旅立ち篇14
「ハハキリをこの世界にもたらしたのはマアシナ。だろ? 俺の龍翅もかな?
悪龍の誕生は『定め』とはまったく無関係。マナハナウラの冥界入りとはまったく関係ない話。たまたま同じ時期に誕生したからみんな勘違いしている。それは全然関係ない話。悪龍はサラとユウが楽勝退治するだろう。その為にも俺がしっかり呪文材料を集めてやらないとな」
「あんた、まさか本当に……」驚倒寸前のフィオラパ。
「シュスさんがモコアヒから聞いたという話。
『三十年後、小さき魔導師が我を訪れる。その者に力を与えたのち我は姿を消す』
小さき魔導師ってサラだろ?
で、モコアヒが姿を消すのはサラの安全を脅かす者を減らすため。
サラはマアシナを宿しているけれどマアシナの霊力を宿しているわけじゃない。魔導師としては極普通の力しかない。モコアヒが姿消せば、サラ以上の力量を持つ魔導師は誕生しない。サラの危険が減る」
「ぐむむ」息ができない様子の妖精。息はしてないはずだが。
「お前らも姿を消すつもりだろ。分かるよ。お喋りだからだろ。サラに喋ってしまいそうなんだろ。お喋りだから、喋ってしまうかも知れないから、それくらいならもういっそのこと姿消してしまおうと、そういうわけだ」
目を白黒させている妖精にとどめを刺してやった。
「『定め』って言えば聞こえが良いけれど、それは神々の企て。企み。そこに原理神のヴェセプタまで加担している。闇のポー達はそれを阻もうとしている。定めってつまり」
さえぎられた。絶叫で。
「ぎゃー、ぎゃー、聞こえないいー、聞こえないー」両手で耳を押さえてわめくフィオラパ。
「喋りたい-、喋りたいー、喋りたいけど喋れないー、だってこんなこと人間に知られちゃ絶対上手く行きっこないものおお」
「ぷっ」アオイは噴き出した。「お前って」
ぶちゃいくで小憎たらしいと思っていた妖精が意外と。
「意外と可愛らしいんだな」
フィオラパは心外とばかり口をへの字に曲げた。
「あら。私はプリティーな妖精なんだけどっ。古今東西、どこの国でも。あっちの世界でもこっちの世界でも」
アオイは笑った。愉しかった。背を向けたフィオラパを呼び止めた。
「もう行くのか」
フィオラパはふり返り答えた。
「だって、あんたといると何もかも喋りそうだもの。これ以上喋るわけにはいかないもの」
思わず笑みが浮かんだ。
「また会えるか」
「さあね。フォローが要るような時は。会いに来てあげる」
「そうか。絶対だぞ。会いたいから。じゃあな。ヴェセプタやラギに忘れず伝えといてくれ。お前ら随分だなと」
「んん?」窓から出て行きかけていたフィオラパはふり返った。怪訝そうな顔でふり返り、アオイの顔を見て、彼の誤解に気附き、ニヤッと笑って言った。
「あんた、勘違いしてるわ。あんたにはご褒美があるの」
「ん」今度はアオイの方が怪訝な顔をする番だった。意味が分からなかった。
妖精は謎めいた笑みを浮かべ謎めいた台詞を残して窓から飛び去った。
「定めに大きく貢献したあんたにはご褒美があるわ。ニシヌタが言ったでしょ。最後には全て得る、って」
「え! おい、ちょっと待て」意味が分からない。ニシヌタの予言は大剣士になる事じゃなかったのか?
「ご褒美って何だ?」
飛び去ったのに耳元で囁いた。愉快げな声が。
「神様のご褒美をなめちゃいけないわ。だって、神様よ。私達も手伝うのよ。楽しみだわあ」
吃驚して横を見たが姿見えなかった。




