表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
島ねこコテツと山神の呪い  作者: たらふく
PR
35/35

三十五、コテツの最期



「慎平~!電話よ!」


母親が階段の下から慎平を呼んだ。


「え~!誰~!」


慎平は部屋から顔を出して訊いた。


「なんか、テレビ局の人って言ってるわよ!」

「えぇ~~!テレビ局?」

「いいから早く下りてきなさい~!」


慎平は「なんだよテレビ局って」と言いながら下りて行った。

俺とフクも何事かと、慎平の後に続いた。


「お電話代わりました。なんでしょうか。はい、はい・・ああ・・そうなんですか。いやまあ・・そうですけど。はい、それは僕です。え・・いやいや、まさかそんな。あり得ませんよ。はい、はい、いえ無理です。いやもう結構です。はい、失礼します」


慎平は「はぁ~」とため息をつきながら、電話を切った。


「なんだったの?」

「なんかさ~、大会の日、僕がリレーでゴールするまでの様子を撮影してた人がいたんだって。それで、コテツとフクが僕の傍から離れずに一緒にゴールしただろ。その動画がネットで話題になってるらしくてさ。それを見つけたテレビ局が是非、出演してくれって」

「あらヤダ、そうなのね」

「まるで意思が通じてるようだったって。僕とコテツたちのね」

「通じてるじゃないの」

「いや、そうだけど」

「いいんじゃないの?テレビ出演」

「なに言ってるんだよ。それでさ、もしかしたら話をしてたんじゃないんですか?って。まったく・・」

「いや、してるじゃないの」

「お母さん」

「なによ」

「僕がコテツたちと話ができること、絶対に言わないでよ」

「うん・・そりゃまあ、言わないけど・・」

「僕はコテツやフクをペットと思ってないから」

「え・・じゃあ、なんなのよ」

「友達」

「・・・」

「友達を晒し者にするつもりは、全くないからね」

「まあねぇ・・」

「コテツ、フク。気にすることはないからね」


慎平が俺たちに向かってそう言った。


「テレビて、どがなもんなら」


フクが俺にそう訊いた。


「まあそうじゃのう・・人間がようさんおって、なんか機械もようさんあって、やたらと「きゃーきゃー」喚いとったの」

「ほうなんか・・」

「居心地のええとこでやこ、ありゃせん」

「ほうか・・」

「他の動物やこも、同じじゃった」

「他の動物て?」

「サルがおったんじゃが、早う帰りたい言うとったけに」

「ほうか。それじゃったら行く必要やこ、ねぇな」

「そうだよ、フク。僕も出す気なんて全くないから」


それでも慎平あてに、何度も電話がかかってきた。

その度に慎平は頑として断っていた。


すると、あろうことか、テレビ局の人間が家を訪ねて来たのだ。

慎平はこれまで、怒ることなど一度もなかったが、今回ばかりは激怒していた。


「家にまで押しかけてきて、一体どういうつもりなんですか!」


慎平は玄関先で怒鳴っていた。

その様子を俺とフクは、隠れて聞いていた。


「いや、あくまでも噂のレベルなんですが、どうやらきみと猫たちが話していたと耳にしたんですよ」

「バカなっ!話しなんて出来るわけありませんよ!」

「そうですかねぇ。あの競技場にいた人から聞いたんですよ」

「誰ですか、それって」

「いや、単なる観客ですが。ほら、猫がトラックに出て、一緒にゴールするなんて珍しいでしょ。だからきみたちの傍で様子を見ていた人がいてね。その時、話してたって」

「飼い主が猫に話しかけるって、よくあることじゃないですか」

「それはそうなんだけどね。でもね、その話しぶりは明らかに会話だったって」

「勘違いも甚だしいですよ!」

「それでね、その猫たちに会わせてくれないかな」

「お断りします!」

「少しだけでいいんだけどな」

「帰ってください!猫はあなたたちのオモチャじゃないんだ!」

「そうですか。わかりました」


そう言ってテレビ局の人間は帰って行った。


「慎平・・」

「コテツ・・フク・・」


