第十六話 最悪の事態
「魔王様が魔界から姿を消しました。」
そこには、何時もは躑躅に向ける様な微笑んだ表情ではなく、どこまでも冷たい氷のような表情のトルテと無表情を貫くアクアと、何処か狂気じみた笑みを浮かべるノエルに、相変わらず眠ったままのロランと、激しい怒りからなのか、全身に雷を纏ったルイの姿があった。
「そこで私は、一つ提案をします。」
そんな重い空気の中トルテが発言する。
「提案?」
アクアはトルテを胡散臭い物を見るかのように眺める。
「ええ。地界に奇襲をかけて、魔王様を見つけ次第、魔界に連れ戻します。」
トルテの考えていることが分かったのかアクアと、ノエルの顔が驚きに染まる。
「お前、それ意味が分かってていってんの?」
アクアは手に氷の剣纏うとトルテの首に突き付ける。
「ええ、魔界に魔王様がいないから、連れ戻すのです。何か、貴方が怒る様な理由でもあるのですか?」
トルテは、冷たく笑いながら、そう答えた。
「勝手にしろよ。」
アクアは、そう言うと部屋を出ていった。
「では、一週間後には地界に、奇襲をかけます。準備を怠らないでくださいね。」
トルテはそう言うと部屋を出ていった。
ああ、魔王様。貴方が家出をするなんてことは、最初から知っていました。わざとそうなる様にしましたから。これであなたはどう変わってくれますか?
トルテは美しく残酷に笑った。
「悪いな躑躅。まさか裏目に出てるなんて、せめて、向こうに居る間は幸せに……。」
アクアは神にでも祈る様に、自分の胸の上で手を握った。