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この多重宇宙のどこかで  作者: かべちょろ
旅立ち篇
149/158

旅立ち篇15

十.[出立前夜]


 日々は走馬灯のように流れ、あっという間に出立前夜となった。その夜アオイはなかなか寝つけなかった。様々なこと心を捉え。深夜、小腹が空いたなと階下へ降り、カマドの周りをガサゴソ探した。何かないかと。しかしジャガイモがあるだけで他に何もなかった。彼はしばらくそれを見て思案した。

 人の気配がして顔を出したのはユタだった。


「ごめん。起こしちまったか?」

「いえ。なんだか眠れなくて。アオイさまも。まだお休みになってなかったのですか?」

「ああ。小腹が空いてな」本当はそれだけではなかったが、そう言ってごまかした。

「お腹が空いたなんて……、なんて呑気な。でも、今あるのはそのお芋くらいですけど」

「うん。だな……」


 人間窮すればなんとかである。あれ、意外と簡単にできるんじゃないか、アオイは思った。

「手伝う? 珍しいもの食わせてやるぜ」

「アオイさま。食わせてやるなんて言葉が汚いです」

「食わないのか?」

「食べるに決まってます」

 そうしてアオイはユタに手伝ってもらって料理に取り掛かった。まずジャガイモを薄くスライスした。

「え? こんなに薄く切るんですか」びっくりするユタを笑い、カマドに火を起こし、鉄鍋を乗せ食用油をたっぷり入れた。

 ますます眉をしかめたユタ。

「勿体ないです。アオイさま。天ぷらでも作る気ですか?」

「まあ見てな」

 油の温度、頃合いを見て、切ったジャガイモを入れていった。思ったよりハネた。バチバチと勢いよく。

「うおっ」と作っている本人がびっくりしていると、

「アオイさま、ホントに作ったことあるのですか?」咎められた。

「ないけど。多分できると思って」平然と答えると。

 ユタは呆れ顔になった。


 ユタに大皿を出してもらい、その皿の上に油取りの紙を敷いて、その上に揚げたブツを乗せていった。塩を振った。


「え? これで完成なんですか」怪訝な顔をするユタに。

「うん。そう。まあ、食ってみようぜ」勧めて、まずは自分が一口食べた。ちょっとエグかったがちゃんとアレになっていた。

「ちょっとエグ味があるな……。水に晒してアク抜きしたら良いのかな? でも、そしたらもっとハネそうだな……」小声で言って考えていると。

「え? 何これ。美味しい。アオイさま、これは何ですか? 美味しいです」ユタがパリパリ食べていた。

「美味しいって言っちゃダメなんじゃないのか」

「あ……」

 気まずい顔を見せたユタ。その様子を笑い、教えてやった。

「これはな。ポテチだ」

「ポテチ、ですか?」

「ああ」懐かしい味だった。


 その後は、二人黙ってパリパリとポテチを食べた。明日にはお別れとなる。けれど二人ともその話はしなかった。


 


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