慎平は振り向いてそう言った。


「聞いてたんだね」

「うん・・」


俺が頷いた。


「じゃけど、テレビ局の人間いうんは、嫌じゃいうとるもんに、あがなこと言うんじゃな」


フクがそう言った。


「ほんとだよね」

「なんで、あがにしつこいんなら」

「さあ。お金じゃないのかな」

「お金?」

「視聴率が上がれば、お金がたくさん入って来るんじゃないのかな」

「ほうか・・」

「でもこの話は終わり。また来ても断るからね」


その後、テレビ局が家に押しかけてきたこともあってか、近所の人や、果ては遠くからも俺たちを見に来る者が増えていった。

そのせいで、慎平と母親は対応に苦慮していた。

俺たちが外へ出るのも、ままならない状態だった。



「なあ、フク・・」


俺とフクは慎平が学校に行った後、部屋で寝そべっていた。


「なんなら」

「このままじゃと、慎平に迷惑がかかるばかりじゃが」

「うん・・」

「俺ら、ここを出た方がええんじゃないんかの」

「島へ帰るんか・・」

「それもええかもじゃ。もうここへ来て、だいぶ経っとるしの」

「そうじゃな・・」

「慎平は反対するじゃろうから、黙って出て行かんか」

「そがな・・。慎平が心配するが・・」

「いや、帰るいうたら、きっと自分のせいだと思うに違いねぇんじゃ。慎平はそういう人間じゃ」

「・・・」

「だからの、黙って出て行かんか」

「俺・・まだ慎平と一緒におりたいけに・・」

「フク・・」

「慎平が好きじゃけに・・」

「俺じゃって同じじゃ。もっと一緒におりたいて思うとる」

「じゃったら・・」

「フク・・島へ帰ろう・・」

「コテツ・・」

「やっぱりの、俺たちの生まれ育ったところへ帰るんが、一番ええけに」

「ほうじゃけど・・」

「そうせんか」


俺はそう言いながらも、自分の身体が島までたどり着けるのかと不安だった。

家の中を歩くのも、まるで老描のようになっていた。



それから数日経ったある日のこと・・


「コテツ、最近、歩くのも辛そうだけど、ほんとに具合が悪いんじゃないの?」


慎平が俺の様子を気にしてそう言った。


「そがなことは、ねぇけに」

「お医者さんへ行こうよ」

「いや、そがな必要やこ、ねぇけに」

「コテツ、外へ出とらんからじゃねぇんか」


フクがそう言った。


「ああ・・そっか。日を浴びてないしね・・。フクの言う通りかも」

「うん、そうかも知れんけに」


俺は適当にそう答えた。


「じゃったら外へ行かんか」

「そうだよね~フク」

「じゃけど、外には俺たちを見たい人間が、ようさんおるんじゃねぇんか」

「四六時中いるわけじゃないし。いない時を見計らって行こうよ」

「慎平の言う通りじゃ。コテツ、そうせんか」

「うん・・ほうじゃの」


外へ行く言うたって・・俺は歩くんもこがなのに・・走れやこ、せんが・・

目も霞んどるし・・


「僕、外の様子を見て来るね」


慎平はそう言って階段を下りて行った。


「コテツ・・ほんまはどうなら」

「どうならて・・」

「お前、身体がえらいんじゃねぇんか」

「アホな。えらいことやこ、ねぇけに」

「じゃったら、どして、そがな歩き方になっとんなら」

「お前も言うたが。外へ出とらんせいじゃと」

「あれは適当に言うたんじゃが」

「俺はそうやと思うた。これは外へ出とらんからじゃ」

「ほんまか?」

「ほんまじゃ」

「えろうねぇんじゃな」

「ああ。えろうねぇけに」


「コテツ~フク~」


慎平が部屋へ戻ってきた。


「今ならいいよ!」

「人間はおらんのか?」


フクがそう訊ねた。


「うん、いないよ。さっ、天気もいいし、行こう!」


そして俺たちは外へ出ることになった。

外へ出ると、慎平の言う通り、誰もいなかった。


「河川敷へ行くぞ!」


フクは久しぶりに走れることを、おおいに喜び、真っ先に駆けて行った。


フクの後に慎平も続いた。

けれども慎平は、走ることはできなかった。

俺と慎平は、並んで歩いていた。


「コテツ、走らないの?」

「え・・」

