第二十一話 始動
「それでは予定より少々早いですが、魔王様を探すために、まず手始めに近隣に位置する町に攻め込みます。」
無表情で淡々と語るトルテに、パリパリと微力な雷を纏うルイと、珍しく起きているロランとトルテを睨み付けるアクアとノエルの姿がった。
「躑躅に攻撃するつもりかよ!?」
今、躑躅が町に居ると分かっているアクアは、トルテに怒鳴りつけた。
「私が魔王様を、傷付けるわけないでしょう?魔王様を探すのに邪魔な虫けらをついでに排除するだけです。」
「確かに此奴が信用ならないのは分かるけど、そこまで怒らなくてもいいじゃない?」
アクアが躑躅を地界に逃がしたことを知らないルイは、不思議そうにアクアを見つめた。アクアもそのことをルイには言えないので、その場で黙ることしかできなかった。
誰も文句を言うものがいなくなるとトルテは淡々と話した。
「では、今から襲撃します。各自持ち場についてください。」
トルテはクルリと翻すと、他の四人には見えない位置で、まるで悪魔のような残酷な笑みを浮かべた。
「私達はもう行くわよ。」
ルイはそういうとロランを連れて行った。
「これで、分かった。」
ボソリとアクアが呟く。
「何が分かったの?」
部屋に残っていたノエルがアクアに問いかける。
「トルテは躑躅を殺すつもりだってことがだよ!」
アクアが涙交じりに怒鳴った。その言葉にノエルは目を見開いた。
「どういう意味?」
茫然とノエルはそう呟く様に問いかける。
「躑躅が自分が逃げたせいで、周りの人間が殺されたなんて知ってみろ!躑躅は間違いなく心が壊れる!」
アクアは吐き出す様にそう言った。
「確かに、あの子は優しい子だから……。」
ノエルは悲しそうに呟いた。
「まあ、下手したらそうなっちゃうだろうけど、たぶん大丈夫だよ。彼奴が手を打ったみたいだから。」
突然聞こえた声に、アクアとノエルは振り返った。振り返ると其処にはルイについていったはずのロランがいた。
「お前今の話聞いて…!?」
「ルイやトルテに言うつもりはないよ。僕も躑躅の事は気に入ってるから。」
アクアとノエルは、その言葉が嘘じゃないと判断したのか、そっと警戒を解いた。
「手を打ったってどういうことだ?」
「仮にあの子が死んでも、あの子自身がもう一度やり直せるように、チャンスを上げただけだよ。」
「チャンス?」
「そう。詳しいことは俺も分からないけど、恐ろしいほど万能な能力を持った最強の助っ人だからね。」
ロランは心配ないよ。とニコリと笑った。
「取り敢えず持ち場には着いておこうか。トルテとルイが手を組むようなことになったら、流石に僕たちが集まっても敵わないだろうしね。」
ため息をつきながら語るロランに、アクアとノエルも微妙な顔をした。アクアたちが弱いわけでは無い。トルテとルイが恐ろしく強いのだ。その上アクアはルイと相性が悪い。
でも、余程のことが無い限り、トルテの事を嫌っているルイが手を組むことは無いだろう。そんなことを考えながら、三人は躑躅を探すために飛び去った。




