戦略重装甲服
群青の髪とキチン質の肌、甲殻人種としても大き目の体格とむね!病み上がりのサキュラさんは目を疑う。
途切れ途切れの意識の中、助けられてしまった事は分かっていたけど、まさか江都を離れ、海の真っ只中に来てしまっていたとは・・・
桃色の髪の子がミサイル?に乗って飛んで行く、魚屋さん見たいな前掛けの下に、派手なランジェリー、テカテカウェーブの黒髪を撫でつけたヤバそうな人がこっちに来る。
気付くのが少し遅かった。まあまあと肩を抱かれ、貨物船の中へ拉致られる。こわい。
エレベーターに相乗りして降りる。2人して上を見上げる。気まずい。
貨物室まで降りると小さな油圧ハッチに押し込まれる。せまい。
ハッチの中は、人1人分の横幅しか無い長細く薄暗い廊下になっていて、天井と左右の壁全体に巨大な送風機がはめ込まれており、床は1面粗めの溝蓋で、奥には入り口と同じハッチが見える。
仕様がないので、奥まで進む。
「あっ・・・ドアノブがないっ・・・」
入り口側が閉められる。こっちもノブがないらしい。コンプレッサーとファンのけたたましい駆動音と暴風で、パニックになる。
「ひっ・・・!」
「大丈夫だから落ち着いてよ?」
しばらくすると、ブザー音と共にファンが止まり奥のハッチが開いた。
ハッチの先は明らかに船より大きな空間になっていた。天井があるかどうかも分からない程高く、部屋の奥行きも分からない。古今東西様々な姿形のクローゼットが、霞んで見えなくなるまで積み重ねられ永遠と並んでいる。
「さあ!ここがわたしのショールームよ!」
「・・・」
入り口近くの開いたスペースには、踏めば足がめり込む程分厚く真っ赤な絨毯と、装飾過多な丸テーブルとセットのロッキングチェアが2つ、そして6つの墓標と埋葬途中の棺桶が1つ飾ってある。
「あの墓は〜わたしの物を盗ってこうとした命知らず共よ。それであっちの棺桶はー「わたしのですかぁ・・・!?」
「いや・・・上手く逃げおおせたのが1人いてね。そいつの為に置いてあるの」
視界の外のあるかどうか分からない壁と天井で、幾何学模様の影が蠢いた気がする。
「取り敢えず、何時までもそんな裸見たいな格好させてらんないからね!」
「・・・っ」ちょっと忘れてた!
「あなたに合いそうなの選んどいたから着てみてよ」
何の前触れも合図も無しにクローゼットの塊が動き出し、風に吹かれる木の葉ように上下左右に捌けて行く。やがてビザンティン様式の城門と見紛う程、巨大な白いクローゼットが、絨毯の手前まで迫り出して来た。
「うぅ・・・まぶしっ・・・」
黄金で縁取った観音開きの扉が開くと白を基調とし縁々に金、銀、白金で刺繍を施した戦略重装甲服が此れでもかと輝き目を潰す。
「ほら!凄いでしょ!破雲天の金剛糸で紡ぎ、ビカビカの木の重液を煮詰めた幽剛金で刺繍して魔陣を織り込んだ決戦仕様よ!!!」
「・・・こんなの着れま、うっ!」
患者服を剥ぎ取られると、無理矢理クローゼットへ押し込まれた。
白に金刺繍のショーツとブラジャーが勝手に引っ付く。ドレスが3層に分かれて纏わり付き、飲み込むように身体を包む。
「・・・いっや!!」
1層目は銀刺繍を薄く透かせ、顎下から足の爪先まで密着し、2層目は身体のラインをぼかすようにゆったりと覆う。
3層目は厚手のしっかりした生地で、抱きしめられているような重みがあった。
全身の血液が顔に集まってくる。今までこれほど華やかな服は着たことがない。
「やっぱりこの手の物は、着る人あってこそだわ!!」
「こんなっの!?・・・やだ!!何これ、脱げない!!」
皮膚に貼り付いている。引き剥がそうにも元々、無縫製だったかのように、素材どうしの継ぎ目無くなっていて、何処から脱げば良いのか分からない。呪いかな?
「無理無理無理無理無理無理無理・・・!!!」
「機能の説明するわね?」
こちらのことは、御構い無しに被せてくる。
「あの!脱がせてくだー「取り敢えず1番の特徴は最大値でDisaster・Magnitude9.50〜クラスの物理耐久!」
「ナイン!?」
興奮気味に捲し立ててくる。恥ずかしさの中耳慣れない単語を聞いて、驚きで思わず聞き返す。
「そうっ!!核でも大丈夫!!・・・側はね。まあ〜受け身無しの吸収率なら7半くらいよ?」
「それでも凄い!あの・・・」
連合で使われる災厄指数D・M、1つ上がるごとに威力が31.6倍、2つで1000倍になる。6で弱い人なら死ぬ、7で基本死ぬ、8ならみんな死ぬ、9ならそれは酷い大災厄なる。普通に暮らしていれば、D・M5以上は、まず気にする必要の無いもの。何故ここまで?
「そして生体素材無使用の為、暴走の心配無用の安心設計!それでいてマルチヘルスケアと自己修復機能付き!!」
「あっかしこい!!あの・・・」
地味にお風呂機能はうれしい。じゃなくて!
「もちろん、極地環境、特殊現象下での連続運用も、際限無く保証!!」
「ステキ!!あ・・・」
おかしい、搭載機能が。
「最大瞬間出力、D・M8.40、連続出力D・M8.10!!火力面も申し分無しね!!!」
「・・・ん?」兵器かな?
「医療処理能力も充実!戦闘中でも骨折くらいで、戦えなくなることは無いはずよ?というか、ほぼ出血以外で死ねなくなるわね」
「何で、そんな機能を・・・?」
「当然、連合軍、最終防衛戦力規格の戦略機能を標準装備!!」
「あの、せ、戦争でもするんですかぁ?なんて、あはは・・・」
なんて物騒な物を着せてくれたの!?
「・・・?まあ、そんなところよね〜?旅学生なんて、ね!」
「あの、わたし旅学生じゃないですよ?」
「そうなの?まあ、そんな事はもう関係ないのよ」
「はい?」なんで?
「そん事より、そろそろ行くわよ!」
嫌な予感がする。
「・・・あの、どこへ?」
「それを試しによぉ」
陸砕貨物船の外、遠く迫る狂獣の群れに対して、船群の自動防御機能が発動し、攻撃を開始する。
陸砕巡洋艦が一斉斉射で狂獣を薙ぎ払う。雑魚がバラバラに吹き飛ぶ中、砲撃をものともしない猛者が残る。
陸砕潜航艦から地中潜航魚雷の直撃を受け猛者が爆散し、圧倒的力を持った覇者が咆哮する。
陸砕戦艦の最大火力が覇者を蒸発させ、8体の災厄が姿を現した。