「僕はすぐに追いつくから、遠慮しないで走っていいんだよ」

「うん・・」


俺は最後の力を振り絞るように、なんとか走ろうと頑張ったが無理だった。


「慎平を一人にすると心配じゃけに」

「そんな~。なに言ってるんだよ」

「こけたら、いかんが」

「コテツ、優しいんだね。ありがとう」


やがて河川敷へ到着し、フクは川べりへ行き、水を飲んでいた。


「うひゃ~!冷てぇの~~!」

「どれどれ~~!」


慎平もフクの傍へ行き、手で水を触っていた。


「ひゃ~!ほんとだ。冷たいよ~」


俺は、酷く息切れしていた。


「コテツ、大丈夫?」


慎平が俺の傍まで来てそう言った。


「ああ・・ハッ・・ハッ・・平気じゃけに・・」

「ほんと・・?息が荒いよ」

「ちっと休めば、収まるけに」

「そっか・・」


慎平はその場へ座り、俺を膝の上に乗せた。


「コテツ・・やっぱりお医者さんへ行こうよ」

「いや・・平気じゃけに・・」

「そんな・・。家に帰ったら行くからね」

「ええ言うとるが・・」

「ダーメ。やっぱりコテツ、変だもん」

「なに言よなんら・・大袈裟じゃのう・・」

「コテツ、寒いでしょ」


慎平はそう言って、俺に上着をかけてくれた。

ああ・・気持ちがええ・・

慎平・・寒かろうにの・・


「コテツ~~!なにしよんなら~~!ほら~走らんか~~」


フクが遠くで俺を呼んでいた。


「フク~~!後で行くけに~~!」

「早う来いよ~~!」


フクはそう言って、走って行った。


フク・・待っちょってくれの・・

今すぐ行くけにの・・


俺はフクの走る後姿をずっと見ていた。


島のみんなは元気にしとるんかのう・・

タロウとは、あまり話もせなんだが・・ええボスじゃ・・


堤防の先で寝るんが、気持ちよかったの・・

フクとは、ようケンカしたのう・・

あがに生意気じゃったフクが・・今では親友じゃけにの・・


サムは今でも、動物園におるんかの・・

あいつが死んどらんで、ほんまによかった・・

シンバもええ人間に飼われて、あいつも幸せもんじゃ・・


タツキは、河川敷で生きとるんかの・・

よう逃げられたもんじゃ・・

あそこで逃げんかったら、あいつは殺されとったんじゃけに・・


ソラ・・お前は、ほんまにええやつじゃ・・

こがな俺を見捨てんと、よう東京へやこ・・来てくれたの・・

お前・・島が好きじゃったはずじゃのに・・

よう着いて来てくれたの・・


マサ・・お前が親になったとは、今でも信じられんが・・

タケを大事にせぇの・・


ほんまに色々あった・・

俺も何度も死ぬ目に遭うたが、慎平に助けられた・・

慎平・・


俺は慎平の顔を見た。

慎平はフクが走り回っているのを、嬉しそうに見ていた。


「慎平・・」

「ん?コテツ、どうしたの。まだ寒い?」

「いや・・寒うない。慎平のおかげで気持ちがええけに」

「そっか、よかった」


慎平は俺を包んだ服と共に、両腕で俺を優しく抱いた。


「こうするともっと温かいでしょ」

「ああ・・温かいけに・・」

「コテツも走って来る?」

「いや・・もう少し、このままでええけに・・」

「そっか。わかった」


そして俺は再びフクを見た。


ああ・・もう見えんようになるが・・

フク・・俺を置いて行くんか・・

フク・・楽しそうじゃの・・

ようさん走れよ・・

広い大地を・・目一杯、走れよ・・

島へ帰ったら、走り競争しようの・・

ソラも・・マサも・・待っとるけんの・・


慎平・・ありがとう・・

俺はお前に出会えて、幸せじゃった・・

俺とフクは・・島へ帰るけんど・・淋しい思わんとってくれの・・


俺の目はもう、フクも慎平も見えていなかった。


島へ帰ろうの・・フク・・

慎平・・フク・・


そして俺は静かに目を閉じ、慎平に抱かれたまま息を引きとった。



----------------------------------------


最後までお読みくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