第十話 ギルド
「おっす!マスター!」
「お邪魔します。マスター。」
アクアさんとノエルさんは常連なのか、妙になれた様にギルドに入り、マスターらしき人物に挨拶をしていました。
「アクアとノエルか。久しいな死んだかと思ったぞ。」
無精ひげを生やしたダンディなおじさんは、フッと軽く笑い冗談を言っている。
「俺が死んだら、大半の奴は仕事にならないんじゃねえの。」
その冗談に答えるようにアクアさんも冗談交じりに言葉を返す。
「そうだな。ん、そっちのちっこいのは?」
ダンディなおじさんは私に気が付いたのか、目を見開いて驚きの表情でした。
「躑躅って名前なんだ。美味いもん食わせてやりたくて色々回ってたんだ。」
「そうか。ならお勧めを出してやるよ。ちょっと待ってな。」
少し考える素振りを見せた後ダンディなおじさんは厨房に入っていきました。
この距離だと厨房の中はあまり見えませんでした。料理を作る場所とか、この地にある独特の材料とか見て見たかったんですけど残念です。私の興味はほかにもあるので料理を待つ間そっちを先に聞いてみる。
「アクアさんとノエルさんは、ギルドに入ってるんですか?」
まるで知り合いのような会話から推定すると、唯の友人程度で済みますがアクアさんのことを強いと言っていました。実力を知っているという事は戦っているところを見たことがあるという事になります。私の予想ではギルドに入っている。といった方が辻妻が会うんですよね。
「入ってるぜ。」
「入ってるよ。」
二人にとっては特に聞かれても困ることでもないのか軽い返事がきました。
「でも、躑躅が魔王だってことは誰にも言っちゃだめだからな。今のところ誰が味方か敵かなんて分からねえし。」
アクアさんは小声で私に話しかけました。真剣な表情で話しているあたり、私が魔王だとばれてしまうと大変なことになるんでしょう。
「でも、魔王様の魔力に関してはうまく魔法で隠せてるから、周りからは魔力の強い子供にしか見えないよ。」
「でも、隠してるんですよね?」
私の魔力って隠してもきりが無いほど魔力が大きいとか?
「魔王様の魔力は桁違いですから、全てを隠すとなると俺たちのような名の知れた魔物を複数集めても、正直足りるか分かりません。」
当たってた!でも魔力が桁違いとか普通ならうれしい特典のはずなのに、元が無駄なエネルギーの集まりという事を知っているとテンションが下がりますね。
「待たせたな。ほら特製の子供用ランチだ。金は要らねえたらふく食いな。」
ダンディなおじさんが戻ってくると、私たちは話を止めてすぐに移動しました。
「わあ!すごく美味しそうですね。」
出された料理を見て私は目を輝かせる。実のところ出された料理は日本では見たことのない料理で、どれが食べ物でどれが飾りなのか一つも区別がつかない状況でした。けれど子供用ランチというだけあって子供が好きそうなメルヘンチックな見た目です。
食材がウサギや馬などの形になっています。ただ一つ気になる点と言えばウサギも馬も額に角が生えてるんですよね。あれ、馬に角が生えているのはペガサスでしたっけ?
まあそれは置いておきましょう。問題は味ですから。
「いただきます。」
パクリと一口食べる。……。何というか普通の味でした。隣に座っているアクアさんは美味しそうに食べていますが、私にとってはぶっちゃけた話美味しくなかったんです。ちょっとだけ味の付いたおかゆと言えばわかるでしょうか。
ちゃんと調理はされているけど、味付けが塩だけついているような、あっさりし過ぎてうまみが何一つ入っていない味気のない料理。これならさっきの果物を単品で食べていた方がまだましな気がします。
「アクアさん。そっちのも一口ください。」
取り敢えず、確認したいことがあった私は、アクアさんの料理を一口貰う事にしました。
「ん?いいぞ。」
普通に料理を食べているから私の料理だけが可笑しいのかもと思い、アクアさんの料理を一口貰う。でも味はあまり変わりませんでした。
これは、もしかして……。
嫌な予感がしてノエルさんにも要求しました。
「ノエルさんのも一口ください。」
「はいどうぞ。」
ノエルさんは嫌がる素振りも見せず、食べさせてくれました。そしてモグモグ食べ終わると改めて思います。
この世界の料理は不味いと。