陸砕船群
連合屈指の巨大都市、江都、全7層からなる超構造体の最上層に位置し、連合の重要拠点となっている。
代わってその下、最下層、狂獣蠢めく乾いた沼地に平然と並ぶ貨物船、旅客船、戦艦、空母、漁船にヨットの数々。
互い違いに碇を載っけあって繋げたこれら全ては、1人の魔人が所有している。
連合有史以前の全球水没時代に建造された骨董品は、海は疎か陸を砕き、果ては山すら駆け登るデタラメな走破性能から陸砕船と呼ばれていた。
ウェーブの掛かった黒髪をポマードで固め、前髪は3つに区切り片側だけ長く残して、後頭部から伸びた一対の角は、魔素を込めた黒漆で染め上げている。
両眼も当然のように改造済みで、それぞれ違った仕様の魔眼に誂え、それを補強する眼鏡を掛けている。
一見、ビニール製の漁師がしているような黒いエプロンは、大災厄級の狂獣の分泌物を塗りたくった代物で、その下は呪詛をレース状に編み込み首まで覆いつつ、背中を大きく空けたノースリーブの殆んど下着な水着をつけている。
1人で総司令の魔人、サファイザは船群端の貨物船から沼地を見下ろしていた。
もうすぐあの子がやって来る。黒い天体望遠鏡を2つ束ねたような双眼鏡を、どこからとも無く取り出すと、右の瞳を半回転と3瞬き、3つある虹彩と4枚ある瞼の内、最も高い倍率に組み合わせて覗き込んだ。
ピンク頭の美少女旅学生ももえちゃん、今日は、お船をいっぱい持ってる妙齢な魔人のとこでお買い物 ♪ 遠くに船が見えてきて、ルンルン♪♪
で〜も〜〜?
な〜んか落ちてくるな〜と思ったら人だった。しかも思っ切り目が合うし、笑いかけてくるし、怖いわ!!
涙目になって、なむあみだむぶつ、なむあみ、なむ、なむ、勘弁して下さい。。。
目と鼻の先に着弾、アブないわ!!
積もっていた塵が舞い上がり、ビルを爆弾で解体した時のように、津波となって押し寄せる。
構える暇も無く巻き込まれる。
これは、死んでるわぁ、間違いないっ!
しかし、着弾点に人影1つ。ゆうれいかな?幽霊じゃないよ!生きてるYO!!
ふァアアアッッッ!!!
立ってる!
1番上から降ってきただろう人間が立ってる!!
驚きで腰が抜ける。
いや、連合の最終防衛戦力レベルなら、これくらい何ともないのが、ごろごろいるらしいので、その類の人なのかな?
安堵で腰が戻る。
ぱっと見、血ぃとか全然出てないし大丈夫そう?
あっ!
出てるわ〜よく見ると出てるわ〜この人血が青いだけだわ〜
衝撃で腰がどっか行く。
ぶしゅ〜〜・・・
何か喋ってるみたいだけれど、青い血がブクブク沸いてて聴き取れない。
手を突き出し、両脚を引きずりながら近づいてくる。ゾンビかな?
怖くってちょっと身動きがとれない。
て感じかな?なんか、大変な事になってるわね。双眼鏡を下ろして伸びを1つ、ここら辺で助け舟を出してあげようかしら?
自慢の船舶コレクションの中から、全球水没時代の緊急救命救急船ターの碇をあげた。