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第二十二話 心の傷

目の前には、洞窟で会ったトルテさん似のイケメンがいた。


「貴方は誰?」


「我が名はウォルト」


相変わらず無表情でそう言った。


「私は躑躅。」


名乗られた以上こちらも名乗るのが礼儀と思って名前を教えた。


「知っている。我と同じ闇の魂を持つものよ。」


「同じ?」


躑躅は思わず聞き返した。


「そう、同じだ。其方は我と同じ魔王と言う存在だ。故に其方に力を貸してやろう。この力は一度だけしか使えない。二度目は無い。そのことだけ覚えておけ。」


そう言って頭に手が置かれた瞬間、私の意識が現実に戻された。


 ガバリと起き上がると、私はきょろきょろと周りを見渡した。今寝泊まりしている部屋のベッドの上だった。


「夢?」


あまりに現実味のある夢に、思わず自分の頭を触った。


「せめて、夢の中だけなら元の姿に戻してくれてもいいのに。」


気の利かない夢だな。そう思いながらもう一度眠った。


ズドーンと大きな衝撃と音に飛び起きた。


「何!?」


ドンドンドンと階段を誰かが駆け上がってきた。


「魔族が攻めてきた!逃げるぞ!」


そう言ってマスターは、私の手を掴むと外へ走り出した。


「攻めて来たって、どういうことですか!?」


ゼエゼエと息切れを起こしながら、マスターに問いかける。


「その名の通りだ。魔族が地界に攻め込んできたんだ。珍しい事でもないが、此処まで大規模なものは俺も初めてだ。」


 何と無く、魔界に居る。トルテさん達の姿が浮かんだ。嫌な予感がした。でも、当たっていると思う。原因は私が逃げたから。周りに響く悲鳴や、子供の泣き叫ぶ声から逃れる様に、私はマスターの手をぎゅっと握りしめ、走り続けた。


しばらく走り続けると、何処か地下に連れていかれた。私が中に入ると、マスターは扉を閉めてしまった。


「マスター!?」


ドンドンと扉をたたいてもびくともしなかった。


「嬢ちゃんが魔王で、魔界が怖くて居たくなかったから、俺のところに来たってのは、アクアから聞いている。」


「マスター。」


 知っていたのか。と驚いた。私が魔王だと知っていたのに、普通の子供の様に接してくれていたんだ。嬉しさで涙が零れた。


「心配しなくていい。俺も昔は名のある冒険者だったんだ。引退したとは言え、やれるだけのことはやってくるさ。」


「私も行く!」


まるで最後の言葉の様なことを言うから、思わずそう叫んだ。


「嬢ちゃんが来ると意味がないだろ。ちゃんと迎えに来る。」


「待って!行かないで!」


 そう叫んでも、今度は何も帰ってこなかった。こんな時、私は如何すればいい?こんな時に自分が戦えたり、戦いを止められるほどの力があれば、何か変えられたのだろうか?私の中には後悔しかなかった。


 泣きながら、私はマスターが無事に戻ってくるように、祈った。しばらくすると、控えめなノックの音がした。


「マスター?」


小声で私は呟いた。


「その声、躑躅か!?」


嬉しそうなアクアさんの声が聞こえた。


「アクアさん!?」


「待ってろ、今ここを開けてやる。」


そう言うとアクアさんは水の魔法で鉄製の扉を切ってしまった。


「アクアさん。」


 アクアさんが迎えに来てくれた。と嬉しくなったが、アクアさんの後ろにいる、トルテさんを見つけて私は目を見開いた。


「アクアさん!後ろ!」


 トルテさんがいる。別に可笑しなことじゃないはずなのに、私は咄嗟にそう叫んだ。トルテさんは私に向かってニッコリと笑うと、アクアさんの体に指を突き刺した。

 

「ゲホッ!」


アクアさんは、そのまま倒れて動かなくなった。体からは真っ赤な血が流れ出ていった。


「い、いやああああああああ!?」


「やっと見つけました。」


そう言ってトルテさんはギュッと私を抱きしめた。


「お可哀想に、こんなに怯えて早く魔界に帰りましょう。あそこが一番安全ですから。」


 甘いお菓子のような言葉が、私を閉じ込めるための罠だと分かっていても、恐怖と混乱で頭がいっぱいな私は、大量の返り血を浴びている、トルテさんに抱きしめられながら。


「はい。」


と答えるしかなかった。


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