1.すき間-狭間
「はざま。」
狭間は、自分の主に言われて寝室を後にするとその扉の前で壁に背を預けると、そこで魔方陣を展開した。
魔方陣が白く輝き出し、スッと消えた。
これで寝室の周囲には結界が施され、それを展開している狭間が倒されない限り、何人たりともこの空間に入ることは出来ない。
すぐ傍にいた銀色の長髪を肩できっちりと結び、藍色の鋭い瞳を鋭く光らせた筋肉質の男が、肩で息を吐き出した狭間をチラッと見てから近づいて来た。
その男は、王と一緒に寝室に籠った相手の護衛だ。
護衛は、狭間の横にある扉の反対側で止まると呟いた。
「毎度毎度、便利なものだな。」
彼の低音ボイスに思わずゾクリと背筋が震えた。
前世を憶えている狭間にとっては、寝室に籠ってナニをしている王より、その相手をしている女の護衛役であるこの騎士の方が数万倍も好みだった。
出来ればこのままここで”愛の告白”なんていのをしてみたい気持ち湧き上がるが、さすがに仕事中にそれはまずい。
それに自分の隣にいる護衛騎士は、寝室に籠ってナニをしている王の相手に夢中なようだ。
この世界では、色素の薄い金色や銀、茶色の髪色が多く、肌色も前世で言う白人が9割以上だ。
体型も顔の造りも前世の女優のような男女がぞろぞろいた。
狭間のように、真っ黒い髪に漆黒の瞳。
それも象牙色の肌を持ったものはいない。
もっともそのおかげなのか、狭間の魔力はこの世界では飛びぬけて強かった。
それに加え、彼女の生家は古より続く王家縁の武闘を轟かす名家であったため、本人の意思に関係なく武と知を修めた14歳で、すぐに主である王の護衛役を任じられた。
それから10年。
相も変わらず、狭間は王の護衛役をずっとやっていた。
同族の同性や周囲にいる女性たちにかなり羨ましがられ、両親や兄弟にも名誉だと喜ばれた。
はぁー。
だが狭間本人は、ハッキリ言って、心の底から今すぐにでもこの護衛役を解任してもらいたかったのだが、いまだに彼女の願いは叶えられない。
狭間は自分の隣で直立不動で立ちつくす男をジッとみつめた。
狭間の目線に気がついた男が訝し気に彼女を見た。
「何か?」
「疲れませんか?」
つい口からそう言葉が漏れていた。
「いえ。」
男はそっけなくそう答えると、視線を一瞬扉に向け、一瞬辛そうな顔をしてから周囲に意識を向けた。
どんだけ好きなのかは、その行動でバレバレである。
はぁー。
狭間も今度は心の中で溜息を吐いた。
そりゃそうだ。
この護衛役が想っている相手は、美しい瑠璃色の瞳に流れるような金の髪。
姿もこの世界でもこれまたとびきり美しい顔と艶めかしい体を持っていた。
思わず自分の体形を思い浮かべ、こりゃ較べちゃいかんとすぐさま自分の為に思考を中断したくらいだ。
それにしてもものすごーく勿体無い。
こんなにイイ男なのに・・・。
ちょっと他に目を向けさえすればモテ放題なのに、この男は一途に扉の中の人物を想っている。
もっともなぜかこの世界では、隣にいる筋肉質で腕が立つ精悍な男より、狭間が護衛する優男で美麗顔で身分が高い男の方がモテルのだから理解不能だ。
いや、そうでもないか。
前世でもアイドルなんぞがモテテいたか。
狭間はそこまで考えて、壁に背を預けるとズルズルと床に座り込んだ。
周囲を真面目に警戒している男が傍にいることだし、キーワードを設定して自分も少し休むことにした。
どうせこいつには狭間が休んでいることがバレても問題はない。
いや身動きしないだけなので、こちらを見もしない男には休んでいるとさえわからないだろう。
狭間は目を閉じた。