後遺症3
処が眠気は去ってくれなかった。部屋に戻り、いつものようにユタと二人でご飯を食べ、食べ終わる頃再び猛烈な眠気に襲われた。箸の上げ下ろしさえ緩慢になった。眠い。
「アオイさま、小さな子供みたいですよ」
何度もユタに言われた。
「ううん……。そうだな……」答える口も動かない。「何だか、腹がふくれたら……急に……」
ユタはあきらめたように肩をすくめてにっこり笑った。立ち上がり、お膳を部屋の隅に寄せた。
「何してるんだ……?」その時には目の焦点さえままならなくなっていた。
「お布団を敷きますから」
「いや、後片付けに行かなきゃ……」
「とても出来そうに見えませんよ」
「けど……行かなきゃ……」何でこんなに眠たいんだ—? まるで麻酔をかけられたようだった。
「さあ、アオイさま。これが見えますか?」
「ああ……見える……それは布団。けど……」
「五分だけ横になればいいでしょ」
「そうだな……、五分なら」
魅惑的な言葉だった。抗しきれず横になった。すぐに意識が深い場所へ沈んでいった。五分だけ、同じ言葉を繰り返し思いながら。
ぐっすり眠ったアオイにかけ布団をかけて、ユタはお膳を抱えて部屋を出た。厨房に食器を戻し、皿洗いをしていたラナイ少年に事情を話し、それから支度してお廟の入り口へ行った。リリナネが待っていた。
「あら。アオイは?」
「アオイさまはきっと神経呪の後遺症です。ですから僕が代わりに後片付けに行きます」
「あら」リリナネは顔を赤くして笑った。「そうだったの。じゃあまさか、初めてだったのかしら? 憶えてないだけかと思ったんだけど」
「きっとそうです」
「変ね。剣士なのにマタトアをかけられたこと無いなんて」
「ホントに。アオイさまは不思議なおかたです」
「まあ、難しい呪文だから……効き過ぎたのね。私のせいだわ」
「きっとお疲れになったのです。他の皆さんは?」
「カタジニはもう出たわ。シュス様とアヅ様は帰ってきたばかりだから色々あるみたい。すまないと言ってたわ」
「そうですか。じゃあ出発しましょう」
「大丈夫? 穴掘りは大変よ。私と一緒に炊き出しの方をやれば?」
「いいえ。僕はアオイさまの代理人ですから」ユタは所得顔でニコッと笑った。
リリナネはその顔を見て納得したのか、笑みを返して優しく言った。「そう。じゃあ行きましょう」
二人は並んで廟堂を後にした。
「ホントに不思議な人ね」
「はい。ホントに」
「ツバクロを知らなかったのよ。意味が分からなかったみたい。白黒の犬は何クロですかって聞き返してた」
「白黒の犬は、ブチじゃ……」
「カタジニの例のアレを見て、不思議そうに考え込んだり」
「カタジニさまのアレは誰だって不思議に思うに決まってます」
「あんなに強いのに、馬に乗れないみたいだし」
「乗ったことが無いかもっておっしゃってました」
「そんなはずないわ。きっとすっかり忘れてしまっているのね」
「はい。アオイさまは目にしたモノや、教えて差し上げたこと事は思い出すのですが、それ以外はさっぱり……。未だに鹿と鶏冠竜の区別がついてないですし」
「ありえないわよねえ」
「味噌汁を見て恋告と言ってましたし。コエをコイと勘違いしてました」
「あはは、変な人。コエが恋じゃややこしいわよねえ……。あ。そういえば、お廟の近所のルルさん……」
「え?」
「アオイ君と仲良いのかしら?」
「え?」ユタは目を逸らした。
「何か聞いてる?」
「いいえ。何も」




