後片付け3
オニマルサザキベは笑顔で言った。
「アオイ殿。ゆっくり話したい処ですが、私はそろそろ政治堂へ行かねばなりません。これにて」
アオイもゆっくり話したい処だったが、俺と違って色々忙しいのだろうと思った。「そうですか。また是非」次回ゆっくり話したいと思った。
オニマルサザキベは軽く会釈をし、笑顔を残し立ち去った。
オニマルサザキベがいなくなると、ルルはアオイの前に小走りに駆け寄り、何かの券を差し出した。両手で握り。「お友達第一弾です」見ているこちらが息詰まるほど、緊張した面持ちだった。
「何の券?」
「ツキツキです」
「ああ、ツキツキ」そう言えばツキツキって何かまだ訊いていなかった。「ツキツキって何?」
しかし相手は緊張していた。用意していた台詞をそのまま言った。「もしご一緒くださるのでしたら、正午にお廟の前で待ってます」うつむいたままそう言うと、アオイの手に券を握らせてクルリと背を向けた。
「え?」
トコトコトコと駆け出した背中に向かって訊いた。「いつの?」
恥ずかしそうにふり返り「明後日です」と言い残して駆け去った。
アオイは手の中の券を見てみた。もうある程度字は読める。券には、日と時間と、そして大きく『つきつきおう』の六文字。ツキツキ王って何だ––? 人の名前らしきモノも幾つか読めた。誰がツキツキ王なんだ––?
しかしそもそもツキツキを知らない。お廟に帰ったらユタに訊こう––。券をズボンのポケットにしまった。
その後再び作業に戻り、そろそろ三時かなという頃、馬に乗った人が知らせに来た。
「撤収う。時間でえす。お疲れ様でしたあ。道具を片付けてくださあい。明日も頑張ってくださあい」大声で言って、馬を走らせ遠くで作業している人たちにも知らせに行った。
どうやら午前三時間、午後三時間という決まりみたいだった。「やれやれ」と引き上げるおじさん達に混じってアオイも引き上げた。喉が渇いていた。何か飲み物を貰おうと天幕に立ち寄ると、リリナネがまだいた。
「あれ? ずっといたんですか?」
吃驚してアオイが問うと、笑みを浮かべて目線で指した。スノコの上にムシロが引かれた休憩の爲の場所があり、そこにスヤスヤとユタが眠っていた。リリナネの道服をかけて貰い。
「疲れちゃったのね」側にしゃがんで寝顔を見ながら、リリナネは言った。
「ですね。じゃあ、俺がおぶって帰ります」
「でも、多分もう目を覚ますんじゃないかしら。起こしてみたら?」
「いや。俺のせいで草臥れさせたわけですし……。それより、リリナネさんまで残らせてしまってすみませんでした」
「いいのよ。みんなとお喋りしてただけだから」
それを聞いてふと気になった。誰とお喋りをしていたのか。あるいは、するのか。もしもルルオシヌミともお喋りをする仲なら……。さっきみたいな事を言われたら大変じゃないか––。
昨日まで存在しなかった爆弾、それが今ではプカプカ周りを漂っていた。機雷のように。
「じゃあ、帰りましょう。おぶえる? 私が抱き上げるから」
「はい」背中を向けしゃがんで、その背中にユタをもたれかけさせて貰った。立ち上がり背負った。ユタはまったく目を覚まさなかった。
「よっぽど疲れたのね」
「ですね。こいつも昨日から寝てないはずですから」
「じゃあ、帰りましょう」にっこり笑ってリリナネは言った。




