プロローグ
遠い未来、人類は地球を離れ幾つもの星や人工惑星へと移住していった。
それぞれの星々が独自の文明を育み栄え、ある星は衰退し滅び、またある星は繁栄し、次の星へと旅立っていった。
移住を繰り返した末に人類達は、星々同士の繋がりが無くなるほど距離と時間の隔たりが出来ていた。
遥かな時が過ぎ、地球という星が神話として語られるようになったころ、ある1つの星では人類が、当てもなく文明を築き滅びまた繁栄を繰り返し続けていた。
四方見渡す限りに続く灼熱の塩湖、塩が結晶化し雪の降り積もったような白い大地では、風はほとんど吹かず陽炎が水のように地表を薄く覆う。
陽炎から僅かに隆起した結晶は、陽を反射して眩しく輝き、針を落とせば崩れ去りそうなほどの静寂は、この塩の砂漠で生きて行ける生命がいない事を示していた。
そんな中において生物の痕跡があれば、足跡程度だとしても一見でそれと分かるほど目立ち、足跡の持ち主が何者であるか、予測出来るほどの情報になった。
砂漠の真ん中、一目で人の物と分かる足跡が1つ、不規則な歩幅でふらふらと続いている。幾何学模様の跡は、土踏まずのアーチを空けて、踵からつま先まで殆ど同じ太さになっており、その人物がブーツを履いているだろうことが見て取れた。
足跡の先には小島が1つ、辺り一帯の環境をことごとく無視した熱帯雨林らしきものがそびえていた。
林檎約5600個(1個=12.5cm)分もの高さの木々が生え並び、そこから一回り大きな木が疎らに顔を覗かせる。木の幹は着生植物に覆われ、木々の間はツタが梯子を掛けている。地表近くはシダが生い茂り、2本先の木が見えるかどうか程度の視界しかなかった。
このジャングルには所々干上がった川のような窪地が真っ直ぐ続いており、時折同じくらいの窪地と十字に交差していた。
その中に一箇所、大きな倒木が横たわり橋をかけている。長い間そこに横たわっていたのか、全体を苔で覆われていたが、ちょうど真ん中辺りだけ剥がれ木の幹を晒していた。
剥がれたばかり苔の下、少女の頭が1つ草に混じって生えている。
整った顔立ちに、淡い桃色の髪をグレーのゴムでおさげに結び、前髪は眉上で切り揃え、もみ上げは剃り上げてある。スカイブルーの大きな瞳は、少し潤んで空を見上げていた。