アオイ初陣3
真っ暗な民家の戸口に群がる五匹の小鬼族。先頭の者が引戸を斧で打ち割り、中に踏み込んだところだった。アオイは目の前にあった背中を斬馬刀で貫き、力任せになぎ倒した。一斉に振り返った敵。
移動呪で前方へ跳んだ。そこは既に戸の内側。暗がりの隅に十歳位の女の子が幼い男の子を庇って立ち竦んでいる。
アオイは鉾持つ右手を逆手に握り変え、振り返りざま一閃、小鬼族の首を刎ねた。再び握り変え、その真後ろにいた小鬼族の胸板貫いた。
その時には駆けつけた武人、残る小鬼族と斬り結び、たちまちの内に始末した。
アオイは子供に声をかけた。
「逃げ遅れたのか」
震えながらコクコクと頷いた女の子。
「もう大丈夫だ。他に逃げ遅れた人は?」
女の子は首を振った。
駆けつけたオニマルサザキベ、状況を見てとるや、武人らに言った。
「馬を二頭用意しろ。子供を門の所まで乗せていく。一頭は私で、もう一頭はアオイセナ殿のだ」
アオイは慌てて言った。「いや、俺は馬は……、多分乗れな……乗ったことが無いと思います……」
オニマルサザキベは目を丸くした。頭巾の下に覗く目は切れ長で綺麗な二重だった。その目が笑んだ。
「不思議な御仁だ……」
「すみません」思わず謝ったが。
「いや、こちらこそ。ご記憶が無いのでしたな。あまりの活躍ぶりに失念しておりました」
子供達を促して民家の庭先に出ると、ちょうど騎兵の一団駆けつけた。先頭の馬上、立派な体格の武人が言った。
「遅れてすまぬ、オニマル。戦況は?」
オニマルサザキベは質問には答えず「ちょうど良かった。叔父上、私に馬をお貸しください。この二人の子供を門の所まで。叔父上も一緒に。戦況は駆けながら」そしてアオイを振り返り。
「叔父のモモナリマソノです。クムラギ政治堂の武人筆頭です」アオイに紹介し、モモナリマソノにも「タパタイラ様の廟堂の剣客、アオイセナ殿です。詳細は馬上にて」アオイを紹介した。
「おお、噂の……。リケミチモリ殿より伺っておる。よろしく頼む」
「アオイセナ殿は噂に勝る働き、子細も馬上にて。叔父上、急ぎましょう」叔父を促し、自身も馬上の人となった。
小さな男の子は武人が抱き上げて、モモナリマソノに渡した。モモナリマソノは受け取った男の子を自分の前に跨らせた。女の子の方はオニマルが手を差し伸べ、あぶみを踏ませて馬上へ引き上げた。同様に、自身の前に跨らせた。
オニマルは手綱を操り馬を門の方へ向けると、振り返り言った。
「アオイセナ殿。数々のお礼は後ほど必ず。武運を。マアシナの加護のあらんことを」
アオイは笑顔を返した。オニマルは軽く拳を挙げてみせると、手綱を捌き馬を駆けさせた。
暗闇の中に消えてゆく馬を見送った。武人らと共に。
一人の武人が側に来て言った。
「アオイセナ殿。先ほどリリナネ様とカタジニ様をお見かけしました。私がご案内しますが」
「うん……、いや」始め頷いたが、思い直した。
オニマルはこの区画に小鬼族を封じ込めると言った。ならばその前に、壁を乗り越え続々降りてくる奴らをなんとかしなければいけない。
「ちょっと片してくる」
「は?」
訝しがる武人を尻目に、アオイは壁の上を睨み据えた。
「フル」唱え、
壁の上に跳んだ。
強風吹き抜けている。髪がなびく。着物がはためく。
ド肝を抜かれた格好の小鬼族を立て続けに二匹斬り捨てた。甲高い声で喚きながら敵が退いた。前面と背後で彼を挟み、身構えた。
壁の幅は長槍一本分。あまり広くはないが、狭すぎるということもない。ただ、塀も柵もない。灯りは、灯火の術のかけられた矢が一本、側の屍に刺さっている。それのみ。足を踏み外せば転がり落ちるだけ。
眼下には青白い灯火で照らされた幻想的な戦場。壁の反対側は真っ暗闇。しかしその闇の底には敵が蠢いているはず。
風吹き抜ける空の中の路。




