第二話 幼女
そんなこんなで、私は永遠の幼女という称号と、不老不死という最強の体質を、不本意ながら手に入れてしまいました。
おまけに見た目は子供頭脳は大人とか勘弁してもらいたいです。私はどこかの漫画に出てくるようなキャラクターじゃありません。
「状況が分かったところで、改めて自己紹介させていただきます。種族名は吸血鬼、名前はトルテ、能力は心読みと魔力による物質構成です。以後お見知りおきを。」
トルテさんは銀色の長い髪をふわりとなびかせ、優雅に微笑み、軽くお辞儀をした。同性と分かっていても、心臓がドキドキした。
「早速ですが、魔王様の下僕に会っていただきたいのですが宜しいですか?」
何故に下僕呼び?
先程の礼儀正しい、やり取りからは想像のつかない言葉が出てきて、顔がピクピクと引きつった。
「宜しいも何も、挨拶しないといけないですよね?ええと、認識としては私の部下にあたる感じと、思った方が良いですか?」
私がそう言うと、トルテさんは若干顔を歪めながらも
「・・・・・・そうですね。」
綺麗な顔を更に歪めてボソリと呟いた。もしかしてトルテさんと部下の方は中が悪いのでしょうか?
「ただ気に食わないだけで、仕事には支障をきたすわけでは無いのでご安心ください。」
そんなチッとか舌打ちされた後に言われても、説得力がないです。
「ご案内いたしますので、お運びいたします。」
トルテさんは笑顔で私に近づいてきたかと思うと、そのまま私を抱き上げて、所謂お姫様抱っこの状態になりました。
「トルテさん、私自分で歩けますよ?」
幾ら体が子供だとしても、中身は二十を過ぎたいい大人。流石に恥ずかしいというか何というか、正直下ろしてほしいです。
「先程も申しましたとおり、魔王様は愛でられるだけでいいのです。寧ろ不満がある場合は解決できるように私がメイドとして魔王様のそばにいるのですから。」
愛でられるですか……。
仕事をしていた私としては正直複雑です。働いてなんぼの生活を送っていた人物に、行き成り子供の姿になって子供の生活を送ってください。と言われている状態なのだから、子供としてこの環境に慣れろという方が無理である。
「要するに、わがままを言っていただければよいのです。下僕たちは、それを喜んで全身全霊をもって叶えるのですから。」
「むしろダメならダメで断ってくれた方が気が楽なのですが。」
全部の要求にこたえるということは、うっかり私がとんでもないことを要求した瞬間、事件になるという事なので思っていたよりも重大な問題なのではないだろうかと思う。
「魔王様、この先に貴方の下僕の何匹かがいますので、お顔だけ拝見させてあげてください。」
この先にいるのであろう部下に対して、まるで養殖場の豚を見るような、ひどく冷めた目線を向けていた。
私の時との対応の差に、これだけ険悪な態度をとるという事は、この先に待ち構えている部下とやらは実はとんでもない曲者だったりするのだろうか?と考えた。
トルテさんに抱えられてドアの前まで来ると何やら話し声が聞こえた。
「まーだかな。」
「遅い……。」
「確かに遅すぎるわよ。」
「zzz。」
複数の人物が、私のことを待っている様子だった。1人は寝ているみたいだけど、歓迎はされているようなので一先ずホッとした。
ここでお前が魔王なんて認めない!とか言われて戦闘とかになったら一発で負ける。自分で想像しておいて、体が恐怖で震えた。
「それはあり得ませんので大丈夫です。」
何故か確信を持っているように、はっきりと断言している。
「でも、私強くないですよ。」
特に運動神経が良いわけでも、相手をうまく罠にはめられるような戦略が思いつくわけでも無いし、勝てる可能性なんて無に等しいと思います。
「基本的に、魔族は魔王様に手出しはできません。」
何で?
「理由は多々ありますが、一番の理由は魔王様の魔力の大きさです。魔王様の魔力に関しては最強レベルです。」
そんな馬鹿なと思った。今まで一般人として生きてきた私に、そんな強大な魔力なんてものが備わっているはずがない。
「これは私個人の憶測によるものですが、魔王に成ったことによって、向こうの世界でしか使えなかったエネルギーが此方の世界では魔力として変換されているのだからだと思います。」
向こうの世界でしか使えないエネルギーってそんなに多いんだ……。思わず呆気にとられてしまった。向こうはどれだけ無駄なエネルギーで溢れてるんだろう。
「ちょっとトルテ、魔王様をいつまでこんなドアの前に待たせるつもり。メイドのくせして気が利かないのね。」
さっき聞こえた声のうちの一人だと分かりどんな人物なのかトルテさんの後ろから覗いてみる。
其処には男性にしては綺麗で長い紫色の髪と紫の目で、黒いタンクトップしかも腹だしの上に太ももが全然隠れてすらいないとても短いハーフパンツを着用している。
露出の激しい男性がいた。
「うわああああああああん!」
心の準備ができていない上に、幼児化して涙腺が脆くなっている私がこんな変わった不審者を見れば、一発で逃げ出したくなることは間違いないです。