3.すき間-王
隣国の王女と閨を共にした翌朝。
早々とベットから起き上がると、ガウンを羽織って扉に近づいた。
指先に自分の護衛である狭間の魔方陣を感じた。
すぐに解除されないところを見ると、半分眠っているようだ。
王は自分の魔法を指先からそっとその魔方陣に流した。
ビクリと魔方陣が揺れ、すぐに防御魔法が解かれた。
しばらくすると扉が開いて、狭間と隣国の王女の護衛騎士である聖、それに侍女と侍従が寝室に入って来た。
王は侍従が手にした洋服にその場で着替えると、狭間に声をかけた。
「執務に向かう。」
狭間は嫌そうな顔で王を見た後、頭を下げた。
何も言わない。
王は侍従を引き連れ、再度狭間についてくるようにと視線で促すと、速足で執務室に向かった。
「食事は執務室に運んでくれ、二人分だ。」
「畏まりました。」
王は執務室に入った途端、侍従にそう告げると自分は執務を始めた。
部屋から侍従が出て行ったのを見計らった所で、護衛の狭間から文句が飛んだ。
「超過勤務です、陛下。」
「食べてから戻ればいいだろう。王宮の食事はうまいぞ。」
「今は食事より睡眠を摂りたいんですが。」
怒った顔もまたかわいい。
「どうせ半分寝ていたんだから問題ないだろう。私だって同じだ。」
「私は眠いんです。部屋に戻ります。」
「お前は王に何かあってもいいのか?」
「勤務時間が過ぎているので、私に責任はありません。」
「もうすぐお前の兄が来るから我慢しろ。」
狭間はものすごく嫌そうな顔ですぐに戻ってきた侍従から渡された食事を摂りながら、ぶつくさ文句を垂れていた。
王はそんな狭間を苦い顔で見ていた。
しばらくすると彼女の長兄が現れ、狭間はすぐさま執務室を出て行ってしまった。
何とも複雑な気分だ。
王は護衛である狭間に惚れていた。
自分は昔からモテていたので、すぐに彼女も自分に惚れると思っていた。
それなのに、現実は一向に振り向いてもらえないし、異性として意識すらされなかった。
強引に伴侶にしてしまおうと過去に口説いたこともあったのだが、そんなことをすれば一目散に彼の前から消えると断言された。
普通なら力ずくで命令出来るのだがいかんせん。
彼女は武闘の名門随一の腕と魔力を持っていて、本人を止められるものが周囲には誰もいなかった。
仕方なく諦めて、それでも最後の悪あがきのように自分の傍に置いてみたが、事態はまったく好転しなかった。
それどころか、同盟の証に輿入れして来た隣国の姫が連れて来た護衛に、彼女はよりにもよって好意を持った。
悪夢だ。
なんでこうなる。
最初はその護衛を姫の国に追い返そうかと思っていたが、見るとその護衛は自分の傍にいる護衛とは違って、守っている主に惚れているようだ。
王はほくそ笑んで、その護衛をそのままつけた。
昨晩も苦しそうな顔で自分の主を見つめる護衛をせつなそうに見つめる自分の護衛を見て、少し留飲を下げた。
なんとも自分は歪んだ愛情を持っているのだろうか。
素直に惚れてくれればこうはならなかったのかと考えていたら、惚れた相手の実兄に声をかけられ、王はやっと書類に目を戻した。