第三十話 お味は如何?
「いや、無理。」
アクアさんがそう断言していた。
「俺も、諦めたほうが身のためだと思う。」
ロランさんも無理だとキッパリと言っている。
「なら、他に何かいい方法でもあるんですか?」
あまりにも否定するので、不貞腐れてガンをとばしながら聞いた。
「うーん。」
「……。」
アクアさんはいい考えが浮かばないようで唸り、ロランさんは沈黙していた。
「他に案が無いなら、私がやります。」
「危ないよ?」
「立派に達成して見せます!」
此処まで言い切ると、後戻りできず、私はそのまま誰にも説得されず、私がユコラの実を使って料理を作ることが決定した。
さて、ここで一つ思ったことが一つ。ユコラの実がどんな味なのか、当然の事ながら私は知らない。という事は必然的に味見をしなければいけない。食べると呪いの魔法が使える実。私はそれを一口だけ味見のために食べることが必須条件となっている。
そしてあそこまで啖呵を切ってしまった以上、今更味見をするのが怖いので止めます。なんてことが言えるはずもなかった。
取り敢えずクラウスさんがとってきてくれた、ユコラの実を眺めた。
髑髏の形をした真っ赤な血の色をした実。この見た目だけで確かに食べたら呪いの魔法が使えそうだな。なんてことを思いながら、私は覚悟を決めて、一口ガブリと噛り付いた。
アクアさんとロランさんには調理室から出て言ってもらっていた。料理をするのに素人に居られても正直な話プラスになるとは思えなかったので。そして、こんな私の暴挙を止める人は、だれ一人いないという事だった。
ガリガリと、実とは思えない固い感触と、わずかな苦みと酸味が口の中に広がった。
「不味い……。」
自然と漏れた正直な感想だった。これを美味しく調理するのは、至難の業だな。いや寧ろ、味を消して何か別の者に混ぜよう。
そんな考え事をしていたら、ガチャリとドアが開いた。
「どうだ?進んでるか?」
「差し入れ持ってきたから休憩にしよう?」
仲良く入ってきたアクアさんとロランさんは、ガリガリとユコラの実を噛み続けている私と、私の手を眺めてから、叫んだ。
「お前何んでユコラの実を食ってるんだよ!?」
「今すぐ吐き出しなよ!?」
アクアさんにユコラのみを取り上げられ、ロランさんにシェイクされて、強制的にユコラの実を吐き出させられた。
「今更ですけど、味見しないと料理が作れないと思いまして。」
私を心配そうに見つめるアクアさんと、プリプリ怒りながら私に説教をするロランさんを見ながら弁解をした。
「だからって、ちょっと舐めるだけとかでも良かったでしょ!?何で食べてんの!?」
だって、私の中では味見=食べる何ですもん。
「取り敢えず、料理は作れそうか?分かってると思うけど、味見はもうだめだ。」
そう言ってアクアさんは、ユコラの実を私から取り上げた。
「でも正直話、結構難しいです。」
う~んと唸りながら話す私に、アクアさんとロランさんが驚いていた。
「そんなに、複雑な調理法を求められてるのか!?」
驚いたように言うアクアさんには悪いけど、そんなカッコいい理由ではないんです。
「この、ユコラの実すごく不味かったんです。」
吐き出すよう言った私の言葉に、アクアさんが爆笑し、ロランさんが、ああ、と納得の声を漏らしていた。
「ははは!不味いってそんなに不味かったのか?」
「苦みと酸味が混ざって最悪でした。」
「確かにこの見た目だからな。俺たちも不味いと思ってたから、料理させるのをやめさせようと思ったんだ。」
ユコラの実を眺めて、私も諦めようと思った。でも、ここまで言われると逆に作りたくなった。
「実を全部食べさせなければ、効果が無いというわけでは無いんですよね?」
「話によれば、一口食べただけでも効果はあるそうだ。」
それならいけるかな。妥当な線で、私はアイスクリームを作ることにした。別の実と味を混ぜて、見た目も変えてしまえば、平気だろう。
そうきめると早速実を少し切って、ミキサーで混ぜてみた。味の組み合わせを考えて、なんとかその日のうちに満足のいくものが仕上がったのだった。




