延命術の妖婆5
六.【無を祀る祭壇】
ニシヌタお婆さんの廟堂に着くと、お弟子さんが大きな部屋に通してくれた。そこはタパの廟堂のマアシナの部屋に似ていて祭祀場だと分かったが、神像は無かった。祭壇には小さな金ピカの社があり、その中には何も無い。
初めて目にしたアオイ。お弟子さんが立ち去った後、リリナネは小声で教えてくれた。
「ラアテアの祭壇よ。社の中が空っぽでしょ。つまり、そこにあるのは『無』」
「なるほど」『無』を祀る祭壇。アオイは感心して頷いた。
リリナネはこれから会う人について説明してくれた。
「聞いていると思うけど、ニシヌタお婆さまは千里眼だからね」
「はい。聞いています」
噂で聞いていた。聖女マナハナウラが誕生した時、夢にマアシナが現れたといい、また、マナハナウラが冥界入りした後も、マナハナウラが夢枕に立ち子供の誕生を知らせたという。
「アオイの故郷の事とか教えてくれるかも」
「はい。実は少し期待しています」
「これも聞いていると思うけど、ニシお婆さまは百三十四歳だからね」
「え!?」それは聞いていなかった。しかし聴いていない事に驚いたのではなく、もちろん年齢に驚いた。「ちょっと長生き過ぎませんか?? それ、普通なんですか?」自分の常識がおかしいのか。今まで、こういう場合大抵彼の方がおかしいのでコレもそうなのかと思ったが。
しかし違った。
「普通なわけないじゃない。延命術を使っているのよ」
「延命術?」
「そう。長生きの魔法」
部屋には彼ら二人だけだが、なぜか小声で話す二人。
「延命術を使って良いのはツフガの中でも特別重要な人だけ。政治堂とツフガ合議の許可が必要なの。ニシお婆さまの場合は、マナハナウラ様の冥界入りに深く関わっているから。大事な事はニシお婆さまの夢を通して伝えられている」
「なるほど」
「延命術の呪文材料集めはめちゃくちゃ大変。しかも術者は死ぬよりも辛い苦しみを味わう……、らしいわ」
「え? 死ぬより辛いんですか」
「そう。術を唱えて二、三週間は生死の境をさ迷う、そんな感じらしいの。もちろん死なない為の呪文だから死なないけど。そのくらい苦しいそうよ」
「ううん……それは……」
「人間は天寿をまっとうするのが一番」
「ですね……」
そんなこんな話していると、案内の少年が現れた。
「お婆さまのご用意ができましたのでご案内します」
アオイとリリナネはお喋りを止め立ち上がった。
長い廊下を少年について歩いていくと、接客の間と思しき部屋に通された。そこに妖婆はいた。




