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白面大猩猩

 建物の3階まで届く巨大な狂獣が、建物の陰から半身を覗かせこちらを伺っている。メンフクロウのようなのっぺりとした顔には口が無く、ゴリラを想わせるその体躯は、青白く長い毛で覆われていた。


挿絵(By みてみん)


 狂界旅学において、この程度の狂獣との接触は日常で特に珍しくはない。見られるだけなら別にいいと、気にもとめず向き直る。


 背中を向けた瞬間、狂獣が飛び掛かり、こちらを押さえ込もうと手を伸ばすのが見なくても分かる。


 見逃してくれなかったか、残念、と顎を突き出し上に向かって息を吐きながら、吹き上がる前髪と影をつくる狂獣の手を仰ぎ見る。


 迫る剛腕を、お尻の上で両手の指を絡めるように組んだまま、頭を下げお辞儀しながらに半回転して躱し真横につける。


 お仕置きのつもりで掌底を、狂獣の右腕にお見舞いする。


 遺伝子単位で品種改良され、強化された肉体から繰り出された一撃は、着用者の意図を汲み取って、力を加速させる生体装甲服内部のフレームと、魔素を持って威力を倍加させる表面の呪印によって、致命の一閃となって骨を砕く。


 予想外の反撃を食らった狂獣は、赤黒く濁った眼を見開き、先程まで獲物と思い込んで疑わなかった得体の知れない生き物と、ゴムよう動かなくなった腕を交互に見つめる。


 狂獣の顔の長い毛に覆われ隠れていた口が耳まで裂けて露わになる。砕けて朽ちた木杭のようになった歯が、真っ赤に熟れた歯茎に突き刺さるように並んでいる。黄色く膿んで爛れた舌を波打たせ


「この・・・貧乳がっ・・・!!!」


 はっきりそう言うと狂獣は、踵を返してビルの谷間へ消えて行く。


 完全に不意を突かれた。何も言い返せなかった。こちらは無傷、相手は骨折、だが勝った気はしなかった。敗北に似た脱力感が身体を重くする。


 言葉を解する狂獣はそこそこいるが、煽ってくる奴は中々珍しい。世界は広いなと思った。


 奴の捨て台詞が頭の中でこだまする。振り払えない!段々ムカついてきたので、やっぱり何か言ってやろうと追いかける。


 徐々に湧き上がる怒りを噛み殺し、努めて少女らしい走り方で後を追う。

・・・ランラン

 それでも圧倒的身体能力によって、10歩程度で一歩が千里に加速し、狂獣の背中を捕らえ出す。


 追っ手に気付いた狂獣が、ビルを駆け登り屋上から見下ろす。


「追いかけてくるとか・・・アホかな?」


 聴こえるように呟くと、骨が砕け重しでしかなくなった腕を自切し、ビルを駆け上がってくるアホな追っ手に投げつける。


 大きな肉塊とかした腕はビルの側面を、小さな追っ手ごと抉り取り地面に激突する。哀れ追っ手は影も形も無くなり、見下ろす限り腕の下敷きになって押し潰されたように見えた。


 だが狂獣は思う、この程度で死ぬ奴とは思えない。この辺りで見かける人型生物は、頭を千切ったって噛み付いてくるような奴ばかりなのだから。

 とどめを刺すべきだろうか、しかし、すでに腕を取られている、無理せず立ち去ったほうがいいだろうと背を向ける。


 階段を駆け上がる音が聞こえて身構える。屋上の扉が半開きなって揺れている。なるほど奴は、窓を破ってビルの中に飛び込み腕を躱していたらしい。


 半開きの扉の陰から、半身を覗かせ青い瞳が、ぐへへ・・・とようすを伺っている。

 目が合うと、か細く裏声でみつかっちゃった・・・とゆっくり身を乗り出し近づいてきた。屋上の端へ追い詰められる。左手一本で構えを取ると、相手はすり足で用心深くにじり寄る。人ならざる迫力に思わずごめんなさいと口走ると、ほう・・・と相手が眉をひそめた。


 希望が見えた!謝れば見逃して貰えそうなので、手を付き上目遣いで伺いながら


「貧にゅー(波打つような無駄のあるステップで間合いが詰まる)うと言ってごめんなさい!」


 間一髪、必殺の拳が止まり代わりに、つま先で脛を小突かれた。


 脛を押さえて悶える猿をしりめにビル街を後にする。

 瓦礫と樹木が混ざりはじめ遺跡の終わりが近づく。塩に侵され枯れた草木が目立ち出し、そして間もなく塩の砂漠へ景色が変わる。


 いずれこの遺跡全体を塩の砂漠は飲み込んでしまうのだろう。そうなれば遺跡の発掘は、難しくなる。しかし、この程度の文明さして珍しくもない。ましてトカゲ如きで滅んだのだから、旅学生としての遺跡調査は、時間の無駄だろう。


 カスみたい点数を稼ぐ必要はない。それより切り詰めた時間で、落下対策用の装備を揃えようかなと考え、陸砕船群(りくさいせんぐん)に住む馴染みの小売商を訪ねることにした。

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