第十七話 食材
私は起きると、直ぐにマスターを手伝いに行きました。自分では早めに来たと思ったのに、マスターはすでに大半の準備を終えていて、少しだけ負けた気分になりました。
「早いな。」
マスターは驚いた様子でそう言いました。でも、私的にはもっと吃驚させたかったです。私が項垂れていると、マスターは手伝えと一言私に言うと、そのまま厨房に入っていきました。私も後を追う。
厨房の中を覗くと、こじんまりとしたシンプルな空間が広がっていました。なべやフライパン、包丁といった道具が二本ずつあるだけのまるでキャンプにある様な簡易設備だと思いました。
「料理は一通りできるが、独学で色々と知識が混在していると聞いている。分かる料理だけ作れ。」
マスターはそういうと、またカウンターの方へ戻っていきました。取り敢えず、機材は見たので食材の方を見に行く、どうやら冷蔵庫が無いので、地面を見ると、木製のふたがあった。取り敢えず、そこを降りていく。
地下というだけあって暗かったけど、食材を冷やすために作られた場所だろうから、迂闊に明かりを灯せないと判断した。壁に手をついて歩くと、地下と言っても直ぐに食材のある場所にたどり着けた。流石に目が慣れたのか、食材の色素や形が大分見えてきた。
色々確認してみたところ、此方の世界の植物は特殊なものと、私の世界に有ったものの二種類に分かれているみたいだった。レタスやキャベツをちぎって食べてみたら、同じ味がした。これで少なくても、私の知っている料理なら作ることができる。
でも、こっちの世界の料理は、私の世界の料理と比べると退化し過ぎている。はたして上手くやっていけるだろうか。悩んだ末に、知っている材料を幾つか覚えて、後で何か作って新メニューとして取り入れてもらえないかな。と考えた。
ある程度確認が済んで、考えも大分纏まると、私は地上に戻った。
「粗方、何が作れるかは分かったか?」
私が木製のドアから顔を出すと、マスターがキッチンで料理を作っていた。鍋に見たことのない食材を投入している。
「はい。でも、私の作れる料理と、こちらの呼び名が一致しない場合もあると思うので、そこは頼ることになると思います。」
「それぐらいなら問題ない。追々覚えていけばいい。」
フッと笑みを浮かべながらも、手はずっと動いたままでマスターの技量が窺えた。料理の素材と知識が劣っているだけで、私と同じ会社にマスターみたいな人が居たら、仕事が捗りそうだなと思った。
「なら、丁度いくつか注文が入っている。作れそうなものがあるか、確認してこい。」
「分かりました。」
早速私は、キッチンに置かれている、紙に目を通す。紙は全部カタカナ表記で書かれていた。読めないよりはありがたいけど、すべてがカタカナというのは、ちょっとだけ読みづらかった。
オツハノマルヤキとかチャコブルノシオヤキとかキャグリュノモリアワセなどと全然想像もつかないような名前の書かれているメニュー票を見て私は、その場にガックリと膝をつきショックを受けました。
この私が、料理名を聞いて一つの食材すらも分からない日が来るとは……
ある意味、この世界で私が一番最初に体験した、絶望的だと思える状況でした。