第八話 前世の話
全員が食事を終えると、躑躅はアクアの部屋に遊びに来ていた。
「アクアさん、魔界の美味しい物って何がありますか?」
悲しきかな躑躅の興味は食にしかなかった。
「そうだな美味しいかは分からないけど、人間の手足の生えた二足歩行で歩く金魚とかいるぜ。毎週金曜日に集団で歩いているのを見たことあるし。」
二足歩行の金魚は美味しいのでしょうか?前に普通の金魚を食べた時は生臭すぎて思わず吐き出してしまいました。
アクアは楽しそうに話していたが、やがて話題が尽きて来たのか別の話題を出すことにした。
「躑躅。実はな俺の前世は何と人間だったんだ!」
ドーンと何故かピースポーズをとる。
その言葉に躑躅は思わず
「えええええええええええ!?」
驚きの声を上げた。
「こ、国籍は!?」
「勿論日本だぜ!」
その言葉にハイタッチをしようと躑躅は両手を上げるが幼女になった今では身長差がありすぎた。プルプルとつま先立ちで手を上げる姿にアクアはキュンとしたのか微笑むと体を低く屈めてハイタッチした。
「「イエーイ!」」
ハイタッチできた嬉しさと、突然のカミングアウトに躑躅のテンションが上がる。
「何処に住んでました?」
「俺は東京に住んでたぜ。音大生で歌先行だったんだ。」
「という事はもしかして年下なんですか?」
躑躅のカミングアウトに、今度はアクアの方が固まった。
「そう思った理由を、聞いてもいいか?」
少し顔を青ざめさせたアクアは、恐る恐るといった状態で低い位置にいる躑躅に問いかける。
「音大生という事は精々20~25才くらいが妥当だと思うのがまず一つです。そして二つ目の理由が、私が魔王になる前は社会人として働いていました。」
躑躅は凄いでしょ?と言わんばかりに嬉しそうな顔をしている。
「社会人!?いや待て、落ち着け俺。魔界の合計年齢なら俺の方が上だ!焦るな冷静になれ!」
アクアは驚きで冷静ではなかった。
アクアさん大丈夫かな?なんだか凄く慌てます。と躑躅に不信感を抱かれるくらいには挙動不審だった。
「年は!?」
「28才です。おばちゃんでした。」
私の言葉に、何故だかその場に崩れ落ちるアクアさん。時折、
「なんてこった!」
とか
「こんなかわいい幼女にそんな重大な秘密が……。」
なんて呟きが聞こえた。
別にそんなに重大な秘密でもないと思いますよ。だって今の私は誰がどう見ても幼女です。それなのに私28才です。何て、他の人に言っても子供が大人の真似事をしたいんだろうな。くらいにしか思いませんよ。
そうだ!いいこと思いつきました。
「アクアさん。」
座り込んでいるアクアさんの意識を呼び戻す。
「すまん!だがどんなことがあろうとこの秘密は誰にもばらさないと誓うから!」
まるで私の方が悪者の様な扱いにちょっとだけ怒りました。なので
「なら、今度美味しい物を買いに、地界に連れてってください。」
わがままを言ってみることにしました。だって子供らしいことと言えば、わがままを言う。物を強請る。くらいしか思いつかないんですよ。
「おう、良いぜ。でもそんなことで良いのか?」
それでも納得がいかない。とばかりにもっとわがまま言っても良いぜみたいなポーズをとっている。
「後でお店に行ったときに、美味しい物たくさん買ってください。」
よしこれならいいでしょう。これはちゃんとわがままに入っているでしょうとアクアさんを見ます。
「おう!分かった。今度美味しい物をたくさん買ってやるぜ!」
「約束ですよ。」
私のわがままは妥当な条件だったようで、アクアさんは嬉しそうに私のわがままを受け入れてくれたのでした。