものがあった。瞼に滲んだ。


「タパ殿。ありがたきお言葉。我が術はもとより、我が妻ニコチャキの術も、余す処なくあの子に伝えましょう。この定めの一助となるべく」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