第十八話 オツハノマルヤキ
その後の私はあまりの口惜しさに、普通の幼女はしないであろう。半泣きで、唇を思いっきり噛んで血を流しながら、マスターに料理が一つも分かりません。と言った。
マスターは最初私を見て、ギョッとしていました。料理の確認をしに行った幼女が、唇から血を流して帰ってきたら、そりゃ誰でも驚くだろう。マスターは持っていた布で私の口に着いた、血をふき取ってくれた。
「何かあったのか?」
そんな深刻そうに聞かないでください。自業自得なので。本当のことを言うのも、色々と誤解が生じると思うので私が咄嗟に着いた嘘は、
「ちょっと転んだだけです。」
という平凡かつ、オリジナリティの欠片もない普通の回答でした。
「そうか。」
とマスターはほっとした様子で言っています。今後私は、自分の行動に子供らしさを組み込もうと、心に誓いました。それにしても異世界に来て初めて味わった敗北感です。
「ならオリジナルで作れそうな料理を作ってみてくれ。」
「はい。」
取り敢えず私は、いくつか簡単で美味しく作れるものを作ることにした。
私の知識とここにある食材を使って幾つか料理をお客さんに出すと、思いの外沢山の人が食べて行ってくれた。幼い私が作っているのが珍しいのか、美味しいと評判になったからなのかは、分からないけど、美味しそうに食べてくれる姿を見て、少しだけ安心できた。
「良かったな。」
マスターも嬉しそうにしていた。
結局その日は、私の世界の料理だけを作るという結果になってしまった。本来であれば、この世界の料理を幾つか作って出す予定だったのに、文字は読めることが分かったんだし、本か何かで勉強しようと思った。
お客さんもいなくなり、後片付けをしながら、マスターに料理を教えてもらおうと思った。
「マスター、時間がある時でいいんですけど、料理教えてください。」
「今なら時間あるぞ。」
機敏な動きで後片付けをするマスターにそう言われ少し私は固まった。
「じゃあ、今教えてください。」
「今日のメニューにあった、オツハノマルヤキでいいか?」
「はい。お願いします。」
口ではそう言うものの無意識に私は唇をキュッと噛み締めた。悔しく思ったことを思い出したせいだと思う。
「……。」
マスターは料理に集中している為か、気づいてはいなかった。
「これが材料だ。」
そう言ってマスターは材料一つ一つを手に取って私に見せてくれた。
「まずオツハという肉を用意する。後は塩を振ると完成だ。」
その簡単すぎる料理に、私はショックを受けた。そんな簡単な料理だったなんて。
こうして、私はオツハノマルヤキの作り方を覚えた!