第十九話 ゴールドロワイヤル
レシピを一つ覚えた私は、オツハノマルヤキが注文されたときだけ、その料理を作るという作業を繰り返していた。
そんな時突然バンッという音がすると、何だか煌びやかな人たちが現れた。そのうちの一人の女の子と目が会った。目があうとピンク色のロングヘアに金色の目をした女の子は私に接近して、手をガシッと握りしめて来た。
「貴方が最近現れたという魔法幼女?」
ここでもまた、幼女と言う称号をもらってしまったようである。本来ならば私は大人なんです。と言いたくなるのを我慢した。
「そう呼ばれてるんですか?」
如何か間違いでありますように、とすっ呆けて訊ねてみる。
「どう見ても、あなた以外に女の子はいないようですし。」
キョロキョロと周りを見渡してからキッパリとそう言い切った。
「自己紹介が遅れましたわ。私、セリアと申します。因みにこっちが従者の、ベランジェですわ。」
「どうも。」
セリアの後ろには、堅そうな鉄の鎧と、右手には同じく堅そうな盾と、なぜかボロボロな槍を装備している、赤茶髪の髪に茶色の目をした男性が立っていた。身長がとても高く、正直今の体の私には、首が痛かった。
「私を置いていかないでくれ。」
とさらに後ろを見ると、男性にしては妙に長い金髪に金色の目をした、まさしく王子という単語の似合う人物が立っていた。
「クラウス!遅いですわよ!」
プンプンと怒るセリアに軽く謝ると私と目が会った。
クラウスは私を見ると、ニッコリとほほ笑んだ。
「随分かわいらしい子だね。誰の子なんだい?」
天然なのか何処かずれた質問をするクラウスに対して、マスターが回答する。
「俺の子だ。」
「へえ、似てないね。」
「へえ、そうなんですの。」
「いや、私マスターの子じゃないです。」
納得している二人に対して、私は本当のことを言った。
「じゃあ誰の子なんだい?」
何故か誰の子?と言う質問攻めにされる私が出した考えはこうだった。
子供の私がギルドに居る理由が親と一緒に来ているから。という考えなんだという風に私は思った。だから私はこう答えた。
「私は、此処に料理を作りに来てるんです。」
どうだ完璧な答えだろうと、ドヤ顔でクラウスを見た。
すると何故かクラウスはひどくショックを受けたような顔になった。そしてやや青ざめた様な顔になると、
「こんな幼い幼女を働かせるなんて、一体何があったんだ!?」
肩を掴まれ、鬼気迫るような恐ろしい表情でそう訴えられた。いや、いろいろ訳ありなんです。でもクラウスが心配するようなことは一つもないです。別に虐待とかそういうのじゃなくて、ちょっと世界を見に来てるだけなので問題無いです。
と言いたいけど如何せん、クラウスが私をシェイクするスピードが速くて、何もしゃべれなかった。
「何時までいたいけな女の子を、苛めているつもりですか!?」
そう言ってセリアが持っていた木製の杖で、クラウスの頭を殴った。クラウスはその場に倒れ動かなくなった。
「お嬢様そろそろお帰りになった方がよろしいかと。」
「分かったわ。」
セリアは了解と返事をした後、思い出したように私の方を向いた。
「貴方の名前、まだ聞いていませんでしたわ。教えてくださる?」
「躑躅です。」
「ツツジ……良い名前ね。」
そう言って三人は帰って行った。ベランジェが動かないクラウスを引きずって行ったのが気になった。
その後お客がみんな帰った後に思い出したように、私はマスターに聞いてみた。
「そう言えば昼間に来た綺麗な人たち、二人とも目が金色でした。」
初めて見ました。と続けて言うと、マスターは驚いた表情で私を見ていた。
「どうかしましたか?」
あまりの驚きっぷりにこっちの方が心配になった。
「魔法で隠してあったのによく気付いたな。俺や本人たちだけの前でなら言っても構わないが、基本的に目が金色ってのは王族だけが持ってる色なんだ。それに加えお忍びで、きているからな。」
淡々と話すマスターに対して、それってかなり重要なことなんじゃなかろうか、と思った。それに目の色を隠していたという事は、ほかの人たちには別の色に見えていたという事なんだろう。
トルテさんの言っていた、魔力に関して最強という事はどうやら本当の事らしい、と少しだけ自覚ができた。