旅立ち篇15
十.[出立前夜]
日々は走馬灯のように流れ、あっという間に出立前夜となった。その夜アオイはなかなか寝つけなかった。様々なこと心を捉え。深夜、小腹が空いたなと階下へ降り、カマドの周りをガサゴソ探した。何かないかと。しかしジャガイモがあるだけで他に何もなかった。彼はしばらくそれを見て思案した。
人の気配がして顔を出したのはユタだった。
「ごめん。起こしちまったか?」
「いえ。なんだか眠れなくて。アオイさまも。まだお休みになってなかったのですか?」
「ああ。小腹が空いてな」本当はそれだけではなかったが、そう言ってごまかした。
「お腹が空いたなんて……、なんて呑気な。でも、今あるのはそのお芋くらいですけど」
「うん。だな……」
人間窮すればなんとかである。あれ、意外と簡単にできるんじゃないか、アオイは思った。
「手伝う? 珍しいもの食わせてやるぜ」
「アオイさま。食わせてやるなんて言葉が汚いです」
「食わないのか?」
「食べるに決まってます」
そうしてアオイはユタに手伝ってもらって料理に取り掛かった。まずジャガイモを薄くスライスした。
「え? こんなに薄く切るんですか」びっくりするユタを笑い、カマドに火を起こし、鉄鍋を乗せ食用油をたっぷり入れた。
ますます眉をしかめたユタ。
「勿体ないです。アオイさま。天ぷらでも作る気ですか?」
「まあ見てな」
油の温度、頃合いを見て、切ったジャガイモを入れていった。思ったよりハネた。バチバチと勢いよく。
「うおっ」と作っている本人がびっくりしていると、
「アオイさま、ホントに作ったことあるのですか?」咎められた。
「ないけど。多分できると思って」平然と答えると。
ユタは呆れ顔になった。
ユタに大皿を出してもらい、その皿の上に油取りの紙を敷いて、その上に揚げたブツを乗せていった。塩を振った。
「え? これで完成なんですか」怪訝な顔をするユタに。
「うん。そう。まあ、食ってみようぜ」勧めて、まずは自分が一口食べた。ちょっとエグかったがちゃんとアレになっていた。
「ちょっとエグ味があるな……。水に晒してアク抜きしたら良いのかな? でも、そしたらもっとハネそうだな……」小声で言って考えていると。
「え? 何これ。美味しい。アオイさま、これは何ですか? 美味しいです」ユタがパリパリ食べていた。
「美味しいって言っちゃダメなんじゃないのか」
「あ……」
気まずい顔を見せたユタ。その様子を笑い、教えてやった。
「これはな。ポテチだ」
「ポテチ、ですか?」
「ああ」懐かしい味だった。
その後は、二人黙ってパリパリとポテチを食べた。明日にはお別れとなる。けれど二人ともその話はしなかった。




