第十二話 怒り
私は魔王様がお部屋に入られたのを確認すると、目の前の二人に鉄槌を下す。
「アクア、ノエル、貴方達は何をしたのか分かっているのですか。魔王様を護衛二人だけで野蛮で薄汚い種族のいる地界に行くなんて、冗談もほどほどにしてください。」
これが雑魚のしでかしたことだったなら死刑です。
「アンタと同じ意見ってのは気に食わないけど、正直同感よ。幾ら魔王様の希望だったとしても、地界だけは絶対に行ってはいけないと分かってるはずでしょ!?」
トルテとルイの言葉に思わずノエルは自分の顔についている鱗をそっと撫でる。
「それは僕が一番分かってるよ。だから一番安全な地域だけに連れて行ったんだから。」
「いいえわかってないわ。地界に安全な場所なんてないわ。」
「あそこに住んでるやつらは皆良い奴だぜ。」
アクアの言葉にルイが魔法を放ち威嚇する。
「あんな場所に良い奴なんて存在する筈が無い!」
バリバリっと部屋の中に電気が走る。その場にいる魔族は全員それなりの強者なので傷は負は無かった。
「ルイ、いくらこの場に魔王様がいないとしても流石にあんな大きな魔法を放てば魔王様にご迷惑です。」
「幾ら魔王様が元人間だったからって此処では魔王なの!もし人間に正体がばれたりしたら最悪の事態を招くことになるのよ!」
トルテの声も聞こえていないほどにルイは怒りで興奮している。
「ならこうしようぜ。しばらく買い物は俺たちだけでする。魔王様には外出をしない様にしてもらう。」
アクアはこれ以上は妥協はしないとばかりに強気で交渉をする。
「分かったわ。部屋に戻るから魔王様の事お願いね。」
ルイもそれで納得したのか落ち着きを取り戻し部屋に戻った。
「私は魔王様のご様子を窺ってから部屋に戻ります。」
それにしても幾ら魔王様が願ったとしても、地界に行くという事は死にに行くのと同じだというのに、魔王様を勝手に連れ出すなんて本来なら殺されても可笑しくはない。
今の地界は基本実力主義の無法地帯に近い状態だった。確かに今回魔王様を連れて行った場所は一番安全でまだ平和な場所として知られている。
でもそれも時間の問題だろう。近々あの場所には魔族の誰かが奇襲をかけると言っていた。あの場所が崩壊するまで時間はあまりない。
魔王様には露見していないが、魔族は残酷な思考回路を持つものが多い。そもそも表面上優しくするという行為ができるのはある程度知性を持った魔族だけができる行為でもあったりする。だからというわけでは無いが知性と実力のあるものを、側近として傍に置かれる。
一言で言うと魔族には私を含めて心から優しい奴なんて居ない。そう確信している。
コンコン
「魔王様失礼します。」
私はドアを開けて魔王様の近づく。
「トルテさん、アクアさんとノエルさんは悪くないんです。私が美味しい物を食べたいって言ったから……。」
魔王様は悲しそうに瞳を涙で濡らしていた。
「それは分かっています。だからそんなに怒ってません。」
私がそう言うと魔王様はほっとしたように息をついている。でもそんな安心した表情を崩すような報告をする。
「どうして外に出ていけないと私たちが怒ったか分かりますか?」
魔王様は分からない様子で首を横に振った。
「外の世界でも特に地界が一番危険だからなんです。」
私の言葉に魔王様がショックを受けた様に凍り付く。思わず体がゾクゾクとした。魔王様の表情が暗くなるとこれ以上はダメージが大きすぎると判断した私は咄嗟に魔王様を気絶させてベッドに運んだ。
「また明日にお話ししましょう。」
今の私はとても残酷な表情をしているのでしょう。と魔王様の頬を軽くなでてから部屋を出た。