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第二十話 スカウト

「ツツジ、お願いします。今回だけでいいんですの。」


今現在の私は、セリアからチームに入らないかと勧誘を受けていた。


 何でも、今回のクエストは入り口が魔力で隠されていて、発見できる人がいないとのことで、そんな時マスターがうっかりと、私が見えるかもしれないぞと漏らしたために今に至る。


「お願いできませんか?」


従者のベランジェさんがセリアさんの後ろから、こちらを窺うように見ている。


「でも、お店を手伝うので無理です。」


 それに此方の世界が危険だという事を認識したので、今の私は、自分から死地に飛び込むような愚かなことはしない。


 それに魔力が異常なほどあるというだけで、私自身が魔法を使えたり、何か武術に長けているわけでも無い。そんな私がモンスターと対峙なんてしたら高確率で殺される。トルテさんは魔族は私を殺さないと言っていたけど、その理屈が野生のモンスターにも通じるとは思えない。


「なら、クエストについてきてくれたら、お菓子をあげよう。キャンディーやクッキーがあるよ。」


「行きます!」


 自分で気付く前には、もうすでに了解の返事をした後だった。食に対する執着心を今日ほど恨んだことは無いだろう。


「なら、今から行こう。大丈夫。こう見えて俺たちは強いからね。」


「そうですわ。ツツジには傷一つ付けさせませんわ。」


そう意気揚々と語る人たちに向かって今更行きたくありませんとは言えない私だった。


「気を付けて行って来い。」


 マスターは他人事のように言っているけれど、事の原因はあんたのせいだからな。覚えとけよと、この時ばかりは、恩人とかそんなことは忘れ、恨みが一気に募った。


そして、馬車に乗って揺られること数時間。目的地に到着した馬車は止まった。最初にベランジェが下りて、何か確認していた。


「ベランジェさんは何をしているんですか?」


あまりにも不自然な動きをするものだから、気になった。


「あれは敵がいないか確認しているのですよ。」


微笑みながら話すクラウスに私はさらに不思議に思った。


 あれが偵察している者の動きなのか?


思わずそう思ってしまうほど、変な動きをしている。何て言うか、蒟蒻のような芋虫のような、兎に角クネクネと気持ち悪い動きで、顔が忙しなく動いているから、何か探しているんだろうとは分かる。でも、普通の偵察にあの動きはない。


「ベランジェは優秀ですので、驚いたのでしょう。」


自慢げに言うセリアには悪いけど、正直な話、気味悪いなと思ってます。


そんなこと本人の前では決して言えないが。


「敵は入ない様なのでこのまま入りましょう。」


ベランジェを筆頭にセリアその後ろに私そして最後にクラウスと言う陣列で洞窟の中に入って行った。


 洞窟の中は薄暗くて、ベランジェの持つ松明だけが唯一の明かりだった。薄暗い洞窟の中を進んでいくと、突然何もないところでベランジェが歩みを止めた。


「此処です。」


そう言って立ち止まると、一斉に視線が私に向いた。


「何か見えるかい?」


後ろでクラウスが目の前を指さして私に聞いてきた。


 そこで私はこの場所に魔力の結界とやらがあるのかと認識した。そのまま真正面を見ても、何も無い。何かおかしい。そう思った私は、結界がありそうな場所に進んでみた。


 どうやら、見えないだけで結界は存在しているようだった。私が手を伸ばすと、指先に何か違和感を感じた。私には、どの感じが魔力なのか判別はつかないが、この違和感は分かった。


じっと指先を見ても、何も害がなさそうなので、私はそのまま歩いてみた。


「「「!?」」」


 私以外には、どう見えているのか知らないけど、何もなかった。どういう事なんだろう?


「ツツジ聞こえますか!?」


私を心配するような、セリアの声が聞こえた。


「大丈夫です。そっちは、何か変化はありましたか?」


「何もないよ!1人でいると危ないから戻っておいで!」


クラウスに対して、まるでお爺ちゃんみたい。と1人笑いながら、戻ろうとすると突然声が聞こえた。


「闇の魂を持つ者。汝は、またこの地に、死にに来たのか?」


「え?」


 振り返ると、そこには短い黒い髪に赤い目のイケメンが立っていた。頬には何やら黒い模様の様なものがあった。模様が真っ白い肌に映えて綺麗だと思った。何処となくトルテさんに似た雰囲気でこの人の方が私よりも魔王に近いような気がした。


じっと私を見つめて、微動だにしない目の前の人物は、急に消えた。


「あれ?」


たった一回瞬きをしただけなのに、消えた謎の人物を不思議に思いながら、私は元の場所へと踵を返した。


「もう!ツツジ心配しましたわ!」


プンプンと怒るセリアに謝りながら、私はお菓子とアメを片手にホクホクと満足そうに帰ったのだった。


「それにしても何だったんだろうね。」


「まあ、報告は何もなかったでいいんじゃないですか?」


「ツツジも何もないって言っていたのでしょう?」


ツツジを送り届けた後、三人は洞窟内の事をどう報告するか話し合っていた。


「報告書には何もなかったって事にしとこうか。」


 爽やかに結論を出すクラウスに、賛同するかのようにセリアとベランジェは頷いた。


一方その頃躑躅は考えていた。


「あの人、誰だったんだろう?」


何だかすごく重大なことを発見した様な、そんな感じがした躑躅だった。

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